性と人種の壁が生み出すメロドラマの美学


- トッド・ヘインズ Todd Haynes -

「ベルベット・ゴールドマイン」、「エデンより彼方へ」、「キャロル」・・・
<マイノリティー映画からメジャー映画へ>
 トッド・ヘインズは、監督としてデビューしてから「ベルベット・ゴールドマイン」(1998年)の頃までは、ゲイの監督ならではの感覚と美的センスが高い評価を受けるマイノリティー文化を代表するアーティストでした。作品の内容も、スキャンダラスで、悲劇的なメロドラマだったことから、ハリウッドのメジャー作品とは異なるマイナーな存在でした。
 しかし、「ベルベット・ゴールドマイン」が世界的な大ヒットとなって以降、彼の題材は大きく変化します。
 「エデンより彼方へ」、「キャロル」と続く作品では1970年代からさらに過去へと遡り、よりノスタルジックな1950年代を舞台としたメロドラマを撮り、よりオーソドックスな作風へと変化しています。ただ、大きく変わったように見えても、彼が描き続けているは「時代の輝き」と「挫折」、そして「性的マイノリティーの生き様」を美しい映像と美しい音楽と美しい衣装によって描き出すことでは共通しています。「美しいやるせないメロドラマ」を作り続ける彼は、今や押しも押されもしない映画界の巨匠としての地位を確立したといえそうです。

「・・・イメージと”リアリティ”、そして人間の表向きの生活と魂の一番深く暗い領域で体感する生活との、複雑で危険な共生関係に、ヘインズほどの敏感な反応とこだわりを見せている人物は、まずいないだろう。・・・」
ジェフ・アンドリュー「インディーズ監督10人の肖像」より

<トッド・ヘインズ>
 トッド・ヘインズ Todd Haynes は、1961年1月2日、アメリカ西海岸のロサンゼルス郊外に生まれています。(僕とほぼ同い年です)
 18歳の時、東部に移り、ブラウン大学で美術、記号学、心理学を学びました。この時に学んだ記号学の知識は彼の映画において、様々な影響をもたらしています。この頃から、彼は自主製作で8ミリの短編映画を撮り出し、詩人のポール・ヴェルレーヌとアルチュール・ランボーを描いた作品「Assassins」と10代の若者に焦点を当てた「The Suicide」を製作します。
 卒業後、彼はニューヨークでクリスティーヌ・ヴァション、バリー・エルワースらと共に低予算のインデペンデント映画の製作支援を行う会社「アパラタス」を設立します。(クリスティーヌ・ヴァションは、トム・ケイリンの監督作「恍惚」(1992年)やトッド・ヘインズの「ポイズン」、「ボーイズ・ドント・クライ」(1999年)などのプロデューサー)
 1987年、彼は自らの監督作品で脚本と出演も兼ねた映画「Superstar : The Karen Carpenter Story」を発表します。

「Superstar : The Karen Carpenter Story」(1987年)
 43分の中編映画ですが、なんと主人公のカーペンターズは、バービー人形が演じています。若くして拒食症でこの世を去ったカーペンターズのヴォーカル、カレンの死の謎に迫るドキュメンタリー・タッチのメロドラマです。
 1970年代初め、カレンの美しく澄んだ歌声は、ヴェトナム戦争、学生運動、フリーセックス、ドラッグ、ウォーターゲート事件などにより不穏な空気に包まれていた時代の解毒剤として機能する存在でした。(もちろん今思えばの話)しかし、「性」を感じさせず、どこまでも純粋無垢な彼女のイメージは、彼女を型にはめ込んでしまい、いつしか彼女は強烈なストレスにさらされることになっていました。それでも彼女は自分に与えられたイメージを守るため、自らにダイエットという試練をあたえます。そして、それがいつしか後戻りが出来ない拒食症へと彼女を追い込むことになりました。(「拒食症」という名前すらまだない時代でした)家族もまた彼女と同じように「カーペンターズ」のイメージを守ろうとしたため、彼女を入院させずに自宅で治療しようとし続けました。これが彼女の症状をさらに悪化させることになります。さらにこの作品では、彼女と兄リチャードとの関係に近親相姦的な部分があったことも描いていたため、大きな話題となります。
 映画の中で、彼はまだ一般的には未知の病だった「拒食症」についての医学的な解説や当時の社会状況、文化などの情報を盛り込むことで、メロドラマであると同時にドキュメンタリーとしても優れた作品に仕上げています。
 しかし、リチャード・カーペンターからクレームがつき、上映にまったがかけられることにもなりました。

