ハリウッドが生んだ脱ハリウッドの巨匠


- ポール・トーマス・アンダーソン Paul Thomas Anderson -
<ポール・トーマス・アンダーソン>
 1970年6月26日、ポール・トーマス・アンダーソン Paul Thomas Anderson はロサンゼルスに生まれました。父親は俳優・司会者のアーネスト・アンダーソンで芸能一家に育ち、早くから映画に興味を持つようになった。
 そんな彼の青春時代が、彼の作品の多くに繁栄されています。「リコリス・ピザ」はその代表作。
 ニューヨーク大学に入学後、すぐに中退し、テレビ局で働き始めます。
 22歳の時に撮った短編映画「シガレッツ&コーヒー」がサンダンス映画祭で評価され映画界入り。
 1996年「シガレッツ&コーヒー」を元に長編映画「ハードエイト」を撮り、ハリウッド・デビューを果たしました。
 1997年「ブギーナイツ」も彼が学生時代に撮影した短編モキュメンタリー映画を下敷きにした長編作品でアカデミー脚本賞にノミネート。興行的にもヒットしたことから、一躍ハリウッドの注目監督となりました。この作品も、彼ならではの視点が生かされた時代を切り取った作品でした。
 1999年「マグノリア」はいよいよその作品は完成度を増し、ベルリン国際映画祭金熊賞(グランプリ)を受賞。当時はロバート・アルトマンの後継者として高い評価を得ることになりました。しかし、その後、ロバート・アルトマン的ないくつものエピソードを重ねるスタイルからは離れます。
 その後も、彼の作品はアメリカよりもヨーロッパで高い評価を得ることになり、ベルリン、カンヌ、ヴァネチア三大映画祭すべてで監督賞を受賞した巨匠となりました。
 振り返ってみると、どの作品も「時代の空気」と「不条理な愛」が描かれている気がします。そして、それは彼の育ったハリウッドという特殊な環境が生み出した不思議で可笑しな世界が生み出したように思います。

「ブギー・ナイツ Boogie Nights」 1997年 
(監)(脚)ポール・トーマス・アンダーソン Paul Thomas Anderson
(撮)ロバート・エルスウィット Robert Elswit
(音)マイケル・ペン Michael Penn
(出)マーク・ウォルバーグ、 バート・レイノルズ、 ジュリアン・ムーア 
 1977年ポルノ映画の製作現場周辺で繰り広げられる数々のドラマを群像劇として見事に組み上げた作品。
 元になっているのは監督が10代の頃製作した短編モキュメンタリー映画。まさに早熟の天才監督。
ポルノ映画界の奇才監督にはバート・レイノルズ、その監督に見出されたシンデレラ・ボーイがエディ(マーク・ウォルバーグ)が主人公。
それだけでなく主人公は複数いるのがこの映画の特徴でした。
ディスコ・ブーム真直中の底抜けに明るい雰囲気とお馬鹿な雰囲気が懐かしい作品。 

「マグノリア」Magnolia 1999年
(監)(製)(脚)ポール・トーマス・アンダーソン
(撮)ロバート・エルスウィット(編)ディラン・ティチェナー(音)ジョン・ブライオン(ナレ)リッキー・ジェイ
(出)フィリップ・ベイカー・ホール、トム・クルーズ、メローラ・ウォルターズ、ジェイソン・ロバーツ、ウィリアム・H・メイシー
ジョン・C・ライリー、ジュリアン・ムーア、フィリップ・シーモア・ホフマン
ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
エンド・テーマに使用されたエイミー・マンの曲「セイブ・ミー」を映像化したと言われる作品。
一見関係のない9人の男女の24時間を並行して展開させる異色のオムニバス映画
この作品まではロバート・アルトマンの影響大でしたが、この後、新たなスタイルへ向かいます。

