実録・最後の西部英雄伝説

「ミネソタ大強盗団 The Great Minnesota Raid 」

- フィリップ・カウフマン Philip Kaufman -

<ニューシネマ西部劇の傑作>
 この作品は、後に「ライト・スタッフ」や「存在の耐えられない軽さ」で世界的巨匠の仲間入りを果たすことになるフィリップ・カウフマンの出世作です。そして、この作品は当時数多く製作されたニューシネマ西部劇の中でも傑作と呼べる作品のひとつです。
 1971年公開の作品には、「さすらいのカウボーイ」(ピーター・フォンダの監督デビュー作)、「11人のカウボーイ」(「ローズ」で有名なマーク・ライデル監督の3作目)、「ギャンブラー」(ロバート・アルトマンの貴重な西部劇)あります。
 1972年公開の作品には、本作以外にも「男の出発」(「さらば愛しき女よ」で有名なディック・リチャーズ監督のデビュー作)、「大いなる勇者」(巨匠シドニー・ポラックの西部劇)、「夕陽の群盗」(「クレイマー、クレイマー」で有名なロバート・ベントン監督のデビュー作)、「荒野のストレンジャー」(クリント・イーストウッド監督初の西部劇)
 この頃に西部劇を撮っていた監督たちの多くは、それまでのハリウッド映画の枠組みの外から現れた独特のスタイルをもつ若者たちでしたが、フィリップ・カウフマンもまたそんな新しい監督たちの一人でした。

<個性的な作品群>
 彼独特のスタイルは、比較的少ない彼の作品群を並べるとわかりやすいかもしれません。
 1976年、彼が脚本を書いた「アウトロー」は、クリント・イーストウッドの監督作品で、この映画以外唯一の西部劇です。
 1978年、「SF/ボディ・スナッチャー」は、ドン・シーゲル監督による名作SF映画のリメイクです。
 1979年、「ワンダラーズ」は、1973年に大ヒットした映画「アメリカン・グラフィッティ」のNYブロンクスに住むイタリア系移民版の青春音楽映画です。
 1981年、彼が原案を担当したのは、あの大ヒット冒険アクション映画「レイダース/失われたアーク」でした。
 1983年、「ライト・スタッフ」は、アメリカのNASAによる初の有人宇宙飛行成功までの苦闘を描いたドキュメンタリー・タッチの実録もの。(原作はトム・ウルフ)
 1988年、「存在の耐えられない軽さ」は、チェコスロバキアの戦後史を背景に男と女二人の三角関係を描いた歴史文芸大作。
 「西部劇」、「SF」、「青春音楽もの」、「冒険アクション」、「実録宇宙もの」、、「歴史文芸もの」・・・と実に多彩です。しかし、その多彩さの理由は、彼の半生を知ると納得できる気がします。

