東欧発,幻のファースト・コンタクト映画


「イカリエ - XB1 IKARIE XB1」


- インデゥジヒ・ポラーク Jindrich Polak、スタニスラフ・レム Stanislaw Lem -

<幻のSF映画>
 噂には聞いていた幻のSF映画「イカリエ -XB1」を観ました。(発掘良品コーナーに置いてくれたTUTAYAさん、ありがとうございます!)
 後に様々なSF映画が影響を受けたと言われる共産圏が生んだ名作ということでしたが、正直、眉にツバをつけ気味で観ました。なぜかというと、同じく幻のSF映画と言われているジョン・カーペンター&ダン・オバノンの1974年のSF映画「ダーク・スター」が意外にがっかりだったからです。それからさらに10年以上も前、1963年の映画となれば、そこまで期待するのは無理なはず?1960年公開のSF映画「宇宙戦争」程度のものと思って観るべき、そう思っていたわけです。
 ところが、予想は見事に裏切られました。全然、今観ても古くないどころか、素晴らしい作品です!

<物語の基本設定>
 この映画の時代はスタニスワフ・レムの原作小説「マゼラン星雲」では30世紀に設定されていますが、あえて2163年という設定に変えられています。現代科学の発展具合からして、2163年で時代設定はちょうどいい気がします。
 その年、人類は未知の惑星に住む生命を発見するため、アルファ・ケンテウリ星系にある地球に似た環境の惑星を目指して乗員40名からなる探査チームを向かわせます。この展開は、ファースト・コンタクトものの王道です。
 その星への往復にかかる時間は15年ですが、高速に近いスピードでの移動なため、その間地球では2年しか過ぎていないと説明されています。これは相対性理論から生まれた「ウラシマ効果」という考え方。さすがはレム原作の映画です。ハードSF(厳格な科学理論に基づくSF)の要素をちゃんと盛り込んでいます。
 その他、映画には船内で赤ちゃんが生まれる場面もあります。人類の歴史上、初めて宇宙で誕生した赤ん坊「スター・チャイルド」の元祖ということになります。人類の進化を象徴する「スター・チャイルド」をテーマとしたSF映画の金字塔「2001宇宙の旅」よりも前に誕生していたこの「スター・チャイルド」は、もしかすると何らかの超能力を持っているかもしれません。(ストルガツキー兄弟原作の映画「ストーカー」のラストも思い出されます)
 この映画には、様々なSFの要素がすでに描かれているので、その発見だけでも楽しめます。

<宇宙船と乗組員>
 この映画の舞台となる船内にはスポーツジムもあり、グランド・ピアノまで持ち込まれています。決して、未来的でメカニックな世界には描かれていないだけでなく、細部のデザイン・センスも素晴らしいので、古さやチャチさを感じさせません。(前述の映画「ダーク・スター」とは大違いです!)
 船内には個別に地球との交信を行える通信設備があり、そこで乗員たちはそれぞれ家族との交信を行います。その中の1人は、妻との最後の会話で、お互いの愛情に不信を感じます。これは同じレムの作品を原作とする映画「惑星ソラリス」における破綻した夫婦間の関係につながる部分とも言えます。
 旅の途中、乗員たちは長旅のストレスによりうつ状態に陥ります。そこで乗員を集めて誕生パーティーが開催されることになります。そこで行われるダンスがなかなかに魅力的です。前衛ジャズとも違う不思議なエスニック風味の音楽と狭い宇宙船内にちょうどいい独特の静かなダンスは、近未来的で実に新鮮です。普通なら懐かしのディスコ・ダンスなど既存のダンスを使ってしまうところをあえて新しいダンスを創作するなんて偉い!

