- ロス・ロボス Los Lobos -

<ボーダーライン>
 アメリカという巨大多民族国家が次々と生み出す新しい文化や音楽の魅力、その最大の原動力は、何か?僕はそのキーワードとして、先ず「ボーダーライン」という言葉を想い浮かべます。
 かつて、世界中の映画ファンを喜ばせた西部劇。そのストーリーになくてはならなかったのが、「フロンティア」もしくは「インディアンと騎兵隊を隔てる砦」という名のボーダー・ラインでした。その後、1970年代以降のニューシネマの時代になると、インディアンに代わって「メキシコとの国境」という本物のボーダー・ラインが新たなドラマの主役として登場してきます。特に、ニューシネマの巨匠、サム・ペキンパーの傑作の数々「ワイルド・バンチ」「ゲッタウェイ」「ガルシアの首」において「ボーダーライン」は、まさに主役級の役割を担っていました。最近の映画でも「ターミネーター」のラスト・シーンでは、主人公が国境を越えメキシコへ逃れることにより物語は「ターミネーター2」へとつながって行きました。そして、ジャック・ニコルソン主演の映画その名もずばり「ボーダー・ライン」は、まさに国境が主役の映画でした。(テーマ・ソングは、ライ・クーダーの名曲「アクロス・ザ・ボーダー・ライン」、歌はテックス・メックスの大御所フレディー・フェンダー

<異文化衝突による文化の発展>
 もちろん、「ボーダー・ライン」は物理的、地理的、政治的なものばかりではありません。人種のるつぼ、ニューヨーク、ロス、シカゴなどの都市では、「目に見えないボーダー・ライン」が、街中を交差し、住民たちの心の中にも、それは存在します。そして、そのボーダー・ラインの交わるところにできた混沌としたるつぼから、次々に新しい文化や音楽が、生み出されてきたのです。それがアメリカの文化を形づくってきたのです。

<チカーノ文化の拠点、ロスアンゼルス>
 メキシコ系アメリカ人(チカーノ)が最も多く住む街、ロスアンゼルス。この街は、60年代末から、70年代前半にかけて、世界中を揺るがしたフラワー・ムーブメントにおいても、重要な拠点となっていました。さらに、この時代はそれぞれの民族が自分たちの文化を見つめ直す民族文化復興の時代でもあり、アメリカに住む黒人、インディアン、ラテン系移民だけでなく、すべての民族、すべての国民が自らのルーツを見直そうとしていました。(その成果が、ソウルであり、サルサであり、ブラジルにおけるトロピカリズモ宣言だったわけです)ロスに住むチカーノたちも、例外ではなく、美術や文学などにおいて、大きな発展がありました。音楽においては、残念ながら歴史に残るほどの新しい動きはなかったのですが、サンタナマロはラテン・ロックという新しい動きの中心として活躍したし、リッチー・ヘブンスは、あのウッドストック・フェスティバルでの「フリーダム」の絶唱で歴史に名を残すこととなりました。ロス・ロボスのメンバーたちは、そんなチカーノ文化の中心地、ロスに生まれ育ったチカーノの若者たちによって結成されたバンドだったのです。

<ロス・ロボスの誕生>
 このバンドのメンバーは、ビートルズ世代の若者たちでしたが、もうひとつ英国のエレクトリック・トラッド・サウンドの開拓者、フェアポート・コンヴェンションにも、彼らは憧れを抱いていたといいます。(後の彼らのサウンドからすると、これは実に必然的だったのかもしれません)
 バンドの結成は1973年と意外に古く、結成当初は、ジミ・ヘンドリックスクリームなどのカバーがレパートリーの本格的なブルース・ロック・バンドだったようです。それが、フェアポート・コンベンションなどの影響により、しだいにメキシカン・ルーツ・ミュージックを指向するようになり、テックス・メックス、カントリー、R&B、ブルース、ロックン・ロールなどをレパートリーとするボーダーレスなバンドへと変貌をとげていったようです。

<デビューからブレイクまで>
 彼らのアルバム・デビューは、結成からなんと10年後のこと、スラッシュというマイナー・レーベルからのスタートでした。しかし、初のフル・アルバムとなった2作目の”How Will The Wolf Survive?”は、いきなりローリング・ストーン誌の年間最優秀アルバムを受賞し、あっという間に世界の注目を集めるようになります。しかし、マスコミ、評論家受けはするものの、やはりチカーノ系であることが影響してか、ヒット曲には恵まれず、通好みのバンドとしての活躍が続きました。しかし、1987年に映画「ラ・バンバ」が大ヒット。そのタイトル・ソングとなったロス・ロボスの「ラ・バンバ」も、全米ナンバー1の大ヒットとなり、彼らは一躍メジャー級のバンドとなりました。(ちなみに、元祖チカーノ・ロッカー、リッチー・バレンスの伝記物語であるこの映画「ラ・バンバ」は、今や米国内の多数勢力になりつつあるラテン系の観客を意識して制作され、見事に大ヒットした記念すべきの作品であり、後のラテン・ポップス時代の先駆けとして重要な役割を果たしました)

