分断が生んだ危機の映画・希望の映画

「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」

第7回 「アメリカ 分断の2010s」

<第1章 希望 Hope>
 2009年1月20日、民主党のバラク・オバマ大統領が誕生しました。アメリカ初の黒人大統領であり、様々な人種の混血でもあった彼は多様性の象徴として、新たな時代の希望となりました。
 2010年代には、SNSが世界中に広がり、コミュニケーションのスタイルだけでなく文化、社会、宗教、政治にまで影響を与えるようになっていました。2010年から2011年にかけて、エジプトやチュニジアでSNSを用いた草の根の民主化運動「アラブの春」が起きています。
 SNSによって全世界が一つになり、より平等でより自由な民主的な社会へと変わるかもしれない。そんな希望が広がった時期でした。そして、そのSNS時代を生み出した革命家の一人であり、Facebookの生みの親でもあるマーク・ザッカーバーグの伝記映画「ソーシャル・ネットワーク」(2010年デヴィッド・フィンチャー監督)が公開されました。

 私がひかれたのは、それこそ何千年も語り継がれてきた友情・裏切り・権力・階級・嫉妬・・・そういった古典的なストーリーに必要な要素がこのストーリーがこの21世紀の現代的な舞台で繰り広げられていたことに興味を持ったんだ。
アーロン・ソーキン(脚本)

 2011年16歳から24歳の週当たりの収入中央値は、2年間で2.3%ダウン。若者たちの収入は確実に低下していました。デジタル資本主義の時代、IT技術の波に乗った業界に関わる経営者・資本家はその逆に急激に収入を増やし、2011年世界の長者番付の上位をアメリカがしめることになっていました。
(1)ビル・ゲイツ(Microsoft会長)
(3)ラリー・エリソン(Oracle会長・CEO)
(13)ジェフ・ベゾス(Amazon会長)
(14)マーク・ザッカーバーグ(FacebookCEO)
(15)セルゲイ・ブリン(Google技術部門担当社長)
(16)ラリー・ペイジ(GoogleCEO)
(18)マイケル・デル(DellCEO)
(19)スティーブ・バルマー(MicrosoftCEO)
 2011年アメリカの収入上位1%の平均年収は、1,530,733ドル。全体の平均が65,357ドルなのでその23倍。こうした富の格差増大は、この時期大きく注目されるようになり、トマ・ピケティ「21世紀の資本」は世界的なベストセラーになりました。
 そしてこうした状況に若者たちの怒りが爆発。2011年1月SNS発信で「ウォール・ストリートを占拠せよ!」運動が始まります。彼らの活動は、ドキュメンタリー「コンセンサス」(2011年)にまとめられ、ネット配信されました。

 オバマになって期待したけど、今それが裏切られた気持ちになっている。メディアで見る国内政治談義はワシントンの政治をそのまま閉じ込めた窓のない反響室みたいな感じでそれに共鳴しない残りのアメリカ人達の声はどこに響かせればいいのか。
「コメント」製作者ブライアン・チャン

 映画「ソーシャル・ネットワーク」が、IT時代の映雄たちの物語だったにも関わらず、そこで展開するドラマが昔ながらの成功と嫉妬、裏切りの人間ドラマだったことは、その後SNS文化が向かう未来を予見するものだったのかもしれません。

<第2章 放蕩 Dissipation>
 若者たちがウォール・ストリートの住人たちを敵視する中、映画「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」(2013年マーティン・スコセッシ監督)が公開されました。
 それまでも、アメリカの裏社会におけるヒーローであるマフィアやボクサーなどの伝記映画を撮ってきたマーティン・スコセッシがここで映画化したのは、実在の実業家ジョーダン・ベルフォートの波乱の人生です。
 1980年代を代表する作品「ウォール街」は、金を稼ぐことに人生を賭けたゴードン・ゲッコーをダーク・ヒーローとして描きましたが、そこには「労働とは何か?」というポジティブなテーマも隠されていました。しかし、「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」の主人公は、まったく別の存在です。

