ようこそ、1920年代芸術の都パリへ


「ミッドナイト・イン・パリ Midnight In Paris」

- ウディ・アレンと憧れのアーティストたち -
<タイムマシンへようこそ!>
 あなたがもしタイムマシンを手に入れたとしたら、どの時代のどの場所へ行ってみたいですか?
 1953年5月15日にカナダ、トロントのマッセイ・ホールに行けば、ジャズの巨人チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、バド・パウエル、マックス・ローチ、チャーリー・ミンガスを同時に見ることができるはずです。(ライブ・アルバム「ジャズ・アット・マッセイ・ホール」)
 1967年のニューヨークの「ザ・ファクトリー」に行けば、アンディー・ウォーホルヴェルベット・アンダーグラウンドのメンバーにも会えるかもしれません。
 1969年8月15日のウッドストックに行けば、リッチー・ヘブンスの「フリーダム」を40万人の観衆と共に歌うことができるはずです。
 1974年ザイールの首都キンシャサでモハメド・アリとジョージ・フォアマンによる世界ヘビー級タイトルマッチを見るのもいいですね。
 1975年のロンドンに行けば、ブティック「セックス」をオープンさせたばかりのマルコム・マクラーレンとビビアン・ウエストウッドに会えるはず。
 1979年の東京、中野サンプラザでボブ・マーリーの来日コンサートを見てはいかがでしょう?その会場なら僕もいるはずです。
 
 誰もがそんな一度でいいから行ってみたい夢の場所、夢の時代があるのではないでしょうか?
 ありえないはずの夢ですが、この映画でウディ・アレンはそれを見事に実現してしまいました。
 しゃべり方まで昔のウディに似ているオーウェン・ウィルソンを自らの分身として、彼を映画の中で1920年ごろのパリへとタイムスリップさせたのです。

<あらすじ>
 ハリウッド映画の脚本を書きながら、小説家になる夢を捨てきれない主人公ギルは、婚約者イネズと彼女の両親と共にパリに来ていました。かつてパリに暮らした経験のある彼は、もう一度パリに住み、作家として挑戦してみたいと思っていました。が、その気持ちをイネズに話せずにいました。
 典型的なアメリカ人気質のイネズの両親と話が合わず、一人真夜中のパリの街を散歩していた彼は、珍しいクラシックカーに乗る人物に声をかけられパーティー会場に案内されます。すると、その店ではコール・ポーターがピアノの弾き語りをしていて、彼の歌に合わせてスコット・フィッツジェラルドとゼルダ夫妻そしてヘミングウェイらが乾杯をしていました。そこはギルが愛するアーティストたちが集まり、その才能を競い合っていた1920年代のパリだったのです。彼は自分が書いている途中の小説を、ガートルード・スタインに読んでもらい、彼女の意見を聞きながら書き直し始めます。
 こうして毎夜パリの街に消えて行くギルの行動を不審に思ったイネズの父はギルの行動を監視させるため私立探偵を雇います。

 ストーリーの流れが見えてくると、僕の目はもう次々に現れる伝説のアーティストたちを捜すのに必死になってしまい、物語はどうでもよくなってしまったほどです。もちろん、この映画本筋だって面白いのです。だてにアカデミー脚本賞を獲ってはいません。
 そんなわけで、この映画に登場する有名人を一覧表にしてみました。右には演じている俳優の名前を書いています。
 それと本人こそ出てこないものの、映画の中に名前が登場しているアーティストもいます。聴き取れた範囲で、それも記しておきます。

<映画の舞台>
 ところで、ギルが戻った過去のパリは何年ごろなのか?ちょっと推理してみました。
 映画の中にライン・ダンスの場面がありますが、ベルリンで「テイラー・ガールズ」のラインダンスが話題になったのは1924年のことです。したがって、パリに来るのはその後のはず。
 映画の中にジョセフィン・ベイカーが出てきますが、彼女のレビューがパリで話題になったのは、1925年9月のことでした。
 ということで、この映画の舞台になったのは、1925年か1926年あたりなのでしょう。

