大人のためのおとぎ話作家の作品たち


- ロバート・ゼメキス Robert Zemeckis -
<大人のためのおとぎ話>
 ロバート・ゼメキス監督の「マリアンヌ」を見ました。会話の多くがフランス語ということもあって、まるでフランス映画を見ているような大人のラブ・ストーリーでした。実際にイギリスの諜報機関で第二次世界大戦中に起きた事件がもとになっているらしく、確かにありそうなお話。それを歴史的背景に忠実に描いているのですが、オープニングのパラシュートによる降下の場面からして、明らかに美しさを追求した映像を追求しています。
 特に凄いのは、砂嵐に巻き込まれた車の中での嵐のようなラブ・シーン。静かに二人を撮っていたカメラが動き出し、まるで竜巻のように二人の周りをまわり出す・・・。まるでファンタジー映画のようなカメラワークです。この場面も含めて、この映画の撮影はほぼすべてがセットで行われていて、ロケでの撮影はないようです。そのため、砂漠の埃っぽさや日差しの強烈さが、この映画には感じられませんが、それはそれで古き良きハリウッド映画のようで素敵です。だからこそ、映画「カサブランカ」のような味わいが生まれた気がします。
 元々、ロバート・ゼメキス監督は、様々な視覚効果を使って作品を作ることを得意としていました。
 1988年、世界で初めて全編でアニメと実写の合成を行った映画「ロジャー・ラビット」では、実写の俳優とアニメのキャラクターを共演させました。
 1994年、自らがアカデミー監督賞を受賞した作品「フォレスト・ガンプ/一期一会」では、歴史上の人物と主人公を合成画面によって共演させました。
 2004年、3Dアニメーション映画「ポーラー・エクスプレス」では、「パフォーマンス・キャプチャー」の技術により3D映像に俳優を演じさせました。
 ここのところ、彼はそうした得意な特殊効果の技術をあえて目立たないように使うようになり、それが作品に奥行きを与えることになっている気がします。半端ない歌唱力の持ち主が、あえて大声で歌わずに普通に歌っていながら、逆にその歌唱力の凄さを感じさせてくれる・・・そんな感じでしょうか。
 「マリアンヌ」でもカサブランカの街並みや豪華なホテルのセットなどは、細部にまでこだわりが感じられる作りで、モノクロ映像にすればそのままボギー(ハンフリー・ボガート)が現れてもいい感じです。映画「カサブランカ」のような大人のラブ・ストーリーこそ、「マリアンヌ」の目指すところだったのでしょう。
 思えば、ロバート・ゼメキスは、デビュー当初から今に至るまで、「大人のためのおとぎ話」を撮り続けてきた監督でした。

<デビューからの作品たち>
 ロバート・ゼメキス Robert Zemeckisは1952年5月14日イリノイ州のシカゴ生まれです。高校時代から映画の自主製作を行っていた彼は、映画の名門校である南カリフォルニア大学に入学。そこで出会った先輩のジョン・ミリアスに紹介されて、スティーブン・スピルバーグの大作コメディ「1941」に脚本家として参加し、ハリウッドとの関りを持ち始めます。(同じ頃テレビ・シリーズの「事件記者コルチャック」の脚本・演出にも関わっていたようです。超常現象を取材する記者のお話で、なかなか面白いドラマでした!)
 1978年には早くも「抱きしめたい」でデビューを飾り、アメリカン・グラフィッティの「ビートルズ版」として高い評価を得ています。ヒット・メーカーとしての評価を勝ち取ったのは、1984年の「ロマンシング・ストーン/秘宝の谷」でした。多くの人が当時大ヒットした映画「インディ・ジョーンズ」のパクりものと思っていたようですが、実際はぐっと大人向けのラブ・アドヴェンチャー作品に仕上がっています。そして、翌年彼は彼にとって最大のヒット・シリーズとなる「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(第一作)を発表することになります。

「ロマンシング・ストーン/秘宝の谷 ROMANCING THE STONE」 1984年
(監)ロバート・ゼメキス
(製)マイケル・ダグラス
(脚)ダイアン・トーマス
(撮)ディーン・カンディ
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)マイケル・ダグラス、キャスリーン


「バック・トゥ・ザ・フューチャー Back To The Future」 1985年
(監)(脚)ロバート・ゼメキス
(製)ニール・キャントン
(製総)スティーブン・スピルバーグほか
(脚)ボブ・ゲイル
(撮)ディーン・カンディ
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、クリスピン・グローヴァー、マーク・マクルーア
「バック・トゥ・ザ・フューチャー2 Back To The Future 2」 1989年
(監)ロバート・ゼメキス
(脚)ボブ・ゲイル
(製総)スティーブン・スピルバーグほか
(撮)ディーン・カンディ
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、トーマス・F・ウィルソン、エリザベス・シュー
「バック・トゥ・ザ・フューチャー3 Back To The Future 2」 1990年
(監)(原)ロバート・ゼメキス
(脚)(原)ボブ・ゲイル
(製総)スティーブン・スピルバーグほか
(撮)ディーン・カンディ
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、メアリー・スティーンバージェン、マット・クラーク
 3作品全体を一本の映画に仕上げたゼメキスとボブ・ゲイルの脚本が見事です。シリーズ3部作に名作が多いというジンクスは、この作品の成功から始まったといえます。
 ちなみに、3部作での成功作としては、以下のような作品があります。3部作で成功する作品に共通するのは、どれも2作目が面白いということです。
マトリックス」(2,3作目が同時に撮影され「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と似た構成になっています)
ロード・オブ・ザ・リング」(初めから3部作構成になっていて、3作目がアカデミー作品賞を受賞した最大の成功作品)
トイ・ストーリー」(3作目で完結するという点では、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と同じでこれも傑作です)
「X-Men」(一応3部作でしたが、まだまだ続きがありそうなので?)
「ターミネーター」(3部作ですが、2作目は1作目のリメイクと見ることもできます。完全な3部構成ではない?)
「マッドマックス」(一応3部作ですが、3作品の関連性はあまりないそれぞれ別の作品)
ゴッド・ファーザー」(長い間があっただけに3作目はオマケ的な感はいなめませんでした)
スター・ウォーズ」(このシリーズは元々3部作が3つで構成されていたので、どれも3部作です)

「永遠に美しく・・・ DEATH BECOMES HER 1992年
(監)(製)ロバート・ゼメキス
(製)スティーブ・スターキー
(脚)マーティン・ドノヴァン
(撮)ディーン・カンディ
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)メリル・ストリープ、ブルース・ウィリス、ゴールディー・ホーン、イザベラ・ロッセリーニ、シドニー・ポラック、トレーシー・ウルマン
 永遠の美を求める大人の女性の欲望を描いたブラックなおとぎ話です。これは隠れた名作です。


「フォレスト・ガンプ/一期一会 FORREST GUMP」 1994年
(監)ロバート・ゼメキス
(製)スティーブ・スターキー、ウェンディ・フィネルマン、スティーブ・ティッシュ
(原)ウィンストン・グルーム
(脚)エリック・ロス
(撮)ドン・バージェス
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)トム・ハンクス、サリー・フィールド、ロビン・ライト、ゲイリー・シニーズ、ミケルティ・ウィリアムソン
アカデミー作品、監督、主演男優、脚色、編集、視覚効果賞受賞
 史実とフィクションを組み合わせ、記録映像と実写映像を組み合わせた大人のためのおとぎ話。ここでも視覚効果が重要な役割を果たし、見事にアカデミー賞を受賞しました。作品賞と視覚効果賞を同時受賞した作品は、過去にはほとんどなかったはずです。その意味でも、この作品は新たな映画のスタイルを生み出したといえます。

「コンタクト Contact」 1997年
(監)(製)ロバート・ゼメキス
(原)カール・セーガン
(脚)マイケル・ゴールデンバーグ、ジェームズ・V・ハート
(撮)ドン・バージェス
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)ジョディ・フォスター、マシュー・マコノヒー、ジョン・ハート、ジェームズ・ウッズ、トム・スケリット、デヴィッド・モース、ロブ・ロウ、アンジェラ・バセット
 宇宙の彼方から来た電波が異星人からの信号であることに気づいた主人公が交信を行おうとするファースト・コンタクトものの本格SF映画。原作者は、宇宙人の存在を主張し続けていた宇宙物理学者のカール・セーガン。これもまた大人のおとぎ話といえるジャンルです。
 H・G・ウェルズ原作の「宇宙戦争」のように異星人からの攻撃を受ける単純なSF戦争映画とは異なり、彼らとの交信・接触を描いた「ファースト・コンタクト」ものの作品には名作が多いです。(「2001年宇宙の旅」、「ミッション・トゥ・マーズ」、「メッセージ」、「惑星ソラリス」、「地球の静止する日」、「ET」、「未知との遭遇」、「アビス」・・・)

「キャスト・アウェイ Cast Away」 2000年
(監)(製)ロバート・ゼメキス
(脚)ウィリアム・ブロイルズJr
(撮)ドン・バージェス
(音)アラン・シルヴェストリ
 現代版ロビンソン・クルーソーですから、まさに大人のおとぎ話です。

「ポーラ・エクスプレス The Polar Express」(2004年)
 クリスマスの絵本「急行北極号」を映画化した3D・CGアニメーション作品。俳優の演技を撮影し、それをアニメーションに変えるという「パフォーマンス・キャプチャー」という新技術を用いた作品。
「ベオウルフ/呪われし勇者 Beowulf」(2007年)
 「ポーラ・エクスプレス」に続き「パフォーマンス・キャプチャー」を用いた3D・CGアニメーション作品。こちらは北欧に伝わる英雄伝説の映画化。
「クリスマス・キャロル A Christmas Carol」(2009年)
 これまた「パフォーマンス・キャプチャー」を用いた3D・CGアニメーション作品。これもまた定番のクリスマス・ドラマの映画化。3作品連続しておとぎ話の3D・アニメーションに新技術を持ち込んでいますが、リアリズム的に実写を越えられず、美的にはアニメーション作品を越えられないという中途半端なものになったという批判も多いようです。ゼメキス監督としては、新たな映画を生み出すための技術的チャレンジだったようですが、そう簡単には行かなかったようです。動きがぎこちないとか、そもそも実写で撮ればいいのに、という疑問を感じさせました。
 そのことは本人もわかっていたのか?3本作って飽きたのか?技術を十分マスターして、次のステージへと向かったのか?再び、彼は実写映画を撮り始めます。でも2012年の「フライト Flight」はアルコール中毒のパイロットの物語ということでなぜかおとぎ話とは程遠い内容でした。当然、作品の評判は残念な結果に・・・。
 そして、次に挑んだのが、大人のおとぎ話の窮極の物語ともいえる「世界最高」の綱渡りに挑んだ男の物語となりました。

「ザ・ウォーク The Walk」 2015年
(監)(製)(脚)ロバート・ゼメキス
(製)スティーブ・スターキー
(脚)クリストファー・ブラウン(原)フィリップ・プティ
(撮)ダリウス・ウォルスキー
(視効)ケヴィン・ベイリー(音)アラン・シルヴェトリ
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「マリアンヌ ALLIED」 2016年
(監)(製)ロバート・ゼメキス
(脚)(製総)スティーブン・ナイト
(撮)ドン・バージェス
(プロダクション・デザイン)ゲイリー・フリーマン
(音)アラン・シルヴェストリ
(出)ブラッド・ピット、マリオン・コティヤール、ジャレッド・ハリス、サイモン・マクバーニー、リジー・キャプラン、(ジャン・レノ)
 ゼメキス監督がいよいよ円熟味を増し、大人のための大人の映画に移行した感のある作品です。(これまでは、「大人のための子供の映画」だったということ・・・)
人間、年をとると、その年齢に見合った作品を撮る方が良い作品が生み出せるでしょうし、まして、この監督のように職人技を持つ監督です。だからこそのノスタルジックな雰囲気に満ちた現代版の「カサブランカ」ともいえる作品が誕生したのです。ただし、そのノスタルジックな雰囲気を作り出しているのは、彼が長年培ってきたCGのテクニックです。ほとんどの場面がセットとかCGをバックに撮られているようです。その分、どうしても綺麗すぎてリアリティ不足にも見えますが、大人向けのおとぎ話としてはそれでいいのかもしれません。
 ゼメキス監督が大人になってように主演の二人、ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの円熟ぶりもまたこの映画の見どころです。古き良きハリウッド映画の名作を見るような感覚でお楽しみ下さい!

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