 僕は「華麗なるギャツビー」「アビエイター」「J・エドガー」といった作品でそれぞれの時代のアメリカを象徴するようなキャラクターを演じたわけだけれど、ギャツビーとジョーダンが何よりも異なるのはジョーダンには何のバックストーリーもないということなんだ。あるのは「ただ金を稼ぎたい」という思いだけで、その理由が描かれることはない。現代社会の問題を体現したキャラクターだと思う。
レオナルド・ディカプリオ(主演・製作)

 同じ2013年に公開された映画「ダラス・バイヤーズ・クラブ」(ジャン=マルク・ヴァレ監督)は、やはり実在の人物の伝記映画ですが、その人間像はまったく異なります。
 1980年代、まだHIVの有効な治療薬がなかった時代にメキシコから未承認の治療薬を密輸入し、それを格安で販売した元カウボーイの労働者が主人公。彼自身がHIVにより余命数か月という宣告を受けていましたが、彼は自分だけでなく多くの貧しい労働者のために密輸を繰り返しました。
 そこで描かれた1980年代、レーガン政権は「小さな政府」を目指すため福祉予算を大幅にカットしたために、多くの労働者が無保険状態に陥っていました。その状況を改善し、国民皆保険を目標としていたオバマ政権は、保険制度の改正を提案しましたが、保険業界からの強い反発にあい実行することができなくなります。この時点でオバマ政権への期待は一気に低下し、国民からの信頼を失うことになりました。

<第3章 変質 Alteration>
 サブカルチャーとしての映画の時代が1970年代だったのに対し、それ以降の映画はサブカルチャーを取り込むことでヒットを生み出す複合的エンターテイメントとして巨大化して行きました。2001年に第1作が製作された「ワイルド・スピード」シリーズは、そうしたサブカルチャーを盛り込むだけでなく、出演者の多様性でも世界的ヒットを狙うシリーズとなった成功例です。

 僕は政治的な主張から人種の多様性を見せようとしているのではなくて、現実に僕の住む世界が多様性に満ちているからなんだ。自分の映画には自分が住む世界を反映させたい。そういう意味で、いまだにアメリカも考え方が遅れていると思うし、もっといろんなタイプの人が出るべきだと思うよ。
ジャスティン・リン(「ワイルド・スピード」第1作から6作を監督)

 このシリーズで売りになったのは、当初は「日本車の改造ブーム」でした。しかし、そこに、リュダクリスに代表される「ヒップホップ」、サン・カンに代表される「K-POP」、ドウェイン・ジョンソンに代表される「プロレス」など様々なサブ・カルチャーを取り込んだことで、様々なジャンルのファンからの受け入れられることになりました。
 グローバル化の流れにより映画の世界もアメリカだけが市場ではなくなり、世界的ヒットを生み出すためには、より多くの国籍、民族など多様な登場人物を描くことは常識となりました。巨額の製作費をつぎ込むディズニーやマーベルの作品はまさにそうした狙いのもとに製作されています。
 この時代における多様性の象徴とも言える大人気SFシリーズ「アベンジャーズ」は、「ワイルド・スピード」以上の世界的な成功を収めています。

 60年代や70年代ポップ・カルチャーはとても政治的なものとして扱われていいました。世界や自由個人主義についての政治的な意見を表現していた。しかし、その文脈が途絶え「カウンター・カルチャー」はただの「カルチャー」になったのです。
 商業資本主義が意図的にカウンター・カルチャーの脅威を切り離し弱体化させたとは言いたくありません。しかし、実際にそうなったのです。

カート・アンダーセン

 「ワイルド・スピード」は営業的にはそうした多様性を取り込むことで成功を収めましたが、そのテーマは「多様性を認めつつも、そこには家族的な関係を築くべきである」というものでした。それはある意味反グローバリズム的思想でもあります。この「反グローバリズム」もまた2010年代を象徴するテーマとなって行きます。

