トンデモ・アメリカン・ピープル物語


「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル I, Tonya」
「ラースと、その彼女 Lars and the Real Girl」


- クレイグ・ガレスピー Craig Gillespie -
<ナンシー・ケリガン襲撃事件>
 正直、あんまり見たいとは思えない題材でした。オリンピック直前にライバル選手を襲わせるという驚きの事件。それもフィギュア・スケートというお上品な世界で!何ともお間抜けな人々による実にアメリカ的な事件のどこが映画にして面白いのか?そう思っていたのです。
 考えてみると、この映画の監督クレイグ・ガレスピーの「ラースと、その彼女」(2007年)についても、「人形を恋人にした男の物語のどこが楽しいの?」と思った憶えがありました。ところが、見てみてビックリ実に面白い作品でした!
「なるほどこういう描き方があったか!?」と目からウロコでした。
 というわけで、「アイ、トーニャ」も遅まきながら見てみました。そして、またも面白かった!

<視点の新鮮さ>
 この作品は、誰もが知っている事件なので、その結末も明らかです。そこで、登場人物たちがそれぞれ過去を振り返るインタビューを軸に再現映像を追加するというスタイルがとられています。そうなると、それぞれ語る人によって真実は変わる可能性もあり、どこまでが真実は微妙になってきます。何せ、登場人物はそれぞれ皆、おバカを絵にかいたような人物なので、真実かホラ話か判断はできません。まともなのはコーチぐらいでしょうか。
 コーエン兄弟の最高傑作の一つ「ファーゴ」で描かれた事件はフィクションでしたが、登場人物たちがお間抜けであるために次々に事態が悪化するおバカ犯罪ドラマでした。しかし、トーニャ・ハーディングと仲間たちは、「ファーゴ」を越えるスケールの事件を起こしてしまったのです。この映画の中には、同じく実際に起きた「O・J・シンプソン事件」の映像も出てきます。お金さえあれば殺人犯も無罪にできるというこれまたアメリカ的な事件でした。
 メジャーリーグにおけるサイン盗み事件やドーピング問題など、スポーツ於ける勝利至上主義は、今に始まったことではありません。そう考えると、ライバル選手を襲うという馬鹿げた事件だって起きても不思議はありません。なんで自分だけが責められるの?と思うのも理解できます。
 まして、彼女のようにDV母、DV夫とその愚かな仲間たちの間で暮らし、ユニフォームを手作りしなければならない厳しい経済環境の中、セレブのスポーツともいえるフィギュア・スケートの世界で差別されるのも仕方ないのかもしれません。(実際にはここまで審査で差別されていたわけではないようですが・・・)スケート界から追放された後、生きて行くためにプロボクシングに転向するあたりもまたアメリカ的!トーニャの生き様に感心してしまいます。

<マーゴット・ロビー>
 この映画でトーニャ・ハーディングを演じているマーゴット・ロビー Margot Robbie は、1990年2月2日オーストラリアのゴールドコーストに生まれています。2011年のテレビ・ドラマ「PAN AM/パンナム」に出演。2013年の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で主人公のぶっ飛んだ妻ナオミ・ラパグリアを演じてブレイク。
 2016年の「スーサイド・スクワッド」では、究極のぶっ飛び悪女ハーレクイン。同じ年の「アメリカン・レポーター」ではアフガニスタンでの紛争を取材した女性ジャーナリスト、キム・パーカー。さらに「ターザン:REBORN」(2016年)では、ターザンの恋人ジェーン。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年)では、惨殺されるはずの女優シャロン・テート。「スキャンダル」(2019年)では、セクハラを訴える番組プロデューサー。
 スキャンダラスで、暴力的で、強烈なキャラクターを演じると右に出る者のない女性版ホアキン・フェニックスって感じでしょうか。

