「スター・ウォーズ STAR WARS」 1977年

- ジョージ・ルーカス George Lucas -

<スター・ウォーズの世界>
 映画「スター・ウォーズ」については、すでに多くのことが語られていており、今さら語るべきことはないのかもしれません。第一、「スター・ウォーズ」についてなら、僕よりも我が家の長男の方がはるかに詳しく、映画の中に登場するメカの名前や性能だけでなく、映画には登場しないそのメカのプロトタイプについてすら語ることができます。もしかすると、こうしたメカや登場するキャラクターについての奥の深さに関して、この映画を越えるものは将来も現れないかもしれません。なにせこの映画については、結局映画化されないままで終わりそうもないもうひとつの3部作やスピンオフ・ストーリーなど、まだまだ知られざる部分が存在するのですから・・・。(とはいっても、ルーカス自身は、これらのスピンオフものにまったく興味がないそうです)
それは、かつて文学の世界においてJ・R・R・トールキンが成し遂げた「指輪物語」の「中つ国」の世界の創造をも越える偉業といえるかもしれません。これだけのスケールの神話世界を創り上げられたのは、ジョージ・ルーカスがあらかじめ三つの三部作からなる長い長い物語の構想を完成させていたからでしょう。もちろん、こうした壮大な構成の物語シリーズというのは、「指輪物語」、「砂の惑星」シリーズ、「ナルニア国物語」など、この後映画化されることになる作品が当時すでに発表されていただけにSFファンタジーの世界では、ある意味一般的なものだったともいえます。しかし、それら伝説的な名作は当時まだ一本も映画化されてはいませんでした。(例外的な作品としては「猿の惑星」シリーズがありますが、この作品はもともと一作目しか原作は存在せず、残りのお話しは一作目のヒットを受けて話のつじつまを合わせながらデッチ上げ的な作品だったのです。(そのわりにはよく出来たシリーズになったのは、それぞれの脚本を才能ある人物が描いていたからでしょう)
 20世紀の映画の歴史をたどってみると、映画化不可能といわれていた前述の作品群の映画化が実現したきっかけは間違いなくこの映画「スター・ウォーズ」の大ヒットだったのです。
 「スター・ウォーズ」の大ヒットが何をもたらしたのか?そのひとつは、巨額の製作費をかけても、それを十分に取り戻す結果が得られることを証明してみせたことにあります。実際、失敗したとはいえ、「砂の惑星」の映画化は「スター・ウォーズ」のヒットがあったからこそ実現した企画でした。

<「スター・ウォーズ」はいかにヒットしたのか>
 では「スター・ウォーズ」はいかにヒットしたのでしょうか?
 「スター・ウォーズ」以前にチケットの売り上げだけで7億ドルを越えた作品は無く、3部作を合計すると、このシリーズは19億ドルもの興行収入を上げています。21世紀に入り映画業界においては、10本に1本大ヒットが出れば、それで残りの赤字はカバーできるといわれています。しかし、「スター・ウォーズ」クラスの作品となると、もうその1本だけでそれ以外の一年間の仕事を不要にするだけの収益を確保できてしまいます。
 例えば、1999年に公開された「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」の場合。この映画を配給した20世紀フォックスは、この年興行収入のベスト10にこの映画1本しか入れることができませんでした。しかし、その収入は4億3千万ドルにものぼり、2位の「シックス・センス」(ディズニー映画)の2億7600万ドルの倍近いのです。ちなみに、前年1位のあの大ヒット作「アルマゲドン」(ディズニー映画)ですら2億ドルですから、「スター・ウォーズ」シリーズの人気がいかに高いかがわかります。
 極端にいうと「スター・ウォーズ」の配給権を獲得してしまえば、その年リスクを犯して他の映画を作らなくても十分に利益が上がってしまうかもしれないのです。それだけではありません。ここで挙げた興行収入は現在では映画にとって利益の一部にすぎなくなっています。
 例えば、キャラクター・グッズ。
「スター・ウォーズ」シリーズをジョージ・ルーカスが20世紀フォックスと契約した際、彼は映画に関するマーチャン・ダイジングの権利をすべて取得しました。この時、20世紀フォックスの経営陣は「スター・ウォーズ」のキャラクター・グッズが巨額の利益を生み出すことになるとは思いもせず、逆に下手に手を出して赤字を作ることを恐れてルーカスに譲ってしまったといわれています。ところが蓋を開けてビックリ。この映画は数多くの魅力的なキャラクターをそろえて初めからキャラクター・グッズ商戦での成功を目論んで製作されていたため、映画のヒットとともに巨額の利益を生み出したのです。こうして、ルーカスは「スター・ウォーズ」シリーズ最初の3部作のマーチャン・ダイジングに関する収入だけで40億ドルを稼いだといわれています。
 さらにマーチャン・ダジングの収入には、オモチャ関連、ノベライズ本関連、ファッション雑貨関連、それに最近ではゲーム・ソフト関連商品も大きなウェイトを占めるようになってきてます。これらの収益はまだまだ増える要素がありそうです。
 映画から得られる収益はまだあります。テレビの放映権料、そして今や映画館における興行収入をも上回るといわれるビデオ・DVDの販売利益。さらにはネット配給による公開にともなう利益もあります。こうして、1本の映画が当たることによって、それまでは考えられなかった桁違いの収益が得られることを示した最初の作品が「スター・ウォーズ」だったのです。

