- 理科嫌いでも楽しめる20世紀科学の冒険史 -

<20世紀の科学>
 橋本治氏の名著「二十世紀」にこんな記述があります。
「二十世紀になって発明されたものは、そんなにもない。飛行機とラジオとテレビと原子爆弾ぐらいで、あらかたのものがもう十九世紀に発明され、想像され、完成してしまっているのである。・・・・・現代生活の基礎となるもののほとんどは、十九世紀に登場する。二十世紀のしたことは、この前世紀の成果を利用して、ただ普及させるだけだった・・・・・」

 確かに二十世紀は、映画、音楽などの芸術が大衆化していった大衆文化の時代だったのと同じように最新科学、最新技術が商品化され、大量生産される時代だったのかもしれません。しかし、大衆に普及したテレビ、コンピューター、携帯電話、インターネット、飛行機、自動車などは、大衆の生き方、仕事の仕方なども大きく変え、人類文化そのものを根本的に変えてしまったともいえます。
「歴史上の大戦役がもたらした結果、過去の大帝国の興隆、世界の大宗教が生んだものの見方の革命的変化 - これらすべては、科学の進歩がもたらした近代の革命、世界の単一化に比べれば、はるかに重要でない」
オリファント(イギリスの原子物理学者)1950年

 しかし、人類の文化に影響を与えたのは、そうした商品化されたものだけとは限りません。原子爆弾の登場は、人類が自らの手でその文明を終らせる可能性があることを世界中の人々に知らせる最初の発明となりました。
「・・・・・かつて人間の悲劇は、”神の御心”や”運命のいたずら”が成せる業であった。・・・しかしながら、二十世紀半ばに炸裂した原子の火は人間の悲劇を司る”神”や”運命”の存在を壊滅的に吹き飛ばしてしまったといっていいだろう。われわれはその悲劇に、いかなる超越的な観念を想定することもできない・・・・・」
松井孝典著「宇宙誌」

 その後登場した新しい科学技術の中にも、もしかすると原爆に匹敵する危険性をもつものがあるかもしれません。クローン技術や遺伝子操作、細菌兵器の開発などは、特に不気味な存在です。

「技術の合理性に献身した世紀はまた、すべての人間の心に地球全体を破壊する現実の可能性を開くほど非合理な世紀でもあった。・・・
 それは、力を最高にすばらしく発揮しながら、自ら誓いすることができないいろんな方向に向かってすすんでいった世紀であった。うずいてやまぬ渇望は、速度を速めることでもあった - 形而上学的方向は未知のままに」

ノーマン・メイラー(作家、航空工学専攻)

<地球温暖化問題>
 最近では、さらに危険な問題が浮かび上がって来ました。「地球温暖化」の問題です。これに関しては、現在人類が保有している科学技術では解決不能といわざるをえないでしょう。元々、この問題は科学だけの問題だけではなく、人類全体の生き方の問題であり、倫理や宗教、道徳、経済などから来る問題なのです。それでも、直接の原因は科学の急速な発展なのですから、21世紀中にこれを解決する方法を見出せなければ、「科学」とは人類を破滅へと導いた「悪魔の技」であったと言われることになるでしょう。
「われわれは農耕文明の始まりをもって、地球との共生の道を放棄し、地球の資源を食いつぶすことによって・・・結果として環境は汚染される・・・自らの繁栄を図るという重大な選択をしたといえるだろう。・・・」
松井孝典著「宇宙誌」

 僕の考えでは「地球温暖化」の犯人は「科学」よりも「経済学」にあるように思います。「経済学」の発展は、世界の冨をいかに集めるかということにのみ機能してきたからです。アマゾンの木が次々に伐採されるのがハンバーガーの値段を下げるためであったり、アメリカの農地を砂漠化してしまったのも収穫を増やすことだけを考えてきたからでした。ヘッジファンドのように働かずして資金のあるものがより儲ける仕組みを見つけたのも経済学。サブ・プライム・ローンのように素人目にもサギとしか思えない手法を容認してきたのも経済学。あげくの果てにそのバブルがはじけたとき、なんの対処法も提案できないのです。だいたいノーベル経済学賞など存在する意味があるのでしょうか?残念ながら、「科学」はそんな経済学によって自由自在に操られています。すでに、科学は原子爆弾を生み出してしまったという前科もあります。再び同じ過ちを繰り返さないためにも、「科学」とは何のための学問なのか?今一度考える必要があると思います。
「彼は、少なくとも公の場では、科学と人生の両方があまりにもくっきりと分けてしまったものの再統合の必要性以外のことについては、何もしゃべろうとしなかった。すなわち、人間と人間以外の自然との接触の回復とか、人類が観察や分析や理論などの方向へ向きすぎて、「生長する魂」という、動植物と同じく人間にもあった感覚の調和的進歩から遠ざかってしまった偏向的進歩の矯正の必要性などである」
A・バーリンがジュリアン・ハックスリーについて語った言葉

