アメリカ辺境の現状を描く新たな才能

テイラー・シェリダン Taylor Sheridan

「ボーダーライン」、「最後の追跡」、「ウインド・リバー」

「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」
<厳寒の地に生きる>
 以前、知り合いからスノーモビルを借りて、余市の山を走っていて遭難しかけたことがあります。雪の中、坂を登っていて転倒し、スノーモビルが雪に埋まってしまい動かせなくなったのです。結局、僕は雪をかき分けながら山を降り、知り合いと共にもう一度雪山を登って、二人がかりでスノーモビルを掘り出して、なんとか帰ってきました。雪が降っていなかったから良かったものの、一人で山の中に入るのは危険ですね。山を降りてきて食べたスープを吸い込んでパスタになってしまったカップヌードルの美味しかったことが今も忘れられません。
 そんな体験もしていることから、この映画は予告を見て気になっていました。

 雪に閉じ込められた不毛の土地に住むアメリカ先住民の土地。その雪の平原で先住民女性の遺体が発見されます。彼女が裸足だったことから、何者かに追われていたと推測されますが、犯人らしき人物の痕跡はわかりませんでした。では、なぜ彼女はそんな雪の中で命を落としたのか?
 どうやら殺人事件ではないらしいいとわかりますが、その死の真相が明らかになるにつれ、彼女に対するリスペクトが重要なテーマであることがわかってきます。
 単なるサスペンス映画ではない社会派のサスペンス映画であり、アクション映画としても楽しめるなかなかの傑作だと思います。
 もしかすると、この作品はアメリカ先住民の原作者によるノンフィクションをもとにしているのか?と思ったのですが、オリジナル脚本の作者は白人脚本家テイラー・シェリダンでした。ドゥニ・ヴィルヌーヴの代表作「ボーダーライン」の脚本家です。

<アメリカの辺境3部作>
 この作品は、監督であり脚本を書いたテイラー・シェリダンにとって、アメリカ西部の辺境地帯における社会の厳しい現実を描いた3部作の最終作と説明されています。前作とは、ドゥニ・ビルヌーヴ監督の「ボーダーライン」(2015年)、デヴィッド・マッケンジー監督の「最後の追跡」(2016年)で、どれも彼が脚本を書いています。
 「ボーダーライン」では、若手の女性FBI捜査官がメキシコ国境地帯で行われている大掛かりな麻薬売買を摘発するための特殊チームに入って体験する苦闘を描きました。
 「最後の追跡」では、アメリカの辺境であり貧困地域でもあるテキサスを舞台に銀行強盗とテキサス・レンジャーの追跡を描きました。
 そして、この作品ではアメリカ北西部ネイティブ・アメリカンの保留地を舞台に謎の死を遂げたネイティブ・アメリカン女性の悲劇を背景にアメリカにおいて、ネイティブ・アメリカンの人々が追い込まれてきた現実にリアルに迫っています。
 かつては豊かな土地で幸福に暮らしていた彼らは、新たな支配者となった白人たちによって土地を奪われただけでなく、土地を追い出され、作物も獲れず生きるだけでも厳しい土地に押し込められました。そのために生きる目的を見失い、薬物に溺れたり、犯罪に関わったり、婦女暴行に走るなどの行為が頻発することになりました。これは、「ボーダーライン」で描かれたメキシコとの国境地帯も同様です。
 これまで脚本を提供し、演出は別の異なる監督に任せてきた彼は、この3作目でついに自ら監督をしています。元々俳優としてテレビなどで活動していた彼は、それぞれの立場で映画製作の現場に参加しながら、監督業を学んできたのでしょう。

「現代の西部開拓地域は、人としてのアメリカ人が何者なのかを雄弁に語ってくれる。アメリカは新しい国だ。ごく最近になって入植した地域であり、その入植と同化の結果が今日でもはっきりと存在していることがわかる。これまで映画では直視されてこなかったことだ。だからこそ僕はそれを模索したいと思ったんだ」
テイラー・シェリダン

