「パナマ文書」は世界を変えられるか?


ノンフィクション「パナマ文書 Panama Papers」
Breaking the Story of How the Rich and Powerful Hide Their Money
- バスティアン・オーバー・マイヤー Bastian Obermayer、フレデリック・オーバーマイヤー Frederik Obermayer -

映画「ザ・ランドロマット - パナマ文書流出 -」
- スティーブン・ソダ―バーグ、ジェイク・バーンスタイン -

<パナマ文書の衝撃>
「データ・ジャーナリズム史上最大のリークが始まった。腐敗がテーマだ」

エドワード・スノーデン(彼のフォロワー200万人にこのメッセージが伝えられました)

 2016年4月3日、南ドイツ新聞のホームページに後に世界中に衝撃を与えることになる記事が発表されました。とはいっても、その記事のもつ意味を誰もがすぐに理解できたわけではなかったはずです。そもそも、そこで発表されたのは、ある企業が様々な個人や企業と取引や連絡を取り合った膨大な記録で、メールや取引記録など、それ自体に意味があるとは思えないものばかりでした。
 しかし、「パナマ文書」と名づけられたその膨大なデータは、世界中の大富豪や権力者、政治家たちが行っていた不正の事実を証明するものでした。以前から言われていた、タックスヘイブン(税金免除の土地)での悪事の数々が膨大なデータという証拠により白日の下にさらされることになったのです。
 これまでタックスヘイブンを利用するのは、マフィアのような巨大な犯罪組織の大物たちというのが常識でした。

「タックス・ヘイブンは魑魅魍魎のばっこする伏魔殿である。脱税を働く富裕者だけでなく、不正を行う金融機関や企業、さらには犯罪組織、テロリスト集団、各国の諜報機関までが群がる。悪名高いヘッジ・ファンドもタックス・ヘイブンを利用して巨額のマネーを動かしている」
志賀桜「タックス・ヘイブン」より

 しかし、「パナマ文書」によって明らかにされたのは、政治家や大富豪など犯罪者ではない人々もまたタックスヘイブンを使ったオフショア・ビジネスの利用者だということです。その中には、ヤクザではない日本人も含まれていました。

 富豪やスーパーリッチが暮らすもうひとつの世界では、いくつもの大陸や国をまたいで口座や株、家屋敷、プレジャーボート、その他資産の一部を、オフショアの仕組みを使って保有するのは当たり前のことらしい。ペーパー・カンパニーを所有すること自体は、既に述べたようにまったくの合法だ。ただ、収益が挙がった場合に税務署に黙っていると、非合法となる。
 それでもこう断言してよいと思う。世界中で社会が二つの階級に分かれてきている。ひとつは普通に税金を支払う階級で、もうひとつは、いつ、どのように税金を払うかを、あるいは、払うか払わないかさえも自分で決め、そうするための手段も持っている階級だ。


 情報の公開時、すべての情報はしっかりと分類されていて、人物名や企業名からの検索も簡単にできるようにシステム化されていました。ということは、誰かがリーク情報をあらかじめ検索できるよう整理していたということです。いったい誰が?僕はそこもけっこう気になっていました。

「ついにこの日が来たわ」
 2015年10月29日、ICIJデータ処理チームのリーダー、マール・カブラがネット・フォーラムに書き込んだ。これまで我々が受け取り、ICIJのサーバーにアップロードしてあったデータがすべて検索可能になったのだ。820万件。2テラバイト以上ある。
「楽しく掘ってね Happy Diging !」と、マールが皆を祝福する。
 320人以上の仲間が70カ国以上、90余のメディアから集結している。ジャーナリストによる史上最大の共同作業だ。


 実はこの検索システムは発表の半年前には完成していて、世界中の誰もが自分の国の政治家や企業の不正を調べることが可能になっていました。そうした様々な裏話が書かれた本を読むことができました。そんなわけで、「パナマ文書」についての膨大な知識をここでまとめてみました。「パナマ文書」は、世界を変えるきっかけになるかもしれない重要な存在だと思います。

