映画の発明者は映画の完成者だった!


「リュミエール! Lumiere !」

- オーギュスト&ルイ・リュミエール Auguste & Louis Lumiere-
<映画の父>
 映画の父は誰なのか?世界的にその答えは、アメリカのエジソンではなく、フランスのリュミエール兄弟であることが常識となっています。そのあたりのことは、別のページをご覧いただくとして、ここではそのリュミエール兄弟が残した108本の作品をまとめたドキュメンタリー映画「リュミエール!」をご紹介させていただきます。
 世界初の映画だから価値はあるだろうけど、それって今見て面白いの?そう思われる方も多いかもしれません。なにせ、当時の映画はカメラとフィルムの都合上、50秒が限界でした。50秒という短い時間の中にどれだけのことを収められるか?もちろんその映像には色も音もないのです。それでも見る価値があるの?僕も正直そう思っていました。
 ところが、そうではなかったのです!わずか50秒の作品でも十分に見ごたえがあり、時には笑い、時には感動することもあるのです。ここでは、その魅力について説明してみようと思います。
 この作品を見ると、映画を初めて作った人の視点に戻れるだけでなく、映画を初めて見た時の自分にも立ち返れる気がするでしょう。そして、明日からは今までより少しだけ深く映画を見られるようになるはずです。

<映画のプロモ作品>
 リュミエール兄弟はシネマトグラフの発明後、そのプロモーションのための上映会を各地で行います。しかし、そのためにはお金を払ってでも見たくなるような作品を用意しなければなりません。そこでリュミエール社は、何人ものカメラマンを様々な場所に派遣。観客に喜ばれる映像を撮影させます。こうして1895年3月18日の最初の撮影から1905年までの10年間で1422本の作品を撮ることになりました。ドキュメンタリー映画「リュミエール!」では、1422作品の中から108本を選び、デジタル・リマスターによって美しくよみがえらせ、それにリュミエール研究の第一人者ティエリー・フレモーが解説を加えています。
「映画」の発明者ではなく「映画の言語」を発明したのがリュミエール兄弟である。
ティエリー・フレモー

「どんな話を語るか?」
「どのように語るか?」
「どこにカメラを置けば最良の映像が撮れるか?」

 リュミエール兄弟は、映画を撮り始めた最初の人でありながら、すでに「映画」を撮るために最も重要なことをすでに掴んでいたのです。そして、映画とは人々を楽しませることができる最高のツールであることも理解していました。
「映画は皆を世界中を楽しませ豊かにする。これ以上の誇りはない」
ルイ・リュミエール

 20世紀の初め、人々はどんな暮らしをしていたのか?
 この映画に偶然、その姿を収められた人々は、人類の歴史において初めて「永遠の命」を与えられたといえます。彼ら彼女たちの50秒間の表情は演技ではなく、リアルな20世紀初めの表情だと思うとそれだけで感無量になってしまいました。ラスト近く村を去るカメラマンを追ってくるベトナムの少女の笑顔に、僕は涙をこらえきれませんでした。「映画」の歴史が始まった最初の108本を見ることで、映画の歴史がスタートした時の観客の気分を体感して下さい!

「リュミエール! Lumiere !」 2016年
(監)(脚)(編)(製)(ナレーション)ティエリー・フレモー
(製)ベルトラン・タベルニエ
(出)オーギュスト・リュミエール、ルイ・リュミエール、ティエリー・フレモー、マーティン・スコセッシ(最後のお楽しみ)
<カメラマンたち>
アレクサンドル・プロミオ Alexandre Promio、ガブリエル・イエーレ Gabriel Yeyre、フランシスコ・フェリチェッティ Francesco Felocetti、コンスタント・ギレル Constant Girel
フェリックス・メスキッチ Felix Mesquich、マリウス・セスティエル Marius Sestier、チャールズ・モアソン Charles Moisson

