J-POPヒットの法則


「すべてのJ-POPはパクリである」
現代ポップス論考

- マキタ・スポーツ Makita Sports -

<カセットテープ・ミュージック>
 BS12で放送している「カセットテープ・ミュージック」の大ファンです。実に面白いし、勉強になります。音楽番組も、ここまでマニアックに分析してくれると本当に見ごたえがあります。毎週録画して、しっかり見ていますが、先日、マキタ・スポーツさんの著書「すべてのJ-POPはパクリである」を読みました。
 このサイトの読者の多くなら、J-POPがパクリなのは今更でしょ。と思われるかもしれません。とはいえ、それを具体的に楽譜や音から解説するだけでなく、それをアシスタントのアイドル系女子にもわかるように説明するのは、なかなか難しいはずです。さらにマキタ・スポーツさん(スージー鈴木さんも含め)には、そんなスキルと同時に音楽に対する愛があり、その精神的な柱が説得力を生み出しています。そのために、彼の解説はJ-POPや音楽論にとどまらず、近代日本の文明論にもなっています。

 必要な情報を”上から下されるのを待つ”のではなく、積極的に取りにいき、自身で精査し、自分流に解釈する。厳しい時代です。ミュージシャンらも、レコード会社が用意したスキームに乗っかって、安穏と印税生活を夢見ることはままならなくなりました。「モデルは自分で作る時代」、そう言えば聞えは良いでしょう。結果、人々はますます臆病になり、妬み嫉みを発散する時代になりました。

 この本のテーマは、J-POPのヒット曲がもつ法則性を明らかにし、それを多くの人に普及させることにあります。しかし、インターネットの普及が、すべての情報を世界に拡散することを可能にすることにより、音楽の世界でもまったく新しい作品が生まれることは逆に困難になりつつあります。それでもなお、「ヒットの法則」をもとにして新たな魅力をもつヒット曲を生み出すにはどうしたらよいのか?
 あなたがミュージシャンを目指すなら、是非参考にしてください。でも、それをもとに曲を作るかどうかは、あなたしだいです。本当に才能のあるアーティストなら、そもそもこんなサイト読む必要はないのでしょうが・・・。
 
 パクることは是です。大事なのは「どうパクるか」。すべてのJ-POPはパクリであり、それは日本人の選択であり、意識の反映です。それにより素敵な「ゴキゲン」は過去から現在、音楽に限らず作られてきています。それをきちんと評価したい。

<ヒットの法則>
・・・要は「ヒットする」もの、つまり、人々にウケる音楽、言葉、ネタなどには、ある程度の法則性があり、その法則をつかんで組み立てれば誰でも「そこそこ表現」ができてしまうのです。
 そんな「いい方法」は奥義化せず、むしろ皆と共有してしまいたい。そして、それが現在訪れている「シェアする世の中」にも合致している行動なのです。
 だからこそ、私がつかんだ「ヒット曲の法則」を公開し、まずは音楽方面での実なの表現を高めてしまおう、というのがこの本の第一の趣旨です。

 さて、ここからはマキタさんが書いている「ヒットの法則」についてです。
(1)コード進行
「カノン進行」
 17世紀のドイツ人オルガン奏者ヨハン・パッヘルベルが作曲した「パッヘルベルのカノン」で使われているコード進行が有名だし分かりやすい例です。
 「カノン」という言葉はそもそも「基準」や「規範」という意味の古典ギリシャ語「カノーン」が語源です。そこからも分るように、規則性に従って非常に耳に心地よく響くコード進行と言えます。
 規則性を好む日本人向きのコード進行でもあるようです。しかし、カノン進行を用いたヒット曲には「曲の効能を増幅させるため、それ以降たとえ良い曲を作ったとしてもヒット曲に恵まれない可能性」も多分にあるようです。要するに、「一発屋」を生み出す「悪魔の法則」でもあるわけです。
「真夏の果実」(サザンオールスターズ)、「Grateful Days」(ドラゴンアッシュ)、「クリスマス・イヴ」(山下達郎)、「ひこうき雲」(荒井由実)、「大阪で生まれた女」BORO、「愛は勝つ」(KAN)、「壊れかけのRadio」(徳永英明)、「それが大事」(大事MANブラザースバンド)、「浪漫飛行」米米CLUB、「負けないで」ZARD・・・

(2)歌詞
 J-POPのヒット曲には共通して使われているフレーズ、単語があり、それを使うことはヒットを生み出す近道となります。
「翼」「扉」「桜」「夢」「季節」「奇跡」「永遠」「言葉」「宝物」「エール」「強がり」「弱虫」「大丈夫」「受け止める」「ありがとう」「歩き出そう」「大切な日々」・・・

