エイリアンVSレプリカントVS人類 |
<「プロメテウス」の火>
この作品のタイトルに「エイリアン」の文字はありません。その意味で、この作品とこの後のシリーズ作品は、これまでの「エイリアン」シリーズとは異なる別物のシリーズと考えるべきのようです。実際、この作品に「エイリアン」はほとんど出てきません。この作品の主役は、そもそも「エイリアン」ではないのです。
改めて考えてみると、「エイリアン」の第一作も本当は、エイリアンはあくまでも宇宙空間での恐怖を演出するための仕掛けであり、ヒロインのリプリーこそが主役でした。それが第二作でジェームス・キャメロンが監督して「エイリアン」をSF戦争映画の傑作にしたことで、「エイリアン」は最強宇宙兵器もしくは最強宇宙生物として映画の主役の座を奪ってしまいました。その後の作品は、それぞれの新人監督たちが自分流で「エイリアン」というキャラクターを自分なりに演出して、娯楽映画としての新境地を試す場となりました。シリーズは「エイリアン」というのキャラクターありきで続いたのでした。
それに対し、この「エイリアン」シリーズの「前日譚」となる作品は、エイリアン誕生の物語なので当然、彼は主人公ではないのです。だからこそ、このシリーズの監督は、原点に戻って、「エイリアン」の生みの親ともいえるリドリー・スコットが担当しているのです。
<「2001年宇宙の旅」の裏返し>
この作品のストーリーは、SF映画の傑作「2001年宇宙の旅」の裏返しになっています。遥かな昔に人類を生み出したと思われる宇宙生命体「エンジニア」のが残した遺跡から物語は始まります。そこに残された人類への招待状に従って、人類はそこに観測隊を送ることになります。遠い星までの旅なので、「コールドスリープ」によって乗組員は運ばれることになり、その間、宇宙船の管理をするのが人工知能「HAL」に代わるAIロボットのデイヴィッドでした。「2001年宇宙の旅」では、旅の途中でコンピューターによる反乱が起き、乗組員の命が次々に失われます。そして、唯一生き残ったボーマン船長だけが目的地に到達し、彼は遥かなる時空の旅に出発。超人類「スターチャイルド」として再生し、物語は終わりました。
そもそも「プロメテウス」とは、神の所有物であった「火」を人類のために持ち出してしまったギリシャ神話の神の名前です。この作品でも、神=エンジニアは人類に「火」をもたらすために遥か宇宙の彼方へと招きます。ところが、「エンジニア」は人類に何かを渡す前に、エイリアンによって絶滅させられていたのでした。たぶん彼らが人類に渡そうと思っていたのは、究極の兵器である「エイリアン」ではなかったはずです。でも、なぜ彼らは自分たちを滅ぼすような生物兵器を生み出してしまったのでしょうか?
呼び寄せた異星人が、自分たちを侵略しようとしていた場合の防衛手段だったのでしょうか?
判定基準に達していない場合にその生命体を絶滅させてやり直すための手段だったのでしょうか?
この作品の問題点は、登場する人間たちがあまりに無防備で簡単にやられてしまうことです。観客はみな「エイリアン」という最強最悪の生命体のことを知っているので、登場人物たちが「正体不明の惑星でもっと慎重に行動するべきところだろ!」と突っ込まざるを得ません。人類を代表している探検隊なのですから、もっと判断力があり、慎重であるべきなのに・・・。第一作のように偶然エイリアンに出会った普通の宇宙船労働者とはわけが違うのです!確かにまでこの時点で人類は「エイリアン」という最強の生命体と出会ってはいないのですが、初めての惑星に降りるのに呼吸が出来るからといって、簡単にヘルメットを外すなんてあり得ないでしょう。
そんな中、地球から不老不死の秘密を知るために乗り込んでいたプロジェクトの出資者であるウェイランドが現れます。その見た目は、「2001年宇宙の旅」のボーマン船長そっくりです。ところが、彼は不老不死の秘密を教えてもらうどころか、あっさりの殺されてしまいます。わざわざ来たのにご苦労でした・・・。
結局、お約束の女性の生物学者と人造人間のデイヴィッドだけが生き残り、物語は終わります。「プロメテウス PROMETHEUS」 2012年
(監)(製)リドリー・スコット
(製)デヴィッド・ガイラ―、ウォルター・ヒル
(脚)デイモン・リンデロフ、ジョン・スペイツ
(撮)ダリウス・ウォルスキー
(PD)アーサー・マックス
(音)マルク・ストライテンフェルト
