ギャングスタ・ラップのスター誕生、崩壊、復活<パート1>


映画「ストレイト・アウタ・コンプトン Straight Outta Compton」

- N.W.A. (アイス・キューブ、Drドレ―、イージーE)、2PAC、シュグナイト -
<ギャングスタ・ラップの歴史>
 多くの音楽系伝記映画が作られてきましたが、これは現代にもつながるかなり新しい音楽伝記映画です。主人公は、その後、ソロとしてもアメリカのヒップホップシーンを牽引し続けることになるグループN.W.A.です。N.W.A.の歴史は、「ギャングスタ・ラップ」という過激なヒップホップ・スタイルの歴史であり、1980年代末から90年代にかけてのアメリカ黒人文化史であり、その時代のアメリカの社会史でもあります。伝記映画として成功した作品は、どれもこうした時代を映し出す鏡として成功しているといえます。その意味で、この作品は1960年代でもなむ1970年代でもない新たな時代の記憶としても価値ある作品に仕上がっていると言えます。
 オープニングでバイクに乗った若者たちが夕陽の中を走る映像の美しさにまずは引き込まれました。(オープニングの映像は本当に大切です!)この作品は、音楽だけでなく、麻薬だけでなく、青春映画であり、LAの黒人文化である車、バイク、ファッションの見本市でもあり、様々な見どころのある多角的な映画として楽しめると思います。逆に言うと、この映画を同時代、同世代感覚で感情移入して見るのはなかなか難しいということでもあります。

<本当はもっと悪い奴ら?>
 この映画を面白く見られるかどうかの分かれ目に、彼らに感情移入できるかどうかが大きくかかわって来ます。この作品では、アイス・キューブやドクター・ドレーなどの主人公たちは、シュグ・ナイトなど周囲の黒人たちに較べれば、わりとまともな人間として描かれています。でも、少なくとも我々日本人の感覚では、彼らにシンパシーを感じるのはなかなか難しいと思います。(実はアイス・キューブは、フェニックス大学の建築学部中退というインテリのようですが・・・)
 それは、「ギャングスタ・ラップ」という音楽を歌詞の中身まで理解して楽しめるかどうかというのと同じことかもしれません。とはいえ、間違いなく音楽は最高にカッコイイです。低音の響きと歌詞のディープさは、混然一体となって、時代の空気を反映しているようです。これが楽しめないと、根本的にはアウトですが・・・。
 この映画でも描かれ、これまでも多くの音楽伝記ものの作品で描かれてきた音楽業界の裏側は、頭のいいユダヤ人ビジネスマンとギャングたちによって仕切られた汚れた世界でした。彼らはそんな音楽業界に挑んだわけですから、騙されるのも当然かもしれません。それに対して彼らは、「ギャング・スタイル」で対抗しようとしたわけですから、これもまた混乱するのは当然です。
 この物語の後に訪れる2PACとノートリアスBIGの死は必然だったとも言えます。