(3)楽曲構成
 時代ごとにヒット曲の楽曲構成は変化しています。1971年のレコード大賞受賞曲「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)は、それ以前の歌謡曲には存在しなかった三つの異なる楽節によってはじめて成立した歴史的な楽曲と言われています。
Aメロ→Bメロ→Cメロ(サビ)起承転結があるドラマチックな展開が可能になりました。
(A)サビ出し
 曲は先ず一番美味しいメロディーを聴かせ、その後「つかみ」で心をぐっとつかみます。
(B)間奏(転調)
 ドラマティックに曲の印象を変えることで、もう一度心を「つかみ」ます。
(C)Aメロ、A´メロ
 ここで本格的に歌(メロディー)が始まります。ただし、今風の曲はここで「ラップ」を使う場合が多いようです。
(D)Bメロ(クリシェ)
 同じコードが続いているときに単調なコード進行のパターンを避けるため、和音の構成音の一部を規則的に変化させていく方法。
 サビに向かって「タメ」を作ります。「起承転結」における「転」に当たる部分です。
(E)サビ(カノン)
 サビ出しで用いたメロディーにここで歌詞が乗り、そこでは謎だった部分に「答え」が与えられます。これで観客は「答え」を得て、安心して感動できることになります。
(F)間奏(コール&レスポンス)
 ライブの際に特に有効な部分。サビを繰り返しながら、バンドの音がブレイク。コール&レスポンスをすることで、さらに観客は盛り上がります。
(G)大サビ
 曲の後半に登場し、最初の「サビ」以降に初めて出てくるブロックを指します。これがもう一度「サビ」につながることで、盛り上がりがさらに増し、観客の感情を最高潮にもって行くことになります。
(H)アウトロ(カノン)
 最後のアウトロは再びカノン進行に戻ります。そして、最後を尻切れで終わらせることで、観客の心に強い心の余韻を残すことになります。

(4)オリジナリティー(=唯一性)
 しかし、ヒット曲を生み出すための「プログラミング力」だけでは、「そこそこの表現」にとどまってしまいます。最終的に「売れる表現」を作るにはその人の「唯一性=オリジナリティー」が必要です。

 私にとって作詞作曲モノマネは、最高の音楽を作るための手段であり、モノマネをすること自体が目的ではありません。皆が表現しようという同調性が支配する世の中で、音楽に限らずそのほかのジャンルでもオリジナリティーを確立する方法としてお伝えするのが、この本の第二の趣旨です。

 (1)~(3)は、ヒット曲に共通する要素を抜き出したもので、それを用いればヒット曲の設計図を描くことができます。
 しかし、それだけではどれも同じ曲になるだけでヒットにつながるとは限りません。そこに「唯一性」がなければヒットにはならないのです。
「自分だけにしか発せられない言葉」
「誰よりもリアリティーを持って歌える曲」
 それは特殊な内容・情況でなくてもよいのです。
 天才でなくても、あなただけら歌える何かがあればよいのです。

<CDは売れなくなったわけではない!>
 実は、CDが売れなくなったのは、21世紀に入ってからではなく、それ以前も売れていたわけではないといいます。それは下の表を見ても明らかです。逆に売れていた時代が1990年代だけで、それ以前も同じぐらいしか売れていないことがわかります。

<売上が100万枚を越えた大ヒット曲の年代別割合>(オリコンのデータによる)
1968年~1969年  2.7%  7曲 
1970年代  9.3%  24曲 
1980年代  4.6% 12曲 
1990年代  66.8%  173曲 
2000年代  10%  26曲 
2010年~2013年  6.6%  17曲 
 1990年代はCDの登場により、音楽を聴くためのソフトもハードも安くなり、音楽を聴く環境が広まりました。当時のCDプレイヤーは赤字覚悟で安く売られていたそうです。
 さらにバブルの影響もあって、音楽を聴くことは「ファッション」の一部となっていました。レジャーの発展と音楽のヒットは一体化していたと言えます。そうなる原因となった様々なブームが多かった時代でもありました。「小室ブーム」、「渋谷系ブーム」「ユーミン・ブーム」「安室ブーム」「カラオケ・ブーム」・・・
 さらにこの時代は、日本のポップスの主流が「歌謡曲」から「J-POP」に変化した時期でもありました。そして、とりあえず「これを聴いておけば、時代に贈れないだろう」という曲が明確だった最後の時代だったとも言えます。
 2000年代に入ると、音楽のジャンルは急激に細分化されてゆき、誰もが知っていて口ずさめるようなヒット曲は、ほとんど生まれなくなります。

