「メイトワン1920/暗黒の決闘 Metwan」 1987年

- ジョン・セイルズ John Sayles -

<これぞ隠れた名作>
 たぶん、この映画は今までこのコーナーで取りあげている作品の中で最もマイナーなものでしょう。それでもビデオ化はされているので、見ることは可能かもしれません。こうした隠れた名作を紹介するのもまたこのサイトの役目だと思いますので、・・・。
 確かにストーリーだけだと、この映画ヒットしそうには思えません。
 1920年、アメリカ、ウエスト・ヴァージニア州の小さな炭坑の街、メイトワンで起きた炭坑労働者たちと経営者との労働争議。ストライキとスト破り、そして銃撃戦から始まった炭坑戦争。実際に起きた事件をもとにつくられた重いドラマです。
 映画会社を倒産に追い込んだ幻の超大作「天国の門」やスタインベック原作の「怒りのぶどう」、ウディ・ガスリーの伝記映画「わが心のふるさと」など、貧しい移動労働者の苦しみを描いた映画は数多くあります。この作品はそんな労働者の働く場を炭坑に移し替え、さらにそこに西部劇の娯楽性を持ち込むことで、他の映画とはひと味違う作品に仕上げられています。ラストも西部劇的な勧善懲悪と思わせておいて、さらに後日談で一捻りを加えるなど、アメリカ映画とは思えない複雑さをもっています。(もちろん、彼の作品はすべてインディーズ作品で、ハリウッド映画ではないのですが)当然、映画に登場する人物も複雑に入り組んだ関係にあり、よく見ていないと話が分からなくなりそうです。脚本家としても活躍しているだけに、練りに練った脚本です。
 僕自身この映画を観たのは、最初の公開当時1987年の一回きりだったのでストーリーも忘れかけていました。それが以前たまたま「インディーズ監督10人の肖像」- もうひとつのハリウッド・ドリーム-(ジェフ・アンドリュー著)という本の中にこの映画の監督ジョン・セイルズが紹介されていて、やっぱりこの映画が傑作だったことを再確認。ここで取りあげることにしたというわけです。ジョン・セイルズ監督の作品は日本未公開が多いので、今後是非日本で公開されるようになり多くの人に観てもらいたいと思います。

<ジョン・セイルズ>
 ジョン・セイルズ John Saylesは、1950年9月28日生まれ。ニューヨーク州のセネクタディー出身の彼は大学で心理学を学びますが、その後は数々の職業を点々とします。そして、働きながら作家を目指して小説を書き続け、1975年見事オーヘンリー賞を受賞します。
 その後も小説家として作品を発表し続けますが俳優として舞台にも立つようになります。なにせ、この人映画監督をするだけではもったいないほどの二枚目です。後に監督として有名になってからも、何本もの映画に俳優としてだけ参加しているほどです。例えば、ジョナサン・デミの「Something Wild」、琉球映画の「ウンタマギルー」スパイク・リーの「マルコムX」など(もちろん友情出演的なものなのでしょうが・・・)
 さらに彼は後に自らの手で映画化することになる大リーグで実際にあった八百長事件を題材にした作品「エイトメン・アウト」の脚本を書き、それを映画会社に売り込みました。この脚本の映画化は、その後10年の歳月を要することになるのですが、B級映画界の伝説的プロデューサー、ロジャー・コーマンが彼を脚本家として使ってくれるようになりました。

<脚本家ジョン・セイルズ>
 彼は脚本家として次々に作品を発表して行きます。「ピラニア」(1978年ジョー・ダンテ監督)、「赤いドレスの女」(1979年ルイス・ティーグ監督)、「宇宙の7人」(1980年ジミー・T・ムラカミ)、「ハウリング」(1980年ジョー・ダンテ監督)、「アリゲーター」(1980年ルイス・ティーグ監督)など、どれも納得の掘り出し物作品ばかりです。
 この頃の経験は、後にシリアスな映画を彼が自ら作り出す際、観客を引きつける魅力を付け加えることに多いに活かされることになります。その後も彼は、かつてフランシス・F・コッポラがそうだったように脚本家としてお金を稼ぐことで次回作のための資金を作るようになります。
 すでに有名になってからも、「クイック&デッド The Quick and the Dead」(1995年)、「アポロ13 Apollo 13」(1995年)、「ミミック Mimic」(1997年)などの脚本にも参加しています。(ただし、クレジットはされていないようです)

<監督デビュー>
 1980年、彼は脚本を書いてためた資金を元手にデビュー作「セコーカス・セブン Return of the Secaucus Seven」を撮ります。(この映画はローレンス・キャスダンの代表作のひとつ「再会の時」(1983年)のもとになったのではないか?とも言われています)60年代後半に青春時代を過ごした主人公たちが、その10年後に過去を振り返るという集団ドラマは地味ながら高い評価を受け、いきなりLA批評家協会の脚本賞を受賞します。
 その後もレズビアンの主人公が社会的な差別に苦しむ「リアンナ Lianna」(1983年)、住む社会が異なる二人の結ばれない愛を描いたほろ苦い青春ドラマ「ベイビー・イッツ・ユー Baby , It's You」(1983年)そして、彼の名を世界的に広めることになった究極の低予算SF映画「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット The Brother From Another Planet」(1984年)など、異なるタイプの作品を次々と発表します。