<第4章 撤退 Withdrawal>
 2010年代後半は、20世紀後半から続いた「グローバリズム」に対する反発が世界中に広がった時代でもあります。
 2016年、イギリスが国民投票を実施し、EUからの離脱が決まりました。ここからEUの分裂危機が始まります。
 アメリカ国内でもグローバリズムによって富を築いた人々に対する反乱が始まろうとしていました。
 民主党のアメリカ大統領候補を決める選挙に立候補したヒラリー・クリントンは、元大統領の夫の知名度や初の女性大統領誕生という話題性から圧倒的優位が予測されていました。ところが、共産主義よりの左派政治家バーニー・サンダースが若者たちの心をつかみ、一時はヒラリー・クリントンに迫る勢いをもつことになりました。グローバル化の波に取り残された若者たちにとって、民主党リベラルの改革の約束はまったく信用できなくなっていたのです。この分断は、民主党内を分断させただけでなく、アメリカ大統領を決める本選挙でも影響を残し、それがあの驚きの選挙結果に結びつくことにもなります。しかし、その大統領選挙の前に、もっと衝撃的な事件は起きます。
 2014年6月29日、イスラム教過激派のイスラミック・ステートISが「カリフ国家」の樹立を宣言。民主主義とは遠くかけ離れたイスラム原理主義に基づく国家を設立するために世界中のイスラム原理主義者がISのもとに集まり始めました。
 この後次々に起きたISが反対勢力の記者や民間人を誘拐、処刑する映像は世界中に衝撃を与えました。そんな中、イラクを舞台に活躍した実在のアメリカ人スナイパーを描いた映画「アメリカン・スナイパー」(2014年)が公開され話題となりました。彼はイラクで英雄的な活躍をしましたが、帰国後彼はPTSDに苦しみ、家庭も崩壊してしまいました。イラク戦争自体、そもそもイラクに核兵器が存在するからと始めたにも関わらず、そこに核兵器は存在しなかったという誤りの戦争でした。

 僕は個人的にはイラク戦争を支持した人たちの一人じゃない。それでも戦場に送られた人々について語ることはできる。僕は第二次世界大戦から今日までずっと生きてきて多くの変化を見てきた。そして多くの過ちが何度も何度も繰り返されているように思えるんだよ。
クリント・イーストウッド(監督)

 第二次世界大戦以降、「世界の警察」「自由の番人」として海外で活動していたアメリカは、この時期、初めて自らその役割を捨てようとし始めます。皮肉なことに、そのことを世界中に宣言したのは、共和党右派のドナルド・トランプでした。
「私たちはもはや世界の警察官にはなれない。金を出さない国は守れない」
 アメリカの分断は、ドナルド・トランプという強烈なキャラクターの大統領を生み出し、それがアメリカをさらなる分断、自己破壊へと導くことになります。

<第5章 焦燥 Fretfulness>
 2017年ハリウッドを代表する映画製作者ハーヴェイ・ワイスタインのセクシャル・ハラスメントが多くの女性たちによって暴露されました。ここから世界規模の新たなフェミニズム運動「METOO運動」が始まることになります。
 黒人女性としてフェミニストとしてアメリカを代表する存在だったビヨンセが発表した「***Flawless」(2014年)は、そうしたMETOO運動の流れに乗り大ヒット。そこに引用されたのは、小説「アメリカーナ」などが有名なナイジェリア出身の作家チママンダ・ンゴスィ・アディーチェのスピーチでした。
「私はフェミニストです。辞書で意味を調べたらこうありました。”フェミニスト:性別によらない社会的政治的経済的平等を信じる人”」
 ビヨンセの存在は、テイラー・スイフトなどのフォロワーを生むことにもなりました。

 男の子たちには平等と敬意を教えねばなりません。彼らが成長した時にジェンダー平等が当たり前のことだと思えるように。
 そして女の子たちには人間として可能な限りの高みを目指していいのだと教えなければなりません。

ビヨンセ

 1979年の大ヒット作「マッドマックス」のリメイク「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)でも、女性のフィリオサが大活躍。彼女を演じたシャーリーズ・セロンは、FOXテレビで起きたセクシャル・ハラスメントを描いた実録映画「スキャンダル」(2019年)でも主人公のメーガン・ケリーを演じていて、フェミニズムを代表する女優となって行きます。

