「さよならメランコリア」 Soul Garden |
少しずつ沈んでくネイション
それはまるでサイエンス・フィクション
今望むことはたったひとつ
身近な未来超えた永遠のレボリューション
毎回救いのない世界を映像化して観客の気持ちを暗くさせる世界一ダークな映画監督ラース・フォントリアーの作品で「メランコリア」という作品があります。
あと残り24時間で地球が小惑星との衝突により消滅してしまう最後の日。古城の庭で結婚式をあげる家族の物語。
世界は今はまだそこまでは追い詰められていませんが、明日何が起きるかは誰にも予想ができません。
それが21世紀の地球です。
今までなんとなくやってきた
死なないようにがんばった
でも最近みんな気づいてきた
過去はあてにできないって
目の当たりに見た |
「銀の月」 Silver Moon |
人をうらやむうちに
こぼれ落ちてゆく運命
人を貶めるうちに
暮れなずんでゆく魂
時々人は辻褄が合わなくなって
涙の海に沈んでゆく
アメリカン最後の反骨のロック・シンガー、ニール・ヤングの名曲「Harvest Moon」は、かつての恋人にもう一度愛を告げる歌。
「銀の月」の二人は、幸いにして未来に不安を抱きつつも、愛し合いながら同じ道を歩んでいます。
ニール・ヤング風のノイジーなギターが響くロックナンバーです。 |
「クロエ」 Chloe |
彼女が恋をしている瞬間
永遠に自由に満ちて その瞳
春の光のように尊い
ルールも約束もなく 右も左もない
時はため息のために止まる
ドナルド・フェイゲン風のファンクなレゲエ・サウンドがクロエが自由に生きる姿を描き出しています。
ふと、アメリカ大陸を自由に移動しながら生きる人々を描いた映画「ノマドランド」を思い出しました。
「ノマドランド」の監督、中国系アメリカ人クロエ・ジャオの名前が浮かんだせいでもありますが・・・。
ドナルド・フェイゲンが生み出した幻の車「カマキリアッド」でアメリカ大陸を横断するイメージも浮かびました。 |
「植民地の夜」 Once Upon A Time |
まやかしの糸に絡まって
誰も家に帰れない
風がまた吠え出している
植民地の夜
タイトルが「昔、昔、あるところに」とあるように明らかに過去の植民地時代を描いた曲のはずです。
それはアメリカの植民地だったキューバ?
それとも日本の植民地だった上海?
でも本当にそれは過去の植民地の歌なのでしょうか?
今もなお、当時と同じような時代錯誤の覇権主義によって、隣国を植民地化しようという国があります。
それは未だ過去の曲とはならないのです。
60年代黄金期のローリング・ストーンズの思わせる曲。 |
「斜陽」 Don't Waste Your Tears |
「斜陽」ということは、やはり太宰治へのオマージュでしょうか?
