- マリリン・モンロー Marilyn Monroe (後編) -

<女優マリリン・モンロー>
 彼女は、1956年公開の「バス停留所」(ジョシュア・ローガン監督)あたりから、いよいよ演技派女優という評価を得られるようになります。しかし、演技が評価されるようになってもなお、彼女の心の中の不安は無くならず、かえって状況は悪化してゆきます。仮病で撮影をさぼったり、クスリやアルコールでふらふらの状態で部屋で寝ていたりと、トラブルが耐えることはありませんでした。そんな彼女につかの間の幸福を与えてくれた人物、それが彼女にとって3人目の夫となる人物、劇作家のアーサー・ミラーでした。

<アーサー・ミラー>
 ジョー・ディマジオがマリリンを肉体的に満足させたと言われるのに対し、アーサー・ミラーは彼女が求めていた「優しい父性」の持ち主であり、「優れた知性」の持ち主でした。一時期彼女が付き合っていたと言われるエリア・カザンを通して彼女はアーサー・ミラーと出会いました。
 エリア・カザンと言えば、「エデンの東」(1954年)「波止場」(1954年)「欲望という名の電車」(1957年)などを演出した60年代を代表する映画監督です。彼は後にマッカーシーによる赤狩りが行われた際、共産党員だった友人の名前をもらし、映画界から総スカンを食うことになります。そんな仲間の中に、アーサー・ミラーもいたわけです。
 左翼的な視点をもつフリーのライターとして出発したミラーは、1949年発表の戯曲「セールスマンの死」でピューリッツァー賞を受賞し、一躍、時の人となり、アメリカを代表する劇作家となりました。マリリンより10歳年上のミラーは、優しさと知性ですぐに彼女を引きつけました。1956年に彼女はディマジオと正式に離婚し、二人は正式に結婚します。
 1957年、彼女は念願だった愛する人の子をお腹にやどしますが、結局流産してしまいます。そのショックもあり大量に睡眠薬を飲み昏睡状態に陥ります。こうした、自殺未遂はその後、何度も繰り返されることになります。

<名監督ビリー・ワイルダーと>
 1958年、彼女は「お熱いのがお好き」に出演、名監督ビリー・ワイルダーのもとで相変わらずトラブルを連発し、関係者のひんしゅくをかうことになります。しかし、その間にも彼女は再び流産しており、仕事のストレスと子供を産めない苦しさの板挟みで、アーサー・ミラーとの仲もしだいに悪くなって行きました。

<イブ・モンタンとの恋>
 1989年、彼女はフランスを代表する男優兼歌手のイブ・モンタンと映画「恋をしましょう」で共演します。夫との仲がすでに修復不能になっていたこともあり、マリリンは彼との恋におちます。当時、イブ・モンタンにはシモーヌ・シニョレというこれまたフランスを代表する女優である愛妻がいましたが、マリリンの魅力の虜になった彼は、撮影中彼女の元に入り浸ります。それでも、シモーヌ・シリョレの必死の努力もあり、映画の撮影後フランスに帰ったイブ・モンタンは不倫関係に終止符を打つことになりました。
 これから1963年の遺作となった作品「荒馬と女」まで、彼女はまったく映画に出ていません。それは度重なる撮影中のトラブルに怖れをなし、映画会社も、監督も、製作者も彼女を使いたがらなくなったからであり、彼女自身がアルコールとクスリ、そして精神科医無しで生活できない状態に追い込まれていたせいでもありました。
 そして、この時期のどこか、たぶん1960年頃に、彼女は最後の恋人と出会ったと思われます。