<CDの売り上げを支えているジャンル>
 2010年代に入って、それ以前よりCDは売れてきているようです。(100万枚のヒットが3年で17曲)その原因は、売れるジャンルが頑張っているからのようです。
(1)アイドル系
 「終わりを愛でる芸能」としてのアイドルのCDは、最も売れているジャンルと言えるでしょう。
「CDのアイテム化」
 CDを数あるアイドル・グッズの中の一つにしたことで、より多くCDを売ることが可能になりました。だからこそ、握手券を付けたり、ジャケット違いを出すことも可能になった。
「グループの成長段階に合わせた楽曲作り」
<AKBスタイル>
 メインの歌い手が代わっても、グループの別の歌い手が歌える曲。
 時代の要求、メンバーの年齢変化、環境変化に合わせた曲を用意する。
 これがAKB48に代表される現代アイドルの王道スタイルとなりました。
<ももクロスタイル>
 AKB48とは正反対のスタイル。サビだらけの曲せ、何でもありのジャンルを超えた雑食スタイルの曲構成。
 ライブで盛り上がることを狙った曲作り。
 アイドルだからこそ許される意外性の追求を常に続けること。
「ジャニーズ事務所はディズニーランドである」
 さまざまなキャラクターを内包しつつ、世界観は「ジャニーズ」という一つのブランドに統一されています。
 その「ジャニーズ」らしさを追求しながら、そこからはみ出すアーティストの登場によって、その勢いを保ってきました。
 SMAPは、その王道からはみ出しつつ、新しいジャニーズ・スタイルを生み出した存在でした。(はみ出し過ぎて、解散することになりましたが・・・)
 (他にも、一人ジャニーズの郷ひろみ、歌わないジャニーズの風間俊介、バンド・スタイルのジャニーズとなったTOKIOなど多様化は進み続けています)
(2)アニメ音楽系
「誰しもが知っている、その時代を象徴するアニメ主題歌」
 映像のイメージと一体化することで、いつ聴いてもその映像が思い浮かぶ「懐メロ」としてアニメ主題歌の存在は全体的です。
 子供時代に刷り込まれた場合も多く、「共有すべき物語」が少ない時代なだけに、誰もが知るアニメの存在は大きいと言えます。
 「アイドル」のCDがグッズの一つとして売れているように、「アニメ」のCDもアニメ・グッズの一つとして売れています。
(3)ビジュアル系
 ビジュアル系は、ファン層は限られた範囲に限られています。その多くのファンは女性層ですが、そのファン層のために芸能ビジネスとして発展し特化したジャンルです。
 BOOWY、X Japan、LUNA SEA、GLAY、黒夢、ゴールデンボンバー・・・
「ビジュアル系とは音楽の様式を示す言葉ではない」
「メリハリがあり、観客が振り付けなどで参加できるようになっている」
「キメ」(音楽的アトラクション)
 サビが来たときに観客が両手を掲げて「咲き」のアトラクションを、ボーカルの「キメ」に合わせて始める。歌舞伎の世界のようなお約束事の世界。
「カオ」(ファッション性)
 バンドの顔であるボーカリストの美しさが重要。ヴォーカリストはギターを持ってはいけない。彼は他のメンバーと違い、非日常性を体現しなければならない。
 そのカリスマ的な存在感こそがビジュアル系の命。
「ヒモ」(経営の特徴)
 女性ファンによって支えられているだけでなく、運営側にも女性が多く関わっています。
 ファンのニーズに答えることこそ、ビジネスとしてのビジュアル系バンド成功の最重要課題と言えます。

<マキタ流歌マネの4つの要素>
 アーティストのキャラクターが反映されている楽曲の特徴で、作詞作曲モノマネに必要な4つの要素について。
(1)手癖=コード進行
 アーティストが無意識で弾いてしまうコード進行には個性がしみ出しています。
(2)メロ癖
 歌い手がメロディーをたどる時に、つい出してしまう癖のこと。それは音程の微妙なズレとして現れます。
 優れたアーティストは、譜面上の音階とズレた自分にとって気持ちの良いメロディーラインを歌いたがるものです。正確にメロディーを反復できるけれども、本番になるとそれを越えるパフォーマンスを見せられるのがプロのアーティストなのです。
(3)のど癖
 アーティスト独特の「声」のこと。具体的には、「声質」「ビブラートの利かせ方」「声量の大きさ」などのこと。
 「声の特徴とは、絵画のタッチに似ている」
 モノマネ芸人がマネするのは、この部分と言っていいでしょう。
(4)歌詞癖
 アーティストの思想がそのまま反映されるのが歌詞です。もちろん自分で作った曲でなくても、楽曲提供者はそのアーティストのキャラクターやターゲットの観客層を意識して作っているはずです。(そうしない楽曲提供者による曲が、そのアーティストの新たな魅力を引き出す場合もまたあるのですが・・・)
(例)歌詞において「一人称」をどう歌うのか?によっても、そのアーティストの特徴は多分に見えてきます。
「俺」、「わたし」、「僕」、「あたい」、「僕たち」・・・中島みゆきのように、曲によって、主人公のキャラクターによって歌い分けるアーティストもいます。