「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル I, Tonya」 2017年
(監)クレイグ・ガレスピー Craig Gillespie
(脚)(製)スティーブン・ロジャース
(製)ブライアン・アンケレス、マーゴット・ロビー、トム・アカーリー
(撮)ニコラス・カラカトサニス
(音)ピーター・ナシェル
(出)マーゴット・ロビー(トーニャ・ハーディング)、セバスチャン・スタン(夫)、アリソン・ジャネイ(母)、ジュリアンヌ・ニコルソン(コーチ)、ポール・ウォルター・ハウザー
 1994年1月6日冬のオリンピック、フィギュア・スケートのアメリカ代表を決める選考会で起きたナンシー・ケリガン襲撃事件。その首謀者とされたトーニャ・ハーディングと夫。
 何故、彼女は前代未聞の馬鹿げた犯行に及んだのか?単なるおバカな身内のせいだったのか?そこに到るまでの理由があったのか?
 貧しくDVの母親に育てられ、まともな教育も受かられなかったプア・ホワイトの代表のような存在だった彼女の人生に迫ります。
 それにしても登場人物たちのいずれ劣らぬおバカぶりに笑うしかありません。
 トランプ政権を支える人々の愚かで悲しい真実が見えてきます。
 物語にはまる選曲が見事です。

曲名  演奏  作曲  コメント 
「Fair to Love Me」 Mark Batson  LAで活動する黒人ミュージシャン、プロデューサー
この映画のためのオリジナル曲だと思います。 
「Devil Woman」  クリフ・リチャーズ
Cliff Richards 
Terry Britten
Christine Holmes
アルバム「I'm Nearly Famous」収録
全米6位の大ヒット曲
「悪魔のような女」まさにこの映画にピタリの曲
「Hey Mama Keep Your Mouth Shut」  ドクター・フィールグッド
Dr. Feelgood 
Ellas Mc Daniel  アルバム「Sneakin' Suspicion」収録
「ママ、黙ってくれよ・・・」これまたピタリの曲 
「Shining Star」  ファン・ラヴィン・クリミナルズ
Fun Lovin' Criminals
Paul Edward Richmond
Leo Graham
アメリカのソウルグループ、マンハッタンズのヒット曲
アメリカのオルタナ・ロックバンドののよるカバー 
「Spirit In The Sky」  ノーマン・グリーンバウム
Norman Greenbaum
Norman Greenbaum  1969年 全米1位の大ヒット曲
イエス・キリストへの讃歌
「Shooting Star」  バッド・カンパニー
Bad Company
Paul Rogers  1975年のアルバム「Straight Shooter」収録曲
「Romeo and Juliet」  ダイア・ストレイツ
Dire Straits 
Mark Knopler  マーク・ノップラ―が自身の別れをもとに書いた曲
1981年のシングル曲
アルバム「Making Movies」収録 
「The Four Seasons-Summer」    アントニオ・ヴィヴァルディ
Antonio Vivaldi 
バイオリン協奏曲「和声と創意の試み」の中の4楽章
「春」「夏」「秋」「冬」の総称が「四季」から 
「Sleeping Bag」  Z Z Top  Billy Gribbons
Joe M.Hill,Frank Lee Beard
1985年のアルバム「Afterbunrer」収録
全米8位のヒット曲 
「Can't You See」  マーシャル・タッカー・バンド
Marshall Tucker Band 
Toy Caldwell  1973年のデビューアルバムからのシングル
全米8位のヒットでウェイロン・ジェニングスもカバー
70年代カントリー・ロックの名曲の一つ 
「Dream A Little Dream」  ドリス・デイ
Doris Day 
Fabian Andre,Gus Kahn
Wilbur Schwardt 
1933年発表のポップ・ジャズナンバー
ドリス・デイのカバー・ヴァージョン 
「Mysterious Night」  Damon Criswell  映画音楽の作曲家による曲
「Feels Like The First Time」  フォリナー
Foreigner 
Michael Leslie Jones  1977年全米4位となったファースト・ヒット
1970年代アメリカン・ハード・ロックの代表的存在 
「Little Girl Bad」  ジョニー・ソマーズ
Joanie Sommers 
Jericho Brown  女優兼歌手として1960年代に活躍
1963年のシングル・ヒット 
「Free Your Mind」  アン・ヴォーグ
En Vogue 
Denzil Foster
Thomas McElroy 
1992年全米8位のヒット
オークランド出身の黒人女性グループ 
「Every 1's A Winner」  ホット・チョコレート
Hot Chocolate 
Earl Brown  1978年全米6位の大ヒット
英国ロンドン出身の黒人ファンク・バンド 
「Goodbye Stranger」  スーパートランプ
Supertramp 
Richard Davies
Roger Hodgson 
1979年アルバム「ブレックファースト・イン・アメリカ」
全米15位ですが、アルバムも大ヒット
英国のロックバンドで、この時期大ブレイク
主人公の別れのシーンにピタリの曲 
「People Are Still Having Sex」  ラ・トゥール
La Tour 
William La Tour  アメリカのハウス系ミュージシャン
1991年のデビュー・アルバム収録
「Barrucuda」  ハート
Heart 
Wilson Dustin,Rpger D.Fisshen
Nancy Lamoureaux Wilson
アルバム「Little Queen」収録
女性ヴォーカルロックバンドの全米11位ヒット 
「How Can You Mend A Broken Heart」  クリス・スティルス
Chris Stills 
Barry Gibb,Robin Gibb  1971年ビージーズの全米1位ヒット
スティーブン・スティルスの息子クリス・スティルスのカバー 
「Gloria」  ローラ・ブラニガン
Laura Branigan 
Umberto Tozzi
Giancarlo Bigzzi
Trevor Veitch
1982年のデビューアルバム「グロリア」からのシングル
女性ソロ・ロックシンガーとして80年代に活躍
2004年動脈瘤で47歳で死去
「Gone Daddy Gone」  ヴァイオレント・ファムズ
Violent Femmes 
Willie Dixon
Gordon James 
1983年のデビューシングル
ミルウォーキー出身のフォーク・パンク・バンド 
「長い夜 25 or 6 to 4」  シカゴ
Chicago 
Robert Williams Laum  1970年全米4位のヒット曲
70年代ブラス・ロックを代表する名曲 
「The Chain」  フリートウッド・マック
Fleetwood Mac
Lindsey Buckingam
M.J.Fleetwood,Christin McVie
J.G.McVie,Stephanie Nicks
1977年のアルバム「噂」収録
「A Dante Symphony S109」    フランツ・リスト
Frantz Liszt
「ダンテ交響曲」 
「Splitting Hairs」  ウエスト・ディラン・ソードソン
West Dylan Thordson 
アメリカの映画音楽作曲家によるオリジナル曲 
「The Passenger」  スージー&ザ・バンシーズ
Siouxsie & the Banshees 
James Osterberg
Ritcky Gardiner 
イギリスのニュー・ウェーブバンド
アルバム「Through The Looking Glass」からのシングル 