<20世紀の科学は何を発見したのか?>
 大きな発明はなかったかもしれない20世紀ですが、各分野における科学理論は20世紀にそれぞれある種の結論を導き出しています。その多くは、一般的には知られていませんが、新しい革新的な技術を生み出すことで社会を大きく変え、人類という生物種に精神的、肉体的な変化をもたらしました。(量子力学や相対性理論、分子生物学、遺伝子工学など)
 ここでは、20世紀に人類が挑んだ「科学による発見の旅」の歴史を振り返ってみたいと思います。「星へと向かう旅」や「物質の本質を探る旅」、「宇宙とは?空間とは?時間とは?を問う旅」、「人口の脳へと迫る旅」などなど、どれも20世紀という時代を象徴する重要な歴史です。これらの歴史は、普通学校の授業で学ぶことはありません。しかし、実はそれは最も重要で最も面白い部分なのだと思うのです。先端科学についても、できるだけ中学生程度の学力でわかるように書いてゆきますので、是非お読みいただければと思います。願わくば、読者の中から21世紀の道標となるような優れた理論を生み出す人材が現れることを期待したいと思います。
「・・・十八世紀がルソーの『社会契約論』を生み、十九世紀がマルクスの『資本論』を生んだように、我々がいま最も渇望してるのは、世紀が世紀を飛び越えてしまった『最も黙示録的な世紀』の方向を示す新しい理論である」
松井孝典著「宇宙誌」

<科学は何のために学ぶの?>
 「何で科学なんて面倒な学問を勉強しないとだめなの?」
 このことは、最近では中学生でも考えなくなってきています。
その意義を知るためには、「科学」が人類に何をもたらしてきたのか?それによってどう人類は生き方を変えてきたのか?を知る必要があるでしょう。そのことを理解すれば、少しは小難しいことも勉強する気になれるかもしれません。確かに科学を学ぶということは、それなりに努力を必要とすることですから、・・・。
「科学には学ぶのに大変しんどい点がたくさんあって、一定の枠を決めて、あらかじめ受け手の方のネットワークをつくっておかなければ、そこへものを放り込んでもうまくはならない。科学はそういうたちのシステムですね。そのかわり、いったん受け手のネットワークをしっかり組み立てておけば、相当のものを投げ込んでも受け止められる。・・・」梅棹忠夫著「人間にとって科学とはなにか」

「誤りは専門化にあるのではなくて、教科の内容が一般に底が浅く、形而上学的な意識に欠けている点にある。科学を教えるとき、科学の前提だとか、科学法則の意味や意義、自然科学が人間の思想という全体像の中でどんな位置を占めているのかといったことが忘れられている」
E・F・シューマッハー著「スモール・イズ・ビューティフル」

 実は僕自身大学で物理を学んでいながら、科学が本当に面白くなってきたのは、大学を卒業して技術系の企業に入社してからでした。大学4年の教育実習でも、僕は母校の生徒たちに科学を面白いとは思わせられませんでした。今思えば、自分自身が面白いと思っていなかったのですから、それは当然のことだったのです。でも、今なら「科学は面白い」そう言える自信があります。そんなわけで、なんとか理科嫌いの中学生でも面白い科学の話を書きたいと思ったわけです。どこまでそれができるのか?自信はないのですが、やってみたいと思います。

 科学の進化は、科学の世界だけでなく世界全体にも大きな影響を与えることがあります。それは「パラダイム・シフト」が起き、それが科学の枠組みをも超えてしまった時です。
「パラダイム」とは?
「一般に認められた科学的業績で、一時期の間、専門家に対して問い方や答え方のモデルを与えるもの」
「パラダイム・シフト」がもたらすのは・・・?
「パラダイム変革が起きる時は世界自体もそれと共に変革を受ける・・・新しいパラダイムに導かれて、科学者は新しい装置を採用し、新しい土地を発見する。さらに重要なことは、革命によって科学者たちは、これまでの装置で今まで見なれてきた場所を見ながら、新しい全く違ったものを見るということである。・・・」
トーマス・クーン

