小樽の挑戦と日本の未来


「人口半減社会と戦う 小樽からの挑戦」

- 小樽市人口減少問題研究会
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「人口半減社会と戦う!」
 なかなかのタイトルの本です。
 おまけに地元小樽についてのノンフィクションなので、さっそく読ませていただきました。
 でもまさか小樽がそんな近未来戦争の舞台になっていたとは!?
 その小樽の中心部「都通り」で商売をやり、商店街の理事長という立場でもある僕は、ある意味、その戦場の最前線で戦っているということかもしれません。
 というわけで、じっくりとこの本を読ませていただきました。
 いろいろと考えさせられることがありましたが、ここでは商売を小樽で営む者の立場から前向きな視点で参考になった部分に注目してみようと思います。

<未来の日本を象徴する街>
 日本が歩みつつある超高齢化社会の先を行く未来の日本。それが小樽の街なのかもしれません。
 日本が新たな国の方向性として「観光日本」を推し進める今、いち早く「観光都市宣言」をしている小樽は、この点でも未来の日本でもある。
 ということは、小樽の街の人口を増やすことに成功すれば、日本全体の人口を増やすことも可能になるのかもしれません。
 現状では全体で人口が減り続ける日本では、人口を増やすことは=パイを奪い合うことになるのですが、それでも魅力的な街が増えれば再び人口が増える状況になる可能性はあると思います。
 もちろん、それはなかなか難しいことだとは思いますが、先ずはその最初の一歩として、人口が減り続ける遠因を正しく認識する必要があるはずです。この本はまさにそのための研究をまとめたデータ集になっています。
 これまで、これまで多くの人が語ってきた小樽の人口減の理由はこんなアバウトなものでした。
「小樽は学校教育のレベルが低い」(特に隣の札幌に比べると)
「小樽は子供を育てる環境が整っていない」(公園やプールなど公共施設が不足)
「小樽には良い病院がない」(産婦人科が消滅の危機)
「小樽には遊ぶ場所、買い物をする場所がない」(隣の札幌に比べれば)
「小樽には仕事がない」(飲食、観光、介護など給与レベルが低い職種しかない)

 でも本当にこれらが人口減少の原因なのか?客観的な数値データとして調べたのがこの研究です。

<解析結果より>
 研究結果については、ほぼ上記の意見は間違いではなかったことが証明されました。
 したがって、それらの原因をつぶすことが人口を増やすために必要だということになります。
 ただし、それらの考えは今までもあったことで、この本では新しい発見もありました。
「小樽市民のうち、年齢が若い層ほど転出願望があり、高齢になるほど住み続けたいと考えている」
 まあ、そこは他の街でも同じことが考えられます。
 しかし、小樽市民の小樽愛は、どうやら他地域を上まわっているようです。どの世代でも他の地域の人より住み続けたいと考えている人の割合が高いのです。
 この地元愛の強さはなかなか重要なことです。
 そのために小樽市の高齢化率は他都市を遥かに上回るレベルにありますが、逆に考えると年をとったら故郷小樽で最期を迎えたい。そんな街でもあるということです。

 もうひとつ重要なことが確認できました。それは、札幌市民の多くが小樽の商店街は活気があり魅力的だと考えていることです。
 うちの店では、以前から札幌在住のお客様が増えていて、その売上比率は以前より明らかに増しています。うちの向かいのあんかけ焼きそばの人気店「桂苑」も以前よりも小樽市民以外の比率が増しているはずです。札幌より安く、主婦向けの商品が衣料品、スイーツ、雑貨など一とおりそろうのが良いというのが、札幌からくる主婦層のお客様の感想です。もちろん目が肥えている札幌のお客様の心をつかむセンスが求められますが・・・。
 1990年代から都通り商店街では、商店街のターゲットとして札幌圏のお客様=「近郊客」に注目してきました。その考え方は間違っていなかったようです。
 さらにその当時はあまり考えになかった観光客の急増も商店街には追い風になっています。
 札幌や後志管内などからの「近郊客」、アジアを中心とする「海外からの観光客」、そして半減とはいえ「地元客」、これら3種類のお客様が混在するのが今の小樽の状況です。これは他の街に比べるとかなり恵まれた環境のはずです。そのおかげでしょう。
(2019年、ついに下落し続けていた小樽駅前地区の地価が上昇に転じました)