<パナマ文書>
 「パナマ文書」という名前は、その情報の出どころである法律事務所「モサック=フォンセカ」が中米の小国パナマにあるところから来ています。(それと有名な「ペンタゴン・ペーパーズ」にもあやかっているようです)
 この文書が発表された時点で、すでにその情報の信ぴょう性の高さは確認されていたようで、その衝撃は一気に世界中に広まりました。しかし、なぜそれだけの情報が一気に発表され、その概要がすでにマスコミに明らかにされていたのか?考えてみれば不思議でした。
 そもそも誰が何のためにそれだけ衝撃的な内容の情報をリークしたのか?
 本当にその情報は真実なのか?
 その情報は、世界を変えるだけの意味があるのか?
 知りたいことはいろいろとありました。
 あれから3年以上が過ぎ、どうやら国境を越えたお金の動きを明らかにするための枠組みについての検討が世界レベルで話し合われているようです。(それが実際に機能するかどうかはかなり疑問ですが・・・)
 ということで、今改めて「パナマ文書」の意味について学ぼうと、その文書の入手とその発表に関わったドイツの記者が書いた本を読んでみました。いったいどうやって膨大な情報はリークされ、真偽を確認され、まとめられ発表されるに至ったのか、先ずはそこから始めます。

<リークの始まり>
 「パナマ文書」のプロジェクト、「プロメテウス」の始まりは、ドイツ在住の南ドイツ新聞記者バスティアン・オーバーマイヤーへの一通のメールでした。なぜ彼がリーク先として選ばれたのか?(まさか、記者の名前が「ネバーエンディング・ストーリー はてしない物語」の主人公バスティアンと同じだから・・・?)

「ハロー。私はジョン・ドゥ。データに興味はあるか?共有してもいい。」(ジョン・ドゥは匿名を要する時に用いる常套的な名前で、誰なのかは不明です)
 先ずはそのサンプルが届きましたがかなりの量のデータで、ほとんどがPDFファイルでした。ファイルを開くと、それらは会社設立関連文書、契約書、データベースからの抜粋文書でした。これらのデータの関連性を理解するのにしばらくかかったようですが、ネットで調べた結果、どういう事例に関わるものかが突き止められました。(この時の事例は、アルゼンチンの現職大統領による海外への国費持ち出しに関する書類でした)

「どうしてこんな危険を冒すのだ?」
「身元を明かさないでその理由を説明することはできない。だが、ありきたりの言い方をすれば、自分はそうできる立場にあるのだから、そうしなければならないという気持ちなのだ。重大過ぎるのだ。あそこでは途方もない数の犯罪が行われている。なんとか全体像を把握しようと努めているのだが。
「怖くはないのか?」
「怖くないわけがない。だが、細心の注意を払っている。」
「どうしてこういうことをするのか?」
「この資料について報道がなされ、この犯罪が公になって欲しいのだ。この件はその重要性においてエドワード・スノーデンが行った暴露に匹敵するかもしれない。だから、ドイツで発表されるだけでは不十分だ。ニューヨーク・タイムズや、それをおなじくらいの規模の大きい英語圏のパートナーが必要だ。」

(この時点では、リーク元の人物もその情報量の膨大さを把握できてはいなかったのです)

 こうして謎の人物(仮名はジョン・ドゥ)からのデータがどんどん送られてくることになりました。しかし、その情報が虚偽の可能性もあり、その真偽を確かめる必要が先ずはありました。実際にアメリカでは大統領選挙の際、ブッシュ大統領候補についての虚偽情報を信じた大手メディアがその情報を配信し、後に大きな問題になった事件があったばかりでした。(映画「ニュースの真相」はその事件について描いています)当然、膨大な情報は虚偽ではないのか?その確認作業もまた大変だったはずです。