<世界で初めての映画>
「リュミエール工場の出口」
 世界で最初に撮られた映画の被写体は、映画を生み出したリュミエールの工場で働く人々でした。その時代を生きていた普通の人々はどんな服を着て、どんな表情をしていたのか?
 それまで絵画や写真、文学によって記録されていた大衆が動いているのです。史上初の動く風俗絵画の誕生です。
<スポーツ・パフォーマンス・遊びの映画> 
 20世紀初めのヨーロッパは、映画と同様に様々なスポーツが大衆文化として広がり始めた時代でもありました。リュミエールの作品群にも、スポーツをする人々の映像が数多く残されています。
(1)ヴェルダン広場で「ペタンク」をする人々(残念ながらペタンクのプレーはいい加減です)
(2)ツール・ド・フランスの国でもあるフランスらしく「自転車レース」の映像
(3)シャモニーの氷河での「雪山登山」など、登山の映像
(4)イギリスで撮影された「サッカー」の映像は、ボールをカメラが追えないため、選手の目線でボールの動きを予測するのが楽しいです!
  その他にも、様々な娯楽・パフォーマンスの映像が残されています。
 20世紀を前に大衆レベルに広がった「海水浴」、子供たちの娯楽「ビー玉」、「模型ヨット遊び」、大人の男女が楽しそうに遊ぶ「雪合戦」。
 その他、個人のパフォーマンスとして「バレー」、「蛇のダンス」など女性のダンス・パフォーマンス。
 集団のパフォーマンスとして、「曲芸」(家族のサーカス団クレモ曲芸団)や「曲馬乗り」  
<子供とペットの映画>
 今も昔も映画の被写体として子供とペットは最高の題材です。「カワイイ」「演技をしない」「予測不能のリアクション」・・・
 というわけで、リュミエールは家族の中の子供たちの映像から街中の子供たちまで、様々な映像を撮影し、彼らとペットとの触れ合いも多く題材に選んでいます。
 「赤ん坊の食事」、「猫にエサを与える少女」、「赤ん坊の初歩行」、「金魚と少女」、「男の子と女の子のダンス」
 どの子供たちもカメラを意識してはいても、演技しているわけではなく、ごくごく自然のリアクションで対応しています。 
「赤ん坊の食事」
 リュミエールの息子が出演し、史上初の子役としてデビュー。
<仕事現場の映画> 
 様々な人々の様々な仕事の現場を撮影した作品は、この映画最大の見どころかもしれません。普通の人々の普通に働く姿は、20世紀初めの社会・風俗を最もよく表しているといえます。
「鍛冶屋とその助手」、「道路の舗装工事現場」、「川での洗濯風景」、「魚を獲る男たち」、「消火に向かう消防馬車」、「バルセロナの沖仲士」、「海から上がった潜水夫」
「パリ託児所の乳母車の行列」 
 斜めにこちら側に向かってくる乳母車の行列。前述の汽車の映像同様、斜めの動きを撮るための構図が実に見事。それにより奥行き、遠近感が生み出されています。
 ラストに脱走してきた赤ちゃんは仕込みか?コメディー要素もある作品です。
「捕鯨船からの風景」
 捕鯨船から鯨を追って降ろされた小型ボートを漕ぐ船乗りたちの迫力あるアップ映像。
 演技ではないそれぞれの表情が迫力満点。ドキュメンタリー映像として見事な作品です。
<コメディー映画> 
 大衆の娯楽として誕生した映画は、人々を喜ばすことが求められることから「笑い」が重要な要素になります。史上初のコメディー映画として有名な「水を撒かれた水撒き人」はその歴史的な作品です。
「子守女と兵隊」、「帽子を使うコメディアン」(懐かしの早野凡平!)、「音楽好きの木挽き職人」(トロンボーンの先端にノコギリを装着)
「水を撒かれた水撒き人」
 史上初のコメディー映画です。ホースからの水が止まり不思議がる人。ホースを踏んでいた少年が足を外すと水が顔に!
「袋に入った恋人」
 縄梯子を使って恋人のいる二階に侵入した男がそこから降りると仕掛けられていた袋に・・・「ロミオとジュリエット」のパロディ?
「マットレスと職人のケンカ」
 マットレスから飛び出した羽根の美しさは後に「新学期操行ゼロ」を生み出すことになります。
<動く絵画としての映画> 
 絵画から写真へ、そしてそれが動くことで誕生したのが映画でした。したがって、映画のカメラマンは写真撮影者であり、絵画を見て育ったアーティストです。だからこそ、それぞれの作品の構図は絵画のように見事なわけです。そのせいでしょうか?当時の画家の影響を感じさせる動く絵画のような作品もあります。
「カード遊び」
 史上初の動く絵画作品。フランスの画家セザンヌの有名な作品「カード遊びをする人々」(1890年)を意識しているであろう構図。