<あらすじ>
 ロサンゼルス近郊の住宅地コンプトンに住む黒人青年、エリック・ライト(イージー・E)は麻薬の販売で暮らしていました。ある日、彼は仲間のアンドレ・ヤング(Dr.ドレ―)、オシュア・ジャクソン(アイス・キューブ)から、自分たちの音楽活動に出資してほしいと頼まれます。こうして、イージーE,アイス・キューブ、MCレン、DJイエラらと共に彼はN.W.A.を立ち上げることになりました。
「N.W.A.」とは、Niggaz Wit Attitude(主張する黒人たち)を意味していて、白人から差別を受け、底辺に暮らす自分たちの思いを直接歌詞に乗せる曲作りを志向していました。彼らはさっそく自主製作レコードを発売し、人気を獲得してゆきます。するとそんな彼らにユダヤ系の白人ジュリー・ヘラーが声をかけ自分をマネージャーにしてくれれば必ずスターにしてみせると言われます。
 そして、1988年に彼のもとでアルバム「ストレイト・アウタ・コンプトン」を発表。いきなり大ヒットなった彼らは、麻薬、暴力、セックス、警察からの暴力などを積極的に歌詞に取り入れることで一大ブームを生み出します。しかし、そのあまりに過激な歌詞は、犯罪を誘発する恐れがあると批判され、曲によってはライブでの演奏を禁止されたりします。ついにはライブ会場で彼らは逮捕され、それをきっかけに暴動が起きてしまいます。
 ちょうど同じ時期、ロサンゼルスでは、警察官が無抵抗の黒人男性に集団で暴力をふるったことが映像によって暴露された「ロドニー・キング事件」が発生。ロサンゼルスだけでなくアメリカ中で黒人による暴動が起きつつありました。そんな社会的な混乱により、彼らの音楽は「ギャングスタ・ラップ」と呼ばれ、警察から完全にマークされる存在になってしまいました。
 そんな批判を浴びつつも、彼らのレコードは売れ続け、ライブ会場も満員が続きます。そのために、彼らの中でギャラの配分についての対立が起き始めます。マネージャーのジュリーとレーベルの社長となっていたエリックへのメンバーの不審が増し、ついにアイス・キューブが脱退。その後、Drドレ―も脱退してシュグ・ナイトとレーベル「デス・ロウ」を立ち上げます。
 N.W.A.は分裂、そんな状況下でエリックの体調が悪化し、医師にエイズに感染、発病したことを告げられます。

<マイク・タイソンと2PAC>
 この映画の後半に登場する2PACのことも書いておきたいと思います。
 2PACことトゥパック・アマル・シャクール Tupac Amaru Shakur は、1971年6月16日にニューヨークのハーレムに生まれています。ラッパーとして活動し、地元のヒップホップ・グループ、デジタル・アンダーグラウンドのメンバー、MCニューヨークとしてデビュー。その後、東海岸を代表するラッパーとして活躍しますが、その行動は西海岸の「ギャングスタ・ラップ」のように過激なスタイルを打ち出すようになり、西海岸のライバルN.W.A.のメンバーとの対立が表面化します。
 そんな中、1995年に彼はレイプの罪で逮捕され、懲役4年6か月の判決を受けてしまいます。その時、彼を救ったのが、映画にも登場したデス・ロウ・レーベルの創立者シュグナイトでした。彼は、捕らわれの身だった2PACのために保釈金140万ドルを支払い、デス・ロウ・レコードとの契約を取り付けます。仮釈放後、彼はドクター・ドレ―のプロデュースで「カリフォルニア・ラブ」(1996年)を発表し、大ヒットとなりました。ところが、シュグナイトは2PACに140万ドルを請求し、デス・ロウから逃げられないようにします。
 ところが、1996年9月7日ラスベガスでマイク・タイソンの試合を観戦後、2PACはシュグナイトと共に何ものかに銃撃されます。この時、シュグナイトは怪我ですみ、2PACは死んでしまいました。(銃撃を支持したのは、シュグナイトだったという説もあります)
 そしてこの時、生き残ったシュグナイトは、2005年にもマイアミで狙撃されるも、またもや生き残りますが、デス・ロウ・レーベルは経営危機に陥り、2006年には破産申請。そして、2014年にはクリス・ブラウンが開催したパーティーで狙撃され、重体になるも、またもや生還。そして、2015年ついに自分が運転する車で轢き逃げ事故を起こし、殺人容疑で逮捕されてしまいます。本物のギャングでも、ここまで事件には巻き込まれないでしょう。彼こそが「生きるギャングスタ・ラップ」といえるのかもしれません。

 思えば、2PACが死の直前に観戦した世界ヘビー級チャンピオンのマイク・タイソンもまた、N.W.A.並みに「ギャングスタ・ボクサー」でした。ドン・キングというギャングまがいのカリスマ・プロモーターと咬みつきボクサー、タイソンの関係は、ボクシング界におけるシュグ・ナイトとドクター・ドレ―の関係のようです。

