- J.ガイルズ・バンド J. Geils Band -

<追記>2003年12月4日

<世界最高のライブ・バンドは?>
 ローリング・ストーンズは、さすがに貫禄充分だった。トーキング・ヘッズの格好良さには驚かされた。ボブ・マーリーは、そのカリスマ性にぶっ飛んだ。ジェームス・ブラウンは、全盛期の20年前ならどんなだっただろうか?と思わせてくれた。リトル・フィートの驚異的な演奏は、未だに最高峰だったと思う。屋外で聴いたロス・ロボスネーネーズブラック・ウフルも青空や風の爽やかさとともに忘れられない。そうそう、キング・サニー・アデ初来日公演の時、会場の代々木体育館が観客の足踏みで揺れたのも凄かった。なんだかんだと、いろいろなライブを見てきましたが、その中で最も素晴らしかったのは?そう尋ねられたら、僕はロック部門なら、J.ガイルズ・バンドと答えるでしょう。「ちょっとB級指向じゃないの」と言われそうですが、けっして奇をてらった答えではありません。もし、それが疑わしいと思う方は、是非J.ガイルズ・バンドのライブ・アルバム「狼から一撃 Blow Your Face Out」を聴いていただきたいと思います。

<J.ガイルズ・バンド>
 J.ガイルズ・バンドは、アメリカ東海岸の歴史ある街、ボストンで1968年に結成されました。元々は、1965年頃から活動していたジェローム・ガイルズ(ギター)とマジック・ディック(ブルース・ハープ)、ダニー・クライン(ベース)からなるJ.ガイルズ・ブルース・バンドが母体となっています。そこにハリュシュネイションズというバンドに属し、DJもやっていたピーター・ウルフ(ヴォーカル)が参加し、さらにスティーブン・ジョー・ブラッド(ドラムス)とセス・ジャストマン(キーボード)が加わって、6人編成のブルース・ロック・バンドとして、スタートを切ったのです。
 彼らは地元を中心に地道なライブ活動をした後、ニューヨークへ進出、60年代ロックの殿堂とも言えるライブ・ハウス、フィルモア・イーストで出演のチャンスを得ました。すると、5年に渡るライブ活動によって鍛えられていた彼らの筋金入りのライブ・パフォーマンスは、目の肥えたフィルモアの観客にすぐに受け入れられ、あっという間に彼らはフィルモアの新しい顔になってしまっいました。

<ビル・グレアムのお言葉>(2003年12月4日追記)
 フィルモアのオーナー、ビル・グレアムは彼らを大変気に入り、フィルモアのハウス・バンドとして彼らを大切に育てました。
 そのきっかけとなった最初のライブの夜、彼は実に素晴らしい紹介をしています。
「よく聴け、このバンドはわたしが個人的に招聘したんだ。まだ演奏は聴いたことはないが、このバンドについては良い噂しか聞かされていない。どうやら客席の中には、ブラック・サバスにしか興味がない向きもあるようだ。ブラック・サバスにしか興味がなく、このバンドにチャンスを与えてやるだけの忍耐力は持ち合わせていないというお客さんは、申し訳ないがこの会場から出ていってくれないか?入場券を返してもいいし、半券をわたして、ブラック・サバスの出番に再入場できるようにしてもいい。でもとりあえず静かにして、このバンドにチャンスをやってほしいんだ」
ビル・グレアム(プロモーター)

<アトランティック期待の新人>
 当時、No.1のR&Bレーベルであり、この頃からロックの世界へも進出しようとしていたアトランティックと契約、1971年悲願のアルバム・デビューを果たしました。そのデビュー・アルバム「The J.Geils Band デビュー!」は、半分がR&B、ブルースのカバー・ソングで、オーティス・ラッシュジョン・リー・フッカーアルバート・コリンズ、それにスモーキー・ロビンソンらの曲が、彼らのオリジナル・ナンバーとともに、実に違和感なく収められていました。こうした、自然にR&Bやブルースの名曲を自分たちのものにできるセンスこそ彼らの最大の魅力でした。

<バンドの二つの顔>
 マイク・スタンドを持って踊らせたら世界一の男、ピーター・ウルフは、DJ時代に鍛えたMCのセンスにマシンガン・トークと呼ばれるラップの原型のようなしゃべりを売り物に曲と曲の合間にも、たっぷりとエンターテイメントの要素を盛り込むことのできる最高のパフォーマーでした。
 しかし、元々ピーター・ウルフ抜きで、ブルース・バンドとして活躍していただけに、このバンドには演奏だけでも充分に観客を楽しませることのできる能力がありました。特にブルース・ハープのマジック・ディックは、ポール・バターフィールドにも匹敵する白人ブルース・ハーピストと言われていただけに、ピーター・ウルフと並ぶ、もうひとりのヴォーカリストといってもよいほどの活躍をみせていました。