<情報発信の方法>
 情報の信ぴょう性は確認されましたが、リークされた情報をそのまま発信しても、その価値を理解できる保証はまったくありません。世界中の専門家たちにその価値・意味を理解できるように発表する必要がありました。
 その膨大な情報をどうやって分類・分析・確認して行くか?送られてくる情報量は、どんどん増えて来て、新聞社に作られた4人の特別チームだけでは到底対応できなくなっていました。そのうえ、送られてくる情報はドイツ国内のものだけでなく世界中のものなのでドイツ人記者では対処しきれなくなっていました。そこで彼らは世界中にネットワークをもつジャーナリスト集団ICIJに連絡し、協力を仰ぐことにします。

<ICIJとは?>
 ICIJとは、国際調査報道ジャーナリスト連合 International Consortium of Investigative Journalistsの略称です。
 1997年に設立されたその組織はワシントンDCにあり、世界中の報道ジャーナリストから選ばれたメンバーによって組織されています。そのメンバーはメンバー内で推薦されるか、招待される必要があり、2016年現在200人ほどから成り立っています。
 元々は、チャールズ・ルイスがアメリカで設立した非営利団体センター・フォー・パブリック・インティグリティCPIの一プロジェクトで、そのバックには大口の寄付者である左派の億万長者ジョージ・ソロスなどがいるようです。
 世界的な組織であるICIJなら、今回の膨大な情報を扱うことが可能である。そう考えたプロジェクト・チームは、ICIJの本部で密かにプレゼンテーションを行い、彼らの協力を取り付けることになりました。これで世界中の情報をそれぞれ得意な地域、分野の人々が分析することが可能になりました。

・・・我々が手にしたこのリーク情報を世界中で分かち合うというアイデアの背後には、そうしなければ、これほど重大なことをすべて語ることはできないという認識もあった。ドイツでアフリカの話をしても耳を傾ける人はあまりいないだろう。注目されることもあるまい。アフリカでドイツの話をしても注目されないのと同じだ。同時に、アフリカの国々の中には、この調査の持つ重みが、我々よりはるかに大きい国もあるのではないかという気がする。我々の国ではペーパーカンパニーは社会に不正を生じさせ、犯罪者による証拠隠滅を手助けしている。アフリカでは犯罪者のビジネスがその国の国民すべてを惨める状況に追い込んでいる。我々のところとは次元が違う。

 こうして「パナマ文書」のプロジェクトは、本格的にスタートします。先ずは情報の整理を行うためのデータベース作りが始まります。

 まずは、このプロジェクトに参加する世界中のジャーナリストがアクセス可能な、幾重にも保護された秘密文書専用のデータベースを構築する。さらに、会社構成に関するデータで、視覚化(グラフ、表、図などにして表すこと)が可能なものだけを集めたデータベースを構築。ここにアクセスすれば、あるカンパニーと、そのカンパニーを構成しているあらゆる要素(特にそのカンパニーの株主と仲介者)とそれらの相関関係がひと目でわかるようにするのだ。・・・
・・・しかし、ことはそう簡単ではない。というのも多くの場合、所有者の欄には「所有者」としか書かれておらず、要するに無記名株なのだ。
・・・

 さらにICIJでは情報の持ち運びに関して、非常に慎重な作戦をとり、例え情報が洩れてもプロジェクトが途中でストップされることのないよう充分なセキュリティ対策がとられていたようです。
 ICIJでは情報を持ち運ぶ際、二重の暗号化を行っています。ハードディスクには暗号化されたドライブがあり、その暗号化を誰かが解除するとその情報が取り出せます。しかし、実はそこにはもうひとつ暗号化されたドライブが隠されていて、そこにこそ重要な情報が隠されているのです。この二重底構造のおかげで、例えそのハードディスクが盗まれても、一部の情報しか取り出せないわけです。