<売れる曲に共通するのは?>
「日本のポップスはすべて『ノベルティー・ソング』みたいなものだからね」
萩原健太(音楽評論家)

 ここでいう「ノベルティー・ソング」とは、批評的な成分が入っている曲のことで、アメリカで生まれた言葉です。
 その範囲は、「パロディー」から真面目な「プロテストソング」まで幅は広いものの何かを掘り下げることで生み出された歌と言えます。ただし、日本の場合は特に「企画モノソング」と呼べるようです。
「企画モノソング」とは?
 音楽の新ジャンルにおける曲が、ある時期、大衆的な企画モノのヒット曲として一大ブームを巻き起こし、それがいつしか音楽ジャンルの定番の一つになっていった例が、過去に数多く存在します。例えば・・・
 1960年代初め頃は、アメリカン・ポップスのヒット曲を日本語に訳してカバーした曲が次々にヒットし、「ロックン・ロール」が歌謡曲のファンにまで広まることになりました。(「VACATION」、「監獄ロック」、「ルイジアナ・ママ」などが多くの歌手によってカバーされました)
 1980年代には、YMOというカリスマ的な仕掛け人集団がコミックソング的な部分から「テクノ」をヒット・チャートの上位にまで食い込ませ、テクノ・ブームというファッションまで含めた一大ブームを巻き起こしています。
 1990年代半ば、小沢健二&スチャダラパーの「今夜はブギーバック」やEast End & YURIの「DA・YO・NE」などの活躍により、「ラップ」がメジャーな存在へと成長しました。
 
「時代の半歩先を行く曲であること」がヒットの条件なら、この「企画モノ」はまさにその火付け役として最適な存在なのです。もちろん「企画モノ」が良い企画で良い楽曲なら必ずヒットするというわけではありません。そこに時代との奇跡的なマッチングがあってこそヒットとなることが可能になります。

「ノベルティー・ソング」とは何ぞや?(マキタ・スポーツによる理論)
 ノベルティー・ソングとは、「人格」(アーティストのキャラクター)÷「企画」(音楽のスタイル)という「分母」と「分子」から構成されています。
 ここでいう「人格」とは、「歌い手」が世間に認知されているキャラクターのことで、「容姿」「歌声」「歌い方」「言動」「振る舞い」なども含みます。
 「規格」とは、その音楽の「ジャンル」や「カテゴリー」「曲のスタイル」のことです。
 「規格」と「人格」のアンバランスさがその曲が「ノベルティー・ヒット」となるかどうかの重要な鍵になっています。
<人格÷規格=1>
 規格と人格が過不足なくマッチングしていると、オリジナル曲としての完成度が高い名曲になります。
<人格÷規格≠1>
 規格と人格がマッチングしていない場合は、コミカルなものになったり、違和感が生じることになります。もちろん、それが新たな魅力を生み出す可能性もありますが、失敗となる可能性の方が高いかもしれません。
 例えば、ベビー・メタルのように「アイドル」(キャラクター)と「ヘビー・メタル」(規格)を組み合わせたアーティストは、その存在自体がすでにノベルティー的ということになります。
 幸いなことに、「アイドル」という存在は、こうした「違和感」を上手く利用することによって、常に新たな魅力の発掘を続けている音楽ジャンル(芸能ジャンル)と言えます。
 J-POPは、こうした微妙なズレを企画段階で意識的に利用することで多くのヒット曲を生み出してきました。
 アメリカやイギリスのヒット曲は、少なくても20世紀までは「企画」(レコード会社による)ではなく「偶然」(アーティストの心の内面から発生した)に誕生した曲がほとんどだったかもしれません。ただし、「ラップ」の登場以降、というよりもインターネットの登場以降、そうした新しいズレは生じずらくなっているかもしれません。


「すべてのJ-POPはパクリである」 2014年
現代ポップス論考
(著)マキタ・スポーツ Makita Sports
扶桑社

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