 2015年6月26日、連邦最高裁判所が同性婚をすべての州で認めるという判断を下しました。オバマ大統領が公約としていたこの改正はLGBT運動の歴史を変える大きな節目となりました。(ただし、トランプ大統領に誕生により最高裁判事の顔ぶれが変わり、2020年代に入り事態は逆行することになります)
 2016年公開の映画「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督)のアカデミー作品・助演男優・脚色賞受賞は、そうした時代の流れを象徴したと言えます。

 僕にとって今の世の中はお仕着せの世界だ。ソフトパワーというさりげない決りごとが世界から見たらアメリカにはたくさんあるんだ。
 これは男は男らしくという考え方で当たり前のように存在する古い概念だ。
 だから僕はスクリーンを通して観客に外見や全体的な変化を含めた主人公の成長を示したかった。

バリー・ジェンキンス(監督)

 2012年フロリダで17歳の黒人少年が白人警察官に射殺される事件が起きました。翌年この事件の後に登場したハッシュタグから、新たな人種解放運動Black Lives Matterが始まることになります。こうしてアメリカにおける人種の分断は再び激しさを増すことになり、トランプ大統領の誕生はそれをさらに悪化させました。
 2017年にトランプ政権が誕生して以降、アメリカのヘイトクライム事件(人種差別による犯罪)が前年比17%の大幅増となりました。
 この年公開の映画「ゲット・アウト」(ジョーダン・ピール監督)は、そんな時代の人種差別を不気味なホラー・コメディとして描いた異色作です。そこに描かれた黒人主人公の恋人の家族はとにかく黒人大好きの白人家族。人種差別など過去のこと、と言わんばかりの人々ですが、そこにはまた新たな形の差別が隠されていました。差別の構造はより複雑なものになりつつあります。
 2018年に話題となった黒人ラッパー、チャイルディッシュ・ガンビーノ「This is America」では、差別の現状をリアルに描くだけでなく、黒人自身の中に潜む差別の心の闇をも暴く内容になっていました。

<第6章 懐疑 Skepticism>
 2016年、世界中でポケモンGOが大ヒット。
 2017年、大統領に就任したドナルド・トランプは、選挙戦からSNSを利用し、劇場型政治のIT版を展開。真偽が定かでない反対派のスキャンダルを連発する「FAKE NEWS」が流行語となりました。
 この年「ブレード・ランナー」(リドリー・スコット監督)の続編「ブレード・ランナー2049」(2017年ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)が公開されました。1982年公開の1作目では、近未来のロサンゼルスが漢字や麵料理など日本文化の影響が色濃い都市であると同時に、SF映画史上初めて街中に広告が氾濫する世界が描かれました。それは明らかに当時のアメリカが日本の経済進出に圧倒され不安を抱いていた状況を反映する描写でした。
 続編の「ブレード・ランナー2049」では、そうした世界が「ハイパー資本主義」とITが融合することで世界がより住みにくくなったディストピアとして描かれます。もうITによる変革で世界が幸福になるとは誰も信じてはいないのです。そのことは、そうしたIT革命の先駆者自身が感じていることでもありました。

 アプリ開発者の思考プロセスはこうだ。最大限にユーザーの時間や注意を奪うためにはどうすべきか?
 そのためには写真や投稿に対して「いいね」やコメントがつくことでユーザーの脳に少量のドーパミンを分泌させることが必要だ。
 人の心理の「脆弱性」を利用しているのだ。それは私のようなハッカーが思いつく発想だ。
 私たち開発者はこのことを理解した上であえて実行したんだ。

ショーン・パーカー(元FacebookCEO)

 世界中の人々がIT社会に取り込まれる中、そこからはみ出して生きる一人の男性を描いた映画が公開され、静かに人々の共感を得ることになりました。
 「パターソン」(2016年ジム・ジャームッシュ監督)は、アメリカ東部の街パターソンでバスの運転手として働く男の物語。彼はアマチュアの詩人として暇な時間に詩を書いていますが、それを世に発表しようとは思っていません。彼は世の中にはすでに十分「詩集」が存在しているので、これ以上増やす必要はないと考えています。彼はそんなライフスタイルを変える気はないのです。彼にとっては、富も名誉も今以上に必要なものではないのです。
 この映画が提示するもう一つのライフ・スタイルが、静かにゆっくりと世界中に広がることを願います。