「ポイズン」(1991年)
(監)(脚)(編)トッド・ヘインズ(製)クリスティーン・ベイコン(撮)マリース・アルベルティ(音)ジェームズ・ベネット(出)スコット・レンデラ―、ジェームズ・ライオンズ、トニー・ペンバートン
 この映画は、3つのドラマを並行させて進行します。
「ヒーロー」は、父親殺しの少年についてのドキュメンタリー番組として進行するドラマです。
「ホラー」は、1950年代のサスペンス・ホラーをパロディー化したドラマです。
「ホモ」は、フランスの作家ジャン・ジュネの「バラの奇蹟」を原作とした刑務所を舞台にした同性愛のドラマです。
 一見、まったく関係のない3つの物語に観客は共通性を見出そうとしますが、明確な同一のテーマはありません。あえて言うならエイズに関する問題が隠されているようにも思えます。

「SAFE」(1995年)
(監)(脚)トッド・ヘインズ(製)クリスティーン・ベイコン(撮)アレックス・レボンニアシー(音)エド・トムニー(出)ジュリアン・ムーア、ザンダー・バークレイ、ピーター・フリードマン
 「エイズ」ではないものの現代的な難病に苦しむ女性を描いた不思議なメロドラマ。原因不明の咳や発疹に悩まされる主人公(ジュリアン・ムーア)が、原因を見つけられないために苦しみ、社会から自ら逃れるようにニュー・メキシコ州の砂漠の中の宗教施設に入居。ニュー・エイジ的な環境で精神的に落ち着くものの症状は悪化し続けてゆくという現代的な物語です。単なる難病ものではなく誰にも理解されない病に苦しむ患者が、家庭や社会の中でどう阻害され、精神的に追い詰められるかを描くのもこの作品のテーマのようです。この辺りは、やはり初期のエイズ患者に対する誤解と偏見に似ているともいえます。

「ベルベット・ゴールドマイン VELVET GOLDMINE」(1998年)
(監)(脚)トッド・ヘインズ
(製)クリスティーン・ベイコン(撮)マリス・アルベルチ(衣)サンディ・パウエル(音)カーター・バーウェル
(出)ユアン・マクレガー、ジョナサン・リス=マイヤーズ、クリスチャン・ベイル、トニ・コレット、エディ・イザード、リンゼイ・ケンプ
<あらすじ>
 1980年代半ば新聞記者としてニューヨークで働く英国人アーサーは、グラムロックのスーパー・スター、ブライアン・スレイドが表舞台から消えて10年の今、どこにいて何をしているのか?その調査を行うために故国へと旅立ちます。
 10年前、ブライアンはマネージャーと共謀し、ステージ上で暗殺されるという狂言を実行し、それがバレたことでバッシングを受け、そのまま姿を消していました。その事件があったライブをアーサーは偶然見に言っていて、狙撃の瞬間も目撃していました。ブライアンの大ファンだった彼は自分が同性愛者であることに気づき、これからの人生に悩み、ついに家出してしまい、ロンドンで暮らし始めていました。そんな過去の記憶を蘇らせながら、彼は調査を始め、ブライアンを最初に見出した初代マネージャーと同じように早くに彼の才能にほれ込んで彼と結婚した女性を見つけ、インタビューの成功します。
 こうして、ブライアンの人生がアーサーによって追体験され、さらにブライアンによって薬物依存状態から救われることになったアメリカのロック・ミュージシャン、カート・ワイルド。そしてそのカートが憧れたグラム・ロックの原点ともなったジャック・フェアリーについても描かれて行きます。さらにオープニングでは、そんなアーティストたちの元祖ともいえる詩人オスカー・ワイルドのエピソードも紹介され、彼らが緑色の宝石を所有することで時代を越えてつながっていることが紹介されています。

