人生の選択と未来を描くアニメ界の鬼才


「四畳半神話大系」から「日本沈没2020」へ

- 湯浅政明 Masaaki Yuasa -
<選択を迫る作品>
「湯浅政明作品だから見なきゃ」と思うようになったのは、つい最近のことです。そもそも実写映画を見ていることが多いので、アニメ作品はそんなに見ていないのですが、それでも松本大洋作品ということで「ピンポン」を見たり、星野源が主役だからと「夜は短し歩けよ乙女」を見ているうちに面白くなってきて、「四畳半神話大系」までさかぼって見て完全にはまりました。
 こうして一気に彼の作品を見たことで、彼の作品群に共通するテーマのようなものが見えてきた気がします。それは、「人生における選択」を描くということだと思います。(まあたまたまそうなっただけなのかもしれませんが・・・)
 彼の初期作品「四畳半神話大系」は、主人公がくり返し行う選択の結果が生み出す失敗の数々を描き、「青春」が失敗の繰り返しであること、それでも挑む価値があることを描いています。「夜は短し歩けよ乙女」はその集大成として作られました。
 「ピンポン」の主人公スマイルとペコは、それぞれの人生の選択により未来が大きく分かれて行きました。その他のキャラクターたちも途中でそれぞれの道を選択して行きます。
 「夜明けの告げるルーのうた」と「Devilman Crybaby」の主人公は、人間とそうでない存在の中間に位置しています。彼らは人間として生きるのか、そうでない者として生きるのかの選択を迫られることになります。
 「日本沈没2020」の主人公たちは生きのびるために、常に選択を迫られることになります。東へ行くべきか、西へ向かうべきか?ユートピアののような集団の一員となるべきか、移動を続けるべきか?その選択の先に未来があるかどうか、わからないにも関わらずです。
 そうした厳しい選択が、明るい未来につながるかどうかはわからないし、その多くは失敗に終わることになるにも関わらず、それぞれの作品で主人公たちは己の選択を後悔することはありません。そのため、見ている我々もまた結末が決してハッピーエンドではなくても、感動したり、満足したりできるのです。

<湯浅政明>
 湯浅政明は、1965年3月16日福岡に生まれています。
 いつアニメ業界で生きることを選択したのかわかりませんが、学生時代すでに決めていたのでしょう。
 九州産業大学卒業後アニメ制作会社、亜細亜堂に入社した彼は1990年に放送が始まった「ちびまる子ちゃん」の動画担当となりました。
 実績を積んだ後、人生の選択を行いフリーランスとなり、1993年から始まった「劇場版クレヨンしんちゃん」シリーズに設定デザイン、原画制作などとして参加し、その名を知られるようになります。
 2004年「マインド・ゲーム」で長編アニメの監督としてデビュー。
 2006年「ケモノヅメ」は、初のテレビ・シリーズ監督作品。
 2013年にはアメリカで人気のシリーズ「アドベンチャー・タイム」の制作に参加するため、アニメ制作スタジオのサイエンスSARUを設立し、自らが社長に就任。
 ただし、現在は社長を退任し、作品制作に集中しています。常に何かを制作している世界でもトップクラスの多忙なアニメ作家として活躍中です。
 テレビアニメの黄金時代、昭和に青春時代を過ごした彼の感覚は、ほぼ僕と近いのですが、その感覚が現在の若者たちにどう伝わっているのか?
 そこが僕には気になっています。