<テイラー・シェリダン>
 監督・脚本のテイラー・シェリダン Taylor Sheridan は、1970年5月21日アメリカ南部テキサス州の田舎町の農家に生まれています。家には古い映画のビデオが20本ぐらいしかなく、それを何度も何度も見て、映画の魅力にはまったということです。テキサス大学を中退し、働いているところをスカウトされ、テレビ番組でカウボーイの役をやってみないかと誘われたのがきっかけで映画界入り。しかし、自分が思うような作品に出演することができなかったことから、自ら脚本を書き始めます。その題材となったのは、自分が生まれ育った貧しい農家での暮らしや先住民や移民たちの厳しい現状でした。そして、その中の「ボーダー・ライン」が映画化され、一気に彼はハリウッドから認められることになりました。
 したがって、この三部作はある意味彼の辺境での貧しい生い立ちが凝縮されたテーマとして、必然的に生まれたものだったのです。
 特に三作目の「ウインド・リバー」に関しては、そのアイデアとなったネイティブ・アメリカン女性の失踪が捜査どころかその数字すら記録がないという事実など、彼が直接知り合いのネイティブ・アメリカンから得た情報がもとになっています。それだけにいい加減な映画を作る訳にはいかないと考えた彼があえて自ら監督することを決意したとのことです。
 ドキュメンタリータッチで冷たくリアルな映像と演出は、「ボーダーライン」のドゥニ・ビルヌーヴを思わせます。
 ラスト近くに展開するサスペンスに満ちた登場人物たちのにらみ合いと銃撃戦の緊張感と迫力は、クエンティン・タランティーノ「レザボア・ドッグス」かサム・ペキンパー「ワイルド・バンチ」と言った感じです。それともう一人、アメリカ西部のキャラクターを演じ、映画を撮り続けてきたクリント・イーストウッドの存在も思い出します。彼が撮り続けてきた初期作品は、古き良いアメリカン・ライフへのオマージュ的な作品でしたが、テイラー・シェリダンは初めからより現実的な題材を描いています。そして、それは彼が生まれ育った時代、すでにアメリカに古き良き西部の暮らしは存在しなくなっていたからなのかもしれません。
 テイラー・シェリダンと同じように俳優でもあったスパイク・リーは、アメリカにおける黒人の現状を描こうと映画監督となりました。「ドゥ・ザ・ライト・シング」(1989年)、「ジャングル・フィーバー」(1991年)、「マルコムX」(1992年)、「ゲット・オン・ザ・バス」(1996年)、「ブラック・クランズマン」(2018年)・・・
 貧しい農村社会の現状を描く彼の作風が今後どう変化して行くのか?「辺境3部作」を撮り終えた彼が次に挑戦する作品はどうなるのか?今後が楽しみな監督・脚本家です。

<「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」>
 テイラー・シェリダンが脚本を担当し「ボーダーライン」続編が公開されました。監督はイタリア出身のステファノ・ソッリマ。脚本が良いのか、監督が優れているのか・・・1作目と遜色のない作品でした。


「ボーダーライン Sicario」(2015年)
(監)ドゥニ・ビルヌーヴ
(製)ベイジル・イヴァニク、エドワード・L・マクドネル、モリ―・スミス他
(脚)テイラー・シェリダン
(撮)ロジャー・ディーキンス(「プリズナーズ」、「ブレードランナー2049」など)
(PD)パトリス・ヴァ―メット
(音)ヨハン・ヨハンソン
(出)エミリー・ブラント(ケイト)、ベニチオ・デル・トロ(アレハンドロ)、ジョシュ・ブローリン(マット)、ビクター・ガーバー、ジョン・バーンサル
<あらすじ>
 アリゾナ州で誘拐事件の容疑者宅に捜査に入ったFBI捜査官ケイトは、そこで容疑者の一人を射殺。その後、その家の壁から大量の死体を発見します。それは麻薬組織によって誘拐され、殺された人々の遺体でした。ケイトは、その誘拐の主犯と考えられている麻薬カルテルのボス、マニュエル・ディアスを逮捕するための捜査チームに参加することになります。
 ちょうどその頃、メキシコでディアスの弟ギレルモが逮捕されたため、FBIはその身柄をアメリカに移送することになります。ケイトとその上司マット・グレイヴァ―は、新たなメンバーとして、所属不明のアレハンドロをメンバーに加え、メキシコへ向かいます。ところが、ギレルモを受けとった帰り道、高速道路でチームはディアスの仲間たちに取り囲まれ、ついには銃撃戦となります。チームの捜査手法に疑問を感じていたケイトは、上司に抗議しますが、彼らは超法規的な手法でカルテルが用いている麻薬輸送のためのトンネルを発見します。
 衛星写真からカルテルが使っているトンネルの位置がわかったため、彼らはそのトンネルを急襲する計画を立てます。しかし、カルテルに通じた地元の警察官に危うく殺されそうになり、そこから自分が囮にされていたことに気づきます。
 いよいよトンネルの急襲作戦が始まりますが、アレハンドロは一人だけトンネルを出て、メキシコに入り、そこで銃撃戦の後、メキシコ警察のシルヴィオを拘束します。トンネルの急襲作戦は実はアレハンドロをメキシコ側に潜入させるための陽動作戦だったことにケイトは気づきます。それは、CIAが仕組んだもので、麻薬組織の戦争を終わらせ、ある種の安定状況を作らせることが目的でした。そして、その中心となったアレハンドロは、かつて彼の家族を殺させた麻薬王アラルコンに復讐するためにチームに入った元検事だったのです。
 アレハンドロは復讐を遂げることができるのか?
 ケイトは違法な捜査と復讐を許すことができるのか?