<モサック=フォンセカとは?>
 「パナマ文書」の出どころである法律事務所「モサック=フォンセカ」とはどんな会社なのでしょうか?
 この会社は1986年3月にユルゲン・モサック法律事務所とパナマ人弁護士ラモン・フォンセカの事務所が合併してできたけっして歴史ある法律事務所ではありません。(社員数は588人で、うちパナマに342人、アジアに140人、英領ヴァージニア諸島に40人、エルサルバドルに18人がいて、30カ国以上にオフィスあり)
 先ずは、その会社の二人の経営者について。
 ラモン・フォンセカは、パナマの大物政治家であり、有名な作家として知られた人物です。ところが実際は、マネー・ロンダリング界の大物として以前からアメリカ政府などからマークされていた有名人です。特に彼は南米の独裁政権とのつながりが多く、独裁者たちの資産を国外に持ち出す手助けをすることで発展してきたようです。
 ユルゲン・モサックは1948年にドイツのバイエルン州フュルト市に生まれています。父親のエアハルト・モサックは、第二次大戦中、ナチスの武装親衛隊の隊員でしたが、終戦後はドイツを逃れアメリカに逃亡し、CIAの協力者となることで生き延びた人物でした。
 彼の息子ユルゲン・モサックは、父親と共にパナマに移住し、そこでアメリカとのつながりを生かして弁護士としてオフショア・ビジネスを得意とするビジネスを手掛けるようになったようです。
 南米に顔が広いパナマ人のフォンセカとアメリカの裏側を知るヨーロッパ出身のモサック、二人のコンビによって、モサック=フォンセカ法律事務所は世界中の汚れた仕事を請け負うことが可能になりました。

<オフショア・ビジネスとは?>
 では具体的にモサック=フォンセカ(略して「モスフォン」)によるオフショア・ビジネスはどうやって行われていたのでしょうか?
 そもそもオフショア・ビジネスの利点は数々ありますが、その基本は租税面での利点です。
 例えば、スペインあたりで家を購入すると、今なら10%の不動産取得税がかかります。しかし、家を購入するのではなく、その家を所有する会社の株式を購入するのなら税金はかかりません。これは単純な例ですが、以下にその様々な手法について書き出してみました。

<無記名株を所有する>
 ある企業や個人が国外に資産を移そうとしたら、海外の「無記名株」を購入するのが簡単です。
 名前だけが存在する「ペーパーカンパニー」を作り、その会社の株を大量に購入します。そして、その株で生まれた資金を海外で運用させます。当然、その会社の持ち主は株の持ち主ですが、それを無記名株として所有する分には、誰がその会社の持ち主なのかはわかりません。
 もっと匿名性を強調したければ、モサック=フォンセカに依頼して、名義上の取締役のほかに、信託によって株を保有している人間やさらなるペーパー・カンパニーを名義上の株主として記載し、それっぽく見せることも可能です。そうした架空の会社や個人はいくらでも増やせるので、捜査当局は本物の所有者にはいつまでたってもたどり着けないのです。その意味で、モスフォンは「ペーパーカンパニー」を売る商売をしているとも言えます。
「モスフォンは言うなれば、小売店に商品を引き渡す卸売商のようなものです。ここでは、商品がカンパニーであるというだけです。そして、カンパニー自体はご存知のとおり、違法なものでも、悪いものでもありません。小売店がそのカンパニーをその後、誰に売ろうが、最終顧客がそれで何をしようが、それは小売店の責任です」
アナ・マリア・ガルソン(危機対応専門PR会社大手パーソン・マーステラ)

「ペーパー・カンパニーは、ありとあらゆる狡賢い犯罪者、銀行強盗にとっての逃走用車両にあたるものだ。犯罪者が逃げおおせるのを助ける」
キース・プレーガー(アメリカの元脱税調査官)

<匿名財団の利用>
「不正に入手した額面10万ドルの小切手を現金化したいが、自分や自分の会社との関りは知られたくない」
A案「資金を匿名財団に移されてはいかがです?そうすれば、その財団はどこかの会社の株を買い、その会社が顧客に寄付をするというわけです」
B案「オフショア・カンパニーを設立なさってはいかがでしょう。そして定款に『当社ABCはXYZ並びにBLAの名でも取引を行う』と書くのです。そうすれば、お客様はそうした別の会社名義で銀行口座がお待ちになれます」

