DJカルチャー、もうひとつの原点


映画「ノーザン・ソウル Northern Soul」

- エレン・コンスタンティン Elaine Constantine -
<ノーザン・ソウルとは?>
 「サザン・ソウル」とは?
 一般的にはスタックスやハイなどアメリカ南部のレーベルから発売された1960年以降のソウル・ミュージック。ゴスペルやブルースの影響を受けていて、泥臭いスタイルのソウルです。
 では「ノーザン・ソウル」とは?
 モータウンやフィラデルフィア・インターナショナルなどアメリカ北部のレーベルから発売された都会的でお洒落なソウル。そう思いがちですが、そうではない。これはソウルファンの間ではよく言われていた常識?です。
 正解は、イギリス北部の街のクラブで地元のDJがアメリカ直輸入のレコードから選んでブームになったソウル・ミュージックのこと。アメリカ北部とは関係ないのですが、偶然ですがその中にはモータウンの子会社レーベルや北部のミュージシャンの曲が多かったのも事実でした。
 ロンドンからも遠い労働者の街には、地元のロックバンドもなく、若者たちは地元の小さなクラブでDJが個人的趣味で集めたレコードに合わせて踊ることを週末の数少ない楽しみにしていました。そんなDJたちはラジオでかかるヒット曲よりも、自分が見つけてきたレアなシングルを聞かせる傾向がありました。自分だけのセット・リストを持ち、その手の内を明かさないオタク的な存在が多かったのです。中には、自分がかけた曲のタイトルを明かさず、自分だけのものにしようとするDJもいました。そうなるとDJは、アメリカ直輸入のレコードを探し回り、できるだけ無名で踊りやすい曲を探すことに熱中。そして、彼らが選び出した古いけれど素晴らしい曲の中から「ノーザン・ソウル」というジャンルが誕生することになったのでした。

<映画「ノーザン・ソウル」>
 上記のような「ノーザン・ソウル」誕生秘話は、実際はどんな感じだったのか?それは限られた場所、限られた時代のことだったため、映像や記録はほとんど残ってはいませんでした。イギリス北部の田舎町のクラブはどんな場所で、どんな人々がどんなダンスを踊っていたのか?それらは長年謎のままでした。
 そして、この映画「ノーザン・ソウル」は、そうした謎の時代の謎の場所を見事に再現し、それを背景に素敵な青春ドラマを展開させています。マニアックすぎるそんな特殊な映画を実現させたのは、当時その場所で踊ったり、騒いだりしていた女性映像作家でした。彼女が自分の青春時代を振り返りながら脚本を書いたからこそ、音楽だけでなくファッション、ダンス、クラブの店内や小物までもがリアルで生き生きしているのです。
 ブルース・リーを真似したダサカッコいいダンスも魅力的です!

<英国DJカルチャーの原点>
 イギリスのDJカルチャーの原点となったのが、1960年代に一世を風靡したモッズ・ムーブメントだったことは意外に知られていませんでした。
 この映画の公式ホームページで「ブラック・マシン・ミュージック」の著者、野田努はこう書いています。

今日のDJカルチャーの背景には3つの源流がある。
NYのディスコ、ジャマイカのサウンドシステム、
そしてUKのノーザン・ソウル。
ノーザン・ソウルはしかし、真のアンダーグラウンドで
あったために歴史のミステリーでもあった。
レイヴ・カルチャーと呼ばれるものの原点、
そしてレアグルーヴと呼ばれるものの原点が
ふたつ同時にここにある。
なんにせよ、ぼくたちはいま、
世界の不思議のひとつとさえ言われた、
1970年代初頭におけるイングランド北部の労働者階級の
ユース・カルチャーが何を創造したのかを
ようやく知ることができるのである。
音楽、ファッション、ダンス、そしてソウル・・・・・・、
素晴らしい映画だ。


<モッズの人々>
 ではそんな「ノーザン・ソウル」を見出した「モッズ」とはどんな人々だったのか?その特徴は、独特のこだわりにありました。
 以下は、野田努の名著「ブラック・マシン・ミュージック」からです。

