ミスター・アメリカン・プレジデントと20世紀


- セオドア・ルーズベルトTheodore "Teddy" Roosevelt -

映画「風とライオン」
<「TIME」の20世紀>
 アメリカの雑誌「TIME」が選んだ「20世紀の100人」という本があります。その中で、20世紀とはいかなる世紀だったのか、象徴的な呼び方が挙げられています。

「自由の世紀」
 「ファシズム」と「共産主義」という二つの政治思想は、20世紀に自由主義体制に敗北。それ以外にも、人種差別、性差別、階級差別、職業差別、障害者差別、宗教差別・・・多くの差別が20世紀には否定され、「自由」がより多くの人々に行き渡ることになりました。
「資本主義の世紀」
 共産主義国家がソ連の崩壊により世界地図から激減し、残された国も資本主義を導入することでかろうじて生き延びていました。
「電子の世紀」
 原子力、量子力学、原子爆弾、デジタル・コンピューター、インターネット、携帯電話・・・20世紀を変えた科学の多くは「電子」に関わる研究から生み出されました。
「グローバルな世紀」
 人類文明は「村」から始まり、都市国家、統一国家、植民地をもつ帝国、民主国家、そしてその共同体である国家の集合体(EU)へと発展。それと同時にインターネットなど世界的な情報網の発展による世界の均質化が進みました。
「大量市場の世紀」
 ヘンリー・フォードによる自動車の大量生産システムの構築。ここからすべての製品が大量生産、大量販売される時代が始まりました。その影響は様々な文化や社会システムを変化させることになりました。
「大量殺戮の世紀」
 スターリン、ヒトラー、毛沢東、ポル・ポト、アミン、サダム・フセイン・・・様々な大量虐殺者が現れたのも20世紀でした。彼らが虐殺に利用したのは、「民族差別」、「宗教差別」など、大衆が持っている差別意識でした。
「アメリカの世紀」
 そして、「TIME」誌の創設者ヘンリー・ルースは、1941年にもうひとつ「アメリカの世紀」という言葉を記しています。彼がアメリカ人で「TIME」誌がアメリカの雑誌であるとはいえ、「アメリカの世紀」という20世紀のとらえ方は、決して間違いではないでしょう。
 アメリカは、「自由主義」の守護者であり、資本主義経済のトップランナーであり、コンピューター、原子爆弾、インターネット、テレビなど先進科学技術大国であり、グローバリズムの先導者であり、「大量市場」経済の先進地であり、常に世界中で戦争を続けた戦争国家でもあるのです。
 世界恐慌や第二次世界大戦におけるアメリカの役割やその後の冷戦などを考えると、20世紀の世界を中心となって動かしたのはアメリカだったと考えることもできそうです。そんな20世紀を動かし続けたアメリカの象徴的存在として、20世紀最初の大統領セオドア・ルーズベルトを忘れるわけにはゆきません。彼の生き方、彼の政治思想が、その後のアメリカの政治姿勢を決定づけたといえるのですから。(トランプ大統領は、セオドア・ルーズベルトへの原点回帰のような存在です)

<大統領テディ誕生>
 セオドア・ルーズベルトTheodore "Teddy" Rooseveltは、1858年10月27日裕福な家庭に生まれましたが、喘息に苦しみ、学校にも通えずにいました。それでも頭の良かった彼は自宅学習をしながら博物学などに熱中し、ハーバード大学に入学します。そして、卒業後、すぐに下院議員に立候補して当選。議員と両立して歴史の研究も行いながら、ニューヨーク市では警察内部の腐敗撲滅に活躍し、政治家としての評価も得て行きます。その後、軍人として米西戦争でも活躍し、帰国後はニューヨーク州の知事選挙に出馬して僅差ながら勝利をおさめます。そして、1900年に彼は早くも副大統領に指名されます。まだ42歳という若さでした。ところが、運命は彼をさらなるステージへと一気に押し上げます。彼を副大統領に指名したマッキンリー大統領が暗殺され、彼に大統領の役割がもたらされたのです。
 臨時とはいえ、大統領となった彼は無事に仕事をこなし、1904年には正式に大統領に出馬し、自力で大統領となりました。