<マフィアと映画界>
 映画界や音楽界とマフィアの関係は、一般に知られている以上に深いものがありそうです。マリリンとマフィアのつながりも、間違いなく存在したようです。それがいつ頃、どうやってつながったのかは、明らかではありません。かつて彼女がコール・ガールの仕事をしていた頃かもしれませんが、最も可能性が高いのは、彼女の二番目の夫ジョー・ディマジオからつながりが出来たとする説のようです。もともとシチリア島からの移民だったディマジオの家族は、当然マフィアとのつながりをもっていました。もともと野球界とマフィアの関係は、昔から深いものがあり、大規模な八百長事件などもたいていはマフィアがらみだったと言われています。ディマジオの友人、フランク・シナトラもまたマフィアとの黒い噂がたえない歌手でした。コッポラのあの「ゴッド・ファーザー」で、彼をモデルとするイタリア系の歌手がある映画に出演するチャンスをつかむためにマフィアを使ってプロデューサーを脅迫する場面が描かれているのは有名な話です。(シナトラはこの方法で映画「地上より永遠に」の役を得たと言われています)
 そのうえ、このシナトラ自身一時はマリリンと恋仲にあったとも言われています。そして、このつながりから彼女はシナトラの子分とも言われた俳優のピーター・ローフォードへとつながって行きました。

<ピーター・ローフォードからケネディーへ>
 一流の役者とはけっして言えないB級俳優の彼には、ひとつだけ大きな取り柄がありました。それは、彼がかのアメリカ大統領ジョン・F・ケネディーの妹と結婚していたことです。シナトラがマフィアを使ってのし上がっていったのと同じように、彼はこの関係を用いて俳優として活躍することができたのですが、彼はしっかりとその恩返しをしていました。それは彼の役者としての知名度を活かして、女優たちとケネディー大統領の乱交パーティーを企画することでした。そして、そこには当時司法長官としてマフィアと対決姿勢をとっていた弟のロバートも参加していたのです。
 ケネディー家のセックス大好きぶりは、彼らの家系伝統のもののようで、彼の御乱交ぶりに比べたらクリントンの不倫疑惑などかわいいもののようです。
 権力をもつと、人間は誰でもそうなってしまうのでしょうか?アメリカの大統領を目指している家系のほとんどが、こうした感覚を常識として育っているといいます。名門大学に存在する「オメガ団」とか何とかいう学生組織は、こうしたことを一般常識として学ぶグループだとも言われます。日本では「スーパーフリークなんとか」という同じ様なことをした連中がいましたが、アメリカの政治権力を握っている人たちの多くはこういった組織に所属していたというのです。(実際、ブッシュもケリー大統領候補もそういった噂の多い同じグループに所属していたそうです!)
 アメリカの大統領は結局限られたエリート・コースを通ったものしか選ばれません。だからこそ、ケリーが選ばれていたとしても、たいして状況は変わらなかったのかもしれません。(マイケル・ムーアが以前推していた反権力、反大企業の闘士ラルフ・ネーダーぐらいの人物が選ばれない限り、アメリカが代わることはないでしょう。それよりフランク・ザッパに生きていて欲しかった!)

