モータウン王国誕生の秘密

ドキュメンタリー映画「メイキング・オブ・モータウン」

- ベリー・ゴーディJr.、スモーキー・ロビンソン・・・-
<モータウンの秘密>
 世界のポップス史に燦然と輝くモータウン・レコード成功の秘密については、そのヒット曲の数々を生み出したスタジオ・ミュージシャンたち「ファンク・ブラザース」にスポットを当てたドキュメンタリー映画「永遠のモータウン」に詳しく描かれています。ただし、そこで紹介されていたのはあくまでも曲作りの部分。もちろん、その部分にこそモータウン最大のヒットの秘密があったのですが、ただ良い曲を作るだけであの巨大音楽帝国が生まれたわけではありません。
 このドキュメンタリー映画では、モータウンの曲がなぜナンバー1を、それもR&Bチャートではなくポップチャートのナンバー1を連発できたのか?その秘密が明かされます。

<モータウンの経営方針>
 モータウンの経営方針とは、ワンマン社長ベリー・ゴーディの人生哲学とイコールと言えます。そして、モータウン・レコードが、小さなレコード店から始まり、一大エンタメ企業にまで発展したのも、そんな社長の経営方針が全社員にまで貫かれていたからでした。ただし、その方針にも限界があったのですが、この作品ではそうした失敗や分裂の歴史は、あまり深くは描かれていません。その部分は、将来誰かが劇映画として描くと思いますが、ベリー・ゴーディが元気なうちは難しそうです。
 先ずはこの作品で「モータウンの光と影」のうち「光」の部分を知られればと思います。
 
<品質管理の徹底>
 ベリー・ゴーディーは、もともと実業家の父親の元で育ったことから、若くして経営に関わることができました。最初に始めたのは、好きな音楽ジャズのレコードを売るレコード店でした。しかし、1950年代末、ジャズの黄金時代は終わり、ジャズはポピュラー音楽の人気ジャンルではなくなっていました。その上、南部出身者が多いデトロイトの街では、ジャズよりもR&Bやブルースの方が売れ、ジャズ専門の彼の店は倒産に追い込まれました。
 店を潰し借金を抱えた彼は、しかたなく地元の企業フォード自動車の工場で働き始めます。そして、そこで彼は後にモータウンを支えることになる「流れ作業」や「品質管理」というキーワードについて学ぶことになりました。
 次々とヒット曲を生み出した「ヒット曲生産工場」の基礎となる様々な工程のアイデアが、この頃彼の中に生まれていたようです。自働車を製造するための様々な工程。「コンセプト」「デザイン」「設計」「試作」「製造」「試験」「生産管理」「品質管理」「販売」「公告」などの部門が、そのままレコード制作の現場に生かされることになりました。
 そのために、彼はそれぞれの分野における専門化を人種や性別に関わりなく雇い入れて行くことになります。

<ライター・チーム>
 モータウンにとっての心臓部と言えるのが、ソングライター&プロデユーサーのメンバーです。彼はモータウンにおいて、チーム制とも言えるシステムを導入し、ライターたちがチームでヒット曲を競い合い生み出すよう仕掛けました。
(1)スモーキー・ロビンソン、ベリー・ゴーディ
 後にベリー・ゴーディの妹と結婚し、公私ともにチームとなった最強のライター・チーム。スモーキー・ロビンソンの詞は、ボブ・ディランら多くのアーティストから世界最高の詩人と評されることになります。
(2)エディ・ホランド、ラモン・ドジャー、ブライアン・ホランド(H-D-H)
 シュプリームスのヒット曲など、モータウン最大のヒットメーカーだった3人組。より高い報酬を求め、1968年に独立し。新レーベルのインヴィクタス、ホットワックスを設立します。ただし、それまでのような成功を収めることはできませんでした。曲の良さだけでは売れないことを彼らは証明したとも言えます。
(3)バレット・ストロング、ノーマン・ホイットフィールド
 テンプテーションズなどに楽曲を提供。彼らを正統派ソウル・コーラスからフラワー世代向けのサイケデリック・ソウルへと変身させました。
(4)シルヴィア・モイ、クラレンス・ポール、ハンク・コスビー
(5)アシュフォード&シンプソン
<ファンク・ブラザース>
 ソングライター・チームが生み出した曲も、そのままではヒットにつながらなかったはずです。そこにブラック・ミュージックならではの「ファンキー」なノリを付け加えたスタジオ・ミュージシャンたち「ファンク・ブラザース」の存在もまたモータウンのもう一つの心臓部でした。
 ベースのジェームス・ジェマーソン James Jamerson、ドラムスのベニー・ベンジャミン Benny Benjyamin、ピアニスト兼バンドリーダーのジョー・ハンター Joe Hunter、同じくピアニストのアール・ヴァン・ダイク、ギターのラリー・ヴィーダー Larry Veeder、サックスのマイク・テリー Mike Terryらのメンバーに加えて、クラシック畑出身の編曲家ポール・ライザー Paul Rizer(当時18歳!)・・・これらのメンバーが常にスタジオに待機し、曲ができるとすぐにアイデアを盛り込みながらの録音が行われました。