 ノーマルな社会との線引きをモッズは音楽とファッションで表した。そのため彼らは自分たちが聴く音楽の種類と着る服装に種類に関して厳密であろうとし、その細部までこだわった。日常生活では本当の自分を隠し、クラブにいるときや仲間と一緒に行動しているときにだけ本当の自分であろうとした。
 見かけは伝統主義的なスーツを纏いながらも、その細部で差異をきちんと表すことで、彼らはノーマルな社会に潜み、また本質的にはそれを拒んでいた。モッズは巧妙な二重生活者だった。


 この映画では、主人公たちが日中は工場で働き、夜は変身してダンスに熱中する姿が再現され、二重生活者そのものの人生を見せてくれます。さらに彼らの多くが、そうした二重生活を繰り返す中でアンフェタミンなどの薬物の使用を繰り返すようになります。これがその後のイギリスにおけるDJパーティー(クラブ・カルチャー)の原型となって行きます。

・・・こうした異文化との出会いには、バンド演奏ではなくレコードをプレイするディスコだからこそ容易だった。
 クラブ・カルチャーの原点はモッズにあるというのが今では定説になっているが、伝統的で因習的なものから逃避を可能にする二重生活の拠り所をクラブに求めたという意味でもまったくそうだった。モッズはアンフェタミンを使用したが、その理由もひと晩中踊るためだった。彼らが終末に眠らないのは、そのときこそ彼らにとって本当の自分になれる時間帯だからだ。


 ただし、彼らはレコードをかけるだけで、それらの曲をミックスしたりすることはありませんでした。これを行ったのがアメリカのゲイのDJたちです。彼らは独自の音楽を生み出すことで、そのカルチャーにおけるスターとなります。そのため、DJカルチャーの原点はニューヨークというイメージになったわけです。
 イギリスのDJカルチャーは映像や楽曲が残らなかったこともあり、この映画で紹介されるまで忘れられた存在になっていました。それだけにこの映画の存在は音楽史的に非常に貴重だと言えます。ある意味、歴史遺産的作品です。

モッズ・ムーブメントなどイギリスにおける様々なジャンルにおける革新については、下記のページをご覧ください!
音楽だけでなくファッション、写真、文学、映画などについてさらに詳しくまとめています。
<世界を変えた1960年代英国文化革命>

「ノーザン・ソウル Northern Soul」 2014年
(監)(脚)エレイン・コンスタンティン Elaine Constantine
(製)デビー・グレイ、ジュリアン・グリーク、エドワード・クロージャー
(撮)サイモン・ティンドール
(美)ロビン・ブラウン
(編)スティーヴン・ハーレン
(出)エリオット・ジェームズ・ラングリッジ、ジョシュ・ホワイト、アントニオ・トーマス、ジャック・ゴードン、ジェームズ・ランス、クリスチャン・マッケイ、スティーヴ・クーガン

<監督エレイン・コンスタンティン>
 1965年10月9日イングランド北部ランカシャー州ベリー生まれ。1980年代にカメラマンとして活動を開始し、その後、ロンドンでカメラマンのニック・ナイトに弟子入りし、21世紀に入るとファッション誌の仕事、グッチ、ヴィヴィアン・ウエストウッド、バーバリーなどのファッション・ブランドの写真を担当。ミュージシャンのMVも撮るようになります。
 この作品は、彼女の青春時代の体験をもとに脚本を書き、映画化したもの。小規模な公開ながら英国ではトップ10に入るヒットとなった。