<グラム・ロック時代の再現>
 この作品の見どころはなんといっても、1970年代前半のロック黄金期の終わり、退廃的な輝きを放ったグラムロックの時代を見事に映像化していることです。メイク、衣装、ヘアースタイル、美術だけでも見ごたえがありますが、音楽がこの映画最大の売りでしょう。楽曲のリストを見ると、オリジナル曲と既存の曲が違和感なく使用されていることがわかります。その上、レディオ・ヘッドのトム・ヨークやジョニー・グリーンウッド、ソニック・ユースのサーストン・ムーア、ストゥージズのロン・アシュトン、プラシーボなどのアーティストがバンドのメンバーなどで参加。素晴らしいパフォーマンスを見せ、聞かせ、この映画のモデルとなっているであろう、デヴィッド・ボウィ、イギー・ポップ、ブライアン・フェリー、ルー・リード、マーク・ボランなどの当時のスターたちを彷彿とさせています。(一瞬でしたが、アンディ・ウォーホルらしき人物もいましたよね?)
<多彩な映像手法>
 この作品は、1970年代グラム・ロックの時代をパラレル・ワールド的に再現するだけでなく、伝説的人物、ブライアン・スレイドについての謎解きドラマにもなっています。その基本は、まさにあの名作「市民ケーン」の手法。彼を知る人々へのインタビューによって、彼の人現像を浮かび上がらせることになります。「バラのつぼみ」の代わりには、この映画でオスカー・ワイルドが所有していた「緑の石」が使われています。しかし、この作品では、その調査を行う主人公自身の心の秘密にも迫るというさらに複雑な構造が組み込まれています。そこがこの作品の凄いところです。
 この作品では、途中、彼のデビュー作「Superstar : The Karen Carpenter Story」で用いられたバービー人形による人形劇も登場しています。思えば、カーペンターズの黄金期とグラム・ロックのブームは、ぴったりと重なっていますが、そのイメージはまさに正反対。しかし、どちらもそのイメージを作り上げ、保ち続けるために苦悩し、ついには自ら崩壊していったわけです。
 片やどこまでも純粋でアメリカの良心、美徳を体現する存在となったカーペンターズ。片やどこまでも自由で性をも超越し、ドラッグに溺れたグラム・ロッカーたち。彼らこそ、ビートルズの消えた後のポップス・シーンでその人気を継ぐ存在になっていたのです。(僕は当時、どちらかといえば、グラム・ロック派でしたが、カーペンターズの魅力は認めざるを得ませんでした)
 ここで描かれている1970年代のグラマラスな雰囲気とは対照的に、主人公が記者として働く1980年代がまた実に暗く地味なことか!1980年にジョン・レノンが暗殺されて以降、1980年代初めは世界中が重苦しい雰囲気に包まれていたことが思い出されます。その雰囲気は、映像のトーンや人々の動き、衣装などにも表現されています。
<異色の音楽映画>
 音楽を題材にした映画は数多いのですが、そのほとんどは有名アーティストの人生やその時代の雰囲気を史実に基づいて再現することに終始していて、それが完璧にできればそれで十分素晴らしい作品と言われます。しかし、この作品はそんな枠組みをはみ出し、パラレル・ワールドを舞台に新たなストーリーとして時代を再構成することで、より深みを増しているのです。こうした、作り方は、トッド・ヘインズの次の作品「アイム・ノット・ゼア」でさらにボブ・ディランを中心としたパラレル・ワールドとして展開されることになります。
 死んだはずのブライアンがトニー・ストーンとしてよみがえったことが明らかになり、ポップ・スターとして政界ともつながるメジャー・アーティストになった彼が、デヴィッド・ボウイに似ていたのは明らかです。ということは、ブライアンに救われて復活したカート・ワイルドは、デヴィッド・ボウイによってドラッグ中毒から復帰することを助けられたイギー・ポップということになりそうです。デヴィッド・ボウイが、この作品に自分の曲の使用を認めなかったのは、そのことが明らかだったからのようです。
 逆に言えば、そうしたアイドルに対する批判もまた「ロック」な彼の姿勢の表れといえるでしょう。