 地球は交通機関だけでなくインターネットやソーシャル・メディアによってすごく小さくなっている。でもそれらを操作しているシステムが決して優れているとは言えず、というより崩壊している。だから僕の希望としてはこれを機会にみんな一歩下がって「地球を動かしていたのは一握りの者だけが儲かるシステムで僕らではないって気づいてくれたらいいと思うよ。
ジム・ジャームッシュ(監督)

 映画の中で道徳的なだけでなく美学的な代替案を提示しているように思います。私たちはドナルド・トランプに対して道徳的にだけでなく美学的にも訴えを起こすことができますよね。
 彼のようにセンスの悪い人間がお金をこれほど持っていることに何の意味があるのか?
 より醜い世界を作るためなのか?
 そしてアメリカの資本主義はそのことについて何も考えていないと指摘しているのです。

ジョナサン・ローゼンバウム

<第7章 反転 Inversion>
 2019年8月3日テキサス州エルパソのショッピング・モールで銃乱射事件が起き、22人が死亡。犯人は、メキシコ人をターゲットにしたと証言しました。この時期トランプ大統領の誕生によって、人種の分断は急速に悪化しています。
 しかし、それ以上にアメリカでは貧富の差が拡大し続けていました。
 2019年、資産10億ドル以上のビリオネアが705人と世界一なのに対し、貧困率は17.8%でOECD加盟国中、コスタリカ、ハンガリーに続く次ぐワースト3位でした。左派であるはずの民主党政権が誕生しても、状況は変わらないままでした。そんな時代に現れたダーク・ヒーローがジョーカーでした。
 「ジョーカー」(2019年トッド・フィリップス監督)は、それまでのヒーロー映画とはまったく異なる「胸糞の悪くなる映画」として大ヒット。(思えば21世紀の映画界では、ラース・フォン・トリアーダーレン・アロノフスキーなど「ダークな映像作家」が活躍する時代になったのは、時代を反映しているのでしょう)
 かつては子供たちのアイドルだったバットマンの敵役が、この時代にはヒーローとして受け入れられるようになっていました。それが2010年代の世界だったのです。
 映画のラスト、クリームによる1968年の代表曲「White Room」がかかります。その曲が誕生した1960年代末に大ブームとなっていたヒッピー・ムーブメント。その終焉を象徴する事件を描いた映画が「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年クエンティン・タランティーノ監督)でした。
 カルト教団の教祖チャールズ・マンソンらによって、ハリウッド女優とそのお腹の赤ちゃんら5人が殺害された恐るべき殺人事件。映画では、その時代の狂気と愚かさが見事に再現され、60年代ヒッピー・カルチャーを否定するように史実とは異なるラストを迎えます。しかし、監督のタランティーノは単にその時代のヒッピー・カルチャーを否定したかったわけではないようです。

 今も確かに変化の時期だ。しかし、1969年は前向きで大胆で掟破りの方向への変化だった。今はまったく逆だ。進化ではなく退化。
 PC(政治的正しさ Political Corectness)が最優先され抑圧が強まり、誰もリスクを取らない。変化の意味が1969年とは全然違っている。

クエンティン・タランティーノ

 2021年、大統領選挙でドナルド・トランプが敗北。しかし、彼は自らの敗北を認めず、国会議事堂乱入事件を扇動します。
 2020年代は、アメリカがより分断の溝を深めたことろからスタートし、新型コロナウイルスと2022年のロシアによるウクライナ侵攻が世界を襲うことになります。


「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」
(制作)NHK
(制作協力)テレビマン・ユニオン
(制作統括)藤田英世、丸山俊一
(プロデユーサー)高橋才也
(ディレクター)牧田潤也
(リサーチャー)黒川優珠
(語り)玉木宏
(撮)森岡知之
(出)ジョナサン・ローゼンバウム(1943年生まれ、評論家)、アリソン・ウィルモア(映画評論家)、ジョセフ・ヒース(評論家)
<2010年代の映画>

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