<二国間でのお金の移動>
 二つの国の間でお金を移動させることにより二者同時に資金洗浄を行う手法もあります。
A 「アメリカから国外へ大金を持ち出したい」
B 「シンガポールからアメリカに大金を戻したい」
 そんな場合、モスフォンはこんな手法を提案しています。
「お客様同士で相互に送金するのです。
 B様はシンガポールの口座からA様のスイスの口座へ、A様はアメリカ国内の口座からB様のアメリカの口座へ、それぞれ80万ドルを送金なさって下さい。そうすれば、お二人ともご希望の場所でお金をお受け取りになれます。
 ですが、A様からB様への送金はアメリカ国内のことですから、何か『理由』を考え出されなかればなりません。(スイスは問題なし)
 『業務契約』というのはいかがでしょう?
 A様がB様に業務の対価を支払う、という形で。実際には何の業務も行われてはおりませんが・・・」

<UEFAの放送権料の売買>
 マーゴ・ヒンキス、マリアーノ・ヒンキスはサッカーのUEFAカップの放映権を2万8000ドルで購入。それを12万6200ドルで自国の放送局テレアマリナスに転売し、10万ドルの利益を得ていました。そのために彼らはUEFAの幹部を買収し、取引はペーパー・カンパニーのクロス・トレーディング社に行わせていました。

<モスフォンのやり方>
 モスフォンは積極的に違法行為を行うことを進めていたわけではなく、基本的には悪事を見て見ないふりに徹することを仕事にしていたと考えるべきでしょう。
 モスフォンの社員は、自分が世話している匿名企業の本当の所有者が誰なのか?そのことをあえて知ろうとはしていなかったのです。(それが仕事と言えば仕事なのかもしれません)しかし、「パナマ文書」の中にはそんな彼らの実情を示す証拠も含まれていました。

 ワシントンのホテルに滞在中、我々はモスフォンの従業員が作った表に偶然出くわした。それは、モスフォンがセーシェルに作ったカンパニーをリストアップしたのもので、モスフォンが正当な所有者を知っているか否かで識別されている。この表を見ると1万4086社のうち、モスフォンが真の所有者を知っていたカンパニーは、たった204社だ。
 これは無能の証明だ。そして、モサック=フォンセカが自分たちの義務といかに無責任に向き合っているかを示している。


<複雑怪奇な幽霊会社の連携>
 モスフォンは上記の様々な手法を行うために、自分ですら把握できないような複雑怪奇な企業連携構造を作り上げていたことも「パナマ文書」によって明らかになりました。

「トリックは会社同士が『シームレスかつ垂直方向にぴったり結合して構造』になっているという点だ。ただし、この状態が続くのも『捜査官や警官が現れるまで』のことだ。捜査官らが現れるとこの構造は突然解消され、単独の会社が並んで存在していないだけになる。そして、どの会社も口をそろえて、この系列のよその会社が何をやっているかなんて知らないと突っぱねるのだ。・・・」
ジャック・ブラム(元アメリカ上院調査官)

 今までも様々な映画の中で、犯罪者や巨大企業がこうしたシステムを利用することが描かれてきました。それがモスフォンのようなオフショア・ビジネスを行う企業の正体なのだということが、ついに明らかになったのです。

 ともかく、これらの文書おかげで、我々ははじめてこの会社の全体像を見渡すことができるようになった。2013年度、モサック=フォンセカは複数の事業目的の企業100社弱に加え、カモフラージュ用の関連カンパニーが100社余りあったのだ。・・・
 モスフォンはただの法律事務所ではない、モスフォンは沢山の腕を持った大ダコの怪物だ!