曲名  アーティスト  作曲、作詞   
Needle in the Camel's Eye ブライアン・イーノ Brian Eno Phil Manzanera,Brian Eno 1973年ブライアン・イーノのデビューアルバム
「Here Come the Warm Jets」より  
Hot One  Shudder to Think  Nathan Larson,Shudder to Think   
People Rockin' People  Nathan Larson  Nathan Larson   
Avenging Annie Andy Pratt  Andy Pratt  
Coz I Luv You  スレイド Slade  Noddy Holder,Jim Lea  1972年スレイドのシングル 
The Fat Lady of Limbourg  ブライアン・イーノ Brian Eno  Brian Eno  1974年ブライアン・イーノのアルバム
「Taking Tiger Mountain」より
A Little of What You Fancy Does You Good! Linsay Kemp Fred W.Leigh,Georger Arthurs  
Tutti Frutti  The Venus in Furs(Vo.Callum Hamilton) Richard Penniman, Dorothy LaBostrie  リトル・リチャードのカバー
Do You Want to Touch Me(Oh,Yeah!)  Gary Glitter  Gary Glitter   
Band of Gold  Freda Payne  Ronald Edythe Wayne   
2HB  The Venus in Furs
(Vo.トム・ヨーク Thom Yorke) 
Bryan Ferry  ロキシー・ミュージック1972年のデビューアルバム
「ROXY」より 
Sebastian  The Venus in Furs
(Vo.ジョナサン・リース・マイヤーズ
Jonathan Rhys Meyers)
Steve Harley   
T.V.Eye  The Venus in Furs
(Vo.ユアン・マクレガー Ewan McGregor) 
David Alexander,Scott Asheton,・・・  1970年イギー・ポップのアルバム「Fun House」より 
The Ballad of Maxwell Demon  Shudder to Think(Vo. Jonathan Rhys Meyers) Craig Wedren, Shudder to Think   
The Whole Shebang  Grant Lee Buffalo  Grant Lee Buffalo   
グスタフ・マーラー交響曲第六番イ短調  チェコ・フィルハーモニック・オーケストラ  グスタフ・マーラー Gustav Mahler  1906年初演の交響曲 
Get in the Groove  The Mighty Hannibal James Timothy Shaw  
Ladytron  The Venus in Furs(Vo.Thom Yorke)   ブライアン・フェリー Bryan Ferry ロキシー・ミュージック1972年のデビューアルバム
「ROXY」より 
We Are The Boys  パルプ Pulp Jarvis Cocker,Nick Banks ,・・・ 1970年代から21世紀まで活躍するイギリスのバンド
Cosmic Dancer  T-レックス T-Rex マーク・ボラン Marc Bolan T-レックスのアルバム「Electric Warrior」より 
Virginia Plain  ロキシー・ミュージック Roxy Music ブライン・フェリー Bryan Ferry  ロキシー・ミュージック1972年のデビューアルバム
「ROXY」(US版)より
Personality Crisis  ティーンエイジ・ファンクラブ Teenage Fanclub
(スコットランドのロックバンド)
Donna Matthews(エラスティカのギタリスト)
David Johanson,Johnny Thunders 1973年ニューヨーク・ドールズのシングルのカバー
Satellite of Love  ルー・リード Lou Reed  ルー・リード Lou Reed 1972年ルー・リードのアルバム
「Transfomer」より 
Diamond Meadows T-レックス T-Rex  マーク・ボラン Marc Bolan  1970年T-レックスのアルバム「T-レックス」より
Bitter's End  Paul Kimble ブライン・フェリー Bryan Ferry ロキシー・ミュージック1972年のデビューアルバム
「ROXY」収録曲のカバー 
Baby's on Fire The Venus in Furs(Vo.Jonathan Rhys Meyers) ブライアン・イーノ Brian Eno  1973年ブライアン・イーノのデビューアルバム
「Here Come the Warm Jets」より 
My Unclean  The Wylde Ratttz(Vo.Ewan McGregor)  Ron Asheton,Mark Arm  
Bitter Sweet  The Venus in Furs(Vo.Thom Yorke)  Andrew Mackay,Bryan Ferry ロキシー・ミュージック1974年のデビューアルバム
「カントリー・ライフ」より
20th Century Boy プラシーボ Placebo
1994年結成ながらグラム・ロック風バンド
マーク・ボラン Marc Bolan   1973年T-レックスのシングル(全英3位)のカバー
Dead Finka Don't Talk  ブライアン・イーノ Brian Eno  ブライアン・イーノ Brian Eno 1973年ブライアン・イーノのデビューアルバム
「Here Come the Warm Jets」より  
Gimme Danger  The Venus in Furs(Vo.Ewan McGregor)   Iggy Pop,James Williamson 1973年イギー・ポップのアルバム「Raw Power」より
Thumbling Down  The Venus in Furs(Vo.Jonathan Rhys Meyers)  Steve Harley  
2HB  The Venus in Furs(Vo.Paul Kimble)  ブライン・フェリー Bryan Ferry ロキシー・ミュージック1972年のデビューアルバム
「ROXY」より  
Make Me Smile  Steve Harley  Steve Harley   
<バンド・メンバー>
<The Venus in Furs>
Bernard Butler,Clune,Paul Kinble,Jon Greenwood,Andy McKay,Thom Yorke
<Shudder To Think>
Stuart Hill,Nathan Larson,Craig Wedren
<The Wylde Ratttz>
Mark Arm,Ron Asheton,Don Fleming,Thurston Moore,Steve Shelley,Mike Watt