 「もしも絵画が動いたら」これも映画の魅力の一つです。
「ネコにエサを与える少女」
 ルノワールの代表作のひとつ「読書する少女」の帽子と衣装を思わせる少女が猫にエサを与える動画。
「荒波の中の舟」
 英国らしい気候や風景を描いた画家ターナーの作品を思わせる荒波にもまれる小舟を撮った危険がいっぱいの映画。
<乗り物と乗り物から撮った映画> 
 20世紀は様々な乗り物が誕生・普及した時代でもありました。リュミエールもまたそうした乗り物の映像やその乗り物を使った映像を記録しています。その中でも、最も有名なのが「ラ・シオタへの列車の到着」です。 
<移動撮影による作品>
 「リヨンの街の移動撮影」(世界初の電車を使った移動撮影)、「セーヌ川の移動風景」(船を使った移動撮影)、「エッフェル塔よりの風景」(エレベーターからの上昇しながらの撮影)、「気球から」(上昇する気球から行われた史上初の空中撮影)
<乗り物の映像作品>
 「謎の湿地歩行車輛」(泥を慣らしながら動く不思議な車輛)、「パリ万博の動く歩道」(パリ万博の目玉のひとつ)、「船の進水式」(大型船の進水式) 
「ラ・シオタ駅への列車の到着」
 映画史に残る作品です。画面向こう側からホームに入ってくる機関車を見て観客の多くが逃げ出そうとしたという伝説的作品です。
 史上初のパニック映画?ですが、改めてみると、遠近法を上手く使ったその構図の素晴らしさに感心します。
<特殊効果映像>
 映画は観客を驚かせ、喜ばせるため、映画だからできる特殊な技法(特殊効果)を用いた作品を生み出してきました。リュミエールは映画を撮り始めてすぐにその存在に気づき使い始めています。
 「自動車事故」(車に轢かれバラバラになった死体が復活。史上初のブラック・ユーモア作品?)
 「金魚鉢」(前衛的抽象的な映像)
 「陽気なガイコツ」(操り人形も映画ならより高度に見えます)
「壁の取り壊し」
 壊れかけの壁をハンマーで叩き壊す映像でした。ところがある映写会で映写技師が巻き戻しをする際、ランプを消し忘れたため、逆回しの上映が行われました。
 なんと壊れたはずの壁が魔法のように復活して行くじゃないですか!
 史上初の特殊効果映像の発見となりました。
「機械仕掛けの豚肉屋」
 生きた豚を入れると、そこから頭、ソーセージ、豚足、ハム、睾丸などが出てくる機械。映画だからこそできるマジック!
<事故・事件の現場映像>
 映画はそれまでは写真や文章でしか伝えられなかった事故や事件の現場の状況を動く映像によって記録・報道することを可能にしました。それはその後、報道の歴史を大きく変えるだけでなく政治や社会をも動かす世論形成の重要な武器となります。
 「洪水後の街」(洪水によって水浸しになった街、史上初の災害後記録映像)
 「油井火災」(史上初の巨大災害のドキュメンタリー映像。燃え上がる炎の熱量が感じられそうな映像)
 「ピストルによる決闘」(メキシコで実際に起きた当時はまだ合法的だった決闘の再現映像)
 「小銭を拾う子供たち」(ベトナムで子供たちに小銭を投げ与える白人女性。植民地支配による差別の構造が示されています)
 「バルドの階段」(チュニジアの王族・軍人たちが続々登場。総督を撮影するはずが、あまりに制服着用者が多く誰が総督かわからなくなっています)
 「アヘン中毒の夫婦」(アヘン中毒の夫婦が寝ながらアヘンを吸引。夫婦の衣装の配色やアングルなどが計算されているとしか思えない映像)
<まだ見ぬ海外・名所映像>
 映画にとって今での重要な分野なのが、未だ誰も見たことのない景色・名所・場所の映像を用いた作品です。今ではもう見られない20世紀初めの観光地や名所の映像は記録的にも価値があり、中には日本の映像もあるのですから驚きです。 
<ヨーロッパ>
 「シャンゼリゼ通り」、「ノートルダム寺院」、「パリ万国博覧会」、「マルセイユの街並み」、「コンコルド広場」、「スペイン兵によるホタの踊り」、「ヴェネチア大運河」、「ロンドン塔とウエストミンスター橋」、「モスクワ ヴェルスカヤ通り」
<アジア>
 イスタンブール 金角湾からのパノラマ」、「京都での剣道の試合」、「エルサレム ラクダの隊商」「エルサレム ヤファ門」、「エジプト ピラミッドとスフィンクス」
<アメリカ>
 「ニューヨーク ブロードウェイ」、「シカゴ マジソン街」
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