- ウィリー・コロン Willie Colon  -

<天才登場>
 彼は、14歳の時にトランペットをトロンボーンに持ち替え、バンドを始めたといいます。いったい、いくつからトランペットを吹いていたのでしょうか。でも、ニューヨーク生まれのプエルトリカンなら、それは不思議なことではなかったのかもしれません。そして、彼は17歳でアルバム・デビューを果たし、あっという間に、ニューヨーク・サルサのヒーローにのし上がりました。まさに天才です。しかし、多くの天才がその才能を若くして使い果たしてしまうのにも関わらず、彼は21世紀の今もサルサ界をリードし続けています。その意味では、MPBのカエターノ・ヴェローゾにも匹敵する存在と言えるかもしれません。

<デビュー作「エル・マロ」>
 そんな彼の魅力は何でしょうか?それは彼の記念すべきデビュー作「エル・マロ(英語ならBad Guy)」に見事に集約されています。おりしも、時代はラテンが、この当時、時代をリードしていた「ソウル」の影響を受け、「ブーガルー」という新しいスタイルを生み出し一大ブームを巻き起こしていた頃でした。17歳の若き天才は、ストリートにたむろする若者たちの感覚を、見事にこのラテンのリズムに乗せてみせました。そこには、「時代の先を行く先見性」「時代、社会を皮肉たっぷりに見つめる視線」「ストリートからの視点にこだわり続ける姿勢」がありました。
 これこそ「エル・マロ(Bad Guy)」の生き方であり、それは英米の白人における「ロック」、黒人たちにとっての「ソウル」(今ならヒップ・ホップ)に当たる感覚でした。

<日本人受けする理由>
 その意味で、彼のサルサは他のサルサのアーテイストたちに比べて、かなりロック的な感覚を持っています。日本において、ウィリー・コロンからサルサにのめり込んだファンが多いのは、そのへんの影響ではないでしょうか?おまけに、彼のボーカルは決して上手くはなく、その分彼は王道的なサルサとは違ういろいろな趣向を、自らの曲に取り入れています。それも初心者のサルサ・ファンには、聞き易いのかもしれません。

<ブーガルーからサルサへ>
 ブーガルーのブームは以外に短く、60年代末の公民権運動の盛り上がりにより、ラテン系の移民たちの間に広がった民族文化を見つめ直す動きによって、よりラテンの本質を追究した「サルサ」へと急激に変化して行きました。ウィリー・コロンもまたこの歴史の流れに乗り、サルサの最先端へとこぎ出して行きます。

<悪役「エル・マロ」、スター誕生>
 「エル・マロ」として、活躍を開始した彼は、その後も徹底して、そのキャラクターを演じ続けます。アルバム・ジャケットでは、いつもストリート・ギャング・スタイルで、内容的にもブロンクスのストリートにたむろする若者たちが主役になっていました。それは、黒人たちの社会におけるラップの存在に近かったかもしれません。ある意味、「ギャングスタ・サルサ」と呼ぶべき存在だったといえます。同じ時期、ブロンクスではギャング団出身のアフリカ・バンバータが登場し、ヒップホップ革命を巻き起こそうとしていました。それは時代が生み出した必然的な変化だったといえます。

<ルベン・ブラデスとの共作>
 サルサの時代を築いた「ファニア・レーベル」のアーティストとしてスタートした彼は、ファニア・オールスターズのメンバーとしても活躍をした後、パナマ出身で法学部出のヴォーカリスト、ルベン・ブラデスとの共作をスタートさせます。そして、アメリカに住む中南米移民たちの民族意識に問いかける問題作を次々に発表して行きました。ラテン系移民ファミリーの年代記を音楽によって、二枚組のアルバムに仕上げた「マエストラ・ビーダ」「シエンブラ」などは、まさに名作と呼ぶに相応しい作品です。

<ヴォーカリストとしての再出発>
 80年代に入り、彼はヴォーカリストとして、再スタートを切ります。(考えてみると、サルサはヴォーカルが主役とは限りません。バンド・リーダーがあくまでも主役であり、彼はトロンボーン奏者かもしれないし、ボンゴを叩いているかもしれません)アルバム・タイトルは、これまたそのものズバリ「ソロ」。そして、このアルバムから、いよいよ彼のエンターテナーとしての才能が発揮され始めます。

<「ソロ」以降>
 このアルバム以降、彼はけっして上手くはないヴォーカルをカバーしてあまりあるゴージャスなオーケストラ・サウンドの導入や心の故郷、プエルトリコをテーマにしたのどかなサルサ、核兵器問題を皮肉たっぷりに歌ったブラックな曲、名手ヨモ・トロの究極のクアトロ・ソロをフューチャーした曲など、実に多彩なテーマ、多彩な曲を取り上げ、常に新しい流行を取り入れた活動を続けて行きます。

<サルサの「粋」を表現し続ける男>
 サルサほど「粋」という言葉がぴったりくる音楽は他にないでしょう。「ストイック」という言葉がピッタリ来るのも、やはりサルサです。(但し1970年代までのサルサ)ホットなダンス・ナンバーも、サルサにおいては、演奏者は常にクールであることが要求されます。その意味では、ウィリー・コロンほど、クールな悪役のイメージがピッタリのアーティストは他にいません。しかし、今では彼が誰よりも真面目で、研究熱心な男であり、故郷プエルト・リコを愛していることを知らない者はいないのです。

<締めのお言葉>
「人間は天使でも、悪魔でもない。しかし、天使として振る舞おうとすれば、人間は悪魔に変わる」パスカル

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