「パンチドランク・ラブ」 PUNCH-DRINK LOVE 2002年
(監)(製)(脚)ポール・トーマス・アンダーソン
(製)ジョアン・セラー、ダニエル・ルピ(撮)ロバート・エルスウィット(PD)ウィリアム・アーノルド
(衣)マーク・ブリッジス(編)レスリー・ジョーンズ(音)ジョン・ブライオン
(出)アダム・サンドラー、エイミー・ワトソン、ルイス・ガスマン、フィリップ・シーモア・ホフマン 
<あらすじ>
キレると暴れて止まらなくなるバリーは、普段は女性に声もかけられない真面目人間。
ある日、テレフォン・セックスに電話をかけたために脅迫を受けることになります。
しかし、そんな彼を愛してくれる女性が突然現れ、彼の人生は急変します。
カンヌ国際映画祭監督賞
ポール・トーマス・アンダーソンがこの作品で一躍世界の巨匠の仲間入りを果たすことに。
美しい音楽と不気味な音楽がからみあい、不気味で愛すべき恋愛ドラマが生まれました。
アダム・サンドラーのとっちゃん坊屋的なキャラが見事にはまっています。
それにしても、リナはなぜバリーに惚れてしまったんだろう?
写真で好きになったということは、誰かに似ていた?続編も見てみたい。

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」There Will Be Blad 2007年
(監)(脚)ポール・トーマス・アンダーソン
(原)アプトン・シンクレア(撮)ロバート・エルスウィット(音)ジョニー・グリーンウッド
(出)ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケヴィン・J・オコナー
石油に魅せられた男の人生を超圧縮バージョンで描き出したアメリカの叙事詩
いよいよ巨匠の仲間入りという感じの風格ある作品でした。
アカデミー主演男優賞、撮影賞受賞、ベルリン国際映画祭監督賞 

「ザ・マスター The Master」 2012年
(監)(製)(脚)ポール・トーマス・アンダーソン
(撮)ミハイ・マライメア・Jr(編)レスリー・ジョーンズ、デヴィッド・クランク(音)ジョニー・グリーンウッド(レディオ・ヘッド)
(出)ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス
ローラ・ダーン、アンバー・チルダーズ、ジェシー・プレモンズ  
ヴェネチア国際映画祭監督賞
 1950年代に誕生したアメリカの新興宗教「サイエントロジー」がモデルらしいが、ほぼオリジナルのストーリー。
とにかくホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンの演技が凄い!
 ホアキン・フェニックスは今は亡きリバー・フェニックスと共に「サイエントロジー」とは異なる新興宗教の信者だった両親のもとで育てられました。
そのうえ、兄のリバー・フェニックスが目の前で薬物の過剰摂取で死ぬという衝撃的な体験をしています。
一時は映画界を引退しミュージシャンに転向すると宣言。
その頃の事件を映画にしたフェイク・ムービーでも話題になりました。
(アメリカ版の山田孝之でだ!)そんなエキセントリックな俳優にピッタリの役どころです。表情も凄いけど、背中の歪み具合がまた凄い。
 2014年リバー・フェニックスと同じく薬物過剰摂取でこの世を去るフィリップ・シーモア・ホフマンがカルト宗教指導者を見事に演じています。
2005年の「カポーティ」でアカデミー主演男優賞を受賞したトルーマン・カポーティ―役以来のはまり役。
 レディオ・ヘッドのメンバー、ジョニー・グリーンウッドの音楽が、時に不気味に、時にコミカルに映画を盛り上げています。
そのオリジナル曲に加えて1950年代のヒット曲がまたいい味を出しています。
曲名 演奏 作者
「Get Thee Behind Me Satan」 エラ・フィッツジェラルド
Ella Fitzgerald
アーヴィング・バーリン
Irving Berlin
「Sweet Sue,Just You」 ノロ・モラレス
Noro Morales
Victor Young & Will Harris
「You Got To My Head」  Lancy Clinton & His Orchestra Haven Gillespie & J.Fred Coots
「Don't Sit Under The AppleTree(with Anyone Else But Me)」 Madison Beaty Lew Brwn and Others
「Daneer's In Love」  デューク・エリントン
Duke Ellington
Duke Ellington
「Lotus Blossom」 Duke Ellington Billy Strayhorn
「I'll Go No More A Roving」 Phillip Seymore Hoffman  Justin Goldman & Hal Willner
「A-Tistet A-Tastet」 Melora Walters エラ・フィッツジェラルド
Ella Fitzgerald,Van Alexander
「No Oter Love」 ジョー・スタッフォード
Joe Stafford 
Bob Russell,Paul Weston
「中国行きのスローボート On A Slow Boat To China」 Phillip Seymore Hoffman フランク・レッサー
Frank Loesser
「Changing Partners」 Helen Forrest  Larry Coleman & Joe Darion