「日本沈没2020年」
2020年 
(監)湯浅政明
(原)小松左京「日本沈没」
(脚)吉高寿男
(エグ・プロ)勝股英夫、佐藤光紀、中沢敏明他
(プロ)厨子健介、上木則安、松村一人、Eunyang Choi
(音)牛尾憲輔
(主題歌)「a life」 by 大貫妙子&坂本龍一(詞)大貫妙子(曲)坂本龍一
(キャラD)和田直也
(音響)木村絵理子
(美監)赤井文尚、吉川洋史、伊東広道
(色計)橋本賢
(撮監)久野利和
(編)廣瀬清志
(アニメ制作)サイエンスSARU 
(声)上田麗奈、村中知、佐々木優子、てらそままさき、吉野裕行、森なな子、小野賢章、佐々木梅治、塩田朋子
<今までの「日本沈没」との違い>
 この映画の原作となった小松左京の「日本沈没」は、発売された1970年代衝撃的な作品でした。「プレート・テクトニクス」という地球物理学の革命的理論を用いたSF大作であると同時に国民をまるごと移民させる政治小説でもあるという、それまでの日本にはなかったスケールの大きな作品は、アーサー・C・クラークやロバート・ハインラインなどの巨匠に匹敵するものでした。大ベストセラーとなったこの小説は、すぐに映画化されることになりました。(1973年森谷司郎監督作品)しかし、出来上がった実写映画は、大作小説の短縮版の域を出ず残念なものでした。その後、製作された2006年の樋口真嗣監督作品もCG技術の向上があったとはいえ、残念ながら成功したとは言えなかったと思います。
 湯浅監督の今までの作品から、正直「日本沈没」との共通点はそれほどない気がしました。主人公とその周辺の登場人物を中心に妄想的世界観を展開する彼の作品と「政治」は結びつきにくいもので、例外的な作品は「Devilman」ぐらいです。そこで湯浅監督はアニメ化にあたり、主人公を変更し、視点を変えて挑戦することにしました。
 そもそも「日本沈没」の原作は、日本が沈没することを観測によって知った潜水艇の乗員でもある小野寺と地球物理学者田所教授、国民の避難と移民のためのD計画を進める政治家たちを中心に話が進みます。それは近未来政治SFといえました。当然、登場人物たちは、それぞれが日本がどういう状況にあるのかを知った上で行動しています。
<「日本沈没2020」>
 そこでこの作品では、主人公を普通の家族に設定。ただし、偶然にも日本沈没の危機を生き延びることになるメンバーを含むことにしました。彼らは自分たちがおかれた状況をかろうじてネットの情報でのみ知りながら事態を乗り切ろうとします。様々不幸に見舞われながらも、彼らはなんとか生きのびます。そのおかげで見る側は、限りなく身近に「日本沈没」を体感することになります。
 そして、彼らは偶然オリジナルの主人公小野寺と出会い、彼の支持を得ることで正しい方向へと非難するという設定になりました。さらに、そこに新たな時代のヒーローとも言えるKITEが登場し、行動力によって家族を救うことになります。
 この作品で特徴的なのは、様々な国籍、混血の登場人物を登場させ、多様性の面でも今までとは大きく異なる内容になっていることです。その中で日本文化の問題点も様々に描き出されますが、ラストまで見ると「日本文化への愛」はたっぷり注ぎ込まれていることがわかるはず。
 オープニングから救いのない展開が続き、ウンザリしてしまう人も多いようですが、是非ふんばってラストまで見てほしいです。これだけの事態を乗り切れるなら、「コロナ・ウイルス」なのは間違いありません。

「Devilman Crybaby」
2018年 
(監)湯浅政明
(原)永井豪「デビルマン」
(脚)大河内一楼
(音)牛尾憲輔
(主題歌)「Man Human(Devilman crybeby Ver.)」 by 電気グルーヴ(曲)石野卓球
(挿入歌)「デビルマンへのうた」 by アヴちゃん(女王蜂)(詞)阿久悠(曲)三沢郷(編)牛尾憲輔
(ラップ監修)KEN THE 390
(キャラD)倉島亜由美
(音響)木村絵理子
(美監)河野羚
(色計)橋本賢
(撮監)久野利和
(編)斉藤朱里
(製総)岩上敦宏、永井隆、坂本和隆
(製)新宅洋平、永井一巨
(制プロ)チェ・ウニョン
(アニメ制作)サイエンスSARU
(声)内山昴輝、村瀬歩、潘めぐみ、小清水亜美、KEN THE 390、木村昴、YOUNG DAIS、アヴちゃん(女王蜂)
平野潤也、津田健次郎、稲川英里、田中敦子、小山力也、白熊寛嗣 
救いようのないドラマの展開は、原作に忠実に再現された結果。思えば、永井豪作品は今の時代に出版できるのか?
ネットフリックスだからこそ可能になった企画だったとも言えます。(永井豪執筆開始50周年)
「悪魔」か「人間」か、その選択を迫られたのは、「デビルマン」だけではなくすべての「人間」でした。
デビルマンの台詞に、古臭いとか青臭いとか感じる人もいるでしょう。これは「昭和」の作品なのかもしれません。
でも「新型コロナ」が蔓延する世界では、この作品はまた違う意味を帯びてきました。
危機に追い込まれた人間は、究極の選択を迫られる場合もあることを認めざるをえないということです。
戦争の記憶も遠くなり、平和に慣れてしまった我々には、衝撃的な作品であることは間違いありません。

「映像研には手を出すな!」
2020年 
(監)(シリーズ監修)湯浅政明
(原)大童澄瞳
(脚)木戸雄一郎
(キャラD)浅野直之(メカD)前場健次、寺尾憲治
(音楽)オオルタイチ
(主歌)「Easy Breezy」 by Chelmico(詞)Rachel,Mamiko(曲)ryo takahashi & R&M
(音響)木村絵理子
(美監)野村正信
(色計)中村絢郁
(撮監)関谷能弘
(編)斉藤朱里
(プロ)鶴岡信哉、坂田淳、チェ・ウニョン他
(アニメ制作)サイエンスSARU
(声)伊藤沙莉、田村睦心、松岡美里
井上和彦、花守ゆみり、川床美雪、小松未可子、きそひろこ、小野友樹、井川秀栄、小林裕介、鈴之助
舞台になっているのは2050年の湾岸都市。
アニメの制作現場をアニメ倶楽部という部活として描いたアニメオタクのための作品。
「アニメ」がどうやって作られるのか?その基本・原理・技術を具体的に見せてくれます。
時代は変われども、アニメの制作現場は基本、今と変わらないということか?
個々のキャラクターや不思議な部活の描き分けが実に見事。
特にその部活の個性を見事に生かしたのが、実写版の方。こちらも、アニメ版とは異なる魅力があります!
素晴らしいアニメ作品を生み出すためには、ゼロから作り上げる過程で無限とも言える様々な選択が行われている。
それは美的な選択だったり、技術的な選択だったり、営業的な選択だったり、哲学的な選択だったりします。
そんな選択を楽しいと思えるからこそ、アニメ作りは楽しい!
そんな製作者の喜びが伝わってくるからこそ、この作品は最高に楽しいのです。

「夜明け告げるルーのうた」 Lu over the wall
2017年
(監)(脚)湯浅政明
(脚)吉田玲子
(キャラD)ねむようこ、伊東伸高 
(音)村松崇継
(主題歌)「歌うたいのバラッド」 by 斉藤和義
(音響)木村絵理子
(美監)大野広司
(撮監)バティスト・ペロン
(編)丹彩子
(プロ)チェ・ウニョン
(アニメ制作)サイエンスSARU
(声)谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、斉藤荘馬、寿美菜子、千鳥(大悟、ノブ)
アヌシー国際アニメ映画祭長編部門クリスタル賞
「崖の上のポニョ」とお話がかぶるかと思いましたが、こちらはミュージカル作品。
湯浅作品に共通する音楽(ラップ、ダンス)の要素が生きています。
「水」を生き生きと描くことに挑んでいるのはジブリ作品へのオマージュか?

「夜は短し歩けよ乙女」
2017年 
(監)(演)(絵コンテ)湯浅政明
(原)森見登美彦
(脚)上田誠(ヨーロッパ企画)
(キャラD)中村佑介、伊東伸高
(音)大島ミチル
(主題歌)「荒野を歩け」 by Asian Kung-Fu Genenation
(音響)木村絵理子
(作監)濱田高行、霜山朋久、伊東伸高
(美監)上原伸一、大野広司
(色計)ルシル・ブリアン
(撮監)バティスト・ペロン
(編)斉藤朱里
(アニメ制作)サイエンスSARU
(声)星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)、中井和哉、山路和弘、麦人 
当初は「四畳半神話大系」制作後、すぐに制作に入るはずでしたが、7年後にやっと完成。
それでも主人公の声には、人気の絶頂になろうとしていた星野源を抜擢できました。
それ以外のスタッフに関しては、アジカンも含め多くは「四畳半神話大系」のメンバーを採用。
完成度の高い「映画」作品となりました。

「ピンポン The Animation」
2014年 
(監)(脚)(絵コンテ)(シリーズ構成)湯浅政明
(原)松本大洋
(キャラD)伊東伸高
(音)牛尾憲輔
(主題歌)「唯一人」 by 爆弾ジョニー
(音響)木村絵理子
(美監)Aymeric Kevin
(色計)辻田邦夫
(撮監)中村俊介
(編)木村佳史子
(プロ)松崎容子、植田益朗ほか
(アニメ制作)タツノコ・プロ
(声)片山福十郎、内山昴輝
咲野俊介、木村昴、文曄星、屋良有作、星野貴紀、小川真司、野沢雅子、津田健次郎 
松本大洋ワールドと湯浅ワールドの融合が見事に実現した作品。
ペコとスマイル主人公二人の魅力は当然ですが、それ以外のサブキャラの個性の豊かさも忘れ難い。 
ドラゴン、アクマ、チャイナ、オババ、大田、真田、猫田・・・皆実に生き生きとしていて素敵でした。
中国を離れ日本での活躍を目指す者、自らの才能に見切りをつける者、そしてプロとして海外で活躍する道を選ぶ者・・・
それぞれの選択がリアルでドラマチックで魅力的です。
スポーツ映画の傑作となった実写版に匹敵する出来映えですが、魅力的なサブストーリーがプラス・アルファしています。


「四畳半神話大系」
2010年 
(監)(脚)湯浅政明
(原作)森見登美彦
(シリーズ構成)上田誠(ヨーロッパ企画)
(キャラクター・デザイン)中村佑介、伊東伸高
(音楽)大島ミチル
(主題歌)「迷子犬と雨のビート」 by Asian Kung-Fu Generation(詞)(曲)後藤正文
(製作)遊佐和彦、富川八峰、北川直樹ほか
(音響)木村絵理子
(美術監修)上原信一
(色彩計画)石塚恵子
(編集)木村佳史子
(プロデユーサー)竹内文恵、尾崎紀子
(アニメ制作)マッドハウス
(声)浅沼晋太郎、檜山修之、吉野裕行、坂本真綾、藤原啓治、甲斐田裕子
諏訪部順一、佐藤せつじ、真山亜子
<湯浅政明究極の作品>
青春ならではの過ちがなんども繰り返され、異なる選択をすることで少しづつ違う未来へと変って行くタイム・ループ作品。
「選択」と「青春」という多くの作品に共通する2大テーマを描いた「ザ・湯浅アニメ」です。
この続編として予定されていたのが「夜は短し歩けよ乙女」です。
彼にとっては初の小説のアニメ化作品であり、演劇界の大物ヨーロッパ企画の上田誠との初コラボでもありました。
不器用でノスタルジックな青春ストーリーに胸キュンしてしまいます。