ロックとアートの出会う場所

「ロックの美術館」

- 楠見清 Kiyoshi Kusumi -
<ロック・ファンお薦めの一冊>
 タイトルにあるとうり、ロックと美術のコラボレーションによって生み出された歴史的名作を紙上で紹介するという異色の本です。ロックのアルバム・ジャケットに思い入れのあるファンは多いはず。特にアナログ・レコードの世代にとっては、ジャケットなしのレコードは考えられなかったのではないでしょうか?
 もしかすると、近い将来、アルバムのオリジナル・ジャケットが高額で取引される時代が来るかもしれません。音楽がデジタル化により価値を失う中、外側のジャケットだけが高額取引される、なんていう事態もありえるかもしれません。そうなったときには、アルバム・ジャケット専門の美術館も誕生しているかもしれません。この本は、そんな近未来の「ロックの美術館」をいち早く見学させてくれています。
 それでは、ここではそんな「ロックの美術館」の中をざっとご案内させていただこうと思います。それでは、先ず最初の展示室からどうぞ!

第1展示室「破壊と創造」 - ロック・アイコノクラズム -
 この展示室では、ロック・ミュージックを象徴する「破壊」を表現するパフォーマンスについて紹介しています。その代表はなんといっても、ギターをステージに叩きつけて破壊する「ギター・スマッシュ」でしょう。
<ギター・スマッシュ>
 1967年6月18日、モンタレー・ポップ・フェスティバルに出演したザ・フーはステージ上でドラマーのキース・ムーンがドラムセットを蹴り飛ばして破壊して大きな話題となりました。ギタリストのピート・タウンゼントもステージで腕を大きく振りまわしてギターをかき鳴らした後、最後にはギターを破壊することで知られていて、ザ・フーはの破壊的ステージによりロック界に革命を起こしたといえます。その後は、ジミ・ヘンドリックスが、自分のギターを使ってブードゥー教の儀式のように火をつけてしまう新たなパフォーマンスを行って話題となりました。(さらにいうと、ローリング・ストーンズはホテルの窓からテレビを投げ落として破壊していましたが・・・)
 ちなみに、最近ギター・スマッシュ用に、壊れやすくて再利用が可能なギターが販売されているとか・・・(それはそれで面白いけど、そこまでしなくても)

<ピアノ・バーニング>
 1968年に現代音楽家アニア・ロックウッドはロンドンのテームズ川のほとりでピアノを燃やしながら演奏するというパフォーマンスを行い話題になりました。しかし、実際にはこのパフォーマンスには、もっとリアルな前例があることが知られています。
 1958年、「ロックン・ロールの名付け親」として知られるアラン・フリードがプロモートしたロックン・ロール・パッケージショーで事件は起きました。
 リトル・リチャードの白人版とも言われたロックン・ロール・ピアニストのジェリー・リー・ルイスは、大ヒット曲の「火の玉ロック」を演奏していました。ところが、彼はそのショーのトリがチャック・ベリーであることに大きな不満を抱いていました。そして演奏中あまりに熱くなった彼は、あらかじめコーラのボトルに入れておいた油をピアノにかけると火をつけ、自らの手でショーを終わらせてしまいました。「火の玉ロック」の作者は本物の火の玉野郎だったのです。(この場面は、デニス・クェエイド主演の映画「グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー」で見ることができます)

第2展示室「円盤の包み紙」 - パッケージとラベリング -
「いつか僕たちは懐かしむだろう。音楽が新鮮な野菜みたいに、店頭に並べて売られていた時代を」
 著者のこの言葉がしみます。

 20世紀、「音楽を買う」とは「レコードを買う」ことであり、棚に並べられた数多くのジャケットを手に取って、音ではなく情報とジャケットのデザインで「えいや」と選んでいたものです。「ジャケ買い」は、けっしていいかげんな買い方ではなく、かなり有効な選別方法のひとつでした。(昔は、試聴なんてできませんでした)
 様々な方法で試聴が可能になった今、「ジャケ買い」は死語となったといえます。
 当時、レコードを買うことは、音楽を買う行為と同時に「ジャケット」を買うことでもあり、それを眺めたり飾ったりするためのものでした。第2展示室では、そんなレコード・ジャケット、CDジャケットの名作を紹介しています。例えば、こんな感じです。
「カバー・アートのない作品」
 ハード・ファイの「Once Upon A Time in the West」、XTCの「GO2」、ビートルズの「ホワイト・アルバム」
「水中写真を用いたジャケット」
 ニルヴァーナの「ネバー・マインド」、ケミカル・ブラザースの「時空の彼方へ」、古くはビル・エヴァンスの「アンダー・カレント」
「ヌード写真を用いたジャケット」
 シガ―・ロスの「残響」、バウワウワウの「ジャングルでファンファンファン」
 その他、アルバム・ジャケットのない作品やアルバム・タイトルの文字についてなど