<優れたスタッフによる戦略>
 映画のオープニングで彼が少年時代に白人街で新聞売りをした時の体験が語られます。
 黒人がほとんどいない街中で白人ビジネスマン相手に黒人少年が新聞を売る作戦は上手く行きましたが、翌日、兄を連れて二人で売ろうとするとなぜか売れなくなりました。
「黒人は一人ならキュート、二人なら脅威」
 この教訓を彼は心に刻み付け、商売を始めたわけです。白人に脅威と思われずにいかに商売するか?彼は初めから白人相手の商売を考えていたわけです。
 この教訓は、モータウン設立後、大いに生かされることになります。
<マナー教育>
 モータウンのアーティストは、地元出身とは言え、その親のほとんどは南部の農村部でした。そのため、彼らは言葉使いも田舎者丸出しで、読み書きもおぼつかない場合が多かったのです。そこで彼は南部なまりの英語を修正するだけでなく、テーブルマナーなどのマナー教育を徹底しました。
 そのために招かれたのが、マナー指導の教師マキシン・パウエル Maxine Powell 。彼女は、大統領や英国の女王の晩餐会に招かれても大丈夫なように教育を行いました。(後に、この教育は本当に大統領や女王との晩餐会で役立つことになります)
<その他のスタッフ>
 品質管理部門のトップは、当時まだ21歳だった黒人女性ビリー・ジーン・ブラウン Billie Jean Brown。
 音楽指導・ヴォイス・トレーナーは、モーリス・キング Maurice King。
 アーティスト養成担当は、ハーヴェイ・フークア Harvey Fuqua。元はドゥーワップ・グループのムーングロウズを率いて50年代に活躍した歌手&ソングライター。
 振り付け担当は、チョリー・アトキンス Cholly Atkins。40年代から50年代にダンサーとして活躍した後、振付師となった。
 A&R(アーティスト&レパートリー)担当のミッキー・スティーブンソン Micky Stevensonは、アーティストとの発掘・契約・育成から楽曲の選択と制作までを統括。

<個性を生かす自由の容認>
 こうして「ヒット製造工場」のシステムが生まれたわけですが、それだけではモータウンの個性的なヒット曲の数々は生まれなかったはずです。最終的には、魅力的なアーティストを見つけるベリー・ゴーディの目と彼が見出したアーティストを伸び伸びと活躍させる自由な環境を用意する必要がありました。個性的なアーティストと個性的なソングライター・チーム、それに「ファンク・ブラザース」による演奏の組み合わせが、様々なタイプのヒット曲を生み出すことを可能にしました。そして、自由な活動を重視したおかげで、H-D-Hのメンバーが抜けた際にもその穴を埋めるようにスティービー・ワンダーがソングライターとして活躍を開始。マーヴィン・ゲイのように自分で時代に合わせた音楽を選択し、プロデュースする存在を生み出すことにもなりました。
 マーサ・リーヴスは映画の中で「モータウンはディズニー・ランドのようだった」と語っています。
 ディズニーに様々なタイプ、様々な人向けのアトラクションが揃っているように、モータウンの本社ビル内でも同じようにいつも何かが生み出される現場を見られたのでした。
 トイレでマーヴィンが「Let's Get It On」のメロディーを鼻歌交じりに歌っていたかもしれません。スタジオではいつもファンク・ブラザースが、曲にフックをもたらそうと試行錯誤を行っていました。そうかと思えば、会議室では各部署のトップが集められ、次に出す曲を選ぶための挙手による投票を行っていました。
 映画のラスト。モータウン・レビューのステージ上にずらりと並んだアーティストたちが汗だくで歌い踊る映像を見ていると、胸が熱くなってしまいました。人種や性別の壁を越えた自由な天国のような場所が、そこには確かに存在していたのです。ベリー・ゴーディが、モータウン・レコードから送り出し続けた音楽は、そんな天国のような瞬間を音に代えて黒い円盤に刻み込んだものだったのです。そして、その黒い円盤は、世界中に送り届けられ、遠く日本の北海道に住む僕の家にも届いていたのでした。

