「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯 Pat Garrett and Billy the Kid」 1973年

- サム・ペキンパー Sam Peckinpah -

<傍役(わきやく)グラフィティー>
 1980年代に出版された本で「傍役グラフィティー」という面白い本がありました。(作者は川本三郎、真淵哲)その名のとおり映画の中で傍役として活躍している俳優たちについて書かれた本です。中には、ハーヴェイ・カイテルのように、その後主役級の俳優になった人もいますが、そのほとんどは、その後もほとんど知られることのなかった俳優ばかりです。さらに、著者の趣味もあり、それらの俳優たちが登場する作品の多くは、B級映画で、ニューシネマや西部劇など地味ながら味わい深い作品が中心となっていました。(だいたいにおいて、傍役が活躍する映画はB級ものが多いのですが・・)

サム・ペキンパーの代表作>
 たぶんその本の中で最も数多く登場しているのが、かつて暴力映画の巨匠と呼ばれたサム・ペキンパー監督作品です。彼が1970年代に作った作品群は、かつての黒沢明監督作品のように常に常連俳優たちによって脇が固められ、それが独自の風味を出していることで有名でした。そんな彼の作品群の中でも特に豪華なオール・スター・キャスト作品、いやオール・「マイナー・スター」作品こそ「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯 Pat Garrett and Billy the Kid」だったのです。

<3人のミュージシャン>
 この作品は音楽ファンにとって、さらにうれしい作品になっています。それはこの映画には3人のミュージシャンが出演しているからです。
 主役のビリー・ザ・キッドを演じるのは、若手シンガー・ソング・ライターのクリス・クリストファーソン。最近はB級映画の悪役として活躍しているような気もしますが、当時はカントリー系フォークの人気歌手でした。(スティーブン・セガールの「沈黙の断崖」にも、ザ・バンドのレヴォン・ヘルムとともに出演しています)
 主役を演じたクリス・クリストファーソンとこの映画での共演がきっかけで結婚することになるシンガー・ソングライターのリタ・クーリッジも、この映画でインディアンの女性を演じています。彼女もまたカントリー系のシンガー・ソングライターで「ハイヤー&ハイヤー」の大ヒットで有名です。
 そしてなんと言っても、この映画にとって最大の売りとなったのが、超大物ボブ・ディランの出演です。彼は、ビリーの仲間としてナイフの達人を演じています。

<ボブ・ディラン>
 サム・ペキンパーの傑作西部劇「ワイルド・バンチ」に憧れ、いつかは映画を撮ることを考えていたディランは、この映画に喜んで参加。奥さんのサラも連れてメキシコのデュランゴでの撮影にのぞみました。ところがどっこい当時のペキンパーはメチャメチャな酒乱で撮影はいつまでも終わらず延々と長引きました。あげくの果てに映画会社のMGMとペキンパーが衝突し、ついにはフィルムの編集権を奪われてしまいます。
 そのせいか出来上がった作品でのディランの出番は少なく、セリフもほんのわずかでした。タイトル・ロールでは3番目の扱いにもかかわらず、すっかり脇に追いやられていたのです。ペキンパーが使った史上最高の傍役かもしれません。(しかし、彼の演技力はその程度だったのかもしれません。残念ながら、お世辞にも名演技には見えませんでした)

<もう一人の主役>
 この映画は、ビリー・ザ・キッドことウィリアム・H・ボニーが、彼を追い続けた保安官のパット・ギャレットと対決し、21才の若さで生涯を終えるまでの物語です。しかし、主役は原題(”Pat Garrett and Billy the Kid”)にもあるとうりパット・ギャレット(ジェームス・コバーンが演じています)なのかもしれません。
 かつてはギャング仲間だったビリーを殺さなければならない男の苦悩は、古き良き西部開拓時代の終わりをも象徴しており、それがこの作品のテーマになっていたと言えるでしょう。そのせいか、数多く登場する傍役たちにも実に良いシーンが用意され、それぞれがひとつの時代の終わりを表現する意味をもっていたように思えます。