人生の下り坂を歩み、ついには自らの命を絶った彼の生涯を意識しないわけには行きません。
「死」を意識し続けたからこそ生み出せた作品があったのかもしれません。
しかし、それでもなお、魂を無駄にすることは間違いなのです。
ゆっくりこの下り坂を降りて行こう
ゆき着くところまで
でもひとつだけ約束してほしい
君の魂 無駄にしないでくれ |
「冬の雑踏」 Where Are You Now |
英語タイトルからわかるようにこのアルバムのタイトル曲と呼べるのかもしれません。
どこにいるかわからない愛する人のことを想いながら、その幸福を願う曲。
クリスマス、そして年末のあわただしい街の雑踏の中。
それぞれの人にとって大切な人を想いながら聞くと泣けてきそうです。
1981年以来、佐野元春は「彼女」を探し続けているのです。
あの人は今 どこにいるんだろう
悲しい嘘 冷たい闇を抱いて
街の中 あの人の声が聞こえる
冬の雑踏 君を探している |
「エデンの海」 White Light |
「エデン」は聖書の創世記に登場する生命誕生の楽園ですが、罪を犯した人間はそこを追放されました。
その後も罪を重ねた人間は、何度も絶滅の危機に立ち続けます。(バベルの塔、ノアの箱舟などは有名)
しかし、神の子イエス・キリストがすべての身代わりとして処刑されたことで、そうした罪から救われました。
その処刑の場所が「ゴルゴタ」です。
英語タイトルの「White Light」は、生命誕生の瞬間に世を照らした「ビッグバン」の光のことでしょうか。
だとしたら、イエスの死の瞬間に天上から差し込んだ光のことでもあるのでしょう。
私たちの幸運は きっと永遠には続かない
だから今この瞬間 君は光放って
闇夜のすべて 照らし出してくれ
時をこえて今すぐ |
「君の宙」 Love & Justice |
そこにどんな時代が流れても
どんな風が吹き荒れても
どんな戦いがあっても
どんな夢が朽ち果てても
決して忘れないで
すべては君の心のおもむくままに |
「水のように」 The Water Song |
眠れ、水になって
絶えまなく、淀みなく、自由に
そうさ、またいつか会える
その日まで
元気で
厳しい時代を生きる人々へ。水のように流れ、心の赴くままに生きよ!
ただし、それは実際は誰もができることではありません。
それは失うもののない、孤独で健康で強い心の持主でなければなりません。
みなにその能力がないからこそ、人は助け合う必要があるのです。 |
「永遠のコメディ」 The Perfect Comedy |
すべては無常
歩いてゆこう
不完全な完全 この永遠のコメディ
残酷な分裂 巧妙な略奪
静かな検閲 魂の抑圧
感情は爆発 どこにも属さず
彼女は今 どこにいるんだろう
この曲もこのアルバムの大切な曲。
この世界を生き抜くことに耐えきれなくなったら、笑うしかないよね。
すべてのことはコメディ。そう見なければ、現代社会の悲惨な現実を受け入れることは、もう不可能かもしれません。
「歴史は繰り返す、一度は悲劇として、二度目は喜劇として」
カール・マルクスの有名な言葉です。 |
「大人のくせに」 Growing Up Blue |
孤独なふりして 気取ってるわけじゃないよ
ただどうにか傷口をかばってるだけさ
素朴にゆく道
ひとりだってずっと歩いていけるぜ
そうさ、英雄もファシストもいらない
いらない
ゆっくりと下り坂を降りて行くような未来への不安。
声高に何かを批判し、体制をひっくり返せたとしても、問題が解決するとは思えない今。
もう昔のように、理想を語り合いながら「手を取り合って世界を変えよう」とうと歌う人はいません。
「大人のくせに」と言われないよう、孤独な振りして静かに戦いを続けるしかないのです。
どこかに必ず仲間はいると信じて・・・
少なくても英雄は必要ではない。偽りの国葬を必要とするような英雄はもってのほかです。 |
「明日の誓い」 Better Tomorrow |
夜明けを迎える前に
明日ここを離れてゆく
少し無茶かもしれない
でも決めたこと 心は変わらない
明日がなければ意味がない
怖がるばかりじゃきりがない
今日を一緒に歩いてゆく
よりよい明日へと紛れてゆく
佐野元春は未来への希望を歌い続けてきました。
「サムデイ」(1982年)、「トゥナイト」(1984年)、「また明日」(1992年)、「トゥモロウ」(1993年)、「明日を生きよう」(2004年)
そして「明日の誓い」(2022年)
未来へ向けての前向きな旅立ちの宣言こそ、佐野元春がデビュー以来歌い続けてきた最大のテーマでした。
そのことを再確認させてくれたアルバムのラストはまさにそんな明日への誓いで終わります。
ただし、そんな未来への希望も、かつてのように単純に明るいものとして描けなくなってきているのも事実。
それでもなお、明日がなければ意味がない。そう開き直るしか仕方ないのかもしれません。
それでも駄目なら笑うしかないのです。 |