映画「メイキング・オブ・モータウン Hitswille : The Makig of Motown」 2019年
(監)ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー(アメリカ)
(製)レオ・パールマン(製総)ベリー・ゴーディ、スティーブ・バーネット他
(撮)チャーリー・ウッパーマン
(編)ポール・モナハン
(音)イアン・アーバー
(出)ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン
ラモン・ドジャー、ホランド兄弟、ニコラス・アシュフォード、ヴァレリー・シンプソン、ノーマン・ホイットフィールド
スティービー・ワンダーマーサ・リーブスジャクソン兄弟(ジャッキー、ジャーメイン、マリオン、ティト)、メルヴィン・フランクリン
ジョン・レジェンド、ジェイミー・フォックス、アレサ・フランクリン、Dr.ドレ―、サム・スミス
マーヴィン・ゲイリトル・リチャードダイアナ・ロス
ニール・ヤング(なんとロック界の大御所も一時期モータウンに所属し、モータウン発のロックバンドThe Mynah Birdsのメンバーとして活動していました。そのバンドには彼の他にも、80年代にソロ・アーティストとしてブレイクすることになるリック・ジェームスもいました!)
<使用曲リスト>
曲名  演奏  作曲・作詞  コメント 
ポップチャート・ランク
「Papa Was Rollin' Stone」  ザ・テンプテーションズ
The Temptations 
Norman Whitfileld
Barrett Strong
全米1位(1972年)
「Get Ready」  ザ・テンプテーションズ
The Temptations  
スモーキー・ロビンソン
Smokey Robinson
全米29位(1966年)
「Ain't Too Prud To Beg」  ザ・テンプテーションズ
The Temptations  
Norman Whitfield
Edward Holland Jr.
全米13位(1966年) 
「Detroit Special」  ビッグ・ビル・ブルンジー
Big Bill Broonzy
Nelson Wilbourn  (1972年)
「Uptight(Everything's Alright)」  スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder 
Henry Cosby
Sylvia Moy
Stevie Wonder
全米3位(1965年) 
「Ainn't No Mountain High Enough」  マーヴィン・ゲイ、タミー・テレル
Marvin Gaye,Tammi Terrell 
Nickolas Ashford
Valeris Simpson
全米19位(1967年) 
「Just My Imagination
(Running way With Me)」 
ザ・テンプテーションズ
The Temptations 
Norman Whitfileld
Barrett Strong 
全米1位(1971年)
「Reet Petite」  ジャッキー・ウィルソン
Jackie Wilson 
Berry Gordy Jr.
Barrett Strong
全米62位(1957年) 
「Get A Job」  ザ・ミラクルズ
The Miracles 
Smokey Robinson
Tyron Cario
Berry Gordy Jr. 
 
「I Wish It Would Rain」  ザ・テンプテーションズ
The Temptations  
Norman Whitfileld
Barrett Strong
Roger Penzabene Sr. 
全米4位(1968年) 
「Shop Around」  ザ・ミラクルズ
The Miracles  
Berry Gordy Jr.
Smokey Robinson 
全米2位(1960年) 
「(I'm A) Road Runner」  ジュニア・ウォーカー
Jr. Walker & The All Stars
H-D-H
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.
全米20位(1966年)
「I'll Try Somthing New」  ザ・ミラクルズ
The Miracles 
Smokey Robinson  全米39位(1962年) 
「Bernadette」  フォー・トップス
Four Tops
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.
全米4位(1967年)
「Stubborn Kind of Fellow」  マーヴィン・ゲイ
Marvin Gaye
Marvin Gaye
William Stevenson
George Gordy Jr.
全米46位(1962年) 
「Stubborn Kind of Fellow」  スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder  
Marvin Gaye
William Stevenson
George Gordy Jr. 
 
