「Shall We ダンス?」

- 周坊正行 Masayuki Suou -

<映画修行の日々>
 周坊正行監督は、1956年10月29日東京に生まれ、川崎市で育ちました。大学浪人中に名画座で映画を見るようになり、その魅力にひかれ、立教大学に入学後は映画について本格的に学ぶようになり、蓮實重彦から直接映画論講座を受け、大きな影響を受けました。同じ立教大学で映画監督を目指していた黒沢清とも交流があり、彼が参加したディレクターズ・カンパニーの中心メンバー高橋伴明が監督するピンク映画の撮影に参加します。
 大学卒業後もピンク映画の助監督を務め、1982年には仲間の磯村一路ら4人と制作集団ユニット5を結成。脚本書きや助監督をしながら経験を積んだ後、1984年にピンク映画「変態家族・兄貴の嫁さん」で監督デビューを果たします。彼が尊敬する小津安二郎の名作「晩春」の続編的な物語をピンク映画にしたその映画は、彼の師匠、蓮實重彦などから高く評価されます。(残念ながら見ていません。面白そうですが・・・)
 その後も彼はテレビドラマ「サラリーマン教室・係長は楽しいな」の演出、伊丹十三監督の傑作「マルサの女」、「マルサの女2」のメイキング・ビデオの構成・演出を担当し、さらに評価を高めました。そして1989年彼は一般映画「ファンシイダンス」の監督に抜擢されます。

「ファンシイダンス」 1989年
(監)(脚)周坊正行
(原)岡野玲子
(撮)長田勇市
(音)周坊義和
(出)本木雅弘、鈴木保奈美、大沢健、彦麿呂、田口浩正

 本木雅弘主演のこの作品は、お坊さんになるための修行に集まった若者たちを描いた作品。この映画は地味な題材ながら口コミで高評価が広がり静かなヒットとなり、彼の名を映画ファンの間に広めることになりました。そして、この映画こそ、彼自身のその後の作品「シコふんじゃた」や「Shall We ダンス?」の原点となった作品であると同時に、その後日本映画の定番的スタイルとなる「修行もの」映画すべての原点になった作品です。
 この映画のヒットに続き彼は同じ本木雅弘を主演にした映画「シコふんじゃった」を撮ります。

「シコふんじゃった」 1992年
(監)(脚)周坊正行
(撮)栢野直樹
(音)周坊義和
(出)本木雅弘、清水美沙、柄本明、竹中直人、田口浩正

 わけありで相撲部に入った主人公(本木)は、いつの間にか廃部寸前の弱小相撲部を立て直すはめになり、部員集めからその訓練、そして大会への出場を目指し練習を始めます。マイナーな相撲とさえない主人公。主人公があこがれるマドンナと変わり者だが優れた指導者。落ちこぼれの仲間たちとエリート集団の敵。こうした舞台装置をそろえた物語の原型はいよいよできあがったといえます。

「Shall We ダンス?」 1996年
(監)(脚)周坊正行
(撮)栢野直樹
(音)周坊義和
(出)役所広司、草刈民代、竹中直人、渡辺えり子、柄本明

 この作品はそれまでの彼のスタイルの集大成となり、日本アカデミー賞では新人賞以外の主要13部門を完全制覇するという快挙を成し遂げ。その勢いに乗って、海外へも輸出され、アメリカではかつて黒澤明の「乱」が作った日本映画の興行記録を塗り替えるヒットとなり、リチャード・ギア主演のリメイク作品まで作られることになりました。その後、日本映画のリメイクはハリウッドにおけるブームになります。

 一般的には知られていないマイナーなカルチャーを取り上げることで観客に新鮮な驚きを与え、好奇心を満足させるこうしたスタイルの映画は、その後彼以外の監督たちもどんどん作るようになります。
 先ずは、最大のブレイク作といえる男子のシンクロを描いた「ウォーター・ボーイズ」とジャズに挑む少女たちを描いた「スィングガールズ」(ともに矢口史靖監督作品)その他にも、ボート競技に挑戦する少女たちの物語「がんばっていきまっしょい」(磯村一路監督作品)、それに「AIKI」(合気道)、「ロボコン」(ロボット・コンテスト)、「ガチ・ボーイ」(学生プロレス)、「フラガール」(フラダンス)、「おくりびと」(納棺師)など、まだまだあるでしょう。映画業界からこのパターンの作品を除いたら、どれだけ寂しくなることでしょう。
 それだけでなく、ダンス・ブームやブラスバンド・ブームなど、様々なカルチャーにとって、こうした映画がその普及にどれだけ役立ったことか!そう考えると、これらの作品は日本人のライフ・スタイルをも変えたといえるでしょう。こうした映画を見て、趣味にした人、仕事にした人が日本中にどれだけいることか・・・。
 小津安二郎のコピーから始まった彼の映画作りは、今や周坊スタイルともいえる日本映画の定番スタイルの原点といわれる存在になりました。しかし、かれはたぶんもうそうしたスタイルの映画はとらないでしょう。

「それでもボクはやってない」 2007年
(監)(脚)周坊正行
(撮)栢野直樹
(音)周坊義和
(出)加瀬亮、役所広司、瀬戸朝香、もたいまさこ、光石研、山本耕史
 この作品は、それまでの彼の作品のもつ「修行による成功」を描いた感動作というイメージを壊し、より現実の厳しさをみつめた作品となりました。さらに2011年の新作で彼は、チャップリンの人生を描いたミュージカル舞台劇をフィルムに収めるというドキュメンタリー的な作品を手がけています。いつものようにハッピーエンドではないこともまた、彼にとっては新しい挑戦になりました。
 いかんせん、彼の作品は少なすぎます。これからは質にこだわるだけでなく、もっともっと多くの作品を撮ってほしいものです。

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