映画音楽界の巨匠たち

<音楽が主役か、傍役か>
 映画音楽というのは不思議なものです。
 リアリズムに徹した素晴らしい映画においては、音楽は無用のの存在となるかもしれません。その場合、無音という音楽が最良の音楽なのです。北野たけし監督の傑作「あの夏、いちばん静かな海」はその好例といえる作品です。だからこそ、久石譲は北野映画になくてはならない存在なのです。無音の状態もまた素晴らしい音楽と考えられる作曲家である彼が前衛音楽出身の音楽家だというのは偶然ではないでしょう。映画音楽の世界で大成している作曲家には伝代音楽や前衛音楽出身者が多いのです。(エンリオ・モリコーネ、バーナード・ハーマン、モーリス・ジャールなど)
 映画の中でも、音楽が主役の作品となると話はまったく変ってきます。ミュージカル映画はもちろんのこと、最近ではミュージシャンが主役の映画も数多く作られています。そうした作品の場合、音楽の良し悪しはそのまま映画の成功、失敗を左右することになります。アイルランドのストリート・ミュージシャンを主人公をとしたドキュメンタリー・タッチの映画「ONCE ダブリンの街角で」では、主人公の歌こそが本当の意味で主人公だったといえます。そして、それが素晴らしかったからこそ、多くの人が感動を覚えたのでした。
 ほとんどの映画は、上記2種類のタイプの中間に位置するといえるでしょう。

<音楽の役割>
 音楽の役割は他にもあります。「ウエストサイド・ストーリー」の場合は、そのオープニングの空撮映像とスケールの大きな音楽だけで、もうすでに傑作の確信を与えてくれたものです。「アラビアのロレンス」もまたオープニングの音楽とその後の超望遠の映像で観客の心をつかんでしまいました。映画が始まる前のイントロとしての音楽というのもまた映画にとって重要な役割です。もちろん、その逆にエンディングに素晴らしい余韻を与えるのもまた音楽の役割です。
 映画がトーキーに変り、音楽がつくようになって以降、映画音楽というのは、ほとんどが専門の作曲家によるオリジナル曲でした。その流れを大きく変えたともいえる作品がスタンリー・キューブリックの傑作「2001年宇宙の旅」でした。彼はクラシックの名曲を映画にぴったりとはめ込んでみせ、名曲ならではの素晴らしい効果を発揮させたのです。それは現在ならヒップ・ホップにおけるサンプリングの手法を映像に用いたともいえるものでしたが、この映画以後多くの映画が過去の名曲を用いて素晴らしい場面を生み出すことになります。
 「イージー・ライダー」の場合は、クラシックの名曲ではなくロックの既存のナンバーを用いた作品でした。ただし、そこで使われた曲はけっして過去の名曲ではなく、ザ・バンドのようにまだ無名に近い存在の曲も選ばれており、それが時代の先端を行く新鮮さを生み出すことになりました。この映画では、それぞれの曲の使用許可を得るため、編集前のフィルムをそれぞれのミュージシャンに見せて了解をとったということです。この方法をさらに発展させた作品として印象に残るのは、ティム・ロビンスの傑作「デッドマン・ウォーキング」です。この作品の場合、デモ・フィルムを多くのミュージシャンに配り、それを見てもらい感じたことを音楽にしてもらうという方法をとっています。素晴らしい映画だったこともあり、この依頼には多くの曲が集まりましたが、多すぎて映画には使われずサントラ盤にのみ収録されています。(サントラ盤にも収まりきらなかったようです)なにせパティ・スミスの曲ですら映画には使われていません。もったいない!

<映画音楽不遇の時代>
 最近は既存の曲の使用が増えたこと、音楽を聞いている暇もないせわしない映画が多くなったこともあり、映画音楽の出番、もしくは印象に残る音楽が生まれる場面が減っているように思えます。ハリウッド映画の場合は特にその傾向が強く、たまに素晴らしいヨーロッパ映画を見ると、その映像美と音楽に不思議な懐かしさを感じてしまいます。
「ああ、映画ってこうあるべきだよな」

 さて、このコーナーは、そんな映画音楽の作曲家について書かれている部分を探しやすくするために作りました。それぞれの作曲家の名前をクリックすると彼の代表作について書かれたページに移動します。そして、そこには彼の生い立ちや代表作について書かれた部分もあります。
 監督や作品に比べ、情報が少ないため物足りないかもしれませんが、ご容赦下さい。

映画音楽の誕生 サン=サーンスによる世界初の映画音楽「ギーズ公の暗殺」から始まった映画音楽初期の歴史
クラシック音楽と映画 既存のクラシックの名曲を使用した映画とその曲