 亡くなったミュージシャンの遺作について書かれた「遺作」で評論家の河地依子さんは、2PACの暴力的な悪役スタイルは、実は演技としてやっていたものかもしれないと書いています。確かに彼はデビュー当時は、黒人たちの置かれた状況を描きながらも、それを改善するために社会を変えようと訴えていました。しかし、そうした姿勢がまったく受け入れられなかったために、あえて自らが反面教師になろうとしていたというのです。そして、ダークサイドに落ちたまま、この世を去ってしまったのではないかというのです。

<ダークサイドに墜ちた野郎ども>
 この映画は、人種差別と闘うところからスタートしながらも、いつしか金と女とドラッグと権力を獲得するための欲望に溺れることになった野郎どもの物語と見ることもできます。イージー・Eがエイズによって、その命を落とし、彼らはその犠牲によって、それまでの罪に気がつき、許されることになった・・・それがこの映画のテーマと考えることができます。キリスト教を基本とするアメリカらしい罪の贖いの基本的な展開といえます。
 ただし、前述のとおり、この映画の物語の後、N.W.A.のメンバーの関係は復活したのに対し、東海岸と西海岸のラッパー間に対立が発生。そのディスり合いがエスカレートしたことで、ついには2PACとノートリアスBIGが命を落とすことになるのですから、その罪はさらに深まったといえそうです。(二人の死の原因は未だに不明のままですが・・・)暴力の連鎖は、この後も北野武監督の「アウトレイジ」のように続いてゆくことになります。そう考えると、この映画には続編があってもいいかもしれません。

「ストレイト・アウタ・コンプトン Straight Outta Compton」 2015年
(監)(製)F・ゲイリー・グレイ
(製)アイス・キューブ、トミカ・ウッズ=ライト、マット・アルヴァレス、スコット・バーンスタイン、ドクター・ドレー
(原)S・レイン・サヴィッジ、アラン・ウェンカス、アンドレ・バーロフ
(脚)ジョナサン・ハーマン、アンドレア・バーロフ
(撮)マシュー・リバティーク
(編)ビリー・フォックス
(音)ジョセフ・トラパニーズ
(音監)ジョジョ・ヴィリ・ヌエグア
(出)アイス・キューブ(オシュア・ジャクソン)アイス・キューブは、1991年に映画「ボーイズン・ザ・フッド」に出演。その後は映画俳優として数多くの作品に出演することになります。
ドクター・ドレー(コーリー・ホーキンズ)
イージーE(ジェイソン・ミッチェル)
MCレン(オリディス・ホッジ)、DJイエラ(ニール・ブラウンJr)、ジュリー・ヘラー(ポール・ジアマッティ)、スヌープ・ドッグ(キース・スタンフィールド)、シュグ・ナイト(R・マルコス・テイラー)、アロンゾ・ウィリアムス(コーリー・レイノルズ)
ウォーレン・G(シェルドン・A・スミス)、チャック・D(ロジェリア・ダグラスJr)
トゥー・パック 2PAC(マーク・ローズ)

曲名  演奏者  作曲、作詞   
「Straight Outta Compton」  N.W.A. O'shea Jackson,Lorenzo Patterson,Eric Wright,Andre Young  初メジャー・ヒット 
「Talking to my Diary」  Dr.Dre Andre Young,Anthony Johnson,Sly Jordan,Russell Brown
Mario Johnson
 