<モスフォンを利用する人々>
 モスフォンを利用する人々はどんな人々なのでしょう?先ず、モスフォンが相手にする客は単なる「億万長者」ではありません。「ハイパーリッチ」と呼ばれる「超億万長者」でなければなりません。
「『ハイパーリッチ』たちは、外の世界では日常生活の一部となっている義務から自分たちを解放してくれる人間に惜しまず報酬を払います。その義務とは、税金かもしれません。負債とか裁判の判決かもしれません。でも、それだけではありません。自分の資産に国の手が及ばないようにしたいのです。そうすることによって、別れた妻や不満を募らせる資産相続人とか、怒り狂った提訴からも資産を守るのです」
ブルック・ハリントン(デンマークの社会学者であり元業界人)

 ハイパー・リッチたちによる資産隠しの行為は、今や誰もが罪悪感を抱くことなく当たり前に行う時代になったとも言われます。富の偏りが増す現代社会には、以前よりもその利用者は増えてきつつあるのかもしれません。
「アメリカ経済の支配層では、自己の富の多くをオフショアに隠すことは、もはや例外ではなく恒常化した」
ポール・グールマン(NYタイムズのコラムニスト)

<モスフォンの怪しげな顧客たち>
 「パナマ文書」の中のリストに載っていた顧客名簿から明らかになった大物顧客たちの中には、こんな人物がいました。
ジョン・」アーノルド・ブレーデンカンプ(南アフリカ出身の武器商人でジンバブエのムガベ独裁政権の協力者)
エハブ・マフルーフ(シリア大統領バシャール・アル=アサドの従兄弟)
ラミ・マルーフ、エヤド・マルーフ(シリア一の大富豪)
ジャン=クロード・ン・ダ・アメチ(コートジボアール大統領ローラン・バグボの独裁政権を支えて銀行家)
ミュラー・コンラード・ローテンバック(ジンバブエのムガベ独裁政権とつながりのある企業家)
サボ・ステパノビッチ(スロベニア人でステロイドの国際密輸団関係者とされている人物)
アナトーリ・テルナフスキー(ベラルーシの独裁者アレクサンドル・ルカシェンコの関係者)
ゲンナディ・ティムチェンコ(フィンランド系ロシア人実業家で「クリミア危機」に深く関わったとされる人物)
ブロードウェイ・コマース社(経営陣の中心に「南の女王」と呼ばれるグアテマラ人女性マルワリー・ダディアナ・チャコン・ロッセルがいる企業)
ドレックス・テクノロジーズ社(シリアの大富豪ラミ・マルーフ所有でヴァージン諸島に設立された謎の企業)
クオ・オイル社(シンガポールの企業でイランへの禁輸措置を破り石油を供給していた)
オヴラス・トレーディング社(ヒズボラの資金調達者と言われるカッシム・ダジディーンが関わっている企業)
・・・・・
<オフショア・ビジネスの欺瞞>
 ジャン・ツィーグラー(元政治家、元大学教授、元国連特別報道官)は、オフショア・ビジネスの欺瞞についてこう語っています。
「タックス・ヘイブン(租税避難地)などと言わないでくれ。聞えが良すぎる。あれはならず者国家だ!」
「脱税は言うに及ばんが、およそ犯罪と名のつくものでオフショア国家と関係のないものなど、恐らくほとんどない。バハマやパナマほど一平方メートル当たりの犯罪エネルギーが高い場所は、この世界にほかにない。もともと汚い金だろうが、犯罪に使われて汚れた金だろうが、とにかく汚い金が絡む商取引はほとんどすべて、オフショア国家に登録してある金融業者、トラスト、機関、財団を通して進められているんだ。その結果は悲惨だ。例えば、毎年何十万もの人が死んでいることを考えてみたまえ・・・。」

 さらに彼は資源のない貧しい国が生きのびるためにオフショア・ビジネスに手を出していることについてもこう断言します。
「うちは家計が苦しいから、ご近所にヘロインを売ってやろう、身体には悪いがな」なんて言わんだろう・・・。

 オフショア・ビジネスの犠牲になっているのは、持ち出すお金がたっぷりある先進国かと思われがちですが、実はそうではありません。この現実もまた皮肉で悲劇的です。特に資源に恵まれた後進国ほど、その犠牲になる可能性が高いようです。

 よりによってギニアのように石油、ガス、貴金属の豊かな鉱脈を持つ国で貧困や腐敗が蔓延する現象を、経済学者は「過剰というパラドックス」、あるいは、もっとアメリカの経済学者ジェフリー・サックスやアンドリュー・ウォーナーは既に何年も前にこの現象を調査し、資源の豊富な国の方が、資源に頼れない国より、明らかに低い成長率を記録していることを確認している。

