本屋さんの黒人解放運動
ルイス・ミショー氏の闘い

 
「ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯 No Crystal Stair」

- ルイス・ミショー Lewis Micheaux -
<ブラック・ミュージック・ファン必読の書>
 ブラック・ミュージックが好きな人に是非読んでほしい本です。
マルコムX」、「キング牧師」、「モハメド・アリ」、「マーカス・ガーヴェイ」などに興味がある方にもお薦めです。
1940年代から1970年代にかけてのアメリカ・ニューヨークのハーレムについて知りたい方にもお薦めです。
ただ単に「本」が好きな人にもお薦めです。
絵や写真満載の絵本形式になっているのは、敷居を低くすることでより多くの若者たちに読んでもらいたいという願いが込められているのでしょう。
「人種差別問題」というアメリカに未だに存在する大きな問題について、今を生きる若者たちに考えてもらうため、その歴史を伝えたい。
ルイス・ミショーという本屋の主人の意思を継ぐことでこの素晴らしい本が誕生したのです。

<伝説の書店オープン>
 「ハーレム・ルネッサンス」と呼ばれた黒人文化の発展期が終わり、世界恐慌によってアメリカの多くの黒人たちが職を失った1930年代。ハーレムのど真ん中に一軒の本屋がオープンしました。その店を始めたのは、それまでギャングまがいの行為を繰り返していた黒人青年でした。店の名前は「National Memorial Book Store」、後にこの名前に「African 」が加えられ「National Memorial African Book Store」となります。店の看板にはこうありました。

「2000000000人のアフリカ系および非白人系人種についての世界の歴史書専門店」
「良識の館、適切なる宣言活動の拠点」
「店内は全世界の全黒人の全事実でいっぱい」
「自らの歴史を知らない人種は、根のない立木のようなものだ」(店のチラシより)

 当時、多くの黒人たちは本になど興味はなく、当然商売はまったく成り立ちませんでした。しかし、大きな希望と強い信念を持って店を始めた店主ルイス・ミショー Lewis Micheaux は、店頭に立って、街行く人々に直接語りかけ、黒人が自立して行くためには「知識」が必要であり、その習得のために本は必要不可欠な存在であると熱弁をふるいました。(独特のリズムで語りかける黒人教会の牧師のように語っていたのではないかと思います。ニューヨークといえば、「ポエトリー・リーディング」の街であり、「ラップ」の故郷でもあります)
 それは単に「知識」を得ることで、職を得やすくなるとか、出世できるとかいうのではなく、民族としての「誇り」を持つために「知識」が必要不可欠であると訴えたかったのです。

・・・わたしは多くの黒人たちと接したが、残念ながら、自分たちの歴史をちゃんと知っている者はごくわずかだった。自分がどこから来たのか知らなければ、どこへ行こうとしているのかわからない。自分にどれだけの価値があるか知らなければ、働いた対価をいくら受けとるかわからないはずだ。自分が何者か知って初めて、現状を改善できる。・・・
ルイス・ミショー

 ミショー氏は、店に来た人々に本の説明をするだけでなく、奥の部屋で自由に読ませたり、代金後払いで持って帰らせたりなど、商売抜きの営業を続け少しずつ地域の人々にも知られた存在となります。彼の目的は、アメリカで自立しようと努力している黒人たちの「知」の支えになることだったのです。

 じつは、アフリカ大陸はどこも白人に支配されている。南に目をむければ、西インド諸島やバミューダ島のような美しい場所でも、ワイシャツを着て、ペンを手になにか書いている人を見かけたら、それは白人だ。黒人が手にしているのはモップやほうきなのだ。今、アメリカで暮らしている黒人は、奴隷商人につれてこられた世代ではない。アフリカには、もはやわれわれの居場所はない。わたしはこの国での可能性に賭ける。
 この書店は、正義の闘いのための訓練所になれるかもしれない。

ルイス・ミショー

 黒人文化について、その歴史について知りたければ「ミショーの店」に行け。これがいつしかニューヨークに住む黒人たちの常識になってゆきます。そして、彼の店にはそこから発信される情報を求め、そこに集まる人々との交流を求めて、様々な黒人たちが集うようになって行きました。
 その中には、マルコムX、モハメド・アリ、ラングストン・ヒューズ、ジェームズ・ボールドウィン、W・E・B・デュボイス、ルイ・アームストロング、それにブラック・パンサー党の幹部たちなどがいました。(これらの人々については、「黒人解放運動の英雄たち」をご覧ください)彼らはその店で情報交換をしたり、討論をしたり、様々な交流を行っていました。

<黒人解放運動の拠点>
 こうしていつの間にか「ミショーの店」は、黒人解放運動の拠点のような存在と見なされるようになりました。しかし、反政府活動の過激派拠点と恐れるようになったことから、FBIが常に張り込みをするようにもなります。彼の発言や彼の影響を受けた弟子たちは、黒人解放運動の過激派として政府にマークされることになります。

 だれかが真実を語ると、ことを荒立てるな、と言うやつがたくさんいる。だが、真実がもとでもめるなら、もめればいい!もめればいいじゃないか!
ルイス・ミショー

 暴力は天国から始まった。神は敵である悪魔に対して暴力をふるった。神は悪魔を天国から追い出したが、それは暴力だろう。そして旧約聖書は、神が暴力を認めていることを一貫して描いている。神にとって暴力をふるうことが正しかったのなら、必要な時が来れば、わたしにとっても正しいはずだ。・・・
 軽んじられ、拒まれてきた者たちが、認められ、敬われるようになるまでは、平和なんて、どこにも訪れはしない!切り倒されている時に、だまって立っているのは樹木だけだ。