<謎の宇宙船と謎の病>
 宇宙船が旅を続ける中、彼らは漂流する謎の宇宙船と遭遇します。二人の乗員が乗り移ると、そこにはなんと人間の死体が並んでいました。それは、遥か昔1987年に打ち上げられた宇宙船で、船内では生き残るための殺し合いがあり、毒ガスが使用されていたことがわかります。その上、船内には大量の核兵器が積まれていることもわかります。なんという愚かな地球人たちがいたことか!
 20世紀人類の愚かさを描いたこの部分は、共産主義社会の未来は明るいであろうという1960年代当時の宣言と見ることもできます。実は、原作者のレムは生前「マゼラン星雲」の海外での出版を認めなかったらしく、その理由はこの作品の内容が楽観的過ぎるからだったとも言われています。レムの他の多くの作品を読めば、彼がソ連の未来、共産主義社会の未来に不安を感じていたことは明らかです。
 宇宙船はいよいよ目的地のアルファ・ケンタウリ星系に近づきますが、船外活動をしていた乗員二人が謎の病で倒れ、その他の乗員も倦怠感と睡魔に襲われ始めます。その原因は前方に現れた巨大な「ダーク・スター」(ブラック・ホール」もしくは「パルサー」のこと?)から発せられる放射線の影響であることがわかりますが、宇宙船の方向を変える間もなく、乗員全員が眠りについてしまいます。こうして訪れた無人の宇宙船内で、ロボットだけが活動を続けていました。(この部分は、映画「サイレント・ランニング」と「天空の城ラピュタ」の先駆だったとも考えられます)
 このまま永遠の眠りにつくのかと思われた乗員たちは、25時間後、無事に目を覚まします。なぜ、彼らは眠りから目覚めたのか?

<1963年のチェコ>
 この映画が作られた1963年のチェコスロバキアはどんな国だったのでしょうか?(現在、チェコスロバキアという国はなく、1993年チェコとスロバキア二つの国に分裂しています)
 チェコスロバキア社会主義共和国が誕生したのは、1960年のこと。元々工業、美術工芸の分野で、チェコスロバキアは共産圏の国々の中でも飛びぬけた存在でした。
 文学においても、SF小説の歴史的傑作「山椒魚戦争」の著者であり、「ロボット」という言葉の生みの親として有名なカレル・チャペックや「変身」で有名なフランツ・カフカを生んだ国です。
 経済的文化的に共産圏でのエース的存在だったチェコスロバキアは、この映画のように優れた作品を生み出しながら、より民主的な国家へと改革を進めます。ところが、1968年、その改革運動「プラハの春」に待ったをかけるべくソ連の軍隊がプラハへと侵攻。ソ連によって首を挿げ替えられた政権は再びソ連寄りの古い共産主義体制へと先祖返りする道を選択します。(そんな暗黒時代の始まりを描いたのがミラン・クンデラの小説「存在の耐えられない軽さ」です)
 チェコスロバキアの美的センスと言えば、この時代に世界的活躍をしていた体操選手ベラ・チャスラフスカの存在も忘れられません。この映画に登場する女優陣がみな美しいのは、国民的な特徴でしょうか?
 顔と言えば、数学者アントニーを演じている俳優さんの顔が、アインシュタインにそっくりです。彼が大切にするロボットの「パトリック」もまた魅力的なキャラクターとして描かれています。この映画の二年後にアメリカで公開されるテレビ・ドラマシリーズ「宇宙家族ロビンソン」のロボット「フライデー」とよく似ているのは偶然でしょうか?

 宇宙船外のロケットや星の映像は確かにチャチですが、船内のドラマについては今見ても充分見ごたえがあります。ドキュメンタリー映画「リュミエール!」で観られた世界最初の映画が、今観ても素晴らしい作品になっているのは、カメラアングルや被写体の構図、アイデアが優れているからで、映像の古さは問題ではありません。たとえそれがSF映画でも、映像的に考えられていて、物語がしっかりとしていれば時代を越えられる映画にすることは可能なのです。
 ラストもまたこれしかない終わり方でした。
 SFファン以外の映画ファンにも是非観てほしいい作品です。

「イカリエ - XB1 IKARIE - XB1」 1963年
(監)(脚)インデゥジヒ・ポラーク Jindrich Polak
(原)スタニスラフ・レム Stanislaw Lem 「マゼラン星雲」
(脚)パヴェル・ユラーチェク
(撮)ヤン・カリシュ
(衣)エステル・クルンバホヴァー
(音)ズデニェク・リシュカ
(出)ズデニェク・シュテパーネク、フランチシェク・スモリーク、ダナ・メドジツカー、イレナ・イレーナ・カチールコヴァー、ラドヴァン・ルカフスキー、オットー・ラツコヴィッチ

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