<メキシカン・トラッドへの本格的挑戦>
 彼らを取り巻く環境は、「ラ・バンバ」のヒットで大きく変わりました。そして、そんな状況を利用するかのように、彼らは新たな挑戦をします。それが本格的なメキシカン・トラッド・アルバム「ピストルと心」でした。この作品の収録曲は、ほとんどがメキシコの古いトラッド・ナンバーで、それをメキシコの古い民族楽器を用いることで、現代に甦らせた意欲作でした。(エリック・クラプトンがあの大ヒット・アルバム「アンプラグド」のおかげで、しぶーい本格的ブルース・アルバム「フロム・ザ・クレイドル」を作れたのと似ているかもしれません)彼らは、演奏に用いるために今や数少なくなった伝統的なメキシコの楽器を探すことから、アルバムの製作を始めたといいます。 その後、彼らは二枚のアルバムを発表後、活動に一区切りつけるようにベスト・アルバム「ロス・ロボス・コレクションU」を発表しました。そして、ここから再び、彼らの新しい音楽の旅が始まります。

<新プロジェクト「ラテン・プレーボーイズ」>
 1994年、ロス・ロボスのソングライター・コンビ、ルーイ・ペレスデヴィッド・イダルゴが、「ラテン・プレイボーイズ」というプロジェクトによる画期的なアルバムを発表します。
 プロジェクトには二人の他に、この頃いよいよ売れっ子になりつつあった人気プロデューサー&エンジニア・コンビ、ミッチェル・フルームチャド・ブレイクが参加していました。60年代からのたたき上げローテク・サウンドが武器のロス・ロボスの二人とサンプリングなど最新の録音技術を知り尽くしたハイテク・サウンドが武器の二人、この出会いによって生み出された魔法のサウンド、それがアルバム「ラテン・プレイボーイズ」でした。

<「コロッサル・ヘッド」でさらなる高みへ>
 「ラテン・プレイボーイズ」の制作は、ロス・ロボスの二人が録音したデモ・テープから始まったといいます。それを聴いた他の二人は、その企画に参加することを決意、チャド・ブレイクが世界中で録音しまくった音のコレクションを加えてゆきます。さらに、それをあえて古いPAを用いて再録音、あっと驚くような音響空間を生みだしました。無国籍で、前衛的なこのサウンドは、世界中をあっと言わせました。そして、あまりに実験的だったサウンドに、再び彼らは自らのバンド・サウンドで再挑戦、よりポップに仕上げた大傑作が、1996年発表の「コロッサル・ヘッド」だったと言えるでしょう。この作品については、彼らは、アルバム・コンセプトなど考えたこともなく、あくまでやりたい曲をスタジオで次々に演奏し、それをチャドとミッチェルのコンビがまとめ上げただけだと言っています?だとしたら、これぞ天才の技というべきかもしれません。ここでついに彼らは、ヒットチャートとはまた別の音楽的頂点を極めたといえるでしょう。

<最高のライブ・バンドとしての「ロス・ロボス」>
 僕は以前、ロス・ロボスのライブを日比谷の野音で見たことがあります。(ラ・バンバがヒットした直後だったと思います)さすがに60年代から、あくまでライブ中心に活動してきたバンドらしく、ご機嫌なライブでした。次から次へ間をおかずに繰り出されるロックやテックス・メックス、R&Bナンバーの数々は、どれも彼らにとって目をつぶっても演奏できるものに違いなかったのでしょう。だから聞く側も、ごくごく自然に、途中で白ける間などいっさいなく時が過ぎていった気がします。
 そのうえ、彼らはライブの時、演奏曲目はいっさい決めていないといいます。その場その場の思いつきで、どんどん曲をつなげてゆくというのです。「コロッサル・ヘッド」を生みだした秘密の一つは、ライブで鍛えられたそのアドリブのセンスなのかもしれません。
 そんな素晴らしい肉体派のライブ・バンドが、まさかアメリカン・ロックの最先端サウンドを生み出す先進的なヴィジョンの持ち主だったとは!失礼なことに、その時は夢にも思いませんでした。

<新しい音楽を生み出し続けるパワーの源>
 デビューして30年たってなお、ロック界の先鋭に立つそのパワーの源は、メンバーの汲めどもつきぬ好奇心、探求心、冒険心にあるようです。ライブが好きで、旅が好きで、見知らぬ音楽が好きなオジサンたち、彼らは生まれたときから、「アクロス・ザ・ボーダー・ライン」の世界、境界を股に掛けた人生を生きてきたのです。彼らほど、「ボーダー・レスの時代」にぴったりのバンドはいないかもしれません。

<締めのお言葉>
「月を前景にした地球のあの写真を、全世界のあらゆる教室と家庭に飾るべきだ。たくさんの雲と水面が見えるが、陸地は少ししか見えない。国境はまったく見えない。そのメッセージは実に明らかではないか」 ハリー・ハリソン「月面の人間」より

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