<絵になる傍役たち>
 逮捕されたビリーをサディスティックに殴り続ける古い世代の保安官を演じたR・G・アームストロング R.G.Armstrong。
 ビリーの仲間でありながら、パット・ギャレットの苦悩をも理解する無口な古き良きタイプのガンマンを演じたルーク・アスキュー Luke Askew。彼はこの事件の証人として生き続けることになります。
 ビリーの逮捕と死刑を願う若手の保安官助手、新しい時代の権力秩序を象徴する人物を演じたのは、ジョン・ベック John Beck。
 捕らわれのビリーとチェスをし、気押されして負け続ける見張り役の保安官助手。人が良すぎて損をする役回りが得意なマット・クラーク Mat Clark。
 ビリーとの決闘でイカサマがバレて逆に撃ち殺されるとぼけたガンマンには、古き良き西部劇時代のベテラン脇役ジャック・イーラム Jack Elam。
 ペキンパー映画に必ずといってよいほど登場するメキシコ人の悪者を演じた常連のエミリオ・フェルナンデス Emilio Fernandez。
 そして、極めつけはディランの名曲「天国への扉」が流れる名場面、川縁での撃ち合いで命を落とす年老いたカウボーイ役のスリム・ピケンズ Slim Pickensです。彼の死は、まさに西部開拓史というロマンティックな物語の終焉を象徴していたと言えるでしょう。
 この他にも、後に「パリ・テキサス」で主役を演じることになる殺され役ナンバー1俳優、ハリー・ディーン・スタントン Harry Dean Stanton。ペキンパー映画に欠かせない薄汚い悪役専門のL・Q・ジョーンズ L.Q.Jones。これまた年をとってからは「大統領の陰謀」などで主演級の俳優となった渋い脇役、ジェースン・ロバーツ Jason Robards。
 その他、ジャック・ドッドソン Jack Dudson、リチャード・ジャッケル Richard Jackel、ジョン・デイヴィス・チャンドラー John Davis Chandler、それになんとペキンパー本人も珍しく出演しているそうです。(どのシーンなのかわかりません?)

<消えた傍役たち>
 80年代以降こうした傍役たちが主役を食うほど活躍する映画は、ほとんど見られなくなりました。(スターに頼る時代になったということでしょう)アメリカ映画では、ロバート・アルトマンやインディーズ系の監督たちあたりが数少ない例外かもしれません。残念ながら、」アメリカ映画からは、土臭さとともに男っぽい味わいも失われてしまったようです。そう考えると、この映画は西部開拓史への郷愁だけでなく、70年代アメリカ映画への懐かしさをも感じさせてくれる作品になったようです。
 1970年代、アメリカ映画は大きな転換期でした。どの映画関係者も若く、作品は未完成で、スターもいませんでした。しかし、完成度は高くなくても、それぞれの作品で俳優一人一人が輝いていたような気がします。そんな愛すべき傍役たちの記念碑のひとつがこの映画だったのです。

「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯 Pat Garrett and Billy the Kid」 1973年公開
(監)サム・ペキンパー Sam Peckinpah
(製)ゴードン・キャロル Gordon Carroll
(脚)ルディー・ワーリッツァー Rudy Wurliter
(撮)ジョン・コクィロン John Coquilon
(編)ロジャー・スポティスウッド、その他ペキンパーによる編集版もあり
(音)ボブ・ディラン Bob Dylan
(出)ジェームス・コバーン、クリス・クリストファーソン、ジェーソン・ロバーツ、ジャック・イーラム、リチャード・ジャッケル、ボブ・ディラン、スリム・ピケンズ、リタ・クーリッジ、L・Q・ジョーンズ、ハリー・ディーン・スタントン、R・G・アームストロング、ルーク・アスキュー、ジョン・ベック、マット・クラーク、チャールズ・マーティン・スミス

<あらすじ>
 21歳という若さでこの世を去った伝説のガンマン、ビリー・ザ・キッドが宿敵である保安官パット・ギャレットに射殺されるまでの半生を描いています。ビリーを少しずつ追い詰めるパットとビリーの間には、敵味方というよりは父親と子供のような心のつながりが生まれるようになります。しかし、保安官であるパットはビリーと対決しないわけにはゆきませんでした。いよいよ二人の対決の時が迫ります。

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