「インヒアレント・ヴァイス Inherent Vice」 2014年 
(監)(脚)ポール・トーマス・アンダーソン Paul Thomas Anderson
(原)トマス・ピンチョン「LAヴァイス」
(撮)ロバート・エルスウィット(「ゼア・ウィル・ビー・ア・ブラッド」でアカデミー撮影賞受賞)
(編)レスリー・ジョーンズ
(衣)マーク・ブリッジス
(音)ジョニー・グリーンウッド
(音監)リンダ・コーエン
(ナレーション)ジョアンナ・ニューサム
(出)ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、ベニチオ・デル・トロ、リース・ウィザースプーン
マーティン・ショート、マーヤ・ルドルフ、ジョアンナ・ニューサム 
<あらすじ>
 ロスで私立探偵をしているドックの前に昔の恋人シャスタが現れます。
 彼女は自分の愛人が狙われていて、自分もその仲間になるよう脅迫されていると相談します。
まだ彼女を忘れられずにいた彼は、彼女の愛人でありパトロンの大物実業家ミッキーについて調べ始めます。
 するとミッキーとシャスタは共に行方不明となります。二人を探す彼は、ミッキーが精神病院にいることを知り、彼に会いにゆきます。
彼は麻薬取引を行う大きな組織「黄金の牙」によって、精神病院に入れられ洗脳されようとしていました。
そんな中、彼が潜入する場所でなぜか死んだはずの男コーイと出会い、彼が組織に使われていることを知ります。
 同じ頃、かつて自分の相棒をその組織に殺された刑事ビッグフットは、その復讐の機会を狙っていて、ドックを組織に侵入させようとします。
ドックは、組織のメンバーによりつかまってしまいますが、そこから脱出し、大量の薬物を盗み出しことに成功します。
さて、二人はそれを使って何をするのか? 
それまで、トマス・ピンチョンは一度も自作の映画化を許可したことがなかった。
この作品が初めての映画化作品となった。

「ファントム・スレッド」Phantom Thread 2017年
(監)(製)(脚)ポール・トーマス・アンダーソン
(製総)アダム・ソムナー他(PD)マーク・ティルデスリー(衣)マーク・ブリッジス
(編)ディラン・ティチェナー(音)ジョニー・グリーンウッド
(出)ダニエル・デイ=ルイス、レスリー・マンヴィル、ヴィッキー・クリープス
アカデミー衣装デザイン賞
オートクチュールの世界を描いた傑作
サスペンス映画であり、風変わりななラブ・ストーリーでもある不思議な映画。
愛とは、美とは不思議なものなのです。
衣装だけでなく映像、音楽、演技どれも一級品です! 

「リコリス・ピザ」 LICORICE PIZZA 2021年
(監)(製)(脚)(撮)ポール・トーマス・アンダーソン
(製)サラ・マーフィ、アダム・ソムナー(製総)ジョアン・セラー、ダニエル・ルピ他(撮)マイケル・バウマン(PD)フロレンシア・マーティン
(衣)マーク・ブリッジス(編)アンディ・ユルゲンセン(音)ジョニー・グリーンウッド
(出)アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディ 
<あらすじ>
15歳の高校生ゲイリーは学校に写真撮影に来ていたバイトの年上の女性アラナに一目ぼれ。
自分の俳優活動に付き添いとして参加してもらい、彼が始めたウォーターベッド販売のビジネス・パートナーとして雇います。
しかし、すぐに可愛いいい子に浮気をするゲイリーにアラナは飽きれてしまい、自分も女優として働き始めます。 
1973年のロサンゼルスを舞台にした実話に基づく作品。
フィリップ・シーモア・ホフマンの息子が憎めない主人公の少年を見事に演じています。
(ゲイリー・コーツという実在の映画プロデューサー)
ジャック・ホールデン(ショーン・ペン)はウィリアム・ホールデン。トム・ウェイツの役はサム・ペキンパー。
ブラッドリー・クーパー演じるジョン・ピータースはそのまま「スター誕生」などの実在の製作者。
ファッション、音楽、小道具、登場人物など時代が見事に再現されています。
「リコリス・ピザ」なんて、どこに出てきた?と思っていたら、Licorice Pizza =アナログ盤LPのことなのだそうです。なるほど!
曲名 演奏  作曲・作詞  コメント 
「July Tree」  ニーナ・シモン
Nina Simone 
Eve Meriam
Irma Jurist
 