「エデンより彼方へ Far From Heaven」 2002年
(監)(脚)トッド・ヘインズ
(撮)エドワード・ラックマン(PD)マーク・フリードバーグ(衣)サンディ・パウエル(音)エルマー・バーンスタイン
(出)ジュリアン・ムーア、デニス・クエイド、デニス・ヘイスバート、パトリシア・クラークソン、ヴィオラ・デイヴィス
 この作品は、これまでの彼の作品よりもさらに過去へと遡って、1950年代のハリウッド映画を代表する監督のひとりダグラス・サークの作品へのオマージュとなっています。この作品の舞台は1957年と指定されています。今回も徹底的な時代考証、ダグラス・サーク作品の研究に基づいた美術、衣装、音楽、映像が素晴らしく溜息ものです。
 「ベルベット・ゴールドマイン」では「性」を超越した自由な時代の空気を描きましたが、この作品では「性の壁」と「人種の壁」が共にまだ越えがたい壁だった時代を描いています。そんな差別意識を表現するため、この作品では驚くべき工夫がなされています。部屋のセットには、微妙な段差が設けられていて、それを使うことで人物を下から目線や上から目線で撮影しています。それにより、観客は登場人物が、人を見下したり、見下されたりする視線を、無意識のうちに知ることができるわけです。(実は、このことはDVDのメイキング映像の解説で知りました)
 さらにこの作品で輝いているのは、巨匠エルマー・バーンスタインによるノスタルジックで美しい音楽です。それは、音楽と共にドラマが展開する昔風の映画音楽の復活でもありました。見ていて、無性に懐かしい感じがするのはこの音楽のおかげでもあります。
 ジュリアン・ムーアはこの作品でベネチア国際映画祭女優賞を受賞しています。