<映画界入りまでの半生>
 フィリップ・カウフマンは、1936年10月23日シカゴに生まれています。シカゴ大学を卒業後、彼は法律学校に通いますが、その道には進まず、再びシカゴ大学に戻ると大学院で歴史学を学び、博士号を獲得しています。結婚後は、サンフランシスコに移り住みますが、作家になることを志す彼は就職せず、ヨーロッパ放浪の旅に出ます。それも妻と子を連れて2年間に及ぶ長い旅でした。時代は、1950年代半ば、ビート族の時代であり、アーティスト指向の人々の多くがヨーロッパ文化に憧れる時代でもありました。旅の途中、彼は多く映画を見て歩き、ベルナルド・ベルトルッチやピエロ・パオロ・パゾリーニらに憧れるようになります。こうして、彼は作家志望から映画監督志望への代わり、自主制作で映画を撮り始めます。すると、彼が共同監督で製作した16ミリのコメディー映画「Goldstein」(1963年)が、なんとカンヌ映画祭で批評家新人賞を受賞。一躍彼の名は世界に知られることになります。
 しかし、それからすぐに彼は映画界で成功したわけではなく、9年後のこの作品でやっとハリウッドで認められることになったといえます。そして、「ライト・スタッフ」の成功により、彼はある程度自分の好きな作品を撮れるようになったと考えられます。明らかに、ここからの作品は彼が好きな「文学」に関わる作品中心になって行きます。
 「存在の耐えられない軽さ」(1988年)は、ノーベル文学賞受賞者でもあるチェコの巨匠ミラン・クンデラの代表作の映画化です。
 「ヘンリー&ジェーン/私が愛した男と女」(1990年)は、スキャンダラスな性愛小説で知られる作家アナイス・ニンと「北回帰線」などで知られるアメリカを代表する作家ヘンリー・ミラーと彼の妻ジェーンとの三角関係を描いた作品。(アナイス・ニンによる小説「ヘンリー&ジェーン」が原作)
 「クイルズ」(2000年)は、サディズムの元祖となった小説家マルキ・ド・サドと当時の支配者ナポレオンとの対立を描いた実録作品。(原作はダグ・ライトの戯曲)
 「私が愛したヘミングウェイ」(2012年)は、もちろんアメリカを代表するノーベル文学賞作家アーネスト・ヘミングウェイを題材にした伝記作品。(テレビムービー)
 作家志望だった彼が自らが愛した作家たちの人生をテーマに、歴史学の学位を生かして細部にこだわって映像化する。これが、カウフマン作品の特徴といえます。そして、こうした歴史的事実へのこだわりは、「ミネソタ大強盗団」にも表れていました。

<歴史へのこだわり>
 この映画は西部劇ではあっても歴史的事実に基づいて作られています。
 ミネソタ大強盗団は、実在の人物ジェシー・ジェームス(ロバート・デュバル)とコール・ヤンガー(クリフ・ロバートソン)を中心に組織され、その原点は南北戦争における南軍ゲリラ部隊にありました。そこで戦闘や略奪をする中で、彼らは強盗団を形成していったようです。(軍隊も強盗もやることは変わらなかったのでしょう)
 ジェシーとフランクのジェームス兄弟とコール、ジム・ボブのヤンガー兄弟を中心とする強盗団は、1876年9月7日にミネソタ州の銀行を襲います。ところが作戦は失敗し、ジェームス兄弟は逃亡に成功するものの、ヤンガー兄弟は逮捕され、終身刑を言い渡されます。この時、彼らが死刑にならなかったのは、大衆の間でカリスマ的人気を得ていたためだったのかもしれません。映画のラストではそんな彼らのカリスマ性が描かれています。
 コールはその後1907年に57歳で保釈され、1903年には自叙伝を発表し、再び話題の人となりました。そして、生きる伝説としてバッファロー・ビルが主催する有名な西部劇ショー「Wild West Show」にゲスト出演したといいます。まさに「レジェンド」です。
 映画に使われたセット(温泉や街並み)やパイプオルガンや蒸気自動車などの大道具、コールの防弾チョッキやメンバーが来ているロングコートなどの衣装も素晴らしく、彼の歴史へのこだわりが感じられます。
 さらに印象に残るのは、映画中盤の野球の試合の場面です。悲劇に終わる物語の中、そこだけはカウフマンの趣味で無理やり入れ込んだように見えるかもしれません。しかし、アメリカの野球史を調べると、1876年という年はメジャー最古のリーグであるナショナルリーグが誕生した記念すべき年でもありました。
 さらにいうと、ニューヨーク近郊で誕生したベースボールは、南北戦争に参戦した北軍の兵士たちによって全米に広められ、この時期いよいよアメリカを代表するスポーツになろうとしていたようです。(ちなみに1901年に誕生したワシントン・セネターズは、その後ミネソタに移り、ミネソタ・ツインズとなります)当時は、まだ野球のルールもあやふやで、この映画のようにかなりいい加減な内容のお祭り的なイベントだったのでしょう。この場面は野球ファンには必見です。

