スウェーデンから来たダーク・サスペンスの傑作


「ミレニアム 3部作」

- スティーグ・ラーソン Stieg Larsson -
<やるなTUTAYA!>
 デヴィッド・フィンチャー監督の「ドラゴン・タトゥーの女」が見たくて、TUTAYAに行ったうちの奥さんに借りてきてもらいました。ところが、見ようとしてなんかへんだなあと思ったら・・・スウェーデン製のオリジナル版でした。
「探すのめんどうだから店員さんに頼んだんだけど・・・」
 しまったと思ったものの、思えばオリジナル版の大ヒットがあったからこそ、ハリウッド・リメイクとなったわけですから、見る価値はあるはず。ということで、オリジナル版を見ました。そして、途中で思いました。
「しまった。2と3も借りてもらえばよかった・・・」
 TUTAYAの店員さんにやられました。結局、あわてて続編の借りに行ってきましたので。だって滅茶苦茶面白いんです。
 僕が大好物としている「歴史」(第二次世界大戦)と「報道」(反体制派雑誌「ミレニアム」)と「推理小説」(それも精緻な作り)を見事に融合させています。そこに個性的なキャラクターが次々と登場し、ワクワク・ドキドキの展開が続きます。見終わるまで、席を立てません。
 もし、あなたがデヴィッド・フィンチャーのリメイク版しか見ていないなら、即、オリジナルの3部作を見ることをお薦めします。間違いなく面白いので、3作とも同時に1週間レンタルしてください。

<スウェーデンの陰鬱>
 北欧スウェーデンらしい暗く陰鬱な曇り空とその雰囲気に合わせたようなカメラのトーン。登場人物がまたみんな暗い!というか、心の闇がそのまま入れ墨や表情や衣装に表れたかのようなキャラクターばかりです。この雰囲気って、もしかしたら「刑事マルティン・ベック」の影響か?
刑事マルティン・ベック
 推理小説、警察小説のファンの方ならご存じかもしれませんが、1970年代にスウェーデンの作家コンビ、マイ・シューバルとペール・バールーによるスウェーデンを舞台にした警察小説の傑作です。当時は日本でもちょっとしたブームとなり、スウェーデン製の映画「刑事マルティン・ベック」が日本で公開されたり、ハリウッドでシリーズの最高傑作「笑う警官」が「マシンガン・パニック」として映画化もされています。
 登場する刑事たちは、みなどこかに心の闇や悩みを抱えており、物語の中ではヴェトナム戦争や政治問題、警察の腐敗なども描かれていて単なる警察小説でありませんでした。そこに緻密な推理小説が組み込まれ、リアリズムにこだわったセックスやバイオレンスの描写もそれまでの小説にはないものでした。僕は、当時リアルタイムでこのシリーズを読み、すっかりファンになっていました。未だにその作品の魅力は色あせていないと思います。
 そんなことを思いながら、この作品のスタッフの経歴を見ていたら、ありました!「ミレニアム2」と「ミレニアム3」の監督ダニエル・アルフレッドソンはテレビ映画出身で、1993年に「刑事マルティン・ベック/ロゼアンナ」(シリーズ第一作)と「刑事マルティン・ベック/バルコニーの男」を監督しているのです。世代的にも彼は1959年生まれなので僕と一緒。きっとマルティン・ベック・シリーズをリアルタイムで読んだ世代でしょう。(主演俳優のミカエル・ニクヴィストも1960年生まれと同世代です)

<原作者と雑誌「ミレニアム」>
 この映画の原作者スティーグ・ラーソン Stieg Larsson は、1954年スウェーデン北部の生まれで、1981年にスウェーデンの通信社でグラフィック・デザイナーとして働き始めます。彼はそこで21年間働いていますが、その間、SF雑誌の編集や英国の反ファシズム雑誌「サーチライト」の編集などに参加。
 1995年、彼は自らが編集長を務める反体制派の政治雑誌「エキスポ Expo」を創刊。この雑誌の運営に彼はかなりの苦労をしており、映画の中の雑誌「ミレニアム」には「エキスポ」での経験が生かされています。ある意味、この作品は彼が「エキスポ」でやりたかったことのリベンジ的意味をもっていたのかもしれません。
 彼は2004年に出版社と「ミレニアム・シリーズ」の出版契約を交わします。しかし、同年11月9日に心臓麻痺によりこの世を去ってしまいます。そのため、彼はシリーズ第一作が発売され世界的大ヒットとなることを知らないままこの世を去ったわけです。