<観光産業は人口増にはつながらない>
 この本の指摘にある「観光産業は人口を増やすことと結びつかない」もまた重要です。
 日本の観光産業は、長年物見遊山の延長としての観光バスを仕立てた格安パック・ツアーに依存してきました。特に北海道の場合、昔から修学旅行の学生が多いこともあり、数をこなして利益を生み出す格安旅行を中心とするビジネスモデルが出来上がっています。
 当然それでは、客単価が低すぎて利益は上がらないので、観光業界で働く労働者の給料も低いままだったわけです。こうした現状が変わらない限り、観光業中心の街は給与水準が低いため、若者は街を出て行ってしまう。そんな悪い流れが続くことになるのは必然でした。
 となれば、小樽の産業界は観光業の構造的な見直しを行うか、新たな産業を発展させるか、その二者択一を迫られることになります。もちろん、同じ後志管内のニセコ町では、海外富裕層をターゲットにした観光産業の高級化が急速に進んでいます。小樽もそうした隣町の動きに学ぶ必要があるのでしょう。
 ただし、小樽の魅力を失う恐れが多分にある「カジノ」の導入は絶対に反対です。

<人口増のためのプロジェクトチーム>
 人口増のために先ず最初に必要なのは、そのプロジェクトのために市役所以外の力も交えた対策チームです。市役所職員の場合、癒着防止のためもあり、定期的に部署の移動が行われます。しかし、それでは10年に渡る継続なプロジェクトを計画し進めることができるわけがありません。
 そこには長い目で計画を立て、その実行を進める指導力のあるチームの存在が不可欠ということです。そのチームで「小樽ブランド」を定め、その理想に見合った方策を立て、目指すことが求められると思います。もちろん、そのためには小樽商大の存在意味は大きいはずです。
 この本の中心人物でもある小樽商大の江頭先生、よろしくお願いします。

<情報発信の重要性>
 僕が最近思うのは、人口増のための作戦として、街に住む住人による情報発信がより重要になるのではないかということです。(SNSやインスタなど簡単に情報を発信することが可能になり、その影響力もどんどん増しているので)
 ただし、そもそも小樽の住人は、人に自慢をすることが苦手のような気がします。
 小樽ほど地震や台風などの自然災害が少ない土地はないこととか、自然がすぐそばにあることとか、温暖化が進む中、夏も過ごしやすいこととか、季節ごとの美味しいものに恵まれていることとか、変わり者の住人が多くて飽きないこととか・・・
 実際に住んでいる人や移住してきた人が発信することで、小樽の魅力はより多くの人に広められるはずです。そこは小樽に移住してきた若者たちにお願いしたい!

<統計的な解析について>
 この本の中の統計学的な部分の説明は、正直かなり難しいです。というか、もうすこし説明をしてくれないと、読むのをやめちゃいますよ!
 それと第五章はどうもいまひとつでした。小樽市内の公的な3団体へのヒアリングで使われている言葉の頻度を分析するという手法。場合によっては、意味があるのかもしれませんが、どうも今一つ納得できません。
 そもそも論ですが、ここでヒアリングされているメンバーがその分野の知識をどれだけもっているのか?
 もちろん、そこは分析者の責任ではないのですが、情報源の信頼性に不安があっては結果に疑問を感じざるを得ません。
 例えば、小樽市の市会議員がどこまで小樽市の現状を認識しているのか?ちなみに、ここ10年の間にうちの商店街に現状についての情報を求めてやって来たのは元の市長さんと議員を止めてしまったA君の二人だけですけど・・・。そんなんで大丈夫ですかね?
 まあ、それをいっちゃあ、お終いなのかもしれませんけど。
 
 ちなみに、小樽の街に他にない個性をもつ人や企業が多いのは、行政も含めた様々な公的団体が何もしないおかげ生み出されてきたという説も有力です。

「人口半減社会と戦う 小樽からの挑戦」 2019年
(著)小樽市人口減少問題研究会
白水社

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