 ストーリーはかなり入り組んでいて複雑です。それでも主演の3人の迫力満点の演技により、映画にぐいぐいと引き込まれるはず。高速道路での銃撃戦は、そうなる前の見事な緊張感がたまりません。これは「ウインド・リバー」でのラスト近く、複数名による睨み合いからの銃撃戦への展開を思い起こさせます。
<国境を舞台にした犯罪映画>
 これまでも、メキシコとアメリカの国境を舞台にした犯罪映画はいろいろとありました。
 ライ・クーダーの音楽が素晴らしかったジャック・ニコルソン主演でハーヴェイ・カイテル、ウォーレン・オーツも出ている渋い名作「ボーダー」(1982年)は不法移民を取り締まる国境警備員の映画でした。(監督はトニー・リチャードソン)
 サム・ペキンパーの作品はクライマックスでの国境越えが、目白押しです。「ゲッタウェイ」「コンボイ」そして「ガルシアの首」
 ペキンパーの後継者的存在だったウォルター・ヒルの「ダブル・ボーダー」も熱い犯罪アクション映画でした。 
 メキシコの青春映画の名作「闇の列車、光の旅」(キャリー・ジョージ・フクナガ)は越境者と犯罪者のラブ・ストーリーでした。  


「最後の追跡 Hell or High Water」(2016年)
(監)デヴィッド・マッケンジー
(製)シドニー・キンメル、ピーター・バーグ、カーラ・ハッケン他
(脚)テイラー・シェリダン
(撮)ジェイルズ・ナットジェンズ
(PD)トム・ダフィールド
(音)ニック・ケイヴ、ウォーレン・エリス
(出)ジェフ・ブリッジス、クリス・パイン、ベン・フォスター、ギル・バーミンガム、マリン・アイルランド、ケヴィン・ランキン 


「ウインド・リバー Wind River」(2017年)
(監)(脚)テイラー・シェリダン
(製)ベイジル・イヴァニク、ピーター・バーグ、マシュー・ジョージ他
(撮)ベン・リチャードソン
(PD)ニール・スピサック
(音)ニック・ケイヴ、ウォーレン・エリス
(出)ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル、グレアム・グリーン、ギル・バーミンガム 
<あらすじ>
 合衆国魚類野生生物局の雇われハンター、コリーは牧場から牛がピューマらしき動物に殺されたとの知らせを聞き、その駆除のため足跡を追って雪山に入ります。すると雪の中に倒れている女性の遺体を発見。それはその地域に住むアメリカ先住民で、彼女は裸足で逃げた後、雪の中で死亡していて殺人事件の可能性が高いためFBIが捜査に当たることになります。
 しかし、FBIから派遣されてきたのは、雪を見たこともないようなフロリダ出身の新人女性捜査官ジェーンでした。その後の検死により、死亡した女性ナタリーはレイプされていたことが明らかになったものの、死亡原因は極寒の中を10キロ近く走ったために肺の中の血が凍り、それが膨張、出血、それにより窒息したと診断されます。したがって、彼女の死は殺人ではないと報告され、FBIの応援は来ないことになりました。そこで彼女は、死体を発見したコリーに捜査協力を依頼します。こうして、地元の先住民の保安官とハンターと女性FBIとの合同捜査が始まりました。
 彼女の弟からの証言により、死んだナタリーには白人の恋人がいて、その人物マットは雪山の中にある採掘所で働く警備員でした。そのため、捜査チームは彼の勤め先であり住居のある採掘所に向かうことになります。
 ところが、その後、コリーは二人が乗ったらしきスノーモビルの跡を発見し、追跡すると、そこに男性の死体が見つかり、それがナタリーの恋人マットだったことがわかります。
 いったい誰が二人を殺したのか?捜査は混沌としてきます。
 コリーの家を訪ねたジェーンは、そこでコリーの娘も3年前に謎の死を遂げていた死を遂げていたことを知ります。
 なぜ、先住民女性の死が続いているのか?