「The Tears of A Clown」  スモーキー・ロビンソン
& ザ・ミラクルズ
Smokey Robinson &The Miracles
Henry Cosby
Smokey Robinson
Stevie Wonder 
全米1位(1970年) 
「Dancing In The Street」  マーサ・リーブス&
ザ・ヴァンデラス

Martha Reeves & The Vandellas
Ivy Hunter
Marvin Gaye
William Stevenson
全米2位(1964年)
「Fingertips」  スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder
Henry Cosby
Clarence Paul
全米1位(1963年) 
「Mickey's Monkey」  ザ・ミラクルズ
The Miracles   
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr. 
全米8位(1963年) 
「I Got The Feelin」  ジャクソン5
Jackson 5 
ジェームス・ブラウン
James Brown
 
「Who's Loving You」  ジャクソン5
Jackson 5 
Smokey Robinson  
「The Way You Do The Things You Do」 ザ・テンプテーションズ
The Temptations  
Smokey Robison
Robert Rogers
全米11位(1964年) 
「Girl(Why You Wanna Make Me Blue)」  ザ・テンプテーションズ
The Temptations   
Norman Whitfield
Edward Holland Jr. 
全米26位(1964年)
「My Guy」 メリー・ウェルズ
Mary Wells
Smokin Robinson 全米1位(1964年)
記念すべき最初の1位 
「My Girl」  ザ・テンプテーションズ
The Temptations   
Ronald White
Smokey Robinson
全米1位(1964年) 
「The Tracks of My Tears」  スモーキー・ロビンソン
& ザ・ミラクルズ
Smokey Robinson &The Miracles 
Smokey Robinson
Warren Moore
Marrin Tarplin
全米16位(1965年) 
「I Can't Help Myself
(Sugar Pie Honey Bunch)」 
フォー・トップス
Four Tops
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr. 
全米1位(1965年) 
「Inner City Blues
(Make Me Wanna Holler)」 
マーヴィン・ゲイ
Marvin Gaye
Marvin Gaye
James Nyx
全米9位(1971年) 
「I Want You Back」  ジャクソン5
Jackson 5  
Berry Gordy Jr.
Deke Richards
Alphonzo Mizell
Freddie Perren
全米1位(1969年) 
「Heaven Must Have Sent You」  ザ・ エルジンズ
The Elgins
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.  
全米50位(1966年)
「My Heart Can't Take It No More」  ザ・シュープリームス
The Supremes 
Clarence Paul (1963年) 
「Please Mr. Postman」  ザ・マーヴェレッツ
The Marvelettes 
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.  
全米1位(1961年)
「Where Did Our Love Go」  ザ・シュープリームス
The Supremes  
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.   
全米1位(1964年) 
「Reach Out, I'll Be There」  フォー・トップス
Four Tops
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.   
全米1位(1966年)
「Come See About Me」  ザ・シュープリームス
The Supremes   
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.   
全米1位(1964年) 
「You Can't Hurry Love」  ザ・シュープリームス
The Supremes   
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.   
全米1位(1966年) 
「I Heard It Through The Grapvine」  マーヴィン・ゲイ
Marvin Gaye
Norman Whitfileld
Barrett Strong 
全米1位(1968年) 
「I Heard It Through The Grapvine」   グラディス・ナイト&ザ・ピップス
Gladys Knight & The Pips
Norman Whitfileld
Barrett Strong
全米2位(1967年)
「You're Nobody Til Somebody LovesYou」 ザ・シュープリームス
The Supremes    
Russ Morgan
Larry Stock
James Cavanagh
 
「All In Love Is Fair」  スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder 
スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder
 
「Superstition」  スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder
スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder
全米1位(1972年)
「You Keep Me Hanging On」  ザ・シュープリームス
The Supremes    
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.  
全米1位(1966年) 
「Cloud Nine」  ザ・テンプテーションズ
The Temptations  
Norman Whitfileld
Barrett Strong  
全米6位(1968年) 
「Ball of Confusion
(That's What The World Is Today)」 
ザ・テンプテーションズ
The Temptations  
Norman Whitfileld
Barrett Strong  
全米3位(1970年) 
「What's Going On」  マーヴィン・ゲイ
Marvin Gaye
Alfred Cleveland
Renardo Benson
Marvin Gaye
全米2位(1971年)
「Ain't No Mountain High Enough」  ダイアナ・ロス
Dianna Ross
Nickolas Ashford
Valeris Simpson
全米1位(1970年)
「The Motown Company Song
(Hitsville USA)」 
Lamont Doger,Berry Gordy Jr.
Martha Reeves,Smokey Robinson...
Smokey Robinson  モータウンの社歌 
「(Love Is Like A) Heat Wave」  マーサ・リーブス&
ザ・ヴァンデラス

Martha Reeves & The Vandellas 
Lamont Dogzier
Brian Holland
Eddie Holland Jr.   
全米4位(1963年)

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