「アイム・ノット・ゼア I'm Not There」 2007年
(監)(原案)(脚)トッド・ヘインズ
(製)クリスティーン・ヴァション、ジェームズ・D・スターン・・・(製総)ジョン・ウェルズ、スティーブン・ソダ―バーグ、エイミー・J・カウフマン・・・
(脚)オーレン・ムーヴァーマン(撮)エドワード・ラックマン(PD)ジュディ・ベッカー(音)ランドール・ポスター、ジム・ダンバー
(出)クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、マーカス・カール・フランクリン、リチャード・ギア、ヒース・レジャー、ベン・ウィショー(以上ボブ・ディラン)
ジュリアン・ムーア、シャルロット・ゲンズブール、ミシェル・ウィリアムズ、デヴィッド・クロス、ブルース・グリーンウッド
 人種と性別、世代を超えて「ボブ・ディラン」を様々な俳優が演じるというトッド・ヘインズならではのパラレル・ワールド音楽ドラマ。ディランを演じる俳優たちの豪華なこと!「ベルベット・ゴールドマイン」では「グラム・ロックとは何か?」を描きましたが、こちらでは「ボブ・ディランとは何者か?」に挑んでいます。
ボブ・ディランについてはここから 

「キャロル CAROL」 2015年
(監)トッド・ヘインズ
(製)エリザベス・カールセン、スティーブン・ウーリー、クリスティーン・ベイコン
(製総)テッサ・ロス、ハーヴェイ・ワインスタイン、ケイト・ブランシェット、・・・
(原)パトリシア・ハイスミス(脚)フィリス・ナジー(撮)エド・ラックマン(PD)ジュディ・ベッカー(衣)サンディ・パウエル(音)カーター・バーウェル(音監)ランドール・ポスター
(出)ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、ジェイク・レイシー、カイル・チャンドラー
 「エデンより彼方へ」の姉妹編ともいえる作品。この作品で描かれるのは、女性同士の許されない愛の物語です。原作者のパトリシア・ハイスミスは、名作「太陽がいっぱい」の作者ですが、発表当時この作品は本名ではなく変名クレア・モーガンとして世に出されました。彼女自身が百貨店でアルバイトをしていた時に出会った女性をモデルにした作品でしたが、自伝的な作品ということもあり、本名を使わなかったようです。時代はまだこうした作品を「禁断の書」と見なしていたのです。しかし、発表当時、この作品は同性愛者の間で密かにブームとなり、100万部を越えるベストセラーになったといいます。すでに時代は変わりつつあったのかもしれません。
 パトリシア・ハイスミスが自身の作品であることを明らかにしたのは、1990年のことでした。そして、彼女が友人の脚本家フィリス・ナジーに脚色を依頼。しかし、1995年にハイスミスはこの世を去ってしまいます。脚本化された「The Price of Salt」の映画化は、その後、権利問題や監督の途中交代により難航。原作者の死後20年してやっと実現することになりました。
 ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラという美しい女優によるサスペンス・タッチのメロドラマですが、思えばフィリップ・マーロー・シリーズの男たちの関係もどう考えても同性愛的な友情でしたよね。
<パトリシア・ハイスミスの映画化作品>
「太陽がいっぱい」(1960年ルネ・クレマン)、「見知らぬ乗客」(1951年アルフレッド・ヒッチコック)、「アメリカの友人」(1977年ヴィム・ヴェンダース)、「ふくろうの叫び」(1987年クロード・シャブロル)、「リプリー」(1999年アンソニー・ミンゲラ)、「リプリーズ・ゲーム」(2002年リリアーナ・カヴァーニ)「リプリー暴かれた贋作」(2005年ロジャー・スポティスウッド)、「ギリシャに消えた絵」2014年ホセイン・アニミ)

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