(出)ノオミ・ラパス、マイケル・フェスベンダー、 ガイ・ピアース、イドリス・エルバ、シャーリーズ・セロン、ベネディクト・ウォン
<「ブレードランナー」の目>
シリーズ第2作のオープニングは、リドリー・スコットの代表作の一つSF映画の名作「ブレードランナー」と同じ眼球のアップから始まります。眼球をアップにして映し出し、それで人間か人造人間(レプリカント)かを判定するのがブレードランナーの仕事でした。そしてこの作品のオープニングに登場する目は、前作「プロメテウス」で唯一生き残った人造人間デイヴィッドのものでした。当然、観客はデイヴィッドが人間ではないことを知っていますが、この後、もう一人同じ目を持つウォルターという人造人間が登場します。しかし、彼はデイヴィッドが人間に近くなり過ぎた部分を修正した改良型であると、自ら説明します。似ているが違う人造人間が二人。
この作品は、最後に旧型レプリカントと新型レプリカントが最終兵器のエイリアンを巡って戦うことになるので、「ブレードランナー」の別バージョンと言えます。
<あらすじ>
「コヴェナント(約束)号」という巨大宇宙船が2000人の胎児を乗せて移住可能な惑星に向かって航行していました。ところが、目標の惑星まで7年というところで、人類が生存可能な新しい惑星を発見。そこでその惑星の調査を行うためにわき道にそれることにします。(長い年月をかけて計画を立ててきたはずなのに、この判断はどうかと思いますが?)案の定、調査を開始した探検隊のメンバーが謎の感染症で倒れてしまいます。そして、その体内から謎の生命体が誕生します。気体となって体内に侵入する謎のウイルス(生命体)により、次々に隊員の命が失われますが、その危機を救ったのはその惑星唯一の生存者デイヴィッドでした。しかし、隊員たちを安全な場所に匿ったデイヴィッドと研究室で話しをしながらウォルターは、どこか違和感を感じていました。
我が名はオジマンディアス、王の中の王なり
我が偉業を見よ、全能の神、そして絶望せよ!
この詩を暗唱したデイヴィッドは、その作者をバイロンと説明しましたが、それがバイロンの親友シェリーであることをウォルターは知っていたのです。デイヴィッドはもしかすると壊れているかもしれない。そう考えたのです。そして彼の予想どうり、デイヴィッドこそが謎の気体を生み出し、その惑星の住人たちを全滅させた黒幕でした。このままではコヴェント号の乗員だけでなく2000人の移民たちも危ない。こうして、ウォルターとデイヴィッドの戦闘が始まります。
映画のラスト、その戦いの勝者がデイヴィッドだったことが明かされます。そしてデイヴィッドは自分が開発したエイリアンの種を冷凍庫に保存し、目的の惑星へと出発します。この時、冷凍庫にしまった円形の容器らしきものは、もしかすると、前作「プロメテウス」のオープニングで出てきたのでは!巨大な滝の上で異星人(エンジニア)が口に入れ、ウイルスに冒されたようになり滝の底に落ちて行った場面。あの時に口に入れたのが、エイリアンの種カプセルだったのではないでしょうか?
<第3作はどうなるのか?>
もしかすると、その場面は「エンジニア」が自殺したのか?進化するための儀式だったのか?「エンジニア」のその後は?
この作品のオープニングが「プロメテウス」の始まりにつながったとすれば、「プロメテウス」のオープニングは第3作につながるのかもしれません。だとすれば、「エンジニア」の進化した姿が第3作の主役になるのかもしれません。それがオリジナルの「エイリアン」か?それとも意外に「人間」だったりして!
このシリーズの評判はあまりよろしくないようです。僕も実は公開時には見ていませんでした。でも、こうして続けて2作を見てみると、何か奥の深い仕掛けがあるような気がしてきました。そう思わせるだけの実績がリドリー・スコット監督にはあるということでしょうか。
先ずは最終作のタイトルはどうなるのか?そこから楽しみです。「エイリアン:コヴェナント Alien : Covenant」 2017年
(監)(製)リドリー・スコット
(脚)ジョン・ローガン、ダンテ・ハーパー
(原)ジャック・パグレン他
(撮)ダリウス・ウォルスキー
(キャラ創)ダン・オバノン他
(PD)クリス・シーガーズ
(音)ジェド・カーゼル
(出)マイケル・ファスベンダー、キャサリン・ウォーターストーン、ビリー・クラダップ、カーメン・イジョゴ、ガイ・ピアース、ダニー・マクブライド