<裸とリアリズム>
 この作品のスウェーデン映画だからこそのポイントに、セックス描写、暴力描写における徹底したリアリズムがあります。この作品ではセックスシーンにおいて、女優を美しく見せようとしていません。主人公と不倫相手の女性とのセックスでも、両方の身体のたるみや肌の衰えはそのまま映し出されています。
 リスベット・サランデルを演じるノオミ・ラパスも美人になど見せる気がないようで、背中のドラゴンだけでも凄いのに、ラストの裁判のシーンではこれでもかというぐらいに女性的魅力を消して、パンク男子的魅力を打ち出しています。それは、「悲劇のヒロイン」として報じられることへの反抗でもあり、自らがレズビアンであることの表明でもあるのでしょう。
 さらに彼らの周りには、けっして正義の見方ではない個性的で怪しげな仲間たちがいて、それが不思議なチームを作り上げて行きます。(警備会社の社長やハッカー仲間、編集者の仲間など)細部まで破綻のない見事な脚本(原作)にこうしてリアルな肉付けをされたことで、この3部作は映画としてめったにない完成度をもつにいたりました。

<背中の入れ墨が呼んでるぜ!>
 「ドラゴン・タトゥーの女」としてハリウッドでリメイクされた第一作は、主人公リスベットがラストに大金の引き出しに成功して、南国カリブでゴージャスに暮らしましたとさ・・・で終わります。ここまでなら、ある意味「ハリウッド的」な終わり方だったといえます。
 ところが、「ミレニアム2」で、彼女はわざわざスウェーデンに戻って来て再び事件に巻き込まれることになります。なぜ、彼女は暗い北欧の地に舞い戻って来てしまったのでしょう?やっぱり背中のドラゴンが、北へ戻れと彼女に語りかけたのでしょうか?
 なんだかこの感じって、昔の任侠映画のようにも似ています。まさかあの「緋牡丹お竜」がリスベットのモデルだったりして?

<「ミレニアム4」誕生秘話>
 2016年「ミレニアム4」の上巻が発売されました。(日本で)心臓麻痺で突然この世を去ったスティーブ・ラーソンは、自身のパソコンの中にこの「ミレニアム・シリーズ」の続編を書き残していて、それがもとになって完成されたようです。
 「ミレニアム・シリーズ」が世界的な大ヒットとなったのは、原作者が亡くなった後だったため、著者が残したこのシリーズが生み出した巨額の遺産は彼の家族に残されました。
 ところが著者には内縁の妻がいましたが、彼女には遺産を相続する権利が認められませんでした。それどころか、遺産を相続した彼の父親は、パソコンの中に残された「ミレニアム4」の原稿も彼女から奪おうと、遺産を分ける代わりに著者の弟と結婚するよう迫ったというのです!なんだか、「ミレニアム」の続編みたいなお話です。当然、彼女はその提案を断り、それらの顛末を「ミレニアムと私」として発表しています。
 弱者である女性への差別が生んだ物語が、現実に同じような物語を生み出すとは!あまりにドラマチックです。

「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」 MILLENNIUM: PART 1 - MEN WHO HATE WOMEN(2009年)
(監)ニールス・アルデン・オプレヴ
(脚)ニコライ・アーセル、ラスマス・ヘイスターバング
(原)スティーグ・ラーソン
(撮)エリック・クレス、イェンス・フィッシェル
(音)ヤコブ・グロート
(出)ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス、スヴェン=ベッティル・トーベ、イングヴァル・ヒルドヴァル、レナ・エンドレ、ステファン・サウク、ビヨーン・グラナート

「ミレニアム2 火と戯れる女」 THE GIRL WHO PLAYED WITH FIRE(2009年)
(監)ダニエル・アルフレッドソン
(脚)ヨナス・フリュクベリ
(原)スティーグ・ラーソン
(撮)ペーテル・モクロシンスキー
(音)ヤコブ・グロート
(出)ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス、アニカ・ハリン、ペール・オスカルソン、レナ・エンドレ、ペーター・アンデション、ヤコブ・エリクソン、ソフィア・レダルプ

「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」 THE GIRL WHO KICKED THE HORNET'S NEST(2009年)
(監)ダニエル・アルフレッドソン
(脚)ウルフ・リューベリ
(原)スティーグ・ラーソン
(撮)ペーテル・モクロシンスキー
(音)ヤコブ・グロート
(出)ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス、アニカ・ハリン、アンデシュ・アルボム・ローゼンダール、ハンス・アルフレッドソン、ヤコブ・エリクソン

20世紀映画劇場へ   21世紀映画劇場へ   トップページヘ