ルイス・ミショー

 しかし、彼は白人に対して常に憎しみをもって接していたわけではなく、差別問題について学びに来た白人の若者たちにもきっちり正面から向き合っていました。

「スラム街の力になりたいって?それなら、家へ帰ってその上等の服をぬぎ、エプロンをかけてほうきをもってこい。そして、街の人々の中に入って家の掃除を手伝え。そうすれば、あんたたちが真剣だってことが伝わるだろう」、ってね。あんたたちはいつだって、「わたしたち」になにができるか、というが、それじゃあだめだ。大事なのは、一人の人間として、「きみ」がなにをするかだ。
ルイス・ミショー

 過激な思想の持ち主としてマークされていたミショー氏ですが、暴力的な解決をけっして望んではいませんでした。

 昨日、あの本屋に行って、教授(ミショー氏の愛称)に、こぶしを高くかかげる敬礼をしてみせた。
「なんだ、それは?」教授は言った。
「ブラック・パワーさ!」おれは答えた。われながらかっこいい!
「そんなもの、どこでおぼえてきた?」
「活動家仲間に教わったんだ」
「こぶしをあけてみろ」
おれは言われたとおりにした。
「見ろ、中は空っぽだ」
教授は本をとっておれの手をもたせ、言った。
「いいか、それがパワーだ!活動仲間に言え。黒は美しい、でも、知識こそが力だ、とな」

<マルコムの死>
 もともとがマルコムXと同じようにギャング少年だった彼は、黒人解放運動には暴力も必要と考えていたようです。しかし、マルコムX同様、彼もまた平和的な運動への方向転換に賛同するようになったいったようです。店の常連だっただけでなく、演説のヒントをもらうこともあったというマルコムXはミショー氏の愛弟子的存在でした。
 それだけに1965年に起きた「マルコムXの暗殺事件」は彼にとって大きすぎる衝撃でした。しかし、彼は翌日店頭にマルコムの暗殺について看板を設置します。

ブラザー・マルコムが死んだと思っているんなら、あんたの頭はすっかりいかれてる。
いつまでもベッドで居眠りしてないで、
マルコムの闘志が広まっていくのを見ろ。
目をとじたって、眠っているとはかぎらない。
さよならを言ったからって、それっきりってわけじゃない。


 強気の言葉ではありましたが、彼の心は折れかかっていたようです。この事件を機に、「公民権運動」の盛り上がりは少しずつ下り坂にかかって行くことになります。

<閉店と人生の終わり>
 ミショー氏の店は、こうした反体制的な姿勢が政府に睨まれていたこともあり、ハーレムの再開発により立ち退きを余儀なくされます。一度は移転して、店を再開するものの、1975年に彼は自分が癌に冒されていることを知り、ついに閉店を決意します。スタート時はわずか5冊の在庫しかなかった彼の店には、この時22万冊を越える在庫があり、その中には貴重な蔵書も数多くあったといいます。彼は黒人文化に関する貴重な本の収集にも情熱を注いでいたのです。
 1976年8月25日、ミショー氏は店を閉め、肩の荷を下ろしたところで静かに息を引き取りました。

そうとも、この章は今日でおしまいだ。
本を棚にもどそう。
だが、最後のページをめくるまで
なんと幸せな時を重ねてきたことか!
行間を読み、造り主の隠された意図を
われわれは読み解こうとしてきた。
その努力はほとんど実を結ばなかったが、
きみはぼくの、ぼくはきみの思いを知った。

ポール・ローレンス・ダンバー

 本がなければ知識を得られない時代は、20世紀をもって終わったようです。逆に簡単に様々な知識を得られる現代では、「本」を選ぶ能力が失われつつあり、それを見つけた時の喜びも失われつつあります。
 「知識」の価格がインターネットの登場によって急激に下がったことは素晴らしいことですが、誰もが膨大な知識に飲み込まれてしまったことで、自らに必要な知識を選び出すことは、ますます困難になり、人々の個性が失われつつあります。

わたしは、誰の話にも耳を傾けるが、
だれの言い分でも聞きいれるわけじゃない。
話を聞くのはかまわないが、
それをすべて認めちゃいけない。
そんなことをしていたら、自分らしさはなくなり、
相手と似たような人間になってしまうだろう。
勢い込んで話してくる人を喜ばせ、
それでも、決して自分を見失わずにいるには、
けっこう頭を使うものだ

ルイス・ミショー

 このサイトも「ミショー氏の本屋」のように「ロック文化の歴史」に関する資料館として、もう少しがんばろうと思います。
 そこで新たなページとして、黒人解放運動に関わった20世紀の重要人物についての人物名鑑を作ってみました。まだ内容は不十分かもしれませんが、今後さらに充実させます。よければご参考にどうぞ!

黒人解放運動の英雄たち
BLACK HEROES


<参考>
「ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯 No Crystal Stair」
 2012年
(著)ヴォーンダ・ミショー・ネルソン
(訳)原田勝
あすなろ書房

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