曲目 演奏 作曲・作詞 コメント
「Brand New Key」 メラニー
Melanie 
Melanie Safka  アルバム「Gather Me」(1971年)
全米1位全英4位の大ヒット
「Stick By Me Baby」  ザ・サルバドールズ
The Salvadors 
Jo Armstead セントルイ出身の黒人コーラスG
1967年のシングル 
「School Love」  バリー・ブルー
Barry Blue 
De Paul/Green  英国の男性シンガー
1974年のシングルヒット 
「Back Street」 エドウィン・スター
Edwin Starr 
Bill Sharppley
Charles Hatcher 
ナッシュビル出身のソウルシンガー
1965年のシングル 
「Time」 エドウィン・スター
Edwin Starr 
Edwin Starr
Richard Wylie
アルバム「War & Peace」(1970年)収録
「The Night」 フランキー・ヴァリ
Frankie Valli 
Bob Gaudio
Al Ruzicka
1972年に発売
1975年になって全英7位のヒット
フォーシーズンズが再ブレイクした!
「The Show Must Go On」 レオ・セイヤー
Leo Sayer 
Courtney/Sayer  英国サセックス出身の男性シンガー
1973年に英国で大ヒット
日本でもヒットしました!
「Too Late」 Williams and Watson Janis Walner
Larny Williams
Johnny "Guitar"Watson 
1975年のシングル
ジョニー・ギター・ワトソン&
ラリー・ウィリアムスのデュオ 
「The Young Ones」  クリフ・リチャード
Cliff Richard & The Shadows
Sid Tepper
Roy Benett
 1961年同名青春映画の主題歌
「I'm Comin' Home In The Morning」 ルー・プライド
Loe Pride 
George L. Pride  シカゴ出身の黒人ソウルシンガー
1970年のシングル
「I Surrender」  Elliot James Langridge
Jack Gordon 
Holman/Marks   
「Soul Time」  Shirley Ellis  Shrley Elliston NY出身の女性ソウル・シンガー
1967年のシングル・ヒット
「Exus Trek」  ルーサー・イングラム・オーケストラ
Luther Ingram Orchestra 
Luther Ingram
A. Aikens他
ラストの葬儀後のパーティーにて
「You Don't Mean It」  Towanda Barnes  Andrew Noland
Theodore Robinson他 
NY出身の女性ソウル・シンガー
1976年のシングル
「Lonely For You Baby」 Sam Dees  Sam Dees
William Crump 
アラバマ州出身のソウル・シンガー
1968年ファースト・シングル 
「Crying Over You」  Duke Browner  Barney Browner
Harry Bak 
ソウル・シンガー&プロデューサー
1966年のシングル
「Tear Stained Face」  Don Varner  Don Varner
William Crump
アラバマ州出身の黒人ソウル・シンガー
1967年のシングル
「Just Say You're Wanted
(And Needed)」 
Gwen Owens  Roger Bass
Keith Smith 
デトロイトの女性ソウル・シンガー
1966年のシングル 
「I've Gotta Find Me Somebody」  ザ・ベルベッツ
The Velvettes 
Dimple Harris テキサスの男性ドゥーワップ・グループ
1961年のシングル
「Time Will Pas You By」  Tobi Legend  Dino Fekaris
John Rhvs 他
アラバマ出身の男性ソウル・シンガー
1968年のシングル
「They'll Never Know Why」  Freddie Chavez  Freddie Chavez  ニューメキシコの男性ソウル・シンガー
1968年のシングル
「I'm Gone」  Eddie Parker  Jack Ashford
Lorraine Chandler 
ミシガン州出身の男性ソウル・シンガー
1966年のシングル
「I Really Love You」  The Tomangoes  Claude Williams  黒人男性ソウル・コーラス
1968年のシングル
「Your Autumn of Tomorrow」  The Crew  Frank Abel ミネアポリスのソウル・ファンク・グループ
1970年のシングル
「Come On Train」  Don Thomas  Don Thomas   
「This Love Starved Heart of Mine」 マーヴィン・ゲイ
Marvin Gaye
Kay Lewis
Helen Lewis 
60年代の初期レア・シングル
1994年「レア&アン・リリース」収録
「The Right Track」  Billy Butler John D.Jones  シカゴ出身のソウル・シンガー・ソングライター
1966年のシングル
「Seven Day Lover」  James Fountain  Jesse Eugene Ingram
Rollie C. Hanson 
 
「If This Is Love」  The Precisions  Mike Valvano
Martin Coleman
Charles Bassoline 
デトロイトのドゥーワップ・グループ
1960年のヒットシングル
「Gone With The Wind Is My Love」  Rita & The Tiaras  Louie Barreto   
「Suspicion」  The Originals  Eddie Holland
Lamont Dozier
Brian Holland
マーヴィン・ゲイのバックも務めたグループ
デトロイトのソウル・グループ
「Turning My Heartbeat Up」 MVPs  Bobby Frlax
Lanny Lambert
 

現代映画史と代表作へ   トップページヘ