<アイスランドの場合>
 資源がない小さなヨーロッパの小国アイスランドの場合、アフリカなど発展途上国とは異なる状況です。しかし、この国もまたオフショア・ビジネスの犠牲となり、国ごと崩壊の危機に瀕した経緯があります。
 何百年もの間、漁業を中心産業として生きていた国であるアイスランドは、長年にわたりいくつかの一族が国家の隅々まで支配を続けていました。その一派のことをアイスランド人は「オクトパス」と呼びます。伝説のオオダコ「クラーケン」のように至るところに触手を突っ込んでいるからだ。銀行に、大企業に、政党に。この強大なエリートたちは1990年代末、この国全体を事実上民営化した。最初に漁船団、それから銀行を。こうしてアイスランドは世界でも有数の豊かな国になりましたが、。
 2008年サブプライムローン破綻から始まった世界的な経済危機の際、かつての日本以上にバブル経済になっていたアイスランドは金融崩壊に陥り、経済破綻に追い込まれました。(アイスランド危機)その責任が株価を吊り上げ、国民にお金を貸し続けた3大銀行にあることは明らかで、オーナーたちは事件後に逮捕、拘留されることになりました。
 「パナマ文書」でも銀行の責任者が自分の利益を海外に移し、破綻から逃れようとしていたことが明らかになっていますが、さらに同じことを当時の首相シグムンドゥル・ブンラウゲリもしていたことが明らかになりました。政治家もまた自分だけは経済破綻から逃れようとしていたのです。

<多国籍企業の罪>
 この本ではほとんど触れられていないテーマについても指摘しておかなければなりません。それはアマゾンやスターバックス、アップルなど多国籍企業の租税トリックについてです。これらの企業の節税に対する飽くなき欲求は、マフィアや独裁者のそれに匹敵します。そして、ここでもオフショア・カンパニーは節税対策の中心的役割を果たしているようです。これらの企業が事業を展開し資金を稼いでいる国々や、そこの国民がオフショア構造のために多額の収入を失っている実態が、ルクセンブルク・リークスの調査結果で明らかになっています。
 モスフォンはこれら多国籍企業のビジネスには関わっていませんが、それはこうした多国籍企業には自力で資産を動かせる能力やノウハウがあるからなのでしょう。

<オフショア・ビジネス対策は可能なのか?>
 では、こうしたオフショア・ビジネスにストップをかけることは可能なのでしょうか?

 我々が会った専門家は口を揃えて、オフショア対策には次の二つが有効だと言う。
 そのひとつが、銀行口座の情報を世界中で自動的にやり取りするシステムの構築だ。・・・
 透明性の確保された世界規模の名簿が必要なのだ。その名簿にはカンパニーや財団の真の所有者の名が記載されることになる。そして、もし虚偽の申告をした場合は当局の捜査対象となり刑事処罰されるという条件がつく。これがオフショア撲滅に向けた二つ目のステップとなるだろう。


 しかし、こうした対策はそう簡単にできることではないでしょう。

 何とも呆れたことに、真の所有者が載った商会名簿の導入は、基本的にとうの昔に決定されているのだ。2013年、北アイルランドで開催されたG8サミットで参加国はこの名簿の導入で一致した。ただ、断固たる姿勢を貫けなかった。イギリスは本国では導入するが、問題の海外領土は例外としようとしている。そのような名簿は導入するが、当局のみが閲覧可能とすると表明した国々もある。だが、重要なのは、そのような登録簿が研究者やNPOにも公開されることだろう。・・・

 「パナマ文書」の発表以降、世界的な資金の流れを公開させるための国連などが中心となった枠組み作りが始まっています。その最重要ポイントは、国外へと持ち出される資産の所有者をすべて公開させることですが、どうなるのかこれからも注目したいと思います。
 オフショア・ビジネスの中心となるメンバーが関わって枠組みが作られないよう願いたいものです。

「パナマ文書 Panama Papers」 2016年
Breaking the Story of How the Rich and Powerful Hide Their Money
(著)バスティアン・オーバー・マイヤー Bastian Obermayer、フレデリック・オーバーマイヤー Frederik Obermayer
(訳)姫田多佳子
角川書店

映画「ザ・ランドロマット - パナマ文書流出 - The Laundromat」 2019年
(監)スティーブン・ソダーバーグ
(製)ローレンス・グレイ、グレゴリー・ジェイコブズ他
(製総)マイケル・ポレール、ダグラス・アーバンスキー他
(原)(製総)ジェイク・バーンスタイン Jake Bernstein「Secrecy World」
(脚)(製)スコット・Z・バーンズ
(撮)ピーター・アンドリュース
(PD)ハワード・カミングス
(音)デヴィッド・ホームズ
(出)メリル・ストリープ、ゲイリー・オールドマン、アントニオ・バンデラス、ジェフリー・ライト、ジェームズ・クロムウェル、シャロン・ストーン
<あらすじ>
 普通の主婦が旅行中、船の事故にあい夫を失います。ところが保険会社は死亡事故に賠償をする契約にはなっていなかったと主張し、支払いを逃れようとします。
 彼女はその保険会社の親会社がはるか皆ににあるパナマにある会社であることを突き止め、その会社に乗り込もうと旅に出ます。そころが、その会社は実在せず、まさに「ペーパー・カンパニー」であることを知ります。
 また、彼女は夫の遺産を使い、二人の出会いの地であるラスベガスでリゾート・マンションを購入することにします。ところが、購入するためにそのマンションを訪れると、倍額でその部屋は売れてしまったと告げられます。購入したのはロシアの企業家でした。彼らはそのマンションを住むためではなく、資産を運用するために利用していることを彼女は知ります。

 彼女が巻き込まれたこれらのトラブルの背後には、世界で進んでいる「違法ではないが貪欲な資産運用ビジネス」があり、「モサック=フォンセカ」という企業がいました。この映画は、ドラマの背景にあるオフショア・ビジネスの解説を同時進行で行います。
 わかりにくいオフショア・ビジネスを理解してもらうためですが、ドラマとしては今ひとつ盛り上がらないのは仕方ないでしょう。
 「パナマ文書」の流失事件でドラマが盛り上がると思いきや、現実はより深刻でした。
 事件によって明らかになったのは、実は本当の意味で「オフショア・ビジネス」の天国となっているのは、パナマでもスイスでもなく、アメリカのネバダ州であり、デラウエア州であり、ワイオミング州なのだということです。そして、もちろんその最大の勝者はアメリカだということです。
 ラストにその主婦(メリル・ストリープ)が正義の味方に変身することでなんとか盛り上がりますが・・・
<ジョン・ドゥによるマニフェストから>
 政府や情報機関で働いたことはない
 私の見方は独自のもの、自分の判断で文書を共有した
 欧州委員会やイギリス議会、アメリカ議会やあらゆる国に求める
 世界中にはびこる腐敗に終止符を打て!


 そして、映画ではさらにこう続けます。

 私たちのシステムでは奴隷は気づかない
 自分の立場にも別世界に住む主人にも
 手かせも - 難解な法律用語の裏に隠れてる
 この結果は法曹界に蔓延する腐敗がもたらした
 警告するために - 内部告発者が必要なら状況はさらに危うい
 それは民主主義の”抑制と均衡”が - 失敗したことを示している。
 深刻な・・・世界的不安がひょっとしたら・・・間近に迫っている
 だから今こそ - 本気で行動を起こすしかない
 まず疑問をひも解くと恐らくこのままでは脱税は止められない
 選ばれる議員たちは選挙資金を富者に求める
 強い動機で節税する人たち他の人たちと比べるとね
 政治的な馴れ合いのサイクルが定着し折り合いがつかない
 アメリカで破綻している- 選挙資金システムの改革は-もう待ったなし
 
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