<シニカルだからこそのファンタジー>
 ウディ・アレンほどシニカルに世界を見ている映画作家はいないかもしれません。たとえラブ・ストーリーを映画化しても、彼は必ず主人公の横にその行動を皮肉るもう一人の自分を登場させます。もちろん、その人物がこの映画のポールのような知識をひけらかす似非インテリとなれば、その攻撃は何をかいわんやです。彼の皮肉は観客にも向けられますが、それでも多くの映画ファンは彼のシニカル過ぎる映画が大好きです。それは、彼の映画がアート好きの大人たちにとって、まるでディズニーランドのように観客を別世界に連れて行ってくれるからです。
 そのために彼が用いているのが、ファンタジー映画的な手法の数々です。
「ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう」(1972年)は、パロディー・ファンタジーSEX教育映画。
「スリーパー」(1973年)は、アンチ・ユートピアSFのパロディ。
「ウディ・アレンの愛と死」(1975年)は、ロシア文学のパロディ。
「アニー・ホール」(1977年)では、自分の心の声が字幕になったり、観客に語りかけたり・・・。
「スター・ダスト・メモリー」(1980)は、フェリーニの「81/2」的時間交差ファンタジー。
「カメレオンマン」(1983年)は、環境に融合する特殊能力を持つ男の伝記ファンタジー。
「カイロの紫のバラ」(1985年)は、映画のスクリーンからスターが抜け出してくるファンタジー。
「ニュー・ヨーク・ストーリー」(1989年)は、巨大な母親にほんろうされるウディのファンタジー。
「世界中がアイ・ラブ・ユー」(1996年)は、ウディ初のミュージカル。
 こうして並べてみると、ウディの映画はリアリズム映画の方が少ないかもしれません。