<ケネディー家追い落としの企て>
 マリリンはこうしてケネディー家と関わりをもつようになりました。初めは兄のジョンと付き合っていた彼女は、その後お下がりとして回されるように弟のロバートとの恋におちたと言われています。すでに結婚していたロバートは彼女に対し、「必ず離婚するから」と昼メロみたいなことを言い続けていたとか・・・。しかし、法務長官という立場にいる人間にそんなことができるはずがなく、マリリンはしだいにケネディー兄弟にとってじゃまな存在になってゆきます。それどころか、ケネディー兄弟の存在によって危険な立場に追い込まれつつあった何者かがマリリンとケネディー兄弟の関係を知り、その証拠をつかむことで二人の追い落としを企んだのです。
 彼らは盗聴のプロを雇い、マリリンの自宅やケネディー家のパーティーがたびたび行われていたピーター・ローフォードの別荘に盗聴器を仕掛け、マリリンとケネディーのデートとベッドインをテープに録音したとも言われています。未だにその録音テープの存在は明らかになっていませんが、中身を聞いたことがあるという証人もおり、どこかに存在していることは間違いなさそうです。
 いったい誰が盗聴作戦を始めたのか?有力なのは、ケネディー兄弟によって壊滅させられそうになっていたマフィアの大物サム・ジャンカーナです。そして、もうひとり全米トラック労働者組合チームスターズ・ユニオンのトップ、ジミー・ホッファもまた有力な人物と言われています。後にシルベスター・スタローン主演の「フィスト」として映画化もされているこの組合運動の英雄は、実はマフィアとつながりの深い危険人物でした。ロバート・ケネディーはその事実を把握しており、その実体を追求しようとしていました。(1988年になって、ついにチームスター・ユニオンには司法省のメスが入ることになります)
 その後、ケネディー兄弟がともに暗殺されていることからも明らかなように、彼らには他にも多くの敵がいました。それだけにマリリンとケネディー兄弟の関係は当時のアメリカ政府にとって、キューバの共産化に匹敵する危険な存在にありつつあったのです。
 それをさらに深刻化させていたのは、マリリンの精神的な問題でした。精神科医とアルコール、そして薬物なしでは生活できなくなっていたマリリンは、いつどこで誰にケネディー兄弟との恋物語を暴露してもおかしくない状況だったのです。そのため、ロバートはマリリンに「二度と会わない」と最後通告を言い渡しました。心の底ではロバートの愛を信じていたマリリンは、最後の糸をも切られてしまったのです。最終的に彼女は自殺したのか?それとも薬物の飲み過ぎによる事故死だったのか?もうそれはどちらでもたいして変わらないことかもしれません。

<謎の死に仕組まれた裏工作>
 しかし、彼女がベットに倒れ死んでいたのを発見されたというのは、でっちあげらしいということが後に明らかになりました。なんと彼女は倒れる寸前まで誰かと電話で話していて、危険な状態にあることを知った誰かが彼女のもとに駆けつけ救急車で搬送していたことも明らかになったのです。そして、その救急車にはロバート・ケネディーが乗っていたというのです。
 このことがもし公になれば当然大スキャンダル事件に発展することは明らかです。こうして、彼女の死は謎に包まれたまま事故死と言うことで処理されることになったのでした。
 あまりに悲惨なマリリンの死ですが、もし彼女が意識を失う前にロバートが間にあって彼女の手を握りしめていたとしたら・・・それまでの苦しみから解放された彼女は幸福感に包まれて天国に昇っていったかもしれません。

<永遠の謎に包まれた永遠の美女>
 20世紀を代表するセックス・シンボル、マリリン・モンローは、60年代以降女性の地位が大きく変わっりウーマンズ・リブが急激に広がったこともあり「過去の遺物」となった感もあります。現代の自立した女性たちにとって、身体を売り物にしてのし上がっていったマリリンの生き方は、恥ずべき者となりました。しかし、マリリン・モンローという女性は単にセックスだけが売り物で頭が空っぽな女性だけでなかったことは確かですが、キャリア指向の才媛でもありませんでした。でも、どんな男たちも彼女の魅力の虜になってしまったことは確かなようです。
 彼女の亡骸はLAのウエストウッド・メモリアル・パークに埋葬されました。そこには毎日バラの花が絶えることはありませんでした。その送り主は、彼女の元夫ジョー・ディマジオです。彼は葬儀も取り仕切り、葬儀場にケネディー家やフランク・シナトラの関係者らをいっさい入れさせなかったそうです。そして、ひとり彼女の棺の前で一晩中泣き続けたそうです。
 謎の女性マリリンの真実を僕には到底理解できませんが、男気のあるジョー・ディマジオの気持ちだけはよく理解できる気がします。

<締めのお言葉>
「男は妻に昼は日曜学校の先生、夜は一晩数百ドルの高級売春婦であることを望む」

映画「レニー・ブルース」より

「歴史は恋する者には冷たい」
映画「凱旋門」より

「よその女房と寝た男を殺していたら、この町の人口は半分になるね」
映画「逃亡地帯」より

「片思いでもいいの、二人分愛するから」
映画「荒野を歩け」より

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