「ラースと、その彼女
Lars and the Real Girl」
2007年
(監)クレイグ・ガレスピー
(脚)ナンシー・オリヴァー(撮)アダム・キンベル(PD)アーヴ・グルーヴォル(音)デヴィッド・トーン(音監)スプリング・アスパーズ
(出)ライアン・ゴズリング、エミリー・モーティマー、ポール・シュナイダー、ケリ・ガーナー、パトリシア・クラークソン  
 アメリカ映画なのに犯罪もなし、悪者もなし、登場人物は良い人ばかり!という異色の映画。
 それでもスリリングで予測困難でなおかつ心温まる映画が作れるとは!アカデミー脚本賞の候補になるのも当然です。
 トーキングヘッズの「This Must Be The Place」がまた実のナイーヴでハートウォーミングな曲なんです。
 それにナット・キング・コールでも有名な「LOVE」もまた暖かい曲です。
曲名 演奏 作曲・作詞 コメント
「Sorry」  Nick Black  Matt McMullen,Cley Davis  アメリカのヘビメタ系ロックバンドのようですが・・・ 
「Easystreet」  Buck Cleven Randall Andrews,Greg Upton   
「LOVE」 Ryan Gosling  Bert Kaemptert,Milt Gabler  ナット・キング・コールで有名な愛の名曲 
「Genius of Love」  トム・トム・クラブ
Tom Tom Club 
Adrian Belew,Chris Frantz
Steven JC Stanley
Tina Weymouth 
トーキング・ヘッズ内の別プロジェクト
「ファンク・ミュージック」への愛を歌った名曲 
「Dancing For No One」  Hello Stranger Jared Smith,Joachim Cooder
Juliette Commagere 
ロサンゼルスのロックバンド 
「All Around Me」  Feed the Kitty  Jack Maher   
「This Must Be The Place
(Naive Melody)」(Live) 
トーキング・ヘッズ
Talking Heads
David Byrne,Jerry Harrison
Tine Weymouth ,Chris Frantz
トーキング・ヘッズによるオタク愛の歌?
ライブ・ヴァージョン 
「Crashing My System」  Niki Saletta  Niki Saletta,Jimmy Marry   

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