<セイルズ映画の特徴>
 こうした、彼の作品群には共通する特徴もあります。それはどの作品も社会的な問題を取りあげていますが、観客が分かりやすいようにあえて既存の映画のスタイルを用いているという点です。
 例えば、「ベイビー・イッツ・ユー」は、宗教も民族も育った環境も将来の目標もまったく異なる二人の愛と別れを「ロミオとジュリエット」の社会派版として描いています。(ついでながら、この映画は、僕の大好きなロザンナ・アークェットの出世作でもあります)
 「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」は、現代アメリカ社会の抱える人種差別問題を当時「ET」などのヒットで一大ブームになっていたSF映画のスタイルを借りて描き出した作品です。
 そして、「メイトワン1920」は、労働者の地位向上を訴える労働運動の原点とそれを抑え込もうとする経営側の暴力を西部劇調という分かりやすいスタイルを用いて作品化したものです。一歩間違うと説教臭くなってしまう題材であると同時に分かりにくい混み入ったストーリーのこの物語を西部劇に置き換えたのは大正解でした。そのおかげで観客は、誰を主人公と見ればよいか、誰を悪役と見ればよいかが明らかになるからです。ただし、この作品は途中で主役が交換してしまうという意外な展開もありますから要注意です。さすがは一流脚本家です。

<「メイトワン1920」のストーリー展開>
 特に「メイトワン1920」は、彼の代表作と言われるだけあって実にストーリーが複雑です。先ずは、それぞれが異なる役目を担ったちょっと多めの登場人物をあげてみると、・・・。
(1)物語の中心となる炭坑で働く労働者たち
(2)炭坑の経営者
(3)炭坑の町に住む人々(宿の女主人、教会の牧師など)
(4)炭坑に来たイタリア人移民(経営者が賃金を安くするために呼んだ)
(5)炭坑に来た黒人労働者(経営者が賃金を安くするために呼んだ)
(6)ストライキを組織的に行うためにきた社会活動家
(7)スト破りをするために経営者が呼んだ暴力団
(8)どちらにもつかない山の中に住む猟師たち
(9)すべてを見つめる炭坑労働者の子供
 大きく分けてもこれだけの人間集団があり、その中のいろいろなキャラクターがそれぞれの複雑な関わりをもちながらストーリーを形作っています。

<セイルズ映画の役者たち>
 さらにいうと、彼の作品の場合、ある程度出演する俳優が固定されています。個性的で優れた俳優たちをそれぞれ主要な役どころに配置することで、ストーリーの展開を分かりやすくさせているようにも思います。
 ただし、主人公となることが多いクリス・クーパーはけっしてヒーロー・タイプの俳優ではありません。(アカデミー作品賞を受賞したサム・メンデス監督の「アメリカン・ビューティー」では主人公の隣りに住む異常な父親役を演じていました)どちらかというとクセのある悪役タイプの顔つきですが、それがかえってドラマの意外性を生んでいるとも言えます。なんと、彼はこの映画がデビュー作でした。
 「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」で一躍有名になったジョー・モートンもセイルズによって世に出た俳優で、その後彼は「ターミネーター2」や「ブルース・ブラザース2000」などでも活躍することになります。それにダスティン・ホフマンをちょっと格好良くした感じの渋い俳優デヴィッド・ストラザーンもまた僕は大好きでが、監督自身の俳優としての演技もまた見物です。だいたいが映画の中では憎まれ役として登場、いけメンを活かさない役どころがかえって目立ちます。
 今のところジョン・セイルズの名は、アカデミー賞にも、ヒット映画ランキングにも登場しない位置にいます。でも、いつか彼の名が大きな舞台で呼ばれることを願います。
 もしかすると彼は、好きな映画、撮りたい映画を2年に一本ぐらいのペースで撮れれば、それで良いと考えているのかもしれません。でも、それではもったいなさ過ぎる。
 ジョン・セイルズ監督の今後の活躍を祈りたいと思います。

「メイトワン1920 暗黒の決闘 Metewan」 1987年公開
(監)(脚)(出)ジョン・セイルズ John Sayles
(製)ペギー・ラジェスキー Peggy Rajski、マギー・レンジー Maggie Renzi
(製指)アミル・ジャコブ・マリン Amir Jacob Malin、マーク・バルサム Mark Balsam
(撮)ハスケル・ウェクスラー Haskell Wexler
(音)メイソン・ダーリング Mason Daring
(出)クリス・クーパー Chris Cooper、ウィル・オールドハム Will Oldham
   ジェイス・アレクサンダー Jace Alekander、ケン・ジェンキンス Ken Jenkins
   ボブ・ガントン Bob Gunton、メアリー・マクドネル Mary McDonnel
   ジェームズ・アール・ジョーンズ James Earl Jones
   デヴィッド・ストラザーン David Strathairn

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