「I Wished On The Moon」  ローランド・カーク
Rahsaan Roland Kirk 
Dorothy Parker
Ralph Rainger
 
「I Left My Heart In San Francisco」  Johnny Guarnieri Douglass Cross
George Cory 
 
「Sometimes I'm Happy」 Johnny Guarnieri  Irving Caesar
Clifford Grey他 
 
「Stumblin' In」  Suzi Quatro
Chris Norman
Michael Chapman
Nicholas Chinn
 
「Cotton Field(The Cotton Song)」  Sandler & Young Huddie Ledbetter   
「At The Crossroads」  George Hamilton  Leslie Bricusse   
「Muirsheen Durkin」  Luke Kelly &
The Dubliners 
Trad.   
「I Saw The Lght」  トッド・ラングレン
Todd Rundgren 
←   
「Ac-Cent-Ichu-At-The Positive」  ビング・クロスビー
ザ・アンドリュー・シスターズ
Bing Crosby & The Andrew Sisters 
Harold Arlen
Johnny Marcer
 
「13 Questions」 Seatrain  Andy Kulberg
Jim Roberts 
 
「Blue Sands」  チコ・ハミルトン・カルテット
Chico Hamilton Quintet 
Buddy Collette   
「But You'r Mine」  ソニー&シェール
Sonny & Cher 
Sonny Bono   
「My Ding-A-Ling」  チャック・ベリー
スティーブ・ミラー・バンド
Chuck Berry with
Steve Miller Band 
Dave Bartholomew
 
「Peace Frog」  ザ・ドアーズ
The Doors 
John Desmore
Robert Krieger他 
 
「If You Could Read My Mind」  ゴードン・ライトフット
Gordon Lightfoot 
←   
「Softly Whispering I Love You」  The English Congregation  Roger Cook
Roger Greenaway 
 
「Like To Get To Knew You」  Spanky & Our Gang  Stuart Scharf   
「Hot Smoke & Sasa Frass」  The Bubble Puppy  Roy Cox
Rod Prince 
 
「Lisa,Listen to Me」  ブラッド、スウェット&ティアーズ
Blood , Sweat & Tears 
David C.-Thomas
Dick Hallington
 
「Make Up Your Mind」  Daddy Dookie
and the Fun House
Will Angarola
James Kelly他
 
「Daddy Dookie Lament」  Daddy Dookie
and the Fun House 
Will Angarola
James Kelly他 
 
「Gypsy in My Soul」  Johnny Guarnieri  Clay Boland
Moe Jaffe 
 
「You'll Never Know」  Johnny Guarnieri  Mack Gordon
Harry Warren 
 
「Let Me Roll It」  ポール・マッカトニー&ウィングス
Paul McCartney & Wings
Paul McCartney
Linda McCartney
 
「Life On Mars」  デヴィッド・ボウイ
David Bowie 
David Bowie   
「Change Partners」 スティーブン・スティルス
Stephen Stills
Stephen Stills  
「Slip Away」  クラレンス・カーター
Clarence Carter 
Markas Daniels
Wilbur Turrell他 
 
「7 Rooms of Gloom」  フォートップス
Four Tops 
L.ドジャー
B.ホランド
E.ホランド
 
「Young Girl」  Gary Puckett and the Union Gap  Jerry Fuller  
「Diamod Girl」  シールズ&クロフツ
Seals & Crofts 
Jimmy Seals
Darrell Crofts 
 
「Greensleeves」  Mason Williams  
「Barabajagal(Love is Hot)」  Donovan with
The Jeff Beck Group
Donovan  
「Walk Away」  The James Gang  ジョー・ウォルシュ
Joseph Walsh 
 
「The Horse」  Jasse James Cliff Nobles   
「Tomorrow May Not Be Your Day」  タジ・マハール
Taji Mahal
 

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