差別される人々に生きる希望を!

映画「ミルク Milk」

- ハーヴェイ・ミルク Harvey Milk、
ダスティン・ランス・ブラック Dustin Lance Black -

<「LGBT映画」の名作>
 今まで見逃してきたLGBT映画の名作を見ました。アメリカで初めて同性愛者であることをカミングアウトして、地方議員に当選したハーヴェイ・ミルクの伝記映画です。
 さすがはアカデミー賞で主演男優賞(ショーン・ペン)と脚本賞を受賞しただけの作品です。1970年代アメリカの歴史映画として、同性愛者たち人間ドラマとして、それ以上に差別の対象になっている様々な社会的な弱者全体への応援歌として、素晴らしい作品になっています。
「弱者に希望を!」というこの映画のテーマが隅々に込められた名作です。
 映画は、主人公のハーヴェイ・ミルクが部屋で一人、自らの人生を回顧し、それを口述録音し始めるところから始まります。ここでは、その前の彼の生い立ちから、ご紹介して行きます。

<ハーヴェイ・ミルク>
 ハーヴェイ・ミルク Harvey Milk は、1930年5月22日ニューヨーク州のウッドミアに生まれたユダヤ系の東部人です。ニューヨーク州立大学を卒業後、海軍に入隊しますが、そこで同性愛者であるがゆえの厳しい差別を受けたようです。除隊後も、同性愛者であり、ユダヤ人でもある彼は地元では就職できず、大都会ニューヨークに出ます。
 そんな彼が活躍の場として選んだのは、多くのユダヤ人、多くの同性愛者が活躍するショービジネスの世界でした。持ち前の明るさとその仕事ぶりから、ミュージカルのプロデューサーとなった彼は、当時大ヒットしたミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパー・スター」などの作品で活躍した後、より自由な活躍の場を求めて、サンフランシスコへと旅立ちます。
 彼が旅だった1972年、ヒッピー・ムーブメントのピークは過ぎていたとはいえ、自由を求める若者たちにとって、サンフランシスコは聖地ともいえる街であり、ゲイの若者にとっては逃げ込むことができる救いの場でもあったようです。特に、「ゲイ・ヴィレッジ」として有名だった市内のカストロ地区はその代表的な場所で、彼はそこにカメラ店「カストロ・カメラ」をオープンさせます。

<カストロ通りの市長>
 「カストロ通りの市長」と呼ばれるほど、地域の人々から信頼される存在となった彼は、ゲイの人々だけでなく多くの人からの相談を受けるようになります。地元だけではなく、アメリカ各地の同性愛の若者たちから連絡をもらうこともあり、自分たちの街がそうした差別に苦しむ若者たちにとって救いの街であり「希望の街」であることに気づきます。
 ならば、この街をスタートにしてサンフランシスコ、西海岸、そしてアメリカ全体を変えることも可能ではないか?
 そう考え始めた彼は、その第一歩として自分がサンフランシスコ市を変えようと市会議員への立候補を決意します。この映画は、そんな彼の政治家としての活動とパートナーや仲間たちとの暮らしを70年代サンフランシスコ独特の雰囲気を背景に描いてゆきます。

<ダスティン・ランス・ブラック>
 ハーヴェイ・ミルクの人生は、この映画が製作された20年以上前にドキュメンタリー映画「ハーヴェイ・ミルク」によって紹介されています。アカデミー最優秀長編ドキュメンタリー賞も獲得したその作品は公開時に大きな話題になり、多くの人々がこの作品に救われ、勇気づけられることになりました。そんな観客たちの中に、この映画の脚本家ダスティン・ランス・ブラック Dustin Lance Black もいました。

 1974年6月10日カリフォルニア州サクラメント生まれの彼は、厳格なモルモン教の家庭に生まれました。しかし、少年時代に自分が同性愛者であるとわかり、それから誰にもそのことを打ち明けられない苦しい日々を送りました。この映画の中でミルクに電話をかけてきた孤独なゲイの少年は、もしかすると彼のことだったのかもしれません。(「クローゼット」に逃げ込むしうかない少年の一人だった)その後、彼もまたミルクのように居場所を求めて大都会ロサンゼルスに移住することになります。
 大学生時代にドキュメンタリー映画「ハーヴェイ・ミルク」を見て感銘を受けた彼は、自らが同性愛者であることをカミングアウト。ロサンゼルスの街で、映画やテレビの制作現場で働き出し、その後、脚本家として才能を発揮するようになります。
 ところが、彼が活躍を始めた1990年代は、ミルクの生きた70年代に比べ、けっして恵まれていたわけではありませんでした。その時代、世界中でエイズが猛威を振るい始めていたからです。原因も、その対処法もないままの状態で多くの同性愛者がエイズの犠牲になっていった中、ゲイ・コミュニティーは崩壊の危機に瀕していたのです。彼らの死は、同性愛者に対する神からの罰なのか?そんな思いを抱きかねない状況下で希望を失いそうになっていた人々になんとか希望を与えたい!そんな考えから、彼は自分に希望を与えてくれた偉大な人物についての歴史を調べ、映画化することを思いつきました。
 こうして出来上がった脚本を読み、その映画化をすぐに決意した人物こそ、映画化の巨匠であり、ブラックと同じく同性愛者でもあるガス・ヴァン・サントだったわけです。

<受け継がれる希望>
 こうしてハーヴェイ・ミルクが与えた希望は、その後も受け継がれ、映画「ミルク」を生み出し、さらに多くの人々に影響を与えることになったのでした。この映画は、そんなミルクが残した最後のメッセージで終わります。そして、この映画が言いたかったことはすべてそのメッセージに収まられていたことがわかります。
 この映画は、そのメッセージをより心に響かせるための序曲に過ぎなかったわけです。