エリック・セラ Eric Serra グラン・ブルー」「アトランティス」など、リュック・ベッソンの作品群
エルマー・バーンスタインElmer Bernstein 「荒野の七人」「大脱走」「モダン・ミリー」「ゴースト・バスターズ」「アラバマ物語」など
エンニオ・モリコーネ Ennio Morricone 「荒野の用心棒」などセルジオ・レオーネ作品、ジュゼッペ・トルナトーレ作品など、イタリアの巨匠
群盗荒野を裂く」(ダミアーノ・ダミアーニ)
クインシー・ジョーンズ Quincy Jones 「夜の大捜査線」「ゲッタウェイ」「ウィズ」「質屋」、TV「ルーツ」など
ジェリー・ゴールドスミス Jerry Goldsmith 「猿の惑星」「パットン大戦車軍団」「チャイナタウン」「エイリアン」「オーメン」など
ジェリー・フィールディング Jerry Fielding 「ワイルド・バンチ」などのサム・ペキンパー作品、「ジョニーは戦場へ行った」、TV[スタートレック」など
ジョルジュ・ドルリュー Georges Delerue 「アメリカの夜」などフランソワ・トリュフォー作品、「二十四時間の情事」「ジュリア」「リトル・ロマンス」など
ジョン・ウィリアムス John Williams スター・ウォーズ」「シンドラーのリスト」「インディー・ジョーンズ」「未知との遭遇」「偶然の旅行者」など
ディミトリ・ティオムキン Fred Zinnemann 「真昼の決闘」「友情ある説得」「ジャイアンツ」「老人と海」「OK牧場の決闘」「アラモ」など
デイヴ・グルーシン Dave Grusin 「レッズ」「チャンプ」「ミラグロ」「天国から来たチャンピオン」「卒業」「トッツィー」など
デヴィッド・シャイア David Shire 「大統領の陰謀」「サタデー・ナイト・フィーバー」「ノーマ・レイ」「さらば愛しき女よ」など
ニーノ・ロータ Nino Rota 「ゴッドファーザー」「ロミオとジュリエット」「太陽がいっぱい」「山猫」や「道」などフェリーニの作品群
バート・バカラック Burt Bacharach 明日に向かって撃て」「007カジノ・ロワイヤル」「ミスター・アーサー」など
バーナード・ハーマン Barnard Herrmann 「タクシー・ドライバー」「市民ケーン」、「サイコ」「北北西に進路を取れ」などヒッチコックの作品群
フランシス・レイ Francis Lai 「男と女」「白い恋人たち」「ある愛の詩」「愛と哀しみのボレロ」「さらば夏の日」など
フランソワ・ド・ルーベ Francois de Roubaix 「冒険者たち」「さらば友よ」「ラムの大通り」「ラ・スクムーン」など
フランツ・ワックスマン Franz Waxman 「サンセット大通り」「レベッカ」「陽のあたる場所」「尼僧物語」「サヨナラ」など
ホーギー・カーマイケル Hoagy Carmichael 「冷たき宵に In the Cool,Cool,Cool of the Evening」、「6月のメンフィス」など
マックス・スタイナー Max Steiner 「風と共に去りぬ」「カサブランカ」「捜索者」「黄金」「ケイン号の叛乱」「君去りし後」など
マーヴィン・ハムリッシュ Marvin Hamlisch 「スティング」「普通の人々」「ソフィーの選択」「コーラスライン」など
ミキス・テオドラキス Mikis Theodorakis 「Z」「その男ゾルバ」「魚が出てきた日」「セルピコ」「戒厳令」など
モーリス・ジャール Maurice Jarre 「アラビアのロレンス」などデヴィッド・リーン作品、「刑事ジョン・ブック」などピーター・ウィアーなど
ラロ・シフリン Lalo Schfrin 「燃えよドラゴン」「ブリット」「ダーティーハリー」「シンシナティ・キッド」など



<エーリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト>
 エーリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトは、1935年マックス・ラインハルト監督がハリウッドで撮影した「真夏の夜の夢」の音楽担当としてドイツから招かれました。当時の映画界をリードしていたドイツで活躍していた彼はその後ハリウッドで様々な映画の音楽を担当します。
マイケル・カーティス監督の「海賊ブラッド」(1935年)、ウィリアム・キーリー監督の「放浪の王子」(1937年)、マイケル・カーティス、ウィリアム・キーリー共同監督の「ロビンフッドの冒険」(1938年)、マイケル・カーティス監督の「シー・ホーク」(1940年)などの大作映画の音楽を圧倒的なオーケストレーションによって作りました。
 彼は、マックス・タイナー、アルフレッド・ニューマンと共に「ハリウッド映画音楽の元祖」の一人と呼ばれています。

 実際、今日”映画音楽”という言葉がイメージさせる華麗なオーケストラ・サウンド - 即ちハリウッドのシンフォニック・スコアの伝統を確立したのはコルンゴルトだと言って良い。その伝統はミクロスローザの「ベン・ハー」(1959年)やジョン・ウィリアムスの「スター・ウォーズ」(1977年)を経て現在に至るまで脈々と受け継がれているのである。
早崎隆志「コルンゴルトとその時代」より

<映画に使用されている名曲>
「君の瞳に恋してる」フランキー・ヴァリ(1967年)の大ヒット曲(1982年ボーイズ・タウン・ギャングのカバーも有名)
映画では「ディア・ハンター」、「恋のから騒ぎ」、「ブリジット・ジョーンズの日記」で使用

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