<巨額の収益はどこへ?>
 「スター・ウォーズ」の大ヒットで得られた巨額の収入をジョージ・ルーカスは、ほとんどすべて次回作以降のための製作費、研究開発費に当てました。特に力を入れたのが、彼が設立した特殊撮影のための技術開発会社インダストリアル・ライト・アンド・マジック社です。この会社の研究開発によって、この後、特殊撮影におけるデジタル技術が発達し、「スター・ウォーズ エピソード1」のようにCGを全編に必要とする映画を製作することが可能になったのです。(ちなみに、ジョージ・ルーカスが自分のために全然お金を使わないことは有名です。彼の写真を見るといつも安そうなチェックのカジュアル・シャツ姿だし、食事も自宅近所のハンバーガー・ショップで食べるのが普通だそうです)
 「スター・ウォーズ」なくして「指輪物語」も「タイタニック」も「マトリックス」も生まれなかったのです。
もちろん、「スター・ウォーズ」の影響は他にもあります。

<映画の産業構造を変えた作品>
 「スター・ウォーズ」の大ヒットは、映画界全体の産業構造をも変えてしまいました。
 「スター・ウォーズ」以降、映画界は大ヒットを期待できる原作小説や脚本を必死になって探すようになり、著作権料として膨大なお金が支払われるようになりました。例えば、「羊たちの沈黙」の続々編となったトーマス・ハリスの「ハンニバル」の原作権は1000万ドルといわれています。映画全体の製作費が8000万ドルということですから、いかに原作のヒット性を重要視しているかがわかります。ヒット間違いなしとなれば、配給会社はキャラクターのライセンスをオモチャ会社に高く売れるし、ゲームソフト会社にもゲーム化権を高く売れます。こうして、黙っても話題性は高まり、その映画への出資者を見つけることも容易になるので製作費を準備するのも楽になるわけです。
 映画を1本撮るために多くの企業が参加、出資することで、もし、その映画がコケたとしても、それぞれの企業は経営が傾くほどの打撃をこうむらずにすむ。そういうメリットもあります。(かつて、コロンビア映画はマイケル・チミノ監督の「天国の門」に巨額の製作費をつぎ込み、その失敗によって倒産してしまいました)
 「スター・ウォーズ」のヒットは、こうして映画という産業を映画館で映画のチケットを売るビジネスから映画から派生するあらゆるビジネスをマネージメントする総合ビジネスへと拡張することになったわけです。
 「スター・ウォーズ」が公開された1977年という年、アメリカは不況のまっただ中でした。映画界も、そんな時代を反映した暗い作品が多く、人々は夢を見せてくれる映画を求めていました。この年、公開のデヴィッド・リンチの「イレイザー・ヘッド」は、そんな不況のアメリカの悪夢を映画化した作品として「スター・ウォーズ」の対極に位置する作品だったといえるでしょう。だからこそ「スター・ウォーズ」は爆発的なヒットとなったのです。「スター・ウォーズ」はアメリカ国民だけでなく世界中の人々に夢を与える同時にハリウッドの映画人には新しい一攫千金の巨大な夢をもたらすことになったのです。