<未来のために>
 地球温暖化問題は現在の技術では解決不能かもしれませんが、それを解決するための新技術の開発はいろいろなところで行われています。近い将来、誰かがそれを解決する可能性もまた十分にありえると思います。しかし、それを用いる人類の倫理の方が僕は心配です。せっかく開発された新技術が経済原理によって一部の国や人間たちに独占、悪用される可能性もまた十分にあるように思います。しかし、僕は未来を信じたいと思います。そして、未来を信じることは自分の子供たちを信じることでもあります。どうか子供たちに素晴らしい未来が訪れますように!
「子供は未来なんだ。未来を生きるのが子供の役目だ。未来が幸せだと信じることは、子供が幸せになると信じることでもあるんだよ」
重松清著 「娘に語るお父さんの歴史」より
1905年 物理学が美学だった頃 物理学 世界を変えたアインシュタイン3つの論文発表される
1913年 宇宙の姿を描き出した者たち 物理学、天文学 プトレマイオスからハーロウ・シャプリーまで、「宇宙の構造」の発見史
1927年 神はサイコロを振ったのか? 物理学、量子力学 量子力学における不確定性原理が示した予想不可能な世界像とは?
1935年 20世紀を支えた巨大化学企業の正体 化学 新素材ナイロンを開発した化学企業の呪われた過去とは?
1948年 宇宙の起源へとさかのぼる旅 物理学、天文学 「ビッグバン理論」が示す時間と空間の始まりとは?
1952年 20世紀を制御したコンピューター開発物語 数学、物理学 チューリング・マシンから「ノイマン型コンピューター」
1953年 生命誕生の謎と遺伝子の役割 生物学、遺伝子工学 生命はどうやって生まれたのか?「遺伝子」「生命」の関係は?
1960年 「科学思想の歴史」  物理、化学 ガリレオからアインシュタインまで科学思想の歴史を追ったC・ギリスピーによる科学史の名著
1962年 奇跡の惑星、地球誕生の歴史 地球物理学、物理学 生命を生み出した「奇跡の惑星・地球」はなぜ生まれたのか?
1969年 人類、月に立つ 宇宙工学、物理学 冷戦が進めた「宇宙開発競争」と人類が得た新たな視点とは?
ダーウィニズムと進化論の進化 進化論 「進化論」の進化の歴史を追ってみました
2003年 多様な生命を生み出した氷の地球  地質学、生物学  かつて地球が氷の固まりだったとする「スノーボール仮説」の意味
2003年 カンブリア紀大爆発の謎に迫る新学説 進化論、生物学 「カンブリア紀大爆発」の原因に迫った原因は「眼」の誕生だった?
2007年 地球を変えた植物たちの物語  植物学、気象学 植物の進化が変えてきた地球の歴史を最新科学から語ります
(1)「葉っぱ誕生物語」 「葉っぱ」は、なぜ、なんのために生まれたのか?
(2)「腐海の森」は、なぜ消えたのか?
  かつて地上には「腐海の森」があり、そこでは巨大な昆虫がゆっくりと空を飛んでいた!
(3)恐竜たちが世界を征した理由
  かつて恐竜たちが地上を支配することができた理由は何だったのか?
(4)「南極には森があった?」
  かつて南極には森があった?そして、その証拠を見つけたのは、あのスコット大佐だった!
(5)植物の最新モード「C4植物」って何?
  森から草原へと地球の風景を変えつつある植物の進化形「C4植物」とは?
(6)地球薄暮化現象が人類を救う?
  地球温暖化現象が進む中、もしかすると別の要因がその進行を弱めているかもしれないという説
2012年 宇宙最大の謎、ダークマターの正体 物理学、天文学 宇宙は、生命は、なぜ誕生したのか?「ダークマター」とは何か?
2013年 宇宙の始まりに迫る最新宇宙論  物理学、天文学 ビッグバン以前にも宇宙は存在した!「真空のエネルギー」とは何か?

偉大なる科学者の人生
アルバート・アインシュタイン 20世紀最高の天才物理学者は決して絶対ではなかった。彼が果たせなかった夢とは?
イリヤ・プリゴジン 生命だけでなくあらゆる構造の原点ともいえる「散逸構造論」の創始者
ジョン・フォン・ノイマン 「コンピューターの父」「ゲーム理論の作者」「原爆の影の功労者」20世紀科学界の仕掛け人
ニールス・ボーア 量子力学の確立者であり、導師でもあった伝説の物理学者
ノーバート・ウィーナー 人間の数学化に挑んだ天才科学者、「サイバネティックスの父」
レイチェル・カーソン 地球環境の危機を初めて訴えた「環境保護の女神」の感動の人生


20世紀科学史年表 1900年から1999年までの科学界における事件の数々

参考書籍 参考とした科学関連書籍のリスト
小説「数学的小説:確固たる曖昧」 数学によって世界を表現することは可能なのか?
「素数の音楽」(ノンフィクション)  「素数」とは何ぞや?その謎に迫る!名著

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