第3展示室「脱物質化する音楽」 - デジタルとフィジカル -
 21世紀に入り、レコード業界の専門用語でCDを発売することを「フィジカル・リリース」と呼び、ネット配信は「デジタル・リリース」と呼ぶようになっているそうです。今や、「音楽を売る」という行為は、純粋に「音楽」だけをデータとしてネットで販売することと、「モノ」として所有欲を満足させるための「資産」として「フィジカル・ディスク」を販売することに2極化しつつあります。
 そうなると「フィジカル・ディスク」は、資産としての価値を高めるため、様々な付加価値をつけるようになり、それにより過去の作品もまた新たな価値を持つようになりました。ビートルズの「ザ・ビートルズ・モノ・ボックス」(2009年)はその代表作と言えます。
 クラフトワークの過去作品のデザインを新たにしたボックス・セット「ザ・カタログ」は、時代を越えるためにデザインをより普遍的なものに変更しています。今や過去のレコード・デザインは、ダヴィンチの「モナリザの微笑み」のようにパロディやコラージュの素材としても使用されるオマージュの対象となりつつあります。フィジカルとしてのジャケットは、今後より価値を高めて行くことになりそうです。

第4展示室「メイド・イン・20世紀」 - ポップ・レヴォリューション -
 この展示室では、ロックと現代美術との出会いについての展示・解説が行われています。レコードやCDのジャケットが美術作品としての価値を持つ時代が始まったのは、アンディ・ウォーホルがデザインした「バナナ・ジャケット」(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)やローリング・ストーンズの「ジッパー・ジャケット」(アルバム「スティッキー・フィンガース」)からかもしれません。
 そうしたジャケットの中でも、ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブバンド」は別格的存在でしょう。
<「サージェント・ペパース・ロンリー・ハーツ・クラブバンド」>
 それまでにはなかった斬新なアルバムを作り上げたビートルズは、ジャケットもそれまでになかったものにしようと、友人の画廊オーナー、ロバート・フレーザー Robert Fraser に相談。すると彼は自分の画廊に所属する現代美術作家ピーター・ブレイク Peter Blake を紹介します。そこでポール・マッカートニーは、彼に「架空の演奏会終了後の集合写真」というコンセプトを提案。それに対してブレイクは、さらにそこに歴史上の有名人を加えてはどうかと提案します。
 現在ならパソコン上に写真を並べて一枚の集合写真に編集するところですが、この時ブレイクは徹底的にアナログ的な手法にこだわりました。そのため、カメラマンであるマイケル・クーパーのスタジオに大型のセットを組み、そこに等身大の人物写真パネルとビートルズが並んで撮影を行ないました。そのセットを製作したジャック・ヘイワースはブレイクの奥さんで人体彫刻を得意とするポップ・アートの作家でもありました。(この手法は後にアフリカ難民救済アルバム「Do They Know It's Christmas!」でも用いられています)
<「フェイス・ダンシズ」>
 ザ・フーのアルバム「フェイス・ダンシズ」も有名な作品です。このアルバムのジャケットは16分割されていて、そこに16枚の肖像画が描かれています。それはメンバーの肖像画ですが、それぞれすべて異なる画家、それもポップアート界の作家たちによって描かれています。(リチャード・ハミルトン、デヴィッド・ホックニー、R・B・キタイ、ピーター・ブレイク、アレン・ジョーンズら)
 その他、彼の作品としては、ポール・ウェラーの代表作である「スタンリー・ロード」のジャケットも素敵でした。
<リチャード・ハミルトン>
 「フェイス・ダンシズ」にも参加しているポップアートの作家、リチャード・ハミルトンもまた重要な作家です。なぜなら、彼こそが「ポップアート」の原点とも呼ばれる存在だからです。
 1956年に行われた「インデペンデント・グループ」によるグループ展「ディス・イズ・トゥモロウ(これが明日だ)」に参加した彼は、そこで代表作となったコラージュ作品「一体何が今日の家庭をこれほどまでに変え、魅力的にしているのか」を発表しています。その作品の中に登場するボディ・ビルダーが持つ大きなロリ・ポップ(キャンデー)に書かれた文字「POP」こそ、ポップアート時代を宣言した最初の言葉とも言われています。
 ちなみに、彼が教師として教えていたニューカッスル大学の美術の教室に通っていたのがロキシー・ミュージックのブライアン・フェリーでした。ロキシー・ミュージックのアルバム・ジャケットもまたどれもかなり凝っています。
 リチャード・ハミルトンはもうひとつビートルズの名盤「ホワイト・アルバム」のジャケット内側のフォト・コラージュも担当しています。
<ジョンとヨーコの出会い>
 ビートルズにピーター・ブレイクとリチャード・ハミルトンを紹介したロバート・フレイザーは、もうひとつロックの歴史を大きく変える功績を残しています。ジョン・レノンとオノ・ヨーコが出会ったあの有名なインディカ画廊でのオノ・ヨーコの個展のスポンサーもまた彼だったのです。
 思えば、ビートルズは様々な人々との出会いによって育てられた幸福なグループでした。ブライアン・エプスタイン、ジョージ・マーティン、アレン・クライン、フィル・スペクター、マハリシ・ヨギ、オノ・ヨーコ、ラヴィ・シャンカール・・・問題のある人物も多かったものの、誰もがビートルズに大きな影響を与え、それが世界を変えていったのでした。
<追記>
 僕が大好きなトーキングヘッズのアルバム「スピーキング・イン・タングス」のアルバム・ジャケットの作者は、やはりポップアートの大物作家ロバート・ラウシェンバーグです。