<ライブ・アルバム花盛りの頃>
 1975年と76年を中心とする数年間、70年代ロックの総決算をするかのようにライブ・アルバムが次々に発売された時期がありました。メガヒット・アルバムとなったピーター・フランプトンの「フランプトン・カムズ・アライブ」やリトル・フィートの「ウェイティング・フォー・コロンブス」、アース・ウィンド&ファイアーデイブ・メイソンボブ・ディラン「ローリング・サンダー・レビュー」、ボブ・シーガーグレイトフル・デッドジョージ・ベンソンジョー・ウォルシュなどなど、それはある意味70年代ロックが完成の域に達し、やるべきことをやり遂げたことの証明でもあったのかもしれません。実際、1975年にはパティ・スミスがデビューし、パンクの新しい波は着実に世界に広まりつつありました。
 J.ガイルズ・バンドの二枚目のライブ・アルバム「狼から一撃」も、ちょうどこの時期1976年に発売されました。当時、僕はほとんどのアルバムを聴きましたが、数々のアルバムの中でやっぱりこのアルバムを一番聴いたような気がします。きっと彼らのコンサートに行くと、何度も何度も聴きに来ている常連のファンで一杯だったに違いありません、そう思わせる楽しいコンサートでした。

<本物のライブ実体験>
 そう考えたことが間違いでなかったことは、彼らのライブを生で見て確認することができました。たぶんあの時、日本青年館という少し小さめの会場で行われたコンサートには、僕のように何度も何度も「狼から一撃」を聴いたファンが集まったのでしょう。少数精鋭の聴衆のノリは実に素晴らしく、ピーター・ウルフをはじめとするバンドのメンバーにも、その心意気が伝わったようで、彼らは最高のパフォーマンスを見せてくれました。アンコールは、なんと5回か6回くらいあり、アンコールだけで1時間くらいやったはずです。

<ライブ会場、聴衆の変化>
 今まで、いろいろなアーティストのライブを見てきましたが、ライブそのものの雰囲気もずいぶんと変わってきた気がします。まず、昔に比べ会場が巨大化しキャパが増えることにより、観客とミュージシャンとの距離はどうしても遠くなってきています。そして、大手チケット屋サンの登場や情報誌の発達によって、誰にでもチケットが買いやすくなり、徹夜して並ばなくてもチケットは入手できるようになりました。
 しかし、それはコンサート会場に駆けつける観客が、必ずしもそのミュージシャンの熱烈なファンとは限らないという状況をも生みだしました。(それまでは、徹夜してでも聴いてやろうという熱心さの順にチケットを入手していたのですから)それは、知名度の高いアーティストほど顕著になり、平等に入手できるはずが、実際には業界人しかチケットを入手できないという状況も生み出しました。(ストーンズの初来日の時などは、まさにそうでした。僕自身も、業界の人間、実は弟、にチケットを入手してもらったのですが・・・)もちろん、それが悪いことばかりではないかもしれません。おかげでマイナーなアーティストも、情報誌などによる紹介によって、観客を確保できるようになり、おかげで今まで見られなかったアーティストも来日できる状況が生まれたのも事実です。
 全般的に言えるのは、大きな会場で行われる有名アーティストのライブほど、期待が裏切られる場合が多いということだと思います。(横浜スタジアムで見たプリンスはつまらなかった)逆に言うと、空席があっても熱心なファンが集まっているライブなら予想以上のライブが期待できると言うことです。(アフリカからやって来たイースト・アフリカン・テンベア・バンドというリンガラのバンドなんて、まったく無名だったが、メチャクチャ楽しかった。それに、ソウル、R&B系のライブはいつも似た顔ぶれの観客が来ているが、それだけにミュージシャンを乗せるのも上手い!)
(注)とは言え、東京ドームで行われたストーンズの初来日コンサートは、さすがに良かった。観客も必死でチケットを入手してきた筋金入りのファンばかりだったのかもしれません。

<J.ガイルズ・バンドのその後>
 実を言うと、J.ガイルズ・バンドがメジャー級のバンドになったのは、それから後のことでした。1978年発表の「サンクチュアリー Sanctuary」が大ヒットし、彼らはB級のR&Bバンドから一躍トップ・クラスの人気バンドになってしまった?のです。「ラブ・スティンクス Love Stinks」(1979年)、「フリーズ・フレーム Freeze Flame」(1980年)など次々にヒット作を出しましたが、ピーター・ウルフが1983年に独立、そのためバンドは事実上解散してしまいました。
 エアロ・スミスのように、ずっと下積みが続いたら、B級ライブ・バンドの最高峰としての地位を築き上げることもできたかもしれないのですが・・・

<締めのお言葉>
「ある意味で、この世界は関与者の世界である」
 J.ウィーラー

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