「Everybody Loves The Sunshine」 Roy Ayors Ubiquity  Roy Ayers  この曲もヒットしてました! 
「Jam-Master Jay」 RUN-DMC Darryl Macdaniels,Jason Mizell,・・・ ヒップホップといえば RUN-DMCの時代でした
「Everybody Wants to Rule the Waorld」  ティアーズ・フォー・フィアーズ
Tears For Fears 
Roland Orzabal,Chris Hughes・・・  主人公たちもまた世界のルールを変えようとしたわけです!
「More Bounce to the Ounce」  ZAPP  Roger Troutman  オハイオ・ファンクの代表的存在 
「Just Another Day」 The Game Feat.Asia  Jayceon Terrell,・・・   
「Al Noafiysh(The Soul)」 Hashim  Jerrr CallisteJr.   
「Weak at the Knees」 Steven Arrington's Hall of Fame  Steven Arrington,・・・   
「I Didn't Mean to Turn You On」 Cherrelle Jmaes Harris Ⅲ,・・・  
「Love You Down」  Ready for the World  Melvin Riley Jr.   
「Gangsta Gangsta」 N.W.A.  William DeVaughn,O'shea Jackson,Eric Wright,・・・  
「Computer Love」  ZAPP  Shirley Murdock,Roger Troutman,・・・   
「Atomic Dog」  ジョージ・クリントン
George Clinton
George Clinton,・・・  
「Closer to Home(I'm Your Captain)」  グランド・ファンク・レイルロード
Grand Funk Railroad 
Mark Farmer  ジェリーの部屋の壁にGFRのレコードが飾ってありました! 
「The Boyz-N-The Hood」  Easy-E  O'shea Jackson, Eric Wright,Andre Young  
「(Not Just)Knee Deep」 ファンカデリック Funkadelic  George Clinton,Philippe Wynn P-ファンクを代表するパーラメントの別形態バンド 
「Dopeman」  N.W.A.  O'shea Jackson, Andre Young,・・・  
「Quiet On The Set」  N.W.A.  Lorenzo Patterson,Andre Young   
「Express Yourself」  N.W.A.  Charles W.Wright   
「Fuck The Police」  N.W.A. O'shea Jackson,Lorenzo Patterson,,Andre Young・・・  
「We Want Easy」 Easy-E  George Clinton,Bootsy Collins,Eric Wright   
「Black Jay」  Jamie Laboz Jamie Laboz  
「C'man Babe」  The 2 Live Crew  Luther Campbell,・・・   
「8 Ball」  N.W.A.  O'shea Jackson, Andre Young,Roger Troutman  
「Red Wine」 Martin Santiago  Martin Santiago   
「The Wiggaya Love to Hate」  Ice Cube  O'shea Jackson,Eric Sadler,George Clinton Jr.・・・  
「Flash Light」 パーラメント Parliament  George Clinton,Bootsy Collins,Bernard Warrell   
「Mothership Connection(Star Child)」  パーラメント Parliament  George Clinton,Bootsy Collins,Bernard Warrell   
「Real Wiggaz」  N.W.A. Antonine Carraby, Lorenzo Patterson,Eric Wright  
「No Vaseline」 Ice Cube  O'shea Jackson, George Clinton Jr.,Garrry Shider,・・・  
「Appetite for Destruction」 N.W.A. Lorenzo Patterson,Tracy Curry,Andre Young,・・・   
「Deep Cover」 Dr.Dre feat Snoop Doggy Dog  Calvin Broadus, Andre Young,・・・  
「One Nation Under A Groove」 ファンカデリック Funkadelic George Clinton,・・・  
「Nuthin' But A 'G' Thang」  Dr.Dre feat Snoop Doggy Dog  Calvin Broadus, Andre Young,・・・   
「Neighborhood Sniper」  Eazy-E  Michael Bell,Jerry Longh,・・・   
「Hail Mary」  2 PAC  Tupac Shakur,Rufus Lee Copper,・・・   
「California Love」  2 PAC  Larry Troutman,Roger Troutman,・・・   
「What Would U Do」 Tha Dogg Pound  Ricrdo Brown,Delmar Arnaud,・・・   
「Flava In Ya Ear」  Craig Mack  Osten Harvey,Carig Mack   
「C.R.E.A.M.」  Wu-Tang Clan Dennis Coles,Robert Diggs,Gary Crice,・・・ 「ギャングスタ・ラップ」の後継者となったグループ 
「Barking In Compton」  Becky Barkscale  Becky Barkscale  

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