<過去の魅力にひかれて>
 この映画の中で、ギルが恋した謎の美女アドリアナは、ギルがこのままこの時代のパリに住みたいと告白すると、私はこの時代よりも「ベル・エポック」のパリの方がいいと言い出します。1900年開催のパリ万国博覧会を頂点とする20世紀初頭のパリもまた芸術文化の黄金時代でした。
 なるほど、主人公と同様にひねくれ者のアーティストたちは、みな自分が生きている時代に不満を持っていて、理想の時代は過去にあり、未来にも期待を持てずにいるようです。アメリカ生まれのウディがニューヨークの街を愛しているのは、そこにはアメリカの過去が残っているからでしょう。逆に彼が西海岸のカリフォルニアが嫌いなのも、そこが歴史の浅い未来の街だからだと思います。そうなると、ヨーロッパ、そしてパリの街は、歴史そのものですから、ユートピアのように思えるのも当然です。
 21世紀の今、未来へ行ってみたいという人よりも、過去に戻りたいと思う人の方が多くなりつつあるかもしれません。最近の世界情勢を見れば、未来よりも過去の方が魅力的に思えるのもまた当然な気がします。
 もし、タイムマシンが発明され、自由にそれが使えるようになったとしたら、みんなが過去に戻り、地球上に誰もいなくなってしまうかもしれません。それはそれで、地球のためにはいいのかもしれませんが・・・・寂しいですね。
映画中に登場する実在のアーティストたち  演じている俳優  
コール・ポーター Cole Porter  Yves Heck  1920年代だけでなく初期アメリカン・ポップスを代表するライター&シンガー 
スコット・フィッツジェラルド Scott Fitzgerald Tom Hiddleston 20世紀アメリカ文学を代表するジャズ・エイジの小説家
ゼルダ・フィッツジェラルド Zilda Fitzgerald Alison Pill スコット・フィッツジェラルドが愛した運命の女性
ジョセフィン・ベイカー Josephin Baker  Sonia Rolland  フランスで一世を風靡した女性黒人ダンサー&シンガー 
アーネスト・ヘミングウェイ Ernest Hemingway Corey Stoll  20世紀アメリカ文学を代表するハードボイルド作家
ガートルード・スタイン Gertrude Stein キャシー・ベイツ Kathy Bates  パリに住み多くの小説家を育てたアメリカ人女性作家
アリス・B・トクラス Alice B.Toklas  Therese Bourou-Rubinsztein  ガートルード・スタインのパートナー
パブロ・ピカソ Pablo Picasso Marcia Di Fonzo Bo  スペインが生んだ20世紀最大の芸術家 
サルバドール・ダリ Salvador Dali エイドリアン・ブロディ Adrien Brody  シュールレアリスムを代表する芸術家 
マン・レイ Man Ray Tom Cordier  アメリカからパリに渡ったダダ、シュルレアリスムを代表する写真家、画家
ルイス・ブニュエル Luis Bunuel Adrien De Van  シュルレアリスムの芸術家から20世紀映画界を代表する監督へ 
T・S・エリオット T.S.Eliot David Lowe 「荒地」で知られる20世紀イギリス文学を代表する詩人 
アンリ・マティス Henri Matisse Yves-Antoine Spoto  フランスを代表する画家、フォービズムの中心人物
アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック Henri de Toulouse-Lautrec Vincent Menjou Cortes ムーラン・ルージュのポスターなどでも知られるフランスを代表する画家
ポール・ゴーギャン Paul Gauguin   Oliver Rabourdin  ゴッホと暮らした後、タヒチに移住して作品を描き続けたフランスの画家 
エドガー・ドガ Edgar Degas Francois Rostain  バレリーナの絵などで知られるフランス印象派を代表する画家 
ホアン・ベルモンテ Juan Belmonte Daniel Lundh  スペインの闘牛界を代表するスター闘牛士
ジューナ・バーンズ Djuna Barnes Emmanelle Uzan アメリカからパリに渡りボヘミアンな生活を送った女性著作家
以下は名前のみの登場    
ココ・シャネル   ファッションの歴史を変えた女性デザイナー 
アメデオ・モディリアーニ    イタリア出身の画家、彫刻家
ホアン・ミロ   シュルレアリスムの作家としてデビューしたスペインのアーティスト
クロード・モネ   フランスが生んだ印象派の画家、元祖抽象絵画とも言われるアーティスト 
ウィリアム・ターナー    19世紀イギリスが生んだロマン派の画家、近代絵画の最初の画家とも言われる
ジャン・コクトー   フランスが生んだ作家、詩人、演出家
ジョルジュ・ブラック   ピカソらとキュビズムの中心となったフランス人画家
ウィリアム・フォークナー   ヘミングウェイと並ぶアメリカを代表する作家 
使用されている曲  演奏者   
「Si Tu Uois Ma Mere」  シドニー・ベシェ Sidney Bechet 
「Je Suis Seul Le Soir」 Swing 41   
「Re cado」 Original Paris Swing   
「Let's Do It (Let's Fall in Love)」  コール・ポーター Cole Porter
「You've Get That Thing」  コール・ポーター Cole Porter ← 
「La Conga Blicoti」 ジョセフィン・ベイカー Josephine Baker   
「You Do Something to Me」  コール・ポーター Cole Porter 
「I Love Penny Sue」 Daniel May   
「Charleston」  Enoch Light & The Charleston City All Stars  
「Ain't She Sweet」 Enoch Light & The Charleston City All Stars  
「Parlez-Moi d'Amour」 Jean Lenoir   
「Barcarolle」「ホフマン物語」より  ジャック・オッフェンバック 
「Can-Can」「ホフマン物語」より    ジャック・オッフェンバック 
「Ballad De Paris」  Francois Parisi  
「Le Parcde Plaisir」 Francois Parisi  

「ミッドナイト・イン・パリ Midnight In Paris」 2011年
(監)(脚)ウディ・アレン Woody Allen(
アカデミー脚本賞受賞
(撮)ダリウス・コンジ
(衣)ソニア・グランデ
(プロ・デザイン)アン・シーベル
(編)アリサ・レプセルター
(出)オーウェン・ウィルソン、カーラ・ブルーニ、レイチェル・マクアダムス、マイケル・シーン、マリオン・コティヤール、ニナ・アリアンダ、カート・フラー

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