 同じようにアメリカ先住民女性の謎の死を追ったノンフィクション「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」という作品があります。こちらは、マーティン・スコセッシ監督がレオナルド・ディカプリオの主演で映画化を予定しています。これもまた凄い映画になるはずです! 

「ボーダーライン : ソルジャーズ・デイ Sicario : Day of the Soldado」(2018年)
(監)ステファノ・ソッリマ
(製)ベイジル・イヴァニク、エドワード・L・マクドネル、モリ―・スミス、サッド・ラッキンビル、トレント・ラッキンビル
(製総)エレン・H・シュワルツ、リチャード・ミドルトン、エリカ・リー
(脚)(キャラクター創造)テイラー・シェリダン
(撮)ダリウス・ウォルスキー
(PD)ケヴィン・カバナー
(編)マシュー・ニューマン
(音)ヒルドゥル・グーナドッテイル
(出)ジョシュ・ブローリン(マット)、ベニチオ・デル・トロ(アレハンドロ)、イザベラ・モナー、マシュー・モディーン、キャサリン・キーナー、ジェフリー・ドノヴァン、マヌエル・ガルシア=ルルフォ
<あらすじ> 
 アメリカ国内カンザスシティーのモールでイスラム系テロリストによる自爆テロが発生。犯人グループは、中東から船でメキシコ入りし、そこから麻薬カルテルの手配により密入国したと考えられました。そこでアメリカ政府は、麻薬の密輸から人の密輸へと方向転換をしつつある麻薬カルテルを弱体化させるための作戦が始まります。
 直接手を下すのではなくグループ間の対立を煽るため、秘密チームがメキシコに向かい、大物のレイエスの敵グループの弁護士らを暗殺。さらにレイエスの娘を誘拐し、アメリカに移送します。そして、その娘をテキサスで解放し、彼女の身柄をメキシコに移送。彼女をエサに、対立するグループが戦争を始めることを期待していました。
 ところが、娘の移送中、突然、護送するアメリカ側の車列を警護していたメキシコ警察が銃の向きを変えて攻撃を開始。激しい銃撃戦となり、娘は混乱の中、砂漠へと逃げ込みます。彼女を追って、二人で国境を越えることになったアレハンドロは、かつて娘の父親レイエスによって家族を殺されています。しかし、彼は娘を無事に届けようと決意していました。ところが、アメリカ政府は、事態を目撃した娘とアレハンドロを殺すよう、チームのリーダーであるマットに支持をしていました。
 二人は国境を越えられるのか?

 脚本はテイラー・シェリダンで、監督はイタリア人のステファノ・ソッリマ。1作目と遜色のない素晴らしい作品になっています。ヒルドゥル・グーナドッテイルの不気味な音楽も印象的です。(名前からして不気味?)
 全体を通して、暗いトーンが続きますが、二人が逃げ込む聾唖者の家でひと時のみ、心がなごみました。そのあたりも、メリハリがあって良かった。逆に言うと、盛沢山すぎという意見もあるかもしれませんが・・・僕はこうした盛り込みすぎ映画も好きです。
 この作品は、いきなりイスラム系犯人による自爆テロから始まるまさかの展開で、前作以上にスケールの大きな作品になりましたが、最終的にはその部隊は国境地帯。テレビ・シリーズ化も決まったようです。思えば、前半の「仁義なき戦い」的な展開の方が面白かった。途中から、少女との脱出ものになってしまい、盛りだくさん過ぎたかもしれません。
 ラストでは後継者問題、続編問題にまで言及。ここは必要だったかな?

現代映画史と代表作へ   トップページヘ