永遠なる旅に向かった知の巨人


- 立花隆 Takashi Tachibana -
<PART 2>
<知の巨人、無に帰る>
 2021年4月30日、癌によってこの世を去った立花隆さんは、遺言によりすべての蔵書を古本として販売してしまいました。このニュースは、彼のファンにとっては驚きだったのではないでしょうか?あの有名な猫ビルごと、立花隆記念館にすればよかったのに、と思っていた方は多かったはずです。でもなぜ、彼は資産をつぎ込んで集めた貴重な書籍を売り払ってしまったのでしょうか?
 記念館に飾られるよりも、それぞれの本が読むべき人に渡る方が意味があると思ったからでしょうか?
 人類の長い歴史からみれば、立花隆という一人の人間に集まっていた「知」はささいなものに過ぎず、それが再び新たな持ち主へと拡散し、それが次なる「知」の集積を生み出す方が価値があると思ったのかもしれません。
 とにかく、自らの疑問を次から次へと追い続けた立花さんですが、当初は「政治」がその調査研究の専門分野でした。しかし、それだけの調査研究範囲ではあまりに狭すぎると彼は感じるようになります。今回放送されたNHKスペシャルの中のテープで彼は、田中角栄のために時間を使い過ぎたとこぼしていました。
 たとえ昭和を代表する総理大臣であっても、人類の長い歴史からみれば、彼は所詮、権力と金と女性が大好きな田舎のおっさんに過ぎないのです。そんなちっぽけな存在を研究するよりも、宇宙や生命や進化などの大きなテーマにもっと早くから挑戦したかったのでしょう。

<進化からすべてを>
 フランス人カトリック司祭でありながら、進化論学者でもあったピエール・テイヤール・ド・シャルダンという思想家がいます。彼が語った有名な言葉も立花さんによって、この番組で紹介されています。
「全てを進化の相の下に見よ」
 宇宙の誕生から、銀河系、太陽系、地球の誕生まで。そして、その地球上に生命が誕生するまで。その生命からサル、そして人類への進化。これらの長い長い歴史をすべて一つのキーワード「進化」で捉え直そうという考え方。
 それに挑戦していた立花さんにとって、やるべきこと、調べるべきことはあまりに多すぎました。時間はいくらあっても足りなかったはずです。
 自分(人間)は今どこにいて、どこに向かおうとしているのか?(彼はこれを「見当識」と名づけています)
 自分(人間)とサルの境界線はどこにあるのか?物質と生命の境界線はどこにあるのか?地球と宇宙の境界線はどこにあるのか?
 
 ほとんどのジャーナリストや作家には、それぞれ専門分野があって、そのジャンルに特化して作品を発表し続けるものです。
 それに比べると、彼の作品のジャンルの幅の広さには驚かされます。

「60年安保栄光と悲惨」、「実像・山本義隆と秋田明大」、「この果てしなき断絶 - 三派全学連・父と子の記録」は、「60年代政治闘争」がテーマ。
「『少年マガジン』は現代最高の総合雑誌か」は、サブカルチャー研究の先駆作。
「青春漂流」は、若者たちのライフ・スタイルがテーマ。
「毛沢東の徹底的解明 - 革命家・毛沢東とは」「日本共産党の研究」は、20世紀を代表する思想共産主義がテーマ。
「田中角栄研究 - その金脈と人脈」「巨悪VS言論」は、日本の政治がテーマ。
「農協 巨大な挑戦」は、経済、企業経営がテーマ。
「アメリカ・ジャーナリスト報告」「アメリカ性革命報告」は、アメリカ文化がテーマ。
「宇宙からの帰還」は、宇宙と宇宙が変えた人間たちがテーマ。
「サル学の現在」は、サルと人間の違いがテーマ。
「脳死」「臨死体験」は、「死とは何か?」テーマ。
「精神と物質」「電脳進化論」「脳を究める」
は、脳とAIがテーマ。
「ぼくはこんな本を読んできた」は、まさにがテーマ。

 これら一見バラバラのように思える分野の研究も、彼にとっては進化の歴史の流れを知り、人るの流れにまとめるために必要な研究ばかりだったと言えます。

<進化の未来>
 人類は、身体的な面からみて動物たちの中でも独自の発展を遂げてきました。そのおかげで、人類は脳を巨大化させ、他の動物にはできなかった道具や言語を生み出すことに成功。それにより、他の生物にはない「文明」を生み出しました。さらに「科学」という神様のごとき力の獲得によって、人類の文明は暴走し始め、今や地球と人類を滅亡させかねない状況を生み出しつつあります。今こそ人類は次なる進化の段階へと歩みださなければならないのかもしれません。
 「『知』こそ、次なる進化の舞台である」
 立花さんのこの言葉通り、今や人類は宇宙開発よりも、さらなる「知」の進化を実現させることの方が重要なのだと思います。
 「ロック世代のポピュラー音楽史」として始まったこのサイト「ポップの世紀」は、1960年代以降の音楽史のまとめからスタートしました。しかし、それぞれの音楽のルーツをたどれば、世界各地の文化の歴史をさかのぼることになり、それは人類文明を延々とたどる長い歴史の旅へと結びつきました。
そして、音楽を進化の相の下に見る」ことは、立花隆が始めた「知の宇宙」への探求の旅と、どこかでつながることになると思っています。

 最後の立花隆最後の言葉から

 動物の場合、世代をこえて伝承される情報は遺伝情報しかない。
 しかし、ヒトの場合ははるかに大量の情報が言語情報ついて世代をこえて伝えられていく。
 これは人間だけが獲得した新たな遺伝の形式だという。
 人間の持つあらゆる知識が総合されて一つの一貫した体系として共有されるようになってきた。
 これらの動きの延長上に人類全体が一体となって思考するような日が来るだろう。
 超人類の誕生であり、超進化、人という種のレベルをこえた進化が実現する。


<参考>
「見えた 何が 永遠に - 立花隆 最後の旅 -」
 2022年4月30日放送のNHKスペシャル
(制作統括)佐藤稔彦、池本端
(ディレクター)岡田朋敏
(編集)小澤良美
(撮)小椋崇広
(語り)田中宏樹
(音)羽毛田丈史

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