 先週、ペンシルヴェニア州アルトゥーナから電話があった。とても若い声だった。
 その人は、”ありがとう”と言った。
 ゲイを公職に選ぶべきだ。そうすれば子供たちや- 何千、何万もの彼のような若者が - よりよい人生への希望が持てるよりよい明日への希望を持てる。
 どうかお願いだ。
 もし私が暗殺されたら5人、10人、100人・・・・・1000人の人に立ち上がってもらいたい。
 私の脳を貫く銃弾によって、すべてのクローゼットのドアをこわしてくれ。
 どうかみんなこのムーブメントを続けてくれ。
 これは個人の利益のためなどではない誰かのエゴのためでも、権力のためでもない。我々みんなのためなのだ。
 ゲイだけではなくて黒人やアジア人そして高齢者や障害者、われわれみんなのためだ。
 希望がなければ”私たち”はあきらめるよ。
 確かに希望だけでは生きていけない。
 だが人生は希望がなければ生きる価値はない。
 だから君もそして君もそして君も
 希望を与えねばならない。みんなに希望を


<使用されている曲>
曲名  作曲者  演奏者   
Prelude No.7 In E Flat
平均律プレリュード第七番
ヨハン・セバスチャン・バッハ
Johan Sebastian Bach 
The Swingle Singers  
Kalinka(Little Snowfall)   Vienna Choir Boys   
Ah,Quegli Occhi ! Quale Occhio Al Mondo
from "Tosca" 
ジャコモ・プッチーニ
Giacomo Puccini
マリア・カラス&ジュゼッペ・ディ・ステファノ
Maria Callas,Giuseppe Di Stefano
スカラ座劇場オーケストラ
 
クイーン・ビッチ Queen Bitch  デヴィッド・ボウィ David Bowie  デヴィッド・ボウィ David Bowie 同性愛を感じさせるアルバム・ジャケットも有名
性を越えたロック・アーィストの先駆者 
愛の航海 ロック・ザ・ボート
Rock The Boat 
Wally Holmes ヒューズ・コーポレイション The Hues Corporation 1974年に大ヒットしたディスコ・ブームを代表するヒット 
Talkin' My Time  Robert Hackl,Ken Strange ヴィクトリア・ハミルトン Victoria Hamilton   
E Lucevan Le Stelle
from "Tosca"
ジャコモ・プッチーニ
Giacomo Puccini
マリア・カラス&ジュゼッペ・ディ・ステファノ
Maria Callas,Giuseppe Di Stefano
スカラ座劇場オーケストラ 
 
Hello Hello  Peter Knaemer,Terry McNeil  The Sopwich Camel   
Mia Gelosa ! from "Tosca"  ジャコモ・プッチーニ
Giacomo Puccini 
マリア・カラス&ジュゼッペ・ディ・ステファノ
Maria Callas,Giuseppe Di Stefano
スカラ座劇場オーケストラ 
 
Everyday People  Sylvester Stewart  スライ&ザ・ファミリー・ストーン Sly & The Family Stone  サンフランシスコを代表する70年代を代表する人気バンド
人種、性別が混ざり合った異色のファンク・バンドでもあった
Love on C Minor  Alec Costandinos,Cerrone セローン Cerrone  1976年フレンチ・ディスコ(ユーロ・ディスコ)のヒット曲 
Wake Up,San Francisco  Ken Stange,Robert Hackl  Sourcerer  
Till Victory  Patti Smith,Lenny Kaye パティ・スミス・グループ Patti Smith Group   
The Player  Alan Felder,Norman Harris  ファースト・チョイス First Choice  1974年のディスコ・ヒット
ファースト・チョイスはサルソウル・レーベルの女性トリオ
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
Eine Kleine Nachtmusik K525 
W.アマデウス・モーツァルト
Wolfgang Amadeus Mozart 
The Swingle Sisters  モーツァルトの代表曲 
You Make Me Feel(Mighty Real)  Sylvester James
Judy Wirrick 
シルヴェスター Sylvester  1978年のディスコ・ヒット
シルヴェスターはこの時代ドラッグ・クイーンとして活躍
Over The Rainbow 
映画「オズの魔法使」より
E.Y.Harburg,Harold Arlen  ジュディ・ガーランド Judy Garland  なぜか「オズの魔法使」はLGBT映画の代表作です! 
The Washington Post March  John Phillip Sousa     
Presto,Su!Mario!Mario!  ジャコモ・プッチーニ
Giacomo Puccini  
The Slovak Radio Sympony Orchestra   
Walk Through
"Resonant Landscape"No.2 
フランシズ・ホワイト
Frances White
フランシズ・ホワイト
Frances White
1960年生まれの現代音楽の作曲家の作品


「ミルク Milk」 2008年
(監)ガス・ヴァン・サント
(製)ダン・ジンクス、ブルース・コーエン
(脚)(製総)ダスティン・ランス・ブラック(アカデミー脚本賞
(撮)ハリス・サヴィデス
(PD)ビル・グルーム
(衣)ダニー・グリッカー
(編)エリオット・グレアム
(音)ダニー・エルフマン
(出)ショーン・ペン(アカデミー主演男優賞)、ジェームズ・フランコ、ジョシュ・ブローリン、エミール・ハーシュ、アリソン・ビル


<参考>
ドキュメンタリー映画「ハーヴェイ・ミルク」(1984年)
(監)(製)ロバート・エプスタイン、リチャード・シュミーセン(アカデミー長編ドキュメンタリー賞
(製)デヴィッド・ロクストン
(撮)フランシス・リード
(音)マーク・アイシャム
(出)ハーヴェイ・ミルク  

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