<B級俳優大集合>
 この映画の注目ポイントはもうひとつあります。豪華な俳優陣です。といっても、主役級のスター俳優ではなくB級映画専門の渋い役者たちの顔ぶれの豪華さです。
 クリフ・ロバートソン Cliff Robertson は、「まごころを君に」(1968年)でアカデミー主演男優賞を獲得しているものの大スターと呼ぶには地味な俳優です。
 ロバート・デュバル Robert Duvall は、「ゴッドファーザー」のトム・ヘイゲンや「地獄の黙示録」のキルゴア中佐などで有名な超大物助演俳優。
 ルーク・アスキュー Luke Askew は、「イージー・ライダー」にヒッピーの一人として出演。その他にも「ビリー・ザ・キッド21才の生涯」、「暴力脱獄」、「男の出発」などに出演するニューシネマの名傍役。
 R・G・アームストロング R.G.Armstrong は、サム・ペキンパー作品の常連で「昼下がりの決斗」、「砂漠の流れ者」、「ガルシアの首」、「ダンディー少佐」、「ビリー・ザ・キッド21才の生涯」。その他にも「ミスター・ノーボディー」、「エル・ドラド」など西部劇の名傍役です。
 マット・クラーク Mat Clark は、地味な見た目ながら実に多くの作品に出演しているB級映画界のヒーローです。「ビリー・ザ・キッド21才の生涯」、「大いなる勇者」、「白熱」、「夜の大捜査線」、「北国の帝王」、「マシンガン・パニック」、「アウトロー」、「ロイ・ビーン」、「ザ・ドライバー」・・・
 エリシャ・クックJr Elisha Cook Jr は、「シェーン」、「マルタの鷹」、「現金に体を張れ」などの歴史的名作から、「北国の帝王」、「1941などまで数多くの作品に出演した大物傍役です。
 ローヤル・ダーノ Royal Dano は、パッと見は二名目ながらどこかおかしな役柄が多い傍役で、「怒りの河」、「人間狩り」、「ビッグ・ケーヒル」、「アウトロー」、「ビッグ・バッド・ママ」、そして「キング・オブ・キングス」では、「イエスを知らない」という弟子のペテロを演じています。
 ダナ・エルカー Dana Elcar は、この映画で強盗団を追跡する側で、他の映画でも「スティング」、「セント・アイブス」などで、刑事を演じることが多い傍役俳優です。
 ウェイン・サザーリン Wayne Sutherlin は、謎の呪術師を演じていますが、その他に「夕陽に向かって走れ」、「男の出発」に出演しています。

 サム・ペキンパーやクリント・イーストウッドの西部劇が好きな映画ファンにはたまらない作品のはずです。

<70年代ならではの映像美>
 当時のニューシネマ作品がもっていた独特の渋い映像美がこの作品でもたっぷりと楽しめます。雪をたたえた山々の美しさ、雨に濡れ泥まみれになった街のリアルさなど、風景の映像は、この映画のカメラマン、ブルース・サーティ―ス Bruce Surteesの得意とするところでした。その手腕は、彼が手がけたこの時期の作品を見ていただければわかるはず。「ダーティー・ハリー」、「レニー・ブルース」、「アウトロー」、「ビッグ・ウェンズデー」、そしてイーストウッドの名作「ペイル・ライダー」など、アクション映画でありながら、美しい映像を背景にした絵を撮る名カメラマンでした。

「ミネソタ大強盗団 The Great Northfield Minnesota Raid」 1972年
(監)(脚)フィリップ・カウフマン Philip Kaufman
(製)ジェニングス・ラング
(撮)ブルース・サーティース
(音)デイブ・グルーシン
(出)クリフ・ロバートソン、ロバート・デュバル、ルーク・アスキュー、マット・クラーク、ジョン・ピアース、R・G・アームストロング、ドナルド・モファット、エリシャ・クックJr、ウェイン・サザーリン、ダナ・エルカー、ジャック・マニング、ローヤル・ダーノ

<参考>
「傍役グラフィティ」現代アメリカ映画傍役事典 1977年 
(著)川本三郎、真淵哲
ブロンズ社

映画関連スタッフへ   20世紀映画劇場へ   トップページへ