第5展示室「ロックの公共性」 - イメージとメッセージ -
 この展示室では、思想的、政治的なメッセージを発するアーティストたちの音楽とそのビジュアル的な表現手法について紹介しています。
 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンマーヴィン・ゲイ、ジョン・レノン、グリーン・デイ、ピーター・トッシュ、プライマル・スクリーム、オアシスなど大物たちのメッセージ性の強い作品が並びます。
 エイズ、原発問題、アメリカ大統領選挙、原子爆弾、労働問題、人種差別問題・・・様々なメッセージを訴えてきた名盤たちは、ジャケットのデザインやロゴなどのアートワークなどが、どれもまた優れていたことがわかります。

第6展示室「身体と媒体」 - ボディ/エレクトリック -
 この展示室では、音楽を用いたアートの様々なスタイルを紹介しています。
 213台のCDプレイヤーを使い同時にビートルズのオリジナル曲すべてを同時に壁から発するという「究極のウォール・オブ・サウンド」
 氷でできたレコード盤、丸ではなくレール状につながれた長いレコードなど、不思議な音盤。
 コンピューターを用いたまったく新しいコンセプトに基づく電子楽器。
 ダンスや照明と一体化した新しいスタイルの音楽パフォーマンス・・・・
 音楽とアートが関わるジャンルにはまだまだ未開の分野が広がっているようです。

第7展示室「展覧から共有へ」 - ミュージックとミュージアム -
 最後の展示室では、実際に行われているアートと音楽のコレボレーションによる展覧会や作品集の紹介です。
 フルクサスのメンバーとして活躍していたアル・ハンセンの作品と彼の孫であるベックとのコラボレーション展覧会。
 ウォーホルのデザインによるアルバム・ジャケットだけを集めた作品集。
 毎回ジャケットがカッコいいソニック・ユースの活動とアートワークを集めた「ソニック・ユース全記録展」
 残念ながら閉館してしまった「ジョン・レノン・ミュージアム」

 音楽がデータとしてやり取りされる時代、ロック・ミュージックに未来はあるのだろうか?そんな疑問に対し著者はこんな風に書いています。

 ロックとは聴くだけでなく自分たちで演奏して楽しむことのできる音楽ジャンルです。シンプルな楽器編成でいっぱしの楽団が結成でき、誰でもその気になれば学校や町の小さなステージ、いえ、路上でだって演奏できる。音楽情報のデジタル化やネットワーク化の時代において、それはインターネット上の音楽共有サーヴィスやクリエイティヴ・コモンズなどに発展し、リミックス・カルチャーからフリー・カルチャーへの大きな潮流を形成します。視覚芸術においても、過去のアートワークや記録メディアを素材としたコラージュやアッサンブラージュ、映像のリミックスやマッシュ・アップなどさまざまな表現が広がっています。21世紀的なロック文化の可能性がここにあるとするなら、ロックの美術館にはさらに観客参加型んもワークショップ・ルームがあるといいに違いありません。

「ロックの美術館」 2013年
(著)楠見清
シンコー・ミュージック

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