1986年

- シド・ヴィシャス Sid Vicious
   アレックス・コックス Alex Cox -

<Vicious Man>
 シド・ヴィシャス Sid Vicious(本名 John Simon Ritchie)、どうやら名付けの親は、セックス・ピストルズの仕掛け人マルコム・マクラーレンだったようです。「Vicious=悪徳の、堕落した」とは、よくぞつけたものです。(ルー・リードの曲にもありました)しかし、つけられた男の生き様は、やはりその名に恥じないVicious Lifeだったのでしょうか?
 インディペンデント映画の奇才、アレックス・コックスは、この男の生き様を「悪徳の人」ではなく「無垢の人」として描き、シドとその彼女ナンシーの物語を、どこまでも純粋な「愛の物語」として描きました。
 だからこそ、この映画は単なる時代の記録ではなく、永遠の愛の物語としてカルト的な人気を得ることができたのです。

<Mr.パンク・ロック>
 ベース・ギターを弾くことができないベーシストであったということだけでも、シドは充分にパンクな存在でした。(もちろん、バンド加入時のことではありますが、・・・)かつては、ポピュラー音楽におけるアウトサイダーだったロックの世界において、さらなるアウトサイダーの地位についたパンク・ロック。しかし、そのパンクの世界においてすら、シドの存在ははみ出し者でした。ですから、セックス・ピストルズという究極のアウトサイダー集団から追放された時点で、彼の魂を救うことは不可能だったのかもしれません。
 しかし、そんな男を愛する女がいたという事実、そのことだけでも「究極の愛」を描くのには打ってつけであると感じた人物、アレックス・コックスもまた映画界における究極のアウトサイダーです。

<アレックス・コックス>
 映画監督アレックス・コックス Alex Coxは、1954年12月15日ロンドン生まれのイギリス人です。イギリスの名門大学オクスフォードで法律を学びながら舞台劇にのめりこみ、演出をし始め、結局大学を中退しアメリカに渡ります。そしてカリフォルニアのUCLAで映画を学びながら脚本の執筆を始め、エイドリアン・ラインの出生作「フラッシュ・ダンス」では共同で脚本を執筆しています。1984年、借金取りと宇宙人が激突するという不思議なSF映画「レポマン」でデビューしました。この異色の近未来SF作品は、すぐにカルト・ムービーの仲間入りをし、その勢いに乗って故郷イギリスで撮影されたのが、「シド・アンド・ナンシー」でした。

<映画界のはみ出し者>
 彼はその後、1988年にアメリカ映画「ウォーカー」を発表。この作品は、アメリカがかつて行っていた植民地政策をブラックなユーモアを交えて、史実を元に描いたものでした。(もちろん、そこには現在のアメリカも似たようなものであるという、批判もたぶんに含まれていました)主役は、エド・ハリス、音楽には元クラッシュジョー・ストラマーが参加しました。この作品は、映画的にも実に素晴らしい作品でしたが、アメリカという国の裏側を知ることのできる貴重な作品です。(アメリカのメジャー映画がこんな作品を作ることは永遠にないでしょう)
 しかし、対米批判とも言える作品が、アメリカでヒットするはずはなく、興行的には失敗してしまいます。インデペンデント映画作家の彼にとって、一本でも失敗作を撮ると言うことは、出資者がいなくなることにつながり、作家としての死をもたらしかねません。結局彼は4年間作品を撮れなくなります。
 1992年、彼はやっと日本のケーブルホーグの出資を得て「PNDC エル・パトレイロ」を製作。その後彼は、製作の本拠地をメキシコに移し、映画のためなら世界中どこへでも行くという姿勢を貫き通し、「ザ・ウィナー」、「デス&コンパス」などを発表して行きます。(彼はもともとルイス・ブニュエルと西部劇の大ファンだっただけに、彼にとってメキシコは夢の土地でした)
 彼にとっては、作品を発表するという行為自体、そこへ至るまでの苦労も作品の一部と言えるのかもしれません。これはある意味、音楽界におけるインディーズ系アーティストにも当てはまりますが、映画を一本作るための苦労はCD一枚とは比べものにならないでしょう。だからこそ、彼は映画界NO.1のアウトサイダーと呼べる存在なのです。

<アレックス・コックス追記>
 「私立探偵・濱マイク」の「女と男・男と女」(田口トモロオ出演)の監督・脚本になんとアレックス・コックスが登場しました!さすが世界を股に掛ける男です。でも、テレビの演出を受けると言うことは、なかなか映画の仕事ができないということなんでしょう。お金を貯めてまた良い作品を作ってください!

<アウトサイダーの恋>
 アウトサイダー監督がによるアウトサイダーの恋。だからこそ、「シド・アンド・ナンシー」には、誰もがその題材からは予想する事ができなかった「愛」に満ちていたのだと思うのです。
 破滅へと向かうしかなかった「無垢の愛」、自らも一歩間違うと破滅へと向かいかねない「映画への愛」を抱えながら、アレックス・コックスは今日もまた世界のどこかでフィルムを回し続けているのでしょう。

<ポーグス、影武者出演>
 この映画の中にセックス・ピストルズのライブ・シーンがありますが、この演奏は実際にはポーグスが行っていたとのことです。(彼らは1984年にデビューしていますので、すでに人気はあったはずです)それとナンシーの友人役として、後にあのニルバーナの悲劇のヴォーカリスト、カート・コバーンと結婚することになるコートニー・ラブも出演していました。

<ゲイリー・オールドマン>
 この映画の主役、ゲイリー・オールドマンはこの後「レオン」の薬中悪徳刑事役、「フィフス・エレメント」でのあぶない悪役など、かつてのデニス・ホッパー的キャラクターの役者として、人気ナンバー1の存在になります。彼にとって、シド役はその原点だったわけです。彼もまた、危ないアウトサイダーを演じる運命にあるようです。

「シド・アンド・ナンシー Sid And Nancy」 1986年(1988年日本公開)
(監) アレックス・コックス Alex Cox
(製) エリック・フェルナー Eric Fellner
(脚) アレックス・コックス、アビ・ウール
(撮) ロジャー・ディーキンス Roger Deakins
(音) ザ・ポーグス The Pogues、ジョー・ストラマー Joe Strummer、Pray For Rain
(出) ゲイリー・オールドマン Gary Oldman
    クロウ・ウェッブ Chloe Webb

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