<ルーカスの夢>
 「スター・ウォーズ」について、お金の話ばかりしてしまいましたが、もちろんこの映画は初めから巨額の利益を生み出そうと作られたわけではありません。ルーカスにとって、SF映画はもともと大好きなジャンルで、大学時代に撮った「THX1138」は、その後もう一度プロとして撮り直すほど好きな作品でした。しかし、その映画はジョージ・オーウェルの「1984年」や「未来世紀ブラジル」のような超管理社会を描いたシリアスな作品ということでまったくヒットしませんでした。
 この時点で、彼は今後多くの人に見てもらう映画を撮ろうと決意したといいます。こうして、「スター・ウォーズ」というまったく正反対の娯楽映画が生まれることになったのでした。
 「スター・ウォーズ」が数多くの神話をもとに書かれたことは有名です。ルーカスはギリシャ神話や北欧神話など世界中の神話を研究し、それをストーリーの中に盛り込みました。そして、それら個々の物語が見えなくなるほどに組み合わせ、長い長い物語を作り上げてみせました。(唯一、黒澤明の「隠し砦の三悪人」だけは明確にその原形を残していますが、それはルーカスによる黒澤へのオマージュだったのでしょう)
 神話をもとに作られたことで、この映画は変な思想的偏りがなく、どんな主義主張、どんな宗教の人が見ても納得できるストーリーになったように思います。それは世界中の神話のエッセンスは人間本来がもつある種の共通認識に基づいていて、ほぼ一致しているからです。
 すぐれたファンタジー作品は、どれもこうした神話のエッセンスに基づいて書かれたものだからこそ、時がたっても、人間性が変化しても国境を越えてもなお愛され続けているのです。そして、そうした作品はけっして見る人に悪い影響を与えません。
 「神話の力」という素晴らしい研究書の中で、世界的な神話学者のジョーゼフ・キャンベルは神話の四つの機能について、以下のように書いています。
(1)神話は神秘的な役割をもつ。
   神話により、人々は神秘の前で畏怖の念を抱くことを憶える。
(2)神話は宇宙論的な役割をもつ。
   神話と科学との関わりにより、人々は宇宙がどんな形であるかを認識できるようになる。
(3)神話は社会学的役割をもつ。
   神話を知ることは、社会秩序を支えることにつながる。
(4)神話は倫理的な役割をもつ。
   神話は人々の生活にあるべき規則を与える。
 神話的ともいえるヒット作が誕生した最大の原因は、この作品自体が神話として世界中の誰にでも受け入れられる要素をもっていたからなのです。(そう考えると、あのタイタニック号の悲劇もまた「神話」として受け入れられる物語だったのかもしれません)
 21世紀の世界は民族的対立、宗教的対立を越えることのできる共通認識を求めています。ある種の神話こそ、その役割を担えると思うのですが・・・・・。
 21世紀に「スター・ウォーズ」をも越えるような新たな神話は生まれるのでしょうか?

「スター・ウォーズ STAR WARS」 1977年公開
(監)(脚)ジョージ・ルーカス
(製)ゲイリー・カーツ
(撮)ギルバート・テイラー
(音)ジョン・ウィリアムス
(特撮)ジョン・ダイクストラ、リチャード・エドランド、フィル・ティペット、ILM
(特メイク)リック・ベイカー
(出)マーク・ハミル、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー、アレック・ギネス、ピーター・カッシング、アンソニー・ダニエルズ、ケニー・ベイカー

「フォースと共にあらんことを May the Force be with you」
「アメリカ映画の名セリフベスト100」(2005年AFI選出)で第8位!

「スター・ウォーズ」に関する裏話や裏方さんたちについては
「スター・ウォーズ」の裏方、裏話、その影響
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