詩人の街の愛すべき人々に捧げる映像詩集

「パターソン Paterson」

- ジム・ジャームッシュ Jim Jarmusch -
<愛おしい映画、愛おしい人々>
 ジム・ジャームッシュ監督の作品は、どれも好きなのですが、この作品は初期の作品とはかなり味わいが違います。何だかしみじみと心にしみてきて、妙に愛おしく感じられる作品なのです。主人公を演じるアダム・ドライバーのひょうひょうとした演技とトルコ系?の奥さんの愛らしさのせいもあるでしょう。他にも、自分の不幸を嘆くインド系のバス会社職員。主人公と同じようにノートに自作の詩を書き留めている少女。コインランドリーでリズムに乗り、韻を踏みながら詩作をする黒人男性。幼馴染の女性にフラれ、やけになって銃を振り回してしまった黒人青年。奥さんに怒鳴り込まれてしまった黒人バーテンダーのおじさん。・・・バーの張られたパターソン生まれのレジェンドたち・・・なんだかみんな愛おしく感じられるのです。アメリカ映画でこんなに愛すべきキャラクターばかりが登場する作品は本当に珍しいと思います。残虐な殺人事件も、ヒーローの活躍も、深刻な社会問題も、人種差別の問題もない、そしてコメディでもないアメリカ映画を久しぶりにみました。
 バスの運転手として、毎日ルーティンを守るように暮らしながら、その合間に詩をノートに書き留める静かなる男の静かな一週間の物語。
 なんだか他人には思えませんでした。というのも、僕もパターソンさんと同じように、このサイトのための文章を毎日毎日書き綴っているからです。それも店での仕事の合間に・・・。ルーティンのように働きながら書いているのと似ているのです。

<愛おしい街>
 もうひとつ魅力的なのは、同じパターソンはパターソンでも、街の方のパターソンの魅力です。アメリカ北東部ニュージャージー州の古都パターソンの街並みは、アメリカの他の街には見えず、イギリス映画に登場するどこかの街のように見えます。シルクの紡績工場などで繁栄した過去をもつ街は、当時の面影を残す町並みがノスタルジックで、僕が住む小樽の街の雰囲気に似ているのです。そういえば、小樽の街は北海道の中での珍しいバス路線が発達した街でもあります。(坂道が多く、高齢化が進む街にはバスが欠かせない存在です)
 思えば、伊藤整、小林多喜二、あがた森魚、山中恒、小熊秀雄、京極夏彦、荒巻義雄、川又千秋、山口一郎(サカナクション)・・・小樽の街も多くの作家、詩人を生み出しています。
 (パターソンの街からは、ウィリアム・C・ウィリアムズ、サム&デイヴ、ルー・コステロ、イギー・ポップ、アレン・ギンズバーグ・・・)

<愛おしい詩>
 主人公のパターソンを演じるアダム・ドライバーは、「スター・ウォーズ」シリーズの悪役カイロ・レンと同一人物とは思えない良い人ぶりで、本当に魅力的です。彼の詩の朗読がまた素敵なんです。僕はついつい画面に書かれる文字をいっしょに読みながら朗読に参加していました。
 「声に出していっしょに読みたくなる映画」なんです。
 これはもしかすると、世界初の「動く詩集」と呼ぶべき作品かもしれません!
 映画のラスト近く、この映画唯一の悲劇が起き、彼が書き溜めてきた詩が失われてしまいます。僕も以前パソコンが壊れた時に、書いている途中の文章を失くしたことがありました。(と言っても、パソコンに打ち込む前の下原稿はノートに書き残してあるのですが・・・)
 そんなわけで、ここに彼が書いていた詩を復元しようと思います。(画面を見ながら書き写しただけなんですけど・・・)是非、あなたにも映画を思い出しながら朗読していただければと思います。あなただって、今日からサラリーマン詩人になれるし、学生詩人にもなれるし、主婦詩人にだってなれるのです。
 そうそう、パターソンさんは韻を踏むのは好きではないと言っていましたが、監督であり脚本家のジム・ジャームッシュは映画の中で韻を踏んでいます。
 「パターソンの街に住むバス・ドライバーのパターソンを演じるのはアダム・ドラバー」
 「ア、ハーン」

「パターソン Paterson」 2016年
(監)(脚)ジム・ジャームッシュ Jim Jarmusch
(製)ジョシュア・アストラカン、カーター・ローガン
(撮)フレデリック・エルムズ
(PD)マーク・フリードバーグ
(詩)ロン・パジェット Ron Padgett(1942年オクラホマ州タルサ生まれの詩人兼教師)
(音)スクワール
(出)アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、バリー・シャバカヘンリー、クリフ・スミス、永瀬正敏

「Love Poem」
We have plenty of matches in our house.
We keep them on hand always.
Currently our favourite brand is Ohio Blue Tip,
thourh we used to prefer Diamond brand.
That was before we discoverd Ohio Blue Tips matches.
They are excellently packaged , sturdy little boxes
with dark and light blue and white labels with words lettered in the shape of a megaphone,
as if to say even louder to the world.
Here is the most beautiful in the world,its one-and-a-half-inch soft pine stem
by a grainy dark purple head,so sober and furious and stubbornly ready to burst into flame
lighting, perhaps, the cigarette of the woman you love,
for the first time.

「愛の詩」
我が家にはたくさんのマッチがある
常に手元に置いている
目下 お気に入りの銘柄はオハイオ印のブルーチップ
でも以前はダイヤモンド印だった
それは見つける前のことだオハイオ・チップのブルー・チップを
その素晴らしいパッケージ頑丈な作りの箱
ブルーの濃淡と白いラベル、言葉がメガホン型に書かれている、
まるで世に向かって叫んでいるようだ
これぞ世界で最も美しいマッチだ
4センチ弱な柔らかなマツ材の軸に
ざらざらした濃い青紫の頭薬
厳粛にすさまじくも断固たる構え
炎と燃えるために
愛する女性の煙草に
初めて火を付けたなら・・・ 
Here is the most beautiful match in the world,
so sober and furious
and stubbornly ready to burst into flame,
lighting, perhaps, the cigarette of the woman you love,
for the first time, and it was never really the same after that .
All this will we give you.
That is what you gave me, I
become the cigarette and you the match, or I
the match and you the cigarette, blazing with kisses that smourder toward heaven.

これぞ世界で最も美しいマッチだ
厳粛ですさまじくも
断固たる構え 炎と燃えるために
おそらく愛する女性の煙草に
初めて火を付けたなら何かが変わる
そんなすべてを与えよう
君はぼくにくれた
ぼくは煙になり、君はマッチになった
あるいは
ぼくがマッチで君は煙草
キスに燃え上がり天国に向かってくすぶる 
「Another one」
When you're a child you learn
there are three dimensions:
hight, width, and depth.
Like a shoebox.
Then later you hear
there's a fourth dimension:
time.
Hmm
Then some say
there can be five, six, seven・・・

「もうひとつ」
ぼくらは子供の時
3次元の存在を知る
高さ、幅、奥行き
たとえば靴箱だ
そして後年
4次元目があると聞く
時間だ
さらに可能性を知る
5次元、6次元、7次元と・・・ 
「I knock off work」
have a beer at the bar
and feel glad

「仕事を終えて」
バーでビールを飲む
グラスを見ながら
うれしくなる 
「Poem」
I'm in the house
I's nice out:
warm
sun on cold snow.
First day of spring
or last of winter.
My legs run up the Stairs
and out the door,may top
half here writing

「詩」
ぼくは家にいる
外は心地よい
暖かく
積雪の上に陽光
春の最初の日か
冬の最後の日
ぼくの脚は階段を駆け上がり外へ出る
上半身はここで書き続ける 
「Glow」
When I wake up earlier than you and you are turned to face me, face
on the pillow and hair spread around.
I take a chane and stare at you,
amazed in love and afraid that you might open
your eyes and have the daylights scared out of you
But may be with the daylights gone
you'd see how much my chest and head
implode for you, their voices crapped
inside like unborn children fearring
they will never see the light of day.
the opening in the wall now dimly glows
its rainy blue and gray.
I tie my shoes
and go down stairs to put the coffee on

「光」
君より早く目が覚めると
君はぼくの方を向いていて
顔は枕の上 髪は広がっている
ぼくは勇敢に君の顔を見つめ
愛の力に驚く
君が目を開けないかとか
脅えないかと恐れながら
でも 日光が去ったら 君もわかるだろう
どんなにぼくの頭や胸が破裂しそうか
彼らの声は囚われたままだ
まるで日の光を見られるかと恐れる胎児のように
開口部がぼんやりと光る
雨に濡れた青灰色に
ぼくは靴紐を結び
階下へ下りてコーヒーを淹れる
「The Run」
I go through
trillions of molecules
that move aside
to make way for me
while on both sides
trillions more
stay where they are.
The wind shield wiper blade starts to squeak.
The rain has stopped.
I stop.

I go through
trillions of molecules
that move aside
to make way for me
while on both sides
trillions more
stay where shield wiper blade
starts to squeak.
The rain has stopped.
I stop.
on the corner a boy in a yellow raincoat
holding his mother's hand

「走る」
ぼくは走りぬける
何兆もの分子が
脇へどいて
道を作っていく中を
両脇には
さらに何兆もが
動かずにいる
フロントガラスのワイパーがきしみ始める
雨は上がった
ぼくも止まった
ぼくは走り抜ける

黄色いレインコートの少年が母親と手をつないでいる
「Pumpkin」
My little pumpkin,
I like to think about other girls sometimes,
but the truth is
if you ever left me
I'd tear my heart out
and never be anyone like you
How embarrrassing

「かわいい君」
ぼくのかわいい君
ぼくもたまにはほかの
女性のことを考えてみたい
でも 正直に言うと
もし君がぼくのもとを去ったら
ぼくはこの心をずたずたに裂いて
二度と元に戻さないだろう
君のような人はほかにいない
恥ずかしいけど
「The Line」
There's an old song
my grandfather used to sing
that has the question,
"Or would you rather be a fish?"
In the same question
but with a mule and a pig,
but the one I hear some times in my head is the fish one.
Would you rather be an fish !
As if the rest of the song
didn't have to be there

「その一行」
古い歌がある
ぼくの祖父がよく歌っていた
歌詞は尋ねる
「君は魚になりたいかい?」
その同じ歌は
同じ質問を繰り返す
ただし、ロバやブタで
だが時々ぼくの頭の中に響くのは
魚の歌詞
ただその一行だけだ
「君は魚になりたいかい?」
まるでそれ以外の歌詞は
必要ないかのように

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