<多彩な顔をもつ大統領>
 彼ほど多彩な顔をもつ大統領はいません。
 ノーベル平和賞受賞者、海軍史研究家、伝記作家、エッセイスト、古生物学者、剥製技術者、自然研究家、鳥類学者、環境保護活動家、猛獣ハンター、編集者、評論家、牧場主、社交界の花形、芸術のパトロン、騎兵隊大佐、ニューヨーク州知事・・・そして「テディ・ベア」のもとになった愛称「テディ」をもつ国民的アイドル・・・彼ほど「ミスター・アメリカン・プレジデント」と呼べる大統領はいないかもしれません。
 ヘミングウェイ、J・F・ケネディ、H・G・ウェルズ・・・様々な人物像が融合されたかのような複雑でマッチョで芸術家肌で動物好きで武器オタクで博物館好きな彼の存在は、アメリカのその後の運命を大きく左右することになります。
 彼はもともと身体が弱く、喘息だけでなく心臓が弱かったため、常にニトログリセリンの錠剤を持ち歩いていました。そして、それを飲み続けることで体内で爆発を起こしながら、毎日、誰よりも働き。、誰よりも遊ぶ生活を続けていました。(午前中に集中的に仕事をして、午後には好きなアウトドアの作業や遊び、パーティーに行く)
 そんな彼のエネルギッシュな生き様は、世界の警察として世界中を駆け回ることになるアメリカを体現していたようにも思えます。彼がパナマ運河建設のためにパナマでクーデターを起こさせたり、アメリカ海軍を大幅に増強し、アメリカの海外進出のために準備をしたりしたことは、後の中米政策や朝鮮戦争、ベトナム戦争につながって行くことになります。
 ただし、自然を愛する彼は環境問題に取り組んだ最初の大統領でもありました。国立公園を5つつくり、森林を守るために広大な森林を国有化したのも彼の功績です。少なくとも、彼が今生きていれば、地球温暖化問題に積極的に取り組んでいたはずです。

 そんなテディの人物像をなかなか見事に描いていた映画があります。ジョン・ミリアス監督の代表作「風とライオン」です。
「風とライオン THE WIND AND THE LION」 1975年
(監)(脚)ジョン・ミリアス
(製)ハーブ・ジャッフェ
(撮)ビリー・ウィリアムズ
(音)ジェリー・ゴールドスミス(音楽も良かった!)
(出)ショーン・コネリー、キャンディス・バーゲン、ブライン・キース、ジョン・ヒューストン、ジェフリー・ルイス、スティーブ・カナリー
<あらすじ>
 アラブの小さな部族の首長にアメリカ人女性とその子供を誘拐されたアメリカ大統領セオドア・ルーズベルトは、人質を救おうと交渉を開始。彼らを救出するための軍隊を送り込みます。それに対し、砂漠を風のように移動する犯人たちの思いを知った人質の女性は、しだいに首長を理解し始めます。アメリカによる海外進出に反抗する小さな抵抗にルーズベルトは、しだいにいら立ち本気になって行きますが・・・。

 男のロマンを描いたスケールの大きな戦争アクション大作です。結局、監督としてはいま一つに終わったジョン・ミリアスの監督作品の中、数少ない傑作のひとつです。
 砂漠を駆け抜ける部族の長を演じたショーン・コネリーは、この作品で007のジェームズ・ボンドからのイメージ・チェンジに成功。マッチョで男気たっぷりでかつお茶目なテディを演じたブライアン・キースの演技もまた見もの。当時、最も美しかった女優のひとりキャンディス・バーゲンがまた魅力的です。

<参考>
「TIMEが選んだ20